本_への道標
書誌_集団と集合知の心理学 改訂版:有馬 淑子

短い紹介と大目次
短い紹介
本書は「集合知とは何か」という問いから始まり、個人、集団、組織、インターネットという多層的な視点から、人々の知性と行動のメカニズムを総合的に解説している。主要なテーマは、集団が「賢く」も「愚か」にもなり得るという二面性を矛盾なく統合することにあり、そのために個人の認知(第1章)から集団の相互作用(第2章)、そしてインターネット上の集合知(第6章)に至るまで、幅広い研究知見を紹介している。特に、認知的倹約家としての人間が用いる自動的処理やヒューリスティックスといった個人認知の特性が、同調行動や集団凝集性といった集団過程を通じて、いかに集合知の創発性や、あるいはプロセスの損失に影響を及ぼすかという点が、詳細な実験結果とともに論じられている。全体を通じて、認知科学、ゲーム理論、社会心理学、神経心理学の成果を横断的に紹介し、「知識の共有」と「分散認知」が集団の知性を生み出す鍵であるという目的を提示している
大目次
- はじめに―集合知とは何か
- 1 社会的認知
- 1-1 認知心理学
- 1-2 ゲーム理論
- 1-3 進化心理
- 1-4 社会的認知
- 1-5 社会神経心理学
- 1-6 コモンセンス
- 第1章のまとめ
- 2 集団過程
- 2-1 集団とは何か
- 2-2 集団過程研究
- 2-3 社会的アイデンティティ
- 2-4 社会的共有認知
- 第2章のまとめ
- 3 集合行動
- 3-1 群れの行動
- 3-2 群れの知性
- 3-3 同調と感染
- 3-4 ネットワークの科学
- 第3章のまとめ
- 4 集団の集合知
- 4-1 みんなの意見は案外正しい?
- 4-2 集合知の指標
- 4-3 Pageの理論
- 4-4 集合知の実証研究
- 4-5 社会的影響力が集合知に及ぼす影響
- 4-6 チームの分散認知
- 第4章のまとめ
- 5 組織の集合知
- 5-1 組織心理学
- 5-2 集合知を用いた組織科学
- 5-3 専門家をどのように選出するか
- 5-4 社会と集合知
- 第5章のまとめ
- 6 インターネットの集合知
- 6-1 インターネット
- 6-2 インターネット上の集合知
- 6-3 オンライン集団の課題解決
- 6-4 人間-コンピュータ相互作用
- 6-5 インターネットを用いた集合知研究
- 6-6 情報圏の分断
- 第6章のまとめ 結び―結合振動子としての人間
- 0 補足事項
- 0-1 情報科学
- 0-2 ネットワークの科学
- 0-3 意思決定研究の概念
- 0-4 人工知能
- 0-5 ベイズ統計
- 0-6 マインドフルネス認知療法
- 0-7 シミュレーション研究
一口コメント
「企業」、「政府」はヒトの集団であり、集団の行動には、<個×人数>とは違う固有の問題(マイナス面もあればプラス面もある)があるだろう。そこで「企業」「政府」を検討するに先立って、「集団」固有の問題を検討することには、十分に意味があると思い至り、Kindle本を検索して、「集団と集合知の心理学」という本に巡り合った。この本はお薦めである。「社会・世界の問題解決」の起点にしよう。
要約と詳細目次
「集団と集合知の心理学」主要テーマと洞察に関するブリーフィング
要旨
本文書は、『集団と集合知の心理学 改訂版』から主要なテーマ、中心的議論、および重要な洞察を統合したものである。本書の核心的な目的は、集団が示す「愚かさ」(例:グループシンク、同調圧力)と、一方で発揮する「賢さ」(集合知)という一見矛盾する二つの側面を統合的に理解するための枠組みを提示することである。
本書は個人の認知プロセスから始まり、小集団のダイナミクス、大規模な集合行動、そして現代のインターネット社会における集合知に至るまで、多層的な分析を展開する。個人レベルでは、限定された認知資源を効率的に使う「認知的倹約家」としての性質や、自動的処理と制御的処理からなる「二過程理論」が、様々なバイアスやヒューリスティックスの基盤となることが示される。
