複雑な問題を検討するための方法論

「山ある日々:問題解決と創造・実践論」で用いる方法

この論述は、固定ページの後半に記載され埋もれていたので、切り離して新たに投稿する。若干文献等のバージョンアップをする必要があるが、投稿した方がやりやすいので、投稿後、対応する。

「問題解決と創造」のための方法論として「持続可能性と複雑系」、及び社会と世界を把握・モデル化してその解決(操作)方法を検討する場合の主要な方法である「システム思考・制度論」及びそれの材料となる「ビッグヒストリー」を簡単に概観しておく。「ビッグヒストリー」という大きな視座から「制度」をとらえ、その要素を「システム思考」によって動かしてみるということには、すべての基本であると共に大きな可能性がある。

持続可能性と複雑系

個の問題を組み込んで考察する

持続可能性と複雑系という場合、普通あまり個の問題を含めては検討されない。しかし、ヒトは複雑系であるし、社会・世界の持続可能性を達成するのはヒトとその集団であり、個の持続が終わったとき(個が死を迎えたとき)に、持続可能な社会・世界という目標が共有・承継されない限り、個にとってこの問題はすべて終わってしまう。だから持続可能性と複雑系をめぐる社会・世界の複雑な問題群の解決を目指すときは、個の問題を組み込んで考察しないと他人事になるであろう。
ここでの個の問題は、個の持続と自立と考えれば良い。個の持続は、「健康」「健脳」であり、個の自立は、「目標の達成と依存からの脱却」であるが、これらは基本的には「残された日々を生きる」で検討している。 「山ある日々:問題解決と創造・実践論」では、「分業に依存しない生活は可能か」(分業に依存しない生活は可能か | 弁護士村本道夫の知的生産の学習実験室&未来の法律事務所)、「2052年を生きる」()として、健康で目標の達成と依存からの脱却ができたとしても、ヒトの世界の「持続可能性」が途絶えたとき、つまりヒトの世界が無に帰したわけではないが世界のシステムのほとんどが破綻して、これまでどおりいかなくなったとき、要は、分業に依存できなくなった場合、「明日、ゼロから生活を始める」ことができるだろうか、それとは別にどうすれば私は2052年まで生き延び、孫、ひ孫の世代を見届けられるかという問題を取り上げている。

持続可能性

持続可能性というとらえ方

持続可能性という地球・世界・社会の捉え方もようやく定着してきたようである。「持続可能な」のあとに、どの語も接続される。
改めていうまでもなく、現在の地球・世界は、資源枯渇、環境汚染、生態系破壊、生物多様性の喪失、気候変動、格差拡大等の問題を抱えている。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」(1962年刊)、ローマクラブの「成長の限界」(1972年刊)等がこれらの問題を指摘し、その後、「エコロジカルフットプリント」の提言、「成長の限界」執筆者グループ(デニス・L・メドウズ, ドネラ・H・メドウズ, ヨルゲン・ランダース)による、20年目、30年目、40年目の分析と報告、国際機関の様々な活動と報告等を経て、最初の提言からすでに半世紀が経過したが、これらの問題を克服できて、これまでどおりの地球が持続可能なのか、見通しは必ずしも明るくない。
しかし2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの「持続可能な開発目標」(SDGs)が採択され、そのうちに持続可能性についての多くの目標が掲げられたことから、多くの国際機関、各国政府、企業がこれを推進しようとしており、一応、持続可能性に向けた態勢は整いつつあるといえるだろう。だが、持続可能性と開発が簡単に両立するとも思えず、問題も多い(Come On! 目を覚まそう!―ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 ~環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか? :エルンスト・フォン・ワイツゼッカー, アンダース・ワイクマン)。
それについて検討する前に、持続可能性をより分かりやすくイメージするために「地球のなおし方-限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵」(2005年刊)(デニス・L・メドウズ, ドネラ・H・メドウズ, 枝廣淳子) から、少し長いがそのさわりを引用しよう。

