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情報と法_への道標

書誌_情報と法(放送大学教材):児玉晴男

短い紹介と大目次

短い紹介

本書は、情報と法の領域を体系的に解説することを目的としており、デジタル社会の形成に伴い複雑化する法的課題に対応するための知識を養うことを目指しています。特に、情報法、知的財産法、および著作権法の三つの主要な法体系に焦点を当て、それぞれの法律の具体的な内容と相互の関連性を詳細に説明しています。本書では、情報財・知的財産・コンテンツの経済的価値と人格的価値の両面が議論されており、知る権利とプライバシー権といった相反する価値の均衡や、不正アクセスへの対応の重要性が強調されています。全体として、情報技術の進展が社会に及ぼす影響を包括的に捉え、これらの法体系を基盤として多様な法的現象を読み解く情報活用能力の涵養を使命としています。

大目次

  • まえがき
  • 1 情報法の体系
  • 2 知的財産の創造・保護・活用の推進
  • 3  発明・考案・意匠の創作
  • 4 商標の商品・役務との使用
  • 5 営業秘密と限定提供データ
  • 6 コンテンツの創造・保護・活用の振興
  • 7 著作物とその伝達行為
  • 8 知的財産権管理
  • 9 デジタル社会の形成の推進
  • 10 情報公開と個人情報保護
  • 11 プロバイダの責任と不正アクセスの禁止
  • 12 自由なデータ流通 と電子商取引
  • 13 放送コンテンツのネット配信
  • 14 サイバーセキュリティと情報倫理
  • 15 オープンデータ利活用とオープンイノベーション

一口コメント

情報法の全体像をよくとらえていると思う。古典的な理解か。

要約と詳細目次

要旨

本ペーパーは放送大学教材「情報と法」の主要テーマを検討したものです。情報技術の進展がもたらす複雑な法現象を解明するために、「情報法」「知的財産法」「著作権法」という三つの法体系を提示し、それらが相互に包含関係にあるという構造を明らかにします。
重要な洞察は、これらの法体系が階層構造を形成している点です。具体的には、情報法が知的財産法を包含し、知的財産法が著作権法を包含するという関係です。各法体系はそれぞれ、デジタル社会形成基本法(情報法)、知的財産基本法(知的財産法)、コンテンツ基本法(著作権法)といった基本法を起点として体系化されています。
また、日本の知的財産戦略が「知的財産立国」から、個の強化、融合、共感を重視する「価値デザイン社会」への移行を遂げつつあることを指摘します。この変化は、AI創作物の出現、オープンデータ利活用、サイバーセキュリティ確保といった現代的課題への対応を促しています。
さらに、情報公開と個人情報保護の対立、プロバイダ責任、不正アクセス、放送と通信の融合といったデジタル社会特有の課題について、関連個別法を詳細に解説することで、情報財・知的財産・コンテンツの人格的価値と経済的価値の双方を理解し、多様な法現象を読み解くための包括的視点を提供します。

1. 法体系の全体像と階層構造

本書はデジタル社会における法規範を「情報法」「知的財産法」「著作権法」の三層構造で整理しています。これらの法体系は独立しているのではなく、相互に包含し合う関係にあります。

  • 情報法: 最も広範な概念で、知的財産法を包含します。デジタル社会形成基本法、官民データ活用推進基本法、サイバーセキュリティ基本法を起点とし、情報の自由な流通、プライバシー保護、サイバーセキュリティなど、社会全体の情報インフラに関わる規範を扱います。
  • 知的財産法: 情報法に包含されます。知的財産基本法を起点とし、産業の発展と経済活動の公正な競争を確保するための法規範群であり、産業財産権法、不正競争防止法などを含みます。
  • 著作権法: 知的財産法に包含されます。知的財産基本法およびコンテンツ基本法を起点とし、文化的創造物の保護と公正な利用を通じて文化の発展に寄与することを目的とします。
    この階層構造は、デジタル社会における情報・知的財産・コンテンツの権利関係を、個別法の対応に留まらず相互関係から包括的に理解すべきことを示唆しています。
法体系起点となる基本法主な個別法
情報法デジタル社会形成基本法
官民データ活用推進基本法
サイバーセキュリティ基本法
情報公開法、個人情報保護法、プロバイダ責任制限法、不正アクセス禁止法、電子商取引関連法など
知的財産法知的財産基本法産業財産権法(特許法、実用新案法、意匠法、商標法)、不正競争防止法など
著作権法コンテンツ基本法
(知的財産基本法と関連)
著作権法、著作権等管理事業法