集団レベルでは、同調、グループシンク、共有知識効果といった現象が集団の判断を歪める一方で、社会的アイデンティティの形成が協調行動の基盤となることが論じられる。さらにネットワーク科学の視点を取り入れ、情報カスケードやスケールフリーネットワークといった構造が、どのようにして社会全体に情報や行動を伝播させるかを解明する。
最終的に本書は、集合知が発揮されるための重要条件として「多様性」「独立性」「分散性」「集約性」を挙げ、特にメンバーの視点や知識の「多様性」が、個人の平均的な能力と同じくらい重要であることを「多様性予測定理」によって数学的に示す。組織やインターネットにおける応用例(ピープル・アナリティクス、予測市場、クラウドソーシングなど)を通じて、これらの原理が現実世界でどのように機能するかが具体的に解説される。結論として、人間を他者と無意識に同期する「結合振動子」と捉え、集合知とは個人の意識を超えた相互作用から創発される現象であり、その賢さを引き出すためには多様性を維持し、平等なコミュニケーションを促進するシステム設計が不可欠であると締めくくられている。
1. 集合知の定義と本書の目的
本書は「集合知」を、個体の能力の総計を超えて群れに発現する知性(環境適応能力)として定義する。この現象は、リーダーのいないアリのコロニーが複雑な巣を作る昆虫の知性(スウォーム・インテリジェンス)から、年間40億人以上の乗客を運ぶ大規模な航空システムまで、幅広い場面で観察される。
伝統的な群集観と集合知
- 伝統的見解: 従来、群集はバブルや群集雪崩を引き起こす「愚かなもの」とみなされてきた。
- 新たな視点: インターネット技術の発展により、多数の人々の回答を集約することで「賢い」結論が得られるという認識が広まり、「集合知(collective intelligence)」または「群集の叡智(wisdom of crowds)」として研究が活発化した。
本書の核心的課題と目的
本書は、集団が時に賢く、時に愚かになるという二面性に着目する。ネット炎上や社会の分断に見られる愚かな側面がある一方で、民主主義のように集団による意思決定が重視される場面もある。何が「正解」かを一概に決めることは難しい。
本書の目的は、以下の二つの知見を矛盾なく統合し、その成果を紹介することである。
- 集団研究の知見: 集団の「愚かさ」を強調してきた伝統的な集団心理学の知見。
- 集合知の知見: 集団の「賢さ」を強調する近年の集合知研究。
この目的を達成するため、本書は個人の認知(第1章)、集団過程(第2章)、集合行動(第3章)の基礎を概観し、その後、集団(第4章)、組織(第5章)、インターネット(第6章)における集合知を詳述する構成を取っている。
2. 個人の認知基盤:社会的認知
集合知の土台となる個人の情報処理能力は、生得的な基盤と環境との相互作用によって発達する。人間の認知には資源を節約しようとする傾向があり、これが様々なバイアスを生む一方で効率的な情報処理を可能にしている。
認知の二重プロセス
人間の思考は、意識的で努力を要する「制御的処理」と、無意識的で高速な「自動的処理」の二つの過程からなると考えられている(二過程理論)。
- 自動的処理: 繰り返し学習で熟達した行動や、スキーマ(知識の枠組み)に基づくトップダウン処理。認知資源の消費が少なく高速である。
- 制御的処理: 新しい状況や意識的判断を要するボトムアップ処理。認知資源を大きく消費する。
- 認知的倹約家: 人間は認知資源を節約するため、可能な限り自動的処理(既存のスキーマやカテゴリー)を用いようとする傾向があり、これがステレオタイプや偏見の原因となる。
知識構造と記憶
情報は他の情報と関連づけられた「知識構造」(スキーマ、カテゴリー、意味的ネットワークなど)として長期記憶に保存される。
- プライミング効果: 先行刺激が後続刺激の認知を促進または抑制する現象。意識下(サブリミナル)でも生じ、潜在記憶の存在を示す。
- 虚記憶 (False Memory): 関連性の高い情報に触れると、実際には提示されていない情報(ルアー語)を「見た」と誤って記憶する現象。意味的ネットワークにおける「活性化拡散」によって説明され、知識構造が個人間である程度共有されている証拠となる。
推論と意思決定のバイアス
人間は必ずしも合理的ではなく、特定の思考の偏り(認知バイアス)を示す。
