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問題解決の進め方:放送大学_を読む

目次

Mのコメント

「問題解決論」として「よく整理されていて、お薦めだ。ただ、「お役所」に甘い。

本の紹介

書誌

要旨

本書『問題解決の進め方』は、急速に変化する現代社会で不可欠な問題解決能力を、個人と組織の両面から体系的に解説する包括的な書籍である。本書の中核は、「問題」を「現状とあるべき姿とのギャップ」と定義し、「問題解決」を「そのギャップを埋める行為」と位置づける明快なフレームワークである。この定義に基づき、運や勘に頼らず、論理的かつ体系的なプロセスを通じて、あらゆる問題に主体的かつ効果的に対処するための知識と手法を提供する。
本書は大きく二部構成である。前半(第1章~第9章)は主に個人の問題解決スキルの涵養に焦点を当てる。問題の発見(現状分析)、目標設定(S.M.A.R.T.原則)、情報収集・整理(図書、統計データ、数値情報、図解化)、分析的思考(論理、推論)、経験からの学び(振り返り)、発想の拡張(アイデア創出)まで、一連のプロセスと実践的フレームワーク(PDCAなど)、情報収集・データ分析・論理的思考といった基盤スキルを解説する。
後半(第10章~第15章)は組織での問題解決の実践に展開する。個人では対処が難しい複雑な問題に対し、多様なメンバーが協働するワークショップやグループワークの進め方、ファシリテーターの役割、ブレインストーミングや親和図法などの創造的手法、さらにシステム思考やデザイン思考といった高度なアプローチを導入する。加えて、解決策の実行段階におけるプロジェクトマネジメント(作業分担、ガントチャート、リスク管理、アジャイル開発)、実行結果の評価手法、集団意思決定に伴う課題(社会的手抜き、集団思考バイアス)と、それを乗り越えるためのアサーティブなコミュニケーションの重要性までを網羅する。
本書は初学者向けの基礎から組織のリーダーが実践で用いる高度な手法までをカバーし、問題解決に関する理論と実践をつなぐ一冊と言える。

1. 問題解決の基本概念

1.1. 現代社会で求められる能力

急速な社会変化と「人生100年時代」の到来により、習得したスキルが長期間通用するとは限らなくなった。こうした背景から、自ら主体的に問題を発見し解決する能力が強く求められている。本書では指標として、経済産業省が定義する「社会人基礎力」と文部科学省が掲げる「学士力」を挙げる。

  • 社会人基礎力: 「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」と定義され、3つの能力領域と12の能力要素から構成される。
  • 前に踏み出す力(アクション): 主体性、働きかけ力、実行力
  • 考え抜く力(シンキング): 課題発見力、計画力、創造力
  • チームで働く力(チームワーク): 発信力、傾聴力、柔軟性、状況把握力、規律性、ストレスコントロール力
  • 学士力: 大学の学士課程で共通して身につけるべき学習成果の指針で、4分野13項目から構成される。
  • 知識・理解: 専攻分野の体系的理解、多文化・異文化の理解
  • 汎用的技能: コミュニケーション・スキル、数量的スキル、情報リテラシー、論理的思考力、問題解決力
  • 態度・志向性: 自己管理力、チームワーク・リーダーシップ、倫理観、市民としての社会的責任、生涯学習力
  • 総合的な学習経験と創造的思考力
    両者に共通するのは、論理的に考え、多様な人々と協力し問題を解決し、自ら内省しつつ学び続ける姿勢の重要性である。

1.2. 「問題」の定義

本書では、問題解決の議論の基盤として次の定義を設ける。

  • 問題: 「現在の状態(ありのままの姿)」と「理想の状態(あるべき姿)」の間に存在するギャップや差。
  • 問題解決: そのギャップを埋めること。
    この定義により、「少子化が問題だ」という認識は、「本来あるべき出生率」と「現状の出生率」の間にギャップがあることを意味する。問題を正しく把握するには、現状分析と望むべき姿の双方のプロセスが不可欠である。

1.3. 問題の種類

問題は時間軸により次の3種類に分類できる。

  1. 発生型問題: 既に起きている問題。応急処置後に原因究明と再発防止策の検討が必要。
  2. 設定型問題: 現状は順調だが「もっと良くならないか」と高い目標を設定することで見えてくる問題。現状分析とあるべき姿の描出が重要。
  3. 将来型問題: 現時点では許容されるが、時間経過とともに問題化することが予測される問題。

