分業に依存しない生活は可能か
明日、ゼロから生活を始める
世界の「持続可能性」が途絶えたとき、つまり世界が無に帰したわけではないが、ほとんどの世界のシステムが破綻して、これまでどおりいかなくなったとき、私たちはどうしたらいいのだろうか。要は、人に頼ることが出来なくなる、それらしくいえば、分業に依存できなくなった場合、「明日、ゼロから生活を始める」ことができるだろうか。
この問題は、災害時の「サバイバル」と重なるが(「生き残る為の本」(Amazonにリンク)というKindle本には、「水の確保、火の熾し方、調理法、野草~虫まで食べられるものを捕獲 地震、火災、津波などの防災 応急処置の方法まで」様々な「生き残り術」が紹介されている。類書も多い。)、サバイバルが救援があるまでの緊急時の一時的な技術であるのに対し、「明日、ゼロから生活を始める」は、中長期を生き抜く、より本質的な生存技術の問題である。
どちらであるにせよ、明日の衣食住についていきなりゼロから確保できるはずもなく、当面の生命、生活を支えることのできるモノはまだ残っているが、それがなくなったとき、どのように個が自立できるのか(個では狭すぎるので小集団(家族、コミュニティー)を主体と捉える方が適切だろう。)、できないのか、そこへの道筋を試行錯誤してみようというのが、ここでの「思考実験」である。問題は、他者が提供する財・サービスを前提としない、自立するための「知識」とその実践の獲得である。
私たちの「知識」を知る
さて私たちは、他者の財・サービスの提供を前提とせず、何が可能だろうか。言い換えると、私たちは何を知っていて、何ができるのだろうか。これは哲学的、思想的な問いかけではなく、現実的な問いかけである。
あなたはトースターを作ることができますか?(「ゼロからトースターを作ってみた結果」(著者:トマス・スウェイツ)(Amazonにリンク))、鉛筆は、コメは、ナスは、塩は、衣服は、木材の伐採と加工はできますか?「いや、ちゃんとした文献があればこれは可能だ」という人はいるだろうが、世界の「持続可能性」が途絶えたとき「文献」が都合よく利用できるのだろうか、「文献」を見つければ実践できるのだろうか。
そこで事前に「明日、ゼロから生活を始める」ための「知識」をしっかり確認しておこうという試みの本がある。
「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」を読む
「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」(著者:著者ルイス・ダートネル)(Amazonにリンク)(原書は、「The Knowledge: How to Rebuild our World from Scratch」)(Amazonにリンク))は、これまでにも紹介したことがある。
内容は、文明の崩壊時に残された材料を利用する猶予期間があるとして、この時期を経て、農業/食糧と衣服/物質/材料/医薬品/動力 /輸送機関/コミュニケーション/応用化学/時間と場所等々をどうやって活用できるのかという「知識」の集約と実践論である。災害時の「サバイバル」も含んでいるとは言えるが、問題をより文明論的に捉えていると言えるだろう。
たとえば、農業といったって、種、土壌、道具等々、あなたは何も知らないのではないの?とまさにそのとおりである。動力、工業、通信等々、私にはすべて「ブラックボックス」である。そういう人は当然生き残れない。生き残るためには、この本の内容を頭に叩き込む必要があるし、生き残りは最初から諦めるとしても、私たちが生きている現実の自然、物質を知るためにも、必読である。まず次の詳細目次で、自分の「知識」を確認しよう。更に後掲の「技術・家庭」、「身近な自然」はどうだろうか。
なお事程左様に「分業」は重要であることを述べた、マット・リドレーの「繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史」(Amazonにリンク)、「進化は万能である」(Amazonにリンク)を併せて紹介しておこう。
目次
- 序章
- 第1章 僕らの知る世界の終焉
- (導入)/社会契約の破棄/世界の最善の終わり方/自然の復活/大破局後の気候
- 第2章 猶予期間
- (導入)/避難場所/水/食料/燃料/医薬品/なぜ都市を離れるべきか/自家発電/都市を分解し再利用する
- 第3章 農業
- (導入)/農業の原理/土壌とは何か/人間の食べ物となる植物/ノーフォークの四輪作法/肥やし/一人が10人を養う
- 第4章 食糧と衣服
- (導入)/食品保存/穀物の処理/熱さと冷たさを利用する/衣服
- 第5章 物質
- (導入)/熱エネルギーを供給する/石炭/石鹸/木材の熱分解/酸
- 第6章 材料
- (導入)/粘土/石灰モルタル/金属/ガラス
- 第7章 医薬品
- (導入)/感染症/出産と新生児医療/医療検査と診断/医薬品/手術/微生物学
- 第8章 人びとに動力を──パワー・トゥ・ザ・ピープル
- (導入)/機械力/電気/発電と配電
- 第9章 輸送機関
- (導入)/乗り物を走らせつづける/機械文明を失ったら?/動力付き輸送機関の再発明
- 第10章 コミュニケーション
- (導入)/筆記/印刷/電気通信
- 第11章 応用化学
- (導入)/電気分解と周期表/爆発物/写真術/産業化学
- 第12章 時間と場所
- (導入)/時間を告げる/暦の復活ここはどこ?