- ヒューリスティックス: 経験則に基づく直感的な問題解決法。アルゴリズムより高速だが誤りを生みやすい。
- 確証バイアス: 自身の仮説を支持する情報を探し、反証情報を無視する傾向。
- ゲーム理論と囚人のジレンマ: 個人の合理的選択が社会全体の利益を損なう「社会的ジレンマ」を示すが、人間は必ずしも裏切り戦略を取らず、協力を選ぶことが多い。これは進化で形成された共感や互恵性のメカニズムによると考えられる。
社会神経心理学
脳科学は社会的認知の神経基盤を明らかにしつつある。
- 感情の二ルート: 感情には、視床→扁桃体を経る高速ルートと、大脳皮質を経由する低速ルートが存在する。
- 共感とミラーニューロン: 他者の行動や意図を自らの脳内でシミュレートするミラーニューロンシステムが、共感や模倣の基盤となる。
- デフォルトモードネットワーク (DMN): 安静時に活性化する脳のネットワークで、他者の意図推論など社会的認知に関わるとされる。
3. 集団過程:賢さと愚かさの源泉
個人が集まり相互作用を始めると、個人能力の単純な合計では説明できない創発現象が生じる。しかし、集団研究の歴史は、集団が個人よりも「愚かな」判断を下しやすいことを示してきた。
集団パフォーマンスの損失
多くの場合、集団の成果は最も優秀なメンバー(ベストメンバー)の成果に及ばない。これを「プロセスの損失」と呼ぶ。
- 社会的手抜き: 集団作業では個人の貢献が不明瞭になり、一人当たりの遂行量が低下する。
- 協同抑制: 集団で記憶再生を行うと、各個人の検索方略が互いに干渉し、名目集団(個人成績の合計)よりも記憶量が低下する。
- 共有知識効果: 集団討議では全員が知っている「共有情報」が重視され、限られたメンバーだけが知る重要な「非共有情報」が無視されがちである。
集団の意思決定を歪める要因
- グループシンク(集団浅慮): 凝集性が高く、特に強いリーダーがいる集団で異論が抑制され、批判的思考が欠如して不合理な決定が生まれる現象。
- 同調:
- 情報的影響: 正解が不明確な状況で他者の意見を正しい情報源として受け入れること。
- 規範的影響: 集団からの孤立を恐れ、多数派の意見に合わせること。Aschの同調実験が有名である。
- 集団極化現象: 討議を行うことで、集団メンバーの元々の意見がより極端な方向に偏る現象。「リスキーシフト」もその一例である。
社会的アイデンティティ理論
人々は所属集団(内集団)によって自己概念(社会的アイデンティティ)を定義する。
- 最小限集団実験: 架空の集団に分類されただけでも内集団バイアスが生じる。
- 自己カテゴリー化理論: 状況に応じて顕著になる社会的カテゴリー(性別、国籍など)が変化し、そのカテゴリーの典型(プロトタイプ)への同調が起きる。これは外集団との差異を明確にし、内集団の類似性を高めることで自己評価の曖昧さを低減しようとする動機に基づく。
4. 集合行動とネットワーク科学
集団よりさらに大規模で非構造的な「群れ」や「群衆」のレベルでは、個々の単純なルールから複雑な秩序が生まれる。
群れの知性(スウォーム・インテリジェンス)
リーダー不在でも、個体間の局所的相互作用により全体として高度な適応行動が実現される。
- 昆虫の知性: アリはフェロモンを環境に残す(スティグマジー)ことで最短経路を発見する。ミツバチは候補地の評価をダンスで伝え、一定の合意(定足数)に達すると集団で移動先を決定する(集約型意思決定)。
- 人間の群衆行動: 人間の群れも、周囲の人々の動き(社会情報)と環境情報に基づき無意識に行動を調整して流れを形成する。
感染と同期
自動的プロセスが感情や行動の伝播を引き起こす。
- 情動感染: 他者の表情や声のトーンを無意識に模倣することで同じ感情が引き起こされる。ミラーニューロンがその神経基盤とされる。
- 行動模倣(カメレオン効果): 他者の仕草や姿勢を無意識に真似る傾向で、社会的関係を円滑にする機能がある。
ネットワーク科学の知見
人々のつながりをネットワークとして分析することで社会現象のダイナミクスが明らかになる。
- スモールワールド: 多くの人は少数の知人(平均6人程度)を介して世界中とつながる。これは密なクラスター(友人グループ)と、異なるクラスター間をつなぐ少数の「弱い絆」によって実現される。