2. 個人的問題解決のプロセスとスキル

前半では、個人が問題解決能力を身につけるための具体的プロセスとスキルを段階的に解説する。

2.1. 問題発見から目標設定まで(第2~3章)

問題解決は、まず問題を発見し具体的な目標を設定することから始まる。

– 問題発見:
  • 現状の把握: 5W1Hや6W3Hを用いて状況を具体的に書き出し、定量的に測定できる要素を探す。判断には根拠を求める習慣が重要。
  • 問題意識の醸成: 主体性を持ち、「なぜそうなっているのか」と疑問を持つ。現状より一歩上の状態を考える。
  • PDCAサイクル: Plan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Act(改善)を回し、改善点を見出す。
  • 「不」がつく言葉: 「不満」「不足」「不安」などを手がかりに現状のギャップを探る。
– 目標設定:
  • S.M.A.R.T.原則: 効果的な目標設定のため、以下を意識する。
  • S (Specific): 具体的に
  • M (Measurable): 測定可能に
  • A (Agreeable/Achievable): 同意できる、達成可能に
  • R (Realistic/Related): 現実的に、関連性を持たせて
  • T (Time Bound): 期限を設けて
    ##### – 制約条件の明確化: 時間、予算、人員などを事前に洗い出し、行動計画に織り込む。

2.2. 情報の収集・整理・可視化(第4~6章)

設定した目標に基づき、客観的な情報収集と効果的な整理・可視化を行うスキルが求められる。

– 情報収集:
  • 一次情報(原資料)と二次情報(加工情報)を区別し、可能な限り一次情報に当たる姿勢が重要。
  • 情報源: 学術雑誌(Google Scholar等)、書籍、白書(e-Stat、RESAS等)、新聞、Webサイトなどを活用する。
  • 図書館の活用: OPACや電子ジャーナル、電子ブックのリモートアクセスなど、学術情報の効果的な入手方法を解説。
– 数値情報の扱い:
  • 尺度: 名義尺度、順序尺度、間隔尺度、比例尺度を区別してデータの性質を理解する。
  • クロス集計表: 2つ以上の属性の関係性分析に用いる。
  • グラフ化: データを視覚化して特徴を把握する。
  • 円グラフ: 内訳や構成比
  • 棒グラフ: 値の比較
  • ヒストグラム: 分布の把握
  • 折れ線グラフ: 時系列の推移
  • 散布図: 2変数間の相関
– 図解化:
  • 思考や情報の構造を可視化し全体像を把握する。
  • 図解の要素: 囲み図形(長方形、円)、矢印、線などをルールに基づいて使用する。
  • 図解のパターン: 階層(ピラミッド)、包含(ベン図)、順序(フロー)、マトリクス、構成(樹形図)、循環などを活用して思考を整理・深化させる。

2.3. 分析的思考と経験からの学習(第7~8章)

収集・整理した情報に基づき、論理的に分析し行動の結果を次に活かす思考法を学ぶ。

  • 分析的思考:
  • 命題と論理: 真偽を判断できる文(命題)を基本とし、「かつ」「または」「ならば」などの論理演算を用いて思考を組み立てる。逆・裏・対偶の関係を理解する。
  • 推論:
  • 演繹的推論: 一般的な法則から具体的な結論を導く(例:三段論法)。
  • 帰納的推論: 個別の事実から一般的な法則を導く。
  • 仮説的推論(アブダクション): 起きた事象を説明する仮説を立てる。
  • 確率的思考: 不確実な状況下で期待値やデシジョンツリーを用いて合理的に意思決定する。
  • 経験からの学習と振り返り:
  • 経験学習サイクル(コルブ): 「具体的経験」→「省察的観察」→「抽象的概念化」→「実践的試み」のサイクルで学ぶ。
  • 振り返りサイクル(ギブス): 経験の記述、感情、評価、分析、結論、アクションプランの段階を経て深く内省する。
  • メタ認知: 「自分が何を知り、何を知らないか」を客観的に把握し、学習プロセスを自らモニタリング・コントロールする能力。学習日誌やeポートフォリオの活用が有効である。

3. 組織的問題解決の手法と実践

後半では、個人では解決が難しい複雑な問題に対し、組織として取り組む手法とプロセスを詳述する。

3.1. 組織での問題解決の基本(第10章)