- 第13章 最大の発明
- (導入)/科学的方法/科学の道具/科学的方法-つづき/科学と技術
なお末尾に原書の参照Webと目次を掲載しておく。
「日本列島回復論」を読む
「この世界が消えたあとの科学文明のつくりかた」を読んでいると、ここでの自然や文明のあり方、あるいは様々な道具が、どうも違うなあという思いがしてくる。
それはそうだ、この本は、いわば荒涼としたイングランドの自然と文明を前提としているわけで、日本とは自然も文明も異なる。
そういう中で、持続可能な日本を、「山水郷」という観点から捉えた「日本列島回復論: この国で生き続けるために」(著者:井上岳一)(Amazonにリンク)の日本の自然と文化の捉え方はとても参考になる。ほっとする。
あるいはもう少し突っ込んで世界に目を向け、世界の気候と文化を考察した「世界が分かる地理学入門-気候・地形・動植物と人間生活:水野一晴」(Amazonにリンク)、「気候文明史 世界を変えた8万年の攻防:田家康」(Amazonにリンク)、「30の都市からよむ世界史: 神野正史」(Amazonにリンク)等は、地球温暖化論の前提としても役立つので、ここで目を通しておくのがよいだろう。
でも、「明日、ゼロから生活を始める」ためにはそうかもしれないけれど、まず自分が一人の生活になったとして毎日の日常での様々な問題が処理できなければどうしようもないのでは?大げさなことをいわずに、まず中学で習ったはずの「技術・家庭」をみてみよう。
「中学技術・家庭」を学ぶ
「中学技術・家庭をひとつひとつわかりやすく:学研教育出版」(Amazonにリンク)
これは目次を見れば、十分だ。私は、最初の「板目」と「まさ目」さえ知らない。この本は「ヒトの生活と行動」「生活」の基本書としても掲載している。それぐらい感銘を受けている。ただし私の中学では、何かに振替えられたような記憶がある。
目次
- <技術分野>
- 1章 材料と加工
- 01 「板目」と「まさ目」って? 木材の性質
- 02 金属やプラスチックの性質 金属の性質
- 03 じょうぶな構造とは? 構造の工夫
- 04 製図のキホン 作品製作①
- 05 材料への下がき-けがき 作品製作②
- 06 のこぎりってどう使うの? 作品製作③
- 07 職人への道-かんな 作品製作④
- 08 曲げる、穴をあける 作品製作⑤
- 09 失敗したときはどうする? 作品製作⑥
- 10 組み立ててみよう! 作品製作⑦
- 11 きれいに仕上げよう! 作品製作⑧
- 2章 エネルギー変換
- 12 いろいろな発電方法 エネルギー資源と変換
- 13 電気→熱・光・動力 エネルギーの変換と利用
- 14 歯車やリンク装置のしくみ 動きを伝達するしくみ
- 15 電気の事故を防ぐには 機器保守点検・安全①
- 16 回路計の使い方 機器保守点検・安全②
- 17 環境にやさしい技術とは 製作品の設計と製作
- 3章 生物の育成
- 18 よい土づくりとは 栽培の基礎①
- 19 肥料の三要素はNPK 栽培の基礎②
- 20 野菜や草花を育てよう 野菜と草花の栽培
- 4章 情報
- 21 アナログとディジタルって? コンピュータのしくみ
- 22 インターネットって何? 情報通信ネットワーク
- 23 ネットの危険から身を守る! 情報の安全性
- 24 ディジタル作品を作ろう ディジタル作品作り
- 25 プログラムでコントロール! プログラムによる計測・制御
- <家庭分野>
- 5章 食生活
- 26 1日分のエネルギーってどれくらい? 食生活と栄養
- 27 新鮮な食品を見分けよう! 食品の選択①
- 28 食品添加物と保存法 食品の選択②
- 29 調理の基本-さしすせそ 日常食の調理
- 30 メインディッシュ-肉・魚の調理 いろいろな調理①
- 31 野菜の調理 いろいろな調理②
- 32 地産地消のススメ 地域食文化と環境
- 6章 衣生活と住生活
- 33 服装はT.P.Oに応じて! 衣服を着る目的と活用
- 34 失敗しない服選び 衣服の活用と選択、衣服の手入れ①