- スケールフリーネットワーク: ウェブページのリンク数や空港のハブのように、一部のノードが非常に多くのリンクを持ち、多数のノードはわずかなリンクしか持たない構造。優先的選択(「富める者がますます富む」)によって形成される。
- 情報カスケード: 他者の行動を見て判断すると、初期の少数の選択が連鎖的に広がり、たとえ誤りでも全体に普及してしまう現象。
- 同種親和性(Homophily): 人々は自分と似た属性(年齢、趣味、信念など)を持つ人とつながりやすく、これが社会の分断やフィルターバブルの構造的基盤となる。
5. 集合知の発生条件と応用
集合知が効果的に機能するには特定の条件が必要であり、その原理は組織運営やインターネットサービスに応用されている。
集合知の4条件
ジェームズ・スロウィッキーが提唱した、賢い群衆を生み出すための4条件は次の通りである。
- 多様性 (Diversity): メンバーの視点、知識、解釈が多様であること。
- 独立性 (Independence): 各メンバーが他者の影響を受けずに独立して判断すること。
- 分散性 (Decentralization): 知識や権限が特定場所に集中せずローカルに分散していること。
- 集約性 (Aggregation): 分散した個々の判断を効率的に集約するメカニズムが存在すること。
多様性予測定理
スコット・ペイジが示した定理は、集合知の力を定量的に説明する。
集団の誤差 = 個人の平均誤差 – 回答の多様性
この式は、集団全体のパフォーマンスを向上させるために、個々の能力向上とメンバー間の多様性向上が等しく重要であることを示す。専門家だけの均質な集団より、多様な視点を持つ非専門家が加わった集団の方が優れた判断を下す可能性がある。
組織における応用
- ピープル・アナリティクス: Googleなどでは社員データを分析し、科学的根拠に基づいて人事制度を設計している。例えば採用面接では一人の評価者より複数の評価者の平均(集合知)の方が採用後のパフォーマンスをより正確に予測することが示されている。
- 社会物理学: モバイルセンサーなどで非言語的コミュニケーションパターンを計測し、組織の生産性を予測する。発言機会が平等で活発な非公式コミュニケーションがあるチームほど生産性が高いことが分かっている。
- チームの集合知 (C因子): MITの研究では、個人の知能(G因子)とは別に集団としての知能(C因子)が存在することが示された。C因子はメンバーの平均知能より、メンバー間の発言機会の均等さや社会的感受性の高さ(特に女性比率の高さと関連)によって強く予測される。
インターネットにおける応用
- 予測市場: 選挙結果などの未来の出来事を金融商品のように取引させ、市場価格から確率を推定する仕組み。多くの場合、専門家の予測を上回る精度を示す。
- クラウドソーシング: 不特定多数に業務を委託する仕組みで、単純作業からFolditのような高度な科学的問題まで幅広く応用されている。
- インターネットの課題: 集合知を促進する一方で、情報カスケードやフィルターバブル(個人の好みに最適化された情報環境)を通じて意見の極端化や社会分断を加速させる危険性がある。
6. 結論:結合振動子としての人間
本書は人間を、他者との相互作用を通じて無意識に同期する「結合振動子」として捉える。個人の意識や意図を超えたレベルで、人々の相互作用から「意味」や「常識」といった秩序が創発される。
未来への課題: 複雑で正解のない問題に直面する現代社会では、個人の能力の限界を補う集合知の活用が不可欠である。しかしその力を正しく引き出すには、多様な視点が尊重され、異なる知識構造を持つ人々が対話できるような社会・組織・技術システムの設計が求められる。本書はそのための知識マップを提供することを最終目的としている。
集合知の本質: 集合知は個人の脳内にとどまらず、他者の脳や環境に埋め込まれた情報を利用する「分散認知」の現れである。これは意識的に構築されるものではなく、相互作用から自己組織的に生まれる創発現象である。
賢さと愚かさのバランス:
賢さ: 長期的に見れば、集合知(特に多様な意見の平均化や多数決)は、一人の専門家よりも安定して優れた判断をもたらすことが多い。