2. 知的財産戦略の進化と新たな課題

日本の知的財産戦略は時代に応じて重点を変えてきました。この変遷は知的財産推進計画に反映されています。

2.1. 「知的財産立国」から「価値デザイン社会」へ

  • 知的財産立国の実現(~2018年): 「創造」「保護」「活用」の好循環(知的創造サイクル)を確立し、製品やサービスの高付加価値化を通じて経済を活性化させることを目指しました。大学等の研究成果活用や知的財産の保護強化が重視されました。
  • 価値デザイン社会の実現(2019年~): 2030年頃を見据えた新戦略で、経済的価値だけでなく社会からの「共感」や多様な価値を創出することを目指します。三つの柱を基本とします。
  1. 脱平均の尖った人の発想: 個々の主体を強化し、中小・ベンチャー企業の挑戦を促進する。
  2. 融合・分散した多様な個性の融合: オープンイノベーションを加速し、データ・AIを活用した価値のデザインを円滑化する。
  3. 共感を通じた価値の実現: クールジャパン戦略の再構築など、世界からの共感を軸とした環境を整備する。

2.2. 知的財産基本法の役割

知的財産基本法は知的財産戦略の根幹であり、その目的は「知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を集中的かつ計画的に推進すること」です。

  • 知的財産の定義: 本法は「知的財産」を広く定義し、次を含みます。
  • 発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物など、主に人間の創造的活動により生み出されるもの。
  • 商標、商号など、事業活動に用いられる表示。
  • 営業秘密など、事業活動に有用な技術上または営業上の情報。
  • 知的財産権の定義: 上記の知的財産について法令により定められた権利または法律上保護される利益に係る権利を指します。具体例として特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権などが挙げられます。

2.3. 新たな知的財産:AI創作物

本書は「人間の創造的活動により生み出されるもの」の新たな形態としてAI創作物を挙げ、その法的保護を多角的に検討します。

  • 著作物性: AI創作物が思想または感情を創作的に表現したものであれば、著作権法で保護される可能性があります。
  • 特許性: 自然法則を利用した技術的思想の創作であれば、発明として特許法で保護されうる。ただし新規性、進歩性、産業上の利用可能性が要件となります。
  • 秘密性: 公表されなければ、ソースコードやノウハウとして営業秘密(不正競争防止法)の対象となりうる。
  • 機密性: 軍事技術との関連や秘密特許となる場合、特定秘密保護法等が関わることがあります。

3. 主要な法分野の詳細分析

3.1. 知的財産法

産業財産権法

産業の発展を目的とし、創作物や標識を保護する法律群です。

  • 特許法・実用新案法・意匠法(創作法):
  • 発明(特許法): 自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの。
  • 考案(実用新案法): 物品の形状、構造または組合せに係る技術的思想の創作。
  • 意匠(意匠法): 物品の形状、模様、色彩などにより視覚を通じて美感を生じさせるもの。
  • 商標法(標識法):
  • 商品や役務に使用する文字、図形、記号、立体的形状などを保護し、業務上の信用の維持や需要者の利益保護を図ります。近年、「動き商標」や「音商標」など新しいタイプの商標も保護対象となっています。
不正競争防止法

公正な競争を確保するため、知的財産法で保護しきれない不正行為を規制します。

  • 営業秘密: 「秘密管理性」「有用性」「非公知性」の三要件を満たす、事業活動に有用な技術上または営業上の情報。
  • 限定提供データ: ビッグデータなどを念頭に、特定の者に提供される相当量が蓄積・管理されたデジタルデータを想定する概念。