持続可能な社会・世界を理解する

「宇宙に地球という星が誕生したのは、約46億年前といわれます。やがて、水をたたえ、緑あふれる星となった地球に、多くの生命が誕生し、深海から火山の火口まで、あらゆる場所にいのち輝く星となったのです。これまでにいったいどれぐらいの数の生命がこの地球上に生まれたのか、想像もできません。そうして、数十万年前に、私たち人類が地上に登場したのでした。…この地球という星に約40億年前に生命が誕生して以来、人間を含め、あらゆる生命はこの地球上に生まれて生きてきたということ、そして、今後も、すべての生命はこの地球上に生まれて生きていく、ということです。…私たち人間も含め、地球上の生命は「ごく短期間、地球に間借りしている旅人」のようなものかもしれません。 みなさんが地球で、入れ代わり立ち代わりやってくる、間借りする旅人たちに寝る場所や食べ物を出してあげていると想像してみてください。植物、微生物、虫たち、鳥たち、動物たち……。多くの旅人たちは、地球にも他の人にも迷惑をかけることなく、静かに訪れては立ち去っていきました。むやみに大勢で押し寄せたり、ごっそり食糧を持ち去ったり、来年のために取ってある種まで食べてしまったり、地下に埋まっているものを掘り出したり、無害化する方法も知らない有害なものをつくり出したり、ということはありませんでした-人間がその活動を拡大しはじめるつい100年ほど前までは。…世界のあちこちから、環境が悪化しつつあるという報告が寄せられています。温暖化が進み、南極の氷がどんどん溶け、北極の氷も薄くなり、珊瑚礁が白化し、海水面がじりじりと上昇しています。酸性雨によって森林が傷つき、かつて耕地や草地だったところが砂漠化しています。健全な森は燃えないはずなのですが、世界の各地で山火事が頻発しています。 はたして、人間の活動は、地球のようすを変えるほど、増大しているのでしょうか?地球は人間の活動を支えきれなくなってきているのでしょうか? この視点からわかりやすく現状を伝えてくれるのが、「エコロジカル・フットプリント」という考え方です。「フットプリント」とは、「足跡」のこと。私たちの暮らしや経済は、地球のどのくらいの面積を踏みつけているのか? 人間活動はどのくらいの面積に支えられているのか? ということです。 まず「自然に対する人間の影響の総量」を計算します。これは、世界が必要とする食糧や魚、木材、都市部の土地などの資源を提供し、人間活動から排出される二酸化炭素を吸収するために必要な土地の合計の面積です。これを実際に利用できる土地面積と比較すると、「人類が地球に対して要求しているもの」と「地球が提供できる能力」との関係がわかるのです。…世界のエコロジカル・フットプリントは、1980年代後半から、地球が提供できる能力を超えてしまっていることがわかります。人間の現在の資源消費量は、地球が支えてくれる力(扶養力)を約20パーセントも上回っているのです。」(註:なお、WWFは、2017年で70%上回っているという数字を挙げている。)。

データとその科学的分析を知る

資源枯渇、環境汚染、生態系破壊、生物多様性の喪失、気候変動、格差拡大等について各別に議論する(局地戦をする)と、多くの異論が出てくる。私だって、地球温暖化だけをみると、過去の地球の激しい気候変動から見て現状は温室効果ガスが原因なのだろうかとか、生物多様性の喪失についていえば、過去5度の大量絶滅があったとか、いいたくなる。ただ同時並行的に起こっている多くの問題を、エコロジカル・フットプリントという観点から整理すると「人間の活動は、地球のようすを変えるほど、増大している」(オーバーシュート)ことは、確実だろう。
私はこの点については、このコンテンツでは、次に掲記する本を中心にして出来るだけ最新かつ客観的なデータ、及び科学的な分析を提供したいと思う。

  1. 〔データブック〕近未来予測2025 :ティム ジョーンズ、キャロライン デューイング
  2. Come On! 目を覚まそう!―ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 ~環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか? :エルンスト・フォン・ワイツゼッカー, アンダース・ワイクマン
  3. 2052 今後40年のグローバル予測:ヨルゲン ランダース
  4. エコロジカル・フットプリント 地球1コ分の暮らしへ:ニッキー チェンバース、クレイグ シモンズ、 マティース ワケナゲル
    これとは別に最近「地球をめぐる不都合な物質」(ブルーバックス)を入手した。「成長の限界」にせよ「エコロジカル・フットプリント」にせよ、これまでのペースのままで人口と経済(生産、消費・廃棄)が拡大していけば、これまでどおりにはいきませんよという話なのだが、「地球をめぐる不都合な物質」には、現在の化学物質(POPs、マイクロプラスチック、重金属、PM2.5、水銀)の汚染とその毒性には深刻な影響(回復不能な打撃)があることが述べられている。努力しようだけでは済まない問題のようだ。