愚かさ: 一方で、同調圧力や共有知識への固執は多様性を失わせ、集団を誤った方向に導く。言語的コミュニケーションは複雑な文脈を単純化し、対立を先鋭化させやすい。
- はじめに―集合知とは何か
- 1 社会的認知
- 1-1 認知心理学
- 1-1-1 パターン認識 / 1-1-2 注意と認知 / 1-1-3 記憶 / 1-1-4 知識構造 / 1-1-5 推論過程 / 1-1-6 メタ認知
- 1-2 ゲーム理論
- 1-2-1 囚人のジレンマ / 1-2-2 共有地の悲劇 / 1-2-3 やってみよう NetLogo
- 1-3 進化心理
- 1-3-1 進化ゲーム理論
- 1-4 社会的認知
- 1-4-1 社会的認知の人間観 / 1-4-2 二過程理論 / 1-4-3 自己制御 / 1-4-4 動機づけ / 1-4-5 目標感染 / 1-4-6 関係スキーマ / 1-4-7 態度
- 1-5 社会神経心理学
- 1-5-1 認知神経心理学 / 1-5-2 共感 / 1-5-3 自己制御と脳 / 1-5-4 デフォルトモードネットワーク
- 1-6 コモンセンス
- 第1章のまとめ
- 1-1 認知心理学
- 2 集団過程
- 2-1 集団とは何か
- 2-1-1 組織と集団 / 2-1-2 協同行為 / 2-1-3 集団の記憶
- 2-2 集団過程研究
- 2-2-1 グループシンク / 2-2-2 リーダーシップ / 2-2-3 社会的影響過程 / 2-2-4 状況の力 / 2-2-5 少数者からの影響
- 2-3 社会的アイデンティティ
- 2-3-1 集団成立の要件 / 2-3-2 自己カテゴリー化理論 / 2-3-3 社会的比較理論 / 2-3-4 最適顕現性理論 / 2-3-5 カテゴリー化の効果
- 2-4 社会的共有認知
- 2-4-1 共有知識効果 / 2-4-2 認知的チューニング 2-5 集団討議による態度変容 2-5-1 リスキーシフト実験 / 2-5-2 集団極化現象
- 第2章のまとめ
- 2-1 集団とは何か
- 3 集合行動
- 3-1 群れの行動
- 3-1-1 群れの動き / 3-1-2 環境情報と社会情報 / 3-1-3 群れの同調行動
- 3-2 群れの知性
- 3-2-1 昆虫の知性 / 3-2-2 昆虫の知性の事例 / 3-2-3 集約型意思決定 / 3-2-4 ヒトの群集行動
- 3-3 同調と感染
- 3-3-1 情動感染 / 3-3-2 行動模倣
- 3-4 ネットワークの科学
- 3-4-1 スモールワールド実験 / 3-4-2 バランス理論 / 3-4-3 正のフィードバック / 3-4-4 べき分布とスケールフリーネットワーク / 3-4-5 情報カスケード / 3-4-6 現実社会のネットワーク
- 第3章のまとめ
- 3-1 群れの行動
- 4 集団の集合知
- 4-1 みんなの意見は案外正しい?
- 4-1-1 多様性 / 4-1-2 独立性 / 4-1-3 分散性 / 4-1-4 集約性
- 4-2 集合知の指標
- 4-2-1 集合知研究に用いられるさまざまな指標 / 4-2-2 課題の分類 / 4-2-3 正解のある課題 / 4-2-4 正解のない課題 / 4-2-5 情報の分類
- 4-3 Pageの理論
- 4-3-1 多様性予測定理
- 4-4 集合知の実証研究
- 4-4-1 多数決ルール / 4-4-2 正解のある課題の集合知
- 4-5 社会的影響力が集合知に及ぼす影響
- 4-5-1 社会的影響力のネガティブな効果 / 4-5-2 少数者が有効な情報を持つ場合の集合知 / 4-5-3 社会的影響のポジティブな効果 / 4-5-4 社会的影響のモデル / 4-5-5 認識的ツールボックス
- 4-6 チームの分散認知
- 4-6-1 共有メンタルモデル / 4-6-2 IPO理論 / 4-6-3 共有メンタルモデルの測定 / 4-6-4 トランザクティブメモリー / 4-6-5 推論過程の共有 / 4-6-6 トレーニングの効果 / 4-6-7 共有メンタルモデルの形成過程
- 第4章のまとめ
- 4-1 みんなの意見は案外正しい?