3.2. 著作権法とコンテンツ法

文化の発展への寄与を目的とし、デジタル時代のコンテンツ流通に対応する複数の法律が複雑に関係しています。

  • 著作権法: 著作物、実演、レコード、放送、有線放送に関する著作者の権利および著作隣接権を定めます。ベルヌ条約やローマ条約などの国際条約を基礎としています。
  • コンテンツ基本法: 知的財産基本法の理念に基づき、デジタルコンテンツの創造・保護・活用の促進を目的とします。映画、音楽、ゲーム、プログラムなどを「コンテンツ」と定義し、コンテンツ事業の振興に必要な施策を定めます。
  • 著作権等管理事業法: 著作権・著作隣接権の集中管理を行う事業について定めます。信託の法理に基づき、権利者と利用者の間の円滑な権利処理を目指します。

3.3. 情報法

デジタル社会全体の基盤となる法分野で、相反する価値の調整が重要な課題となります。

  • 情報公開法と個人情報保護法:
  • 「知る権利」を保障する情報公開法と、「プライバシー権」を保護する個人情報保護法は、行政が保有する情報をめぐり対立と調和の関係にあります。
  • 個人情報保護法はOECDプライバシー8原則を基礎とし、個人データの適正な取扱いを規定します。EUのGDPRとの整合性も図られています。
  • プロバイダ責任制限法と不正アクセス禁止法:
  • プロバイダ責任制限法: ネット上の権利侵害情報についてプロバイダ等の損害賠償責任の範囲を定め、発信者情報の開示請求権を規定します。
  • 不正アクセス禁止法: 不正アクセス行為そのものや、ID・パスワードの不正取得・保管等を禁止し、デジタル社会の秩序維持を図ります。
  • 電子商取引関連法:
  • 民法の特例を定める電子契約法や、投資家保護を目的とする金融商品取引法など、既存法が電子取引に対応しています。
  • e-文書法や電子署名法などの特別法が、書面の電子化や電子署名の法的効力を支えています。
  • 官民データ活用推進基本法:
  • 国・自治体・民間が保有するビッグデータの利活用を促進し、新産業の創出やイノベーションの原動力とすることを目指します。

4. デジタル時代の融合領域と未来の展望

4.1. 通信と放送の融合

放送コンテンツのネット同時配信が一般化する中、放送法と電気通信事業法の制度的垣根が課題となっています。

  • 現状: 放送と通信は別々の法律で規律されるが、実態としては不可分になっています。
  • 将来の構想: 「コンテンツ」「プラットフォーム」「伝送インフラ」のレイヤー構造で法体系を再編する「情報通信法(仮称)」の構想があったが、実現には至っていません。
  • 国際的動向: WIPOでは「放送機関に関する新条約案」が検討され、ウェブキャスティングの保護などが議論されていますが、各国の意見の隔たりから合意には至っていません。

4.2. サイバーセキュリティと情報倫理

サイバー攻撃の脅威が増大する中、技術的・法的な防御と倫理的規範の両方が求められています。

  • サイバーセキュリティ基本法: デジタル社会形成基本法と連携し、サイバーセキュリティに関する国家の基本理念や戦略、施策を定めます。官民連携、国際協力、人材育成などを推進します。
  • 情報倫理と情報リテラシー:
  • 法規制だけでなく、プライバシー尊重、知的財産権尊重、情報セキュリティ維持といった情報倫理が重要です。
  • 氾濫する情報から適切な情報を選択・活用する情報リテラシー(情報活用能力)の涵養が、デジタル社会の健全な発展に不可欠です。

4.3. オープンデータ利活用とオープンイノベーション

データのオープン化は新たな価値創造の源泉として期待されています。

法的課題: オープンデータの利活用は著作権法上の権利制限、個人情報保護、営業秘密などと密接に関わります。特にクリエイティブ・コモンズ(CCライセンス)等の国外ライセンスを日本法とどう整合させるかが課題です。