組織での問題解決は個人の能力の単なる合算を超える成果を目指すため、枠組みが重要である。

  • ワークショップ: 参加者が主体的に参加・体験し、相互作用を通じて創造的解決策を生み出す協働作業。講師からの一方的な情報提供である「研修」とは異なる。
  • 関係者の役割:
  • ファシリテーター: 議論を促進し参加者の意見を引き出し合意形成を支援する進行役。
  • 参加者: 専門分野を超えた多角的な視点を提供する。
  • その他、主催者、事務局、オブザーバー等が連携する。
  • 2・6・2の法則: 組織内には意識の高い人が2割、どちらでもない人が6割、意識の低い人が2割いるという経験則。グループワークではこれを考慮し、4~5名程度の少人数グループを構成することが効果的とされる。

3.2. グループワークと創造性(第11章)

多様なメンバーから質の高いアイデアを引き出し集約する具体的方法を学ぶ。

  • アイデア出しの手法:
  • ブレインストーミング: 「批判厳禁」「量を重視」「自由奔放」「便乗発展」を原則に自由にアイデアを出し合う。
  • ブレインライティング: 発言の代わりに紙にアイデアを書き回覧し、発言が苦手なメンバーからも均等にアイデアを引き出す。
  • カードブレインストーミング: 付箋にアイデアを書き出し、それを基に議論を進める。
  • アイデアのまとめ方:
  • 親和図法: 出てきたアイデア(付箋)を内容の近いもの同士でグループ化し、関係性を構造化する。
  • ペイオフマトリクス: 「効果」と「実行容易性」などの評価軸でアイデアを整理し優先順位を付ける。

3.3. 高度な問題解決手法(第12章)

問題の本質を捉え革新的解決策を導く思考フレームワークを学ぶ。

– システム思考:
  • 物事を要素ごとではなく、要素間の相互作用からなる「システム」として捉える。
  • 因果ループ図で原因と結果の連鎖を描き、問題の構造全体を可視化することで根本原因や介入すべきレバレッジポイントを見出す。論理的・左脳的アプローチ。
– デザイン思考:
  • ユーザー(人間)を深く理解することから始める問題解決アプローチ。感性的・右脳的アプローチ。
  • 5つのプロセス:
  1. 共感 (Empathize): ユーザーの観察・インタビューで潜在ニーズや課題を理解する。
  2. 問題定義 (Define): 得た洞察から本質的な問題を定義する。
  3. 発想 (Ideate): ブレインストーミング等で多様な解決策を発想する。
  4. 試作 (Prototype): アイデアを素早く低コストで形にする。
  5. テスト (Test): 試作品をユーザーに試してもらいフィードバックを得て改善を繰り返す。

3.4. 解決策の実行と評価(第13~14章)

導き出した解決策を組織として実行し、その成果を客観的に評価するプロセスを学ぶ。

– 解決策の実行:
  • プロジェクトと定常業務: 期間限定で成果物を目指す「プロジェクト」と反復的な「定常業務」を区別する。
  • 作業分担 (WBS): プロジェクトを細かな作業単位に分割し担当者と責任を明確にする。
    ##### – 実行策の管理:
  • 日程管理: ガントチャートで進捗を可視化する。
  • 予算管理: 経費を事前に見積もり実績と比較する。
  • リスク管理: 潜在リスクを洗い出し発生確率と影響度から対応策を検討する。
  • 不確実性が高いプロジェクト:
  • ウォーターフォール型: 計画通りに工程を順に進める手法。
  • アジャイル型: 短いサイクルで計画・実行・評価を繰り返し柔軟に計画を修正する手法。
– 実行結果の評価:
  • 評価の視点: 動機、過程、結果のどれを重視するかで評価が変わる。
  • 評価の時期: 企画段階(事前)、実行中(中間)、終了後(事後)の各段階で評価を行う。
    ##### – 評価方法:
  • 定性的評価: 功罪表(メリット・デメリット)、評価表(◎○△×など)
  • 定量的評価: 数値目標の達成度、前後比較、費用対効果など