持続可能性に向き合うのはむつかしい

問題は、地球の現状についてデータを収集し、科学的分析を重ねて行動指針を作っても、なかなかそれが実際の持続可能性に向けた人と組織の行動に結びつかないということである。これについては、多くの人が問題の所在を知らないといういい方もできるし、知ってもそれが行動に結びつかない、あるいは何をすればいいかが分からないといういい方もできる。さらには、データと科学的分析を提供される側が、正しいことを押し付けられることを疎ましく思うという人間心理もあるかもしれない。
ただ視点を変えてみれば、私たちは、確実に自分自身の生存期間を延長することを知っている「ダイエット」を実行しようとしてもそれは往々にして頓挫し、世界の「肥満率」は高まる一方らしい。そして私たちは生存期間を延長できないまま確実に死亡し、私の「世界」はなくなる。そういう私たちが、一人一人の行動とは距離のある持続可能性に向けて任意に行動するのはむつかしい。可能にするのは、「データとその科学的分析」を踏まえた実効性のある「ルールづくりとその実行」ということであろう。
ただそれにも障害がある。ひとつは持続可能性を支える大きな勢力にならなければならないアメリカで特異な行動が見られる現状(「気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解:ウィリアム・ノードハウス」、「ルポ 人は科学が苦手~アメリカ「科学不信」の現場から~:三井 誠」)、及び日本のこれまでの知的リーダーの動きも素直に現実に向き合っていなかったこと(「人類が永遠に続くのでないとしたら:加藤典洋)」は理解しておく必要があろう。

もっとも1972年にローマクラブの「成長の限界」を書き、その後も、20年目に「限界を超えて」、30年目に「成長の限界 人類の選択」を書いた、デニス・L・メドウズさん, ドネラ・H・メドウズさん、ヨルゲン・ランダースさんらは、複雑なシステムの分析を専門とするシステム思考家で、自分の行動がシステムの動きに大きな影響を与えることを充分に理解している人達であり、自分の行動を除外して他人に警鐘を鳴らす人たちではない。ドネラ・H・メドウズさんは、学者からジャーナリストに転身したが、おそらくこれを痛感したからであろう。
「成長の限界」から40年目の2012年にはヨルゲン・ランダースさんが「2052」を書き、2052年までの破滅は何とか免れるだろうが、その後の見通しは危ういとする。SDGsという動きは歓迎すべきだが、決め手になるわけではない。私は、2052年まで生き延びて、世界を見届けよう。

問題の焦点…宇宙船地球号

地球について、「宇宙船地球号」というとらえ方がある。「地球の持続可能性」はその乗客である個々人には、直接には御しがたい問題だが、その運航をしている個々人が所属する政府・国連、生産・消費、廃棄の大きなウエイトを占める企業が解決への大きな糸口を握っているのは間違いない。
政府を主導する政治家は、目の前の利害誘導による「選挙当選」が最大の問題だから、政治家主導はむつかしい。アメリカの現状も上記のとおりだ。
経営コンサルタントが、企業の課題としてのSDGsやESGについて様々な提言をしているが、どうしても企業的価値と社会的価値の両立という提言になる。しかしその前提として、地球が持続不可能の領域に突入すればそのような問題は雲散霧消してしまう(核戦争でもなければ壊れてなくなるわけではないが)。地球号が沈めば、そのような問題も吹っ飛ぶことを前提にして、痛みを伴うかもしれない考察が必要だ。
なお、どこかでも触れたが、持続不可能なのは、地球ではない。人類の文明と生活だ。人類は絶滅しようと、地球がいったんは壊れようと、地球は又生命を生み、あらたな生態系が展開する。私の、孫、ひ孫の世代が、生き延びて欲しいという問題である。

複雑系

複雑系については、私はもう随分前になるが、「歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか:マーク・ブキャナン」(その後、「歴史は「べき乗則」で動く-種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫)」に改題)を読んで衝撃を受けた記憶がある。
ただ複雑系科学は自然科学も含めて多方面に拡がり、纏め方が難しいし、要は問題を解決するためにどう使えるかであるから、当面「システム思考」で代表させ、おいおい必要に応じて纏めていきたい。ここでは私の手許にある次のような本を挙げておく。