オープンサイエンス: 研究データ、ソースコード、学術論文などをオープンにし、科学研究の発展を加速させる動きです。オープンアクセスがその手段となります。

オープンイノベーション: 企業が自社だけでなく他社の技術やアイデアを活用してイノベーションを創出する考え方です。

  • まえがき
  • 1 情報法の体系
    • 1.はじめに
    • 2.デ ジタル社会形成基本法・官民データ活用推進基本法・サイバーセキュリティ基本法と情報法
    • 3.知的財産基本法 と知的財産法
    • 4.コンテンツ基本法と著作権法 ・著作権等管理事業法
    • 5.おわりに
  • 2 知的財産の創造・保護・活用の推進
    • 1.はじめに
    • 2.知的財産推進計画
    • 3.知的財産基本法
    • 4.新 たな知的財産一人間の創造的活動により生み出されるもの
    • 5.おわりに
  • 3  発明・考案・意匠の創作
    • 1.は じめに
    • 2.発明・考案・意匠の創作
    • 3.発明者・考案者・意匠の創作者および特許権者・実用新案権者・意匠権者
    • 4.特許権・実用新案権・意匠権
    • 5.おわりに
  • 4 商標の商品・役務との使用
    • 1.はじめに
    • 2.トレー ドマーク (TM)と サービスマーク (SM)および登録商標 (🄬)
    • 3.商標の使用者
    • 4.商標権
    • 5.おわりに
  • 5 営業秘密と限定提供データ
    • 1.はじめに
    • 2.営業秘密 と限定提供データ
    • 3.不正競争
    • 4.不正競争の防止および不正競争に係る損害賠償に関する措置等
    • 5. おわりに
  • 6 コンテンツの創造・保護・活用の振興
    • 1.はじめに
    • 2.コンテンツ振興
    • 3.コンテンツ基本法
    • 4.デジタルコンテンツ
    • 5.おわりに
  • 7 著作物 とその伝達行為
    • 1.はじめに
    • 2.著作物とその伝達行為
    • 3.著作者と実演家・レコー ド製作者・放送事業者・有線放送事業者
    • 4.著作者の権利とそれに隣接する権利― 著作権と関連権
    • 5.おわりに
  • 8 知的財産権管理
    • 1. はじめに
    • 2.著作権法と産業財産権法による権利管理
    • 3.信託による権利管理
    • 4.秘密管理とセキュリテイ管理
    • 5.おわりに
  • 9 デジタル社会の形成の推進
    • 1. はじめに
    • 2.IT社 会の形成の推進か らデジタル社会の形成の推進へ
    • 3.デジタル社会形成基本法
    • 4.官民データ活用推進基本法
    • 5.おわりに
  • 10 情報公開と個人情報保護
    • 1.はじめに
    • 2.情報公開法
    • 3.個人情報保護法
    • 4.特定秘密保護法 とマイナンバー法
    • 5.おわりに
  • 11 プロバイダの責任と不正アクセスの禁止
    • 1.はじめに
    • 2.プ ロバイダ責任制限法
    • 3.不正アクセス禁止法
    • 4.情報にかかわる不正行為の対応
    • 5.おわりに
  • 12 自由なデータ流通 と電子商取引
    • 1.はじめに
    • 2.自由なデータ流通 と電子商取引
    • 3.電子商取引における既存法の対応
    • 4.電子商取引における特別法の対応
    • 5.おわりに
  • 13 放送コンテンツのネット配信
    • 1.はじめに
    • 2.電気通信事業法 と放送法
    • 3.情報通信法 (仮称)
    • 4.放送機関に関する新条約案
    • 5.おわりに
  • 14 サイバーセキュリティと情報倫理
    • 1. はじめに
    • 2.サ イバー空間の不正行為
    • 3.サ イバーセキュリティ基本法
    • 4.情報倫理
    • 5.おわりに
  • 15 オープンデータ利活用とオープンイノベーション
    • 1.はじめに
    • 2.オ ープンサイエ ンスとオープンアクセスの法的な課題
    • 3.オ ープンアクセスの対象
    • 4.オープンアクセスの対象に対する法的な対応
    • 5.おわりに

Mのコメント(言語空間・位置付け・批判的思考)

ここでは、対象となる本の言語空間がどのようなものか(記述の内容と方法は何か)、それは総体的な世界(言語世界)の中にどのように位置付けられるのか(意味・価値を持つのか)を、批判的思考をツールにして検討していきたいと思います。ただサイト全体の多くの本の紹介の整理でアタフタしているので、個々の本のMのコメントは「追って」にします。

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