4. 集団における意思決定とコミュニケーション

集団での問題解決を成功させるには、効果的な意思決定と健全なコミュニケーションが不可欠である。

4.1. 集団意思決定の課題

集団での議論が必ずしも最適解を導くとは限らない。次のような課題がある。

  • 社会的手抜き (Social Loafing): 集団作業で個々の貢献が見えにくくなると、無意識に努力を怠る傾向。個人の貢献を可視化する対策が必要。
  • 集団思考の罠:
  • 情報シグナル: 他者の意見や行動を正しい情報だと誤認する。
  • 評判プレッシャー: 孤立を恐れて本心と異なる意見に同調したり発言を控えたりする。
  • 結果として、集団の誤りが増幅されたり議論が極端に偏ったりする(集団両極化)。

4.2. アサーティブな自己主張

健全な集団活動では、各メンバーが適切に自己主張しつつ他者の意見を尊重するコミュニケーションが求められる。

アサーティブ: 自分の意見や感情を正直に、しかし相手を尊重して伝える。
集団での問題解決においては、単に結論を出すだけでなく、そのプロセスで各メンバーがどのように行動し感じたかを振り返り、集団として成長していくことが重要である。

コンフリクト対応: 意見対立の対応は「競争」「協調」「妥協」「回避」「受容」の5つに分類される。目指すべきは自己主張と相手への協力を両立させる「協調」である。

アサーション: 「自分も相手も大切にする自己表現」。

非主張的(受動的): 自分の意見を抑圧する。

攻撃的: 相手を軽視して自分の意見を押し通す。

  • まえがき
  • 1 問題とは
    • 1. はじめに
    • 2. 社会で求められる力
    • 3. 問題とは
    • 4. 問題の種類
    • 5. 本書の構成
    • 6. まとめ
  • 2 問題を見つける
    • 1. はじめに
    • 2. 問題解決のプロセス
    • 3. 見える問題
    • 4. 現状を知る
    • 5. 問題を見つける
    • 6. まとめ
  • 3 目標を設定する
    • 1. はじめに
    • 2. 目標を設定する
    • 3. 制約条件
    • 4. 解決策を考える
    • 5. まとめ
  • 4 情報を収集して整理する
    • 1. はじめに
    • 2. 外部情報を集める
    • 3. 図書館の本を利用する
    • 4. まとめ
  • 5 数値情報を扱う
    • 1. はじめに
    • 2.尺度
    • 3. クロス表
    • 4. 基本的なグラフ
    • 5. まとめ
  • 6 図解化して見る
    • 1. はじめに
    • 2. 図解の要素
    • 3. 図解のパターン
    • 4. 図解の進め方
    • 5. まとめ
  • 7 分析的に考える
    • 1. はじめに
    • 2. 命題と論理
    • 3. 推論の展開
    • 4.確率的思考
    • 5. まとめ
  • 8 経験からの学習と振り返り
    • 1. はじめに
    • 2. 振り返り
    • 3. 学習日誌とeポートフォリオ
    • 4. まとめ
  • 9 発想を広げる
    • 1. はじめに
    • 2. 発想の基礎
    • 3.生成AI
    • 4. まとめ
  • 10 組織での進め方
    • 1. はじめに
    • 2. 組織としての問題解決の考え方
    • 3. ワークショップの進め方
    • 4. 組織における問題解決の考え方
    • 5. まとめ
    • 6. 事例
  • 11 グループワークと創造性
    • 1. はじめに
    • 2. ワークショップの準備
    • 3. アイデア出し
    • 4. アイデアのまとめ方
    • 5. グループでの振り返り
    • 6. まとめ
  • 12 組織による問題解決手法
    • 1. はじめに
    • 2. システム思考とデザイン思考
    • 3. システム思考
    • 4. デザイン思考
    • 5. まとめ
    • 6. 事例
  • 13 組織における解決策の実行
    • 1. はじめに
    • 2. プロジェクトと定常業務の違い
    • 3.作業分担
    • 4. 実行策の管理
    • 5. 不確実性が高いプロジェクトの進め方
    • 6. まとめ
  • 14 実行結果の評価
    • 1. はじめに
    • 2. 問題設定の起点と評価の視点
    • 3. 評価の体系
    • 4. 評価方法の分類
    • 5. 総合評価の方法
    • 6. まとめ
  • 15 集団の意思決定とコミュニケーション
    • 1. はじめに
    • 2.社会的手抜き
    • 3. 集団での意思決定
    • 4. 集団の中における自己主張
    • 5. まとめ
目次