- 5 組織の集合知
- 5-1 組織心理学
- 5-1-1 パフォーマンス / 5-1-2 職務満足感 5-1-3 職業性ストレス / 5-1-4 組織の発達 / 5-1-5 組織開発
- 5-2 集合知を用いた組織科学
- 5-2-1 ピープル・アナリティクス / 5-2-2 社会物理学 / 5-2-3 チーム
- 5-3 専門家をどのように選出するか
- 5-3-1 専門家による集合知 / 5-3-2 専門家のシグナル / 5-3-3 予測市場 / 5-3-4 評判
- 5-4 社会と集合知
- 5-4-1 言語と認知 / 5-4-2 多元的無知 / 5-4-3 文化としての言語 / 5-4-4 集合的記憶
- 第5章のまとめ
- 5-1 組織心理学
- 6 インターネットの集合知
- 6-1 インターネット
- 6-1-1 Web2.0
- 6-2 インターネット上の集合知
- 6-2-1 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS) / 6-2-2 機械学習
- 6-3 オンライン集団の課題解決
- 6-3-1 分散型課題解決 / 6-3-2 情報量と課題の要因 / 6-3-3 オンライン上の共有知識
- 6-4 人間-コンピュータ相互作用
- 6-4-1 ウェブサービスと集合知 / 6-4-2 クラウドソーシング
- 6-5 インターネットを用いた集合知研究
- 6-5-1 広域ネットワークを用いた課題解決 / 6-5-2 アイディア創出 / 6-5-3 近未来予測研究
- 6-6 情報圏の分断
- 6-6-1 教育の必要性 / 6-6-2 オンライン学習
- 第6章のまとめ 結び―結合振動子としての人間
- 6-1 インターネット
- 0 補足事項
- 0-1 情報科学
- 0-2 ネットワークの科学
- 0-3 意思決定研究の概念
- 0-4 人工知能
- 0-5 ベイズ統計
- 0-6 マインドフルネス認知療法
- 0-7 シミュレーション研究
Mのコメント(言語空間・位置付け・批判的思考)
アクセス
「集団」を検索して見つけたのだが、これは「掘り出し物」である。著者は、社会心理学の「集団の心理をテーマとしてネットゲームなどを用いて研究して」しているそうで、第2章の「集団過程」には力が入っている。私には本書における著者の専門分野での記述のできばえは評価しようもないが、著者が専門分野に止まらず、「集団」と「集合知」(「集団」「組織」「ネット上」)を幅広く取り上げてそれぞれの知見を簡潔に整理していること、さらに補足事項として方法論である「情報科学、ネットワークの科学、意思決定研究の概念、人工知能、ベイズ統計、マインドフルネス認知療法、シミュレーション研究 (含む複雑系)」を簡潔にまとめていること等々(これはお得な「おまけ」だ。)、「まとめ本」として秀逸である。
また「集合知」(特に、第6章「インターネットの集合知」)は、「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」の検討において、大きな地位を占める問題になると思う。
備忘録
作者側の発信情報
我々は、条件次第で愚かにも、賢くもなれる。困難な課題に直面した時、何を頼りとすれば正解に近づけるだろうか。集団の愚かさが強調されてきた集団研究と、賢さを強調する集合知の知見を統合しわかりやすく解説する。
私の備忘メモ
「集合」を抽象的な多数の要素の集まり「示す概念として、ヒトの集合は、群衆、集団(所属集団名を共有した2名以上の人々)とし、「組織」は集団のうち、役割構造・課題構造に関する知識が共有されているものと整理する。「企業」「政府」は「組織」であるが、その機能は全く違う。
本書3章「集合行動」は群れ(行動、知性、同調と感染)とネットを検討し、4章以下、集団、組織、インターネットの「集合知」を検討している。ネットの集合知については、少なくても「集合知とは何か ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書) :西垣通)を併せて検討しよう。
なお本書には、組織の問題解決という視点は余りないのかも知れない。この著者の先輩かも知れないが、釘原 直樹さんの「人はなぜ集団になると怠けるのか -「社会的手抜き」の心理学 (中公新書) 」や「グループ・ダイナミックス –集団と群集の心理学」等が、次に検討すべき本だろう。