- 35 服を大切に着よう 衣服の手入れ②、よりよい衣生活
- 36 わたしたちのホームセキュリティ 住まいの目的、安全な住まい
- 37 快適空間で暮らそう 健康で快適な室内空間
- 38 オリジナル作品を楽しもう 生活を豊かにするために
- 7章 家庭と子どもの成長
- 39 家族と家庭生活 家庭や家族の機能,地域
- 40 自分の幼い頃を振り返ろう 幼児の体や心の発達
- 41 遊びが生きる力を育てる! 子どもの成長と遊び
- 42 幼児と遊ぼう おもちや、幼児とのふれ合い
- 8章 消費生活と環境
- 43 商品選び、買い方のコツ 商品の選択と購入
- 44 消費者の権利と責任 消費者の権利と責任
- 45 消費者トラブルとは 消費者トラブルの解決
- 46 これからの生活と環境 環境に配慮した生活
「身近な自然の観察図鑑」を読む
中学技術家庭で日常生活に目を向けたとしてなお欠けているものがある。それは、身の回りの身近な自然だろう。日常的に身近な自然に接していて始めて「明日、ゼロから生活を始める」スタート地点に立てるだろう。最低限の常識が「身近な自然の観察図鑑(ちくま新書):盛口満」(Amazonにリンク)に書いてある。これは、中項目までの目次を掲載しておこう。
目次
- 第一章 道ばた
- 1 雑草の観察
- 2 タンポポ
- 3 ネコジャラシ
- 第二章 街の中
- 1 ミノムシ
- 2 イモムシ
- 3 鳥の観察
- 第三章 公園
- 1 セミ
- 2 テントウムシ
- 3 カラスノエンドウとアルファルファに注目する
- 第四章 家と庭
- 1 家の中の虫たち
- 2 家の中にいる「珍虫」
- 3 カタツムリとナメクジ
- 4 ダンゴムシ
- 第五章 台所
- 1 果物たち
- 2 野菜はなぜ嫌われるのか?
- 3 野菜を「祖先」で考える
- 第六章 里山
- 1 カイコとクワ畑
- 2 雑木林のドングリ
- 3 野ネズミの観察
- 4 キノコを探して
でもせっかくだからもっと自然に飛び出そう。「問題解決と創造」「ヒトの行動と生活」「実行する」の自然を経験する」に「たくさんの参考になる本を掲載している。
「「豊かさ」の誕生」を読
さて、個の自立と分業のもたらす効能の考察はここまででいいとして、「分業」があれば当然に「文明」は繁栄するのか、何があれば経済発展があり得るのか、「持続可能性」のためには経済発展は望めないのかという、ということを考えてみるのもよい。持続可能性を裏側から見つめることと言えるだろうか。
それには、「「豊かさ」の誕生 成長と発展の文明史 上・下」( 著者:ウィリアム・バーンスタイン」(Amazonにリンク)がよい。
この本は、1820年からの経済発展は、「私有財産権と法の支配」「科学的合理主義」「資本市場」「輸送・通信手段」があったからだと論じる普通の「前向き」の本だ。こういう捉え方もあるだろう。
ただ「ローマクラブ」の「成長の限界論」には見向きもしないが、それはどうだろうか。
詳細目次・その他
「The Knowledge: How to Rebuild our World from Scratch」(by Lewis Dartnell)
http://the-knowledge.org/en-gb/
Contents
Introduction
- The End of the World as we Know it
- The Grace Period
- Agriculture
- Food and Clothing
- Substances
- Materials
- Medicine
- Power to the People
- Transport
- Communication
- Advanced Chemistry
- Time and Place
- The Greatest Invention
Finale
Further Reading and References
Acknowledgments
Bibliography
Index
Copyright