  1. 持続不可能性―環境保全のための複雑系理論入門:サイモン レヴィン,
  2. 増補 複雑系経済学入門 :塩沢由典(Amazonにリンク
  3. 複雑性の科学の原理:唐沢昌敬(Amazonにリンク
  4. インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル:ケン・ウィルバー
  5. 複雑性とパラドックスーなぜ世界は予測できないのか? Complexification.:ジョン・L. キャスティ
  6. ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから Complexity.:メラニー ミッチェル「COMPLEXITY: A Guided Tour (著者:Melanie Mitchell)
  7. システム思考―複雑な問題の解決技法:ジョン・D・スターマン
  8. 複雑で単純な世界: 不確実なできごとを複雑系で予測する Simply complexity.:ニール・ジョンソン
  9. 複雑ネットワーク: 基礎から応用まで:増田 直紀, 今野 紀雄
  10. 複雑系科学の哲学概論:菅野 礼司
  11. 複雑系の哲学:小林道憲
  12. 複雑系としての経済―豊かなモノ離れ社会へ (NHKブックス) :西山 賢
  13. 心の発見―複雑系理論に基づく先端的意識理論と仏教教義の共通性:浅野孝雄
  14. 「複雑系とは何か」よくわかる本:松本幸夫
  15. マンガでわかる複雑ネットワーク 巨大ネットワークがもつ法則を科学する :右田 正夫, 今野 紀雄
  16. 複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線:マーク・ブキャナン
  17. Q&A:入門複雑系の科学―ゆらぎ・フラクタルで現象を測る:木下栄蔵
  18. .歴史は「べき乗則」で動く―種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学:マーク・ブキャナン
  19. 「ソーシャル物理学-「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学」(著者:アレックス・ペントランド)
  20. 「複雑ネットワーク -基礎から応用まで」(著者:増田 直紀)
  21. 「歴史は「べき乗則」で動く-種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学」(著者:マーク・ブキャナン)
  22. 「人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動」(著者:マーク・ブキャナン)
  23. 「市場は物理法則で動く―経済学は物理学によってどう生まれ変わるのか?」(著者:マーク・ブキャナン)
  24. 「偶然の科学」(著者:ダンカン・ワッツ)
  25. 「不確実な世界を確実に生きる ― カネヴィンフレームワークへの招待」

システム思考・制度論・ビッグヒストリー

これらは、社会と世界を把握・モデル化してその解決(操作)方法を検討する場合の主要な方法であるが、「ビッグヒストリー」という大きな視座から「制度」をとらえ、その要素を「システム思考」によって動かしてみるということには、すべての基本であると共に大きな可能性がある。なお、システム思考の末尾に、因果関係による問題の類型化(フレームワーク)である「カネヴィンフレームワーク」を紹介しておく。

システム思考…複雑な問題の解決

「システム思考」については、「「行動分析学」と「システム思考」で世界を見る」(このサイトの記事にリンク)、「ビッグヒストリー」については、「138億年!!」(このサイトの記事にリンク)で、簡単に紹介してある。

システム思考へのアクセス

システム思考は、社会分析というより、ビジネス分野への適用が目立っているが、非線形な分析なのでさほど簡単ではない。しかしシステム思考の応用形である「学習する組織」や「U理論」は、最近、割とよく目にする。まずシステム思考へアクセスしよう。
システム思考の前史となる一般システム理論、サイバネティックスは置き、システム思考は、MITのジェイ・フォレスターさんが、経営や社会システムにフィードバック制御の原理を適用してはじめた「システム ダイナミクス」で、ポピュラーになったといえる(システム内でつながり合う要素同士の関係を、ストック・フロー・変数・それらをつなぐ矢印の4種類で表し、微積分やコンピュータソフトによって定量分析する)について、このままでは専門的でわかりにくいので、「因果ループ図」を用いて、変数のつながりやフィードバック関係を直感的にわかりやすく説明し、複雑な事象の振舞いについてその特徴を把握し定性的な分析を行うのが「システム思考」である。システム思考をビジネスと結び付けて手際よく紹介するのが「学習する組織-システム思考で未来を創造する」(「The Fifth Discipline」。初版は「最強組織の法則」)(著者:ピーター・センゲ)である。
「システム思考」は、その誕生時からコンピュータを用いたシミュレーションを特徴としていたが、現在のデジタルの急速な進歩は、「システム思考」に大きな前進をもたらすことが期待できる。
MITの「システムダイナミクス」の研究グループや連携する研究者には、ピーター・センゲさんの外、ジョン・スターマンさん、デニズ・メドウズさん、ドネラ・メドウズさん、ヨルゲン・ランダースさんらがいる。彼らの業績や日本での紹介等をふまえ、「システム思考」を3つに分けることができるだろう。

システム思考の分類

1 システムダイナミクスに基づいた「成長の限界」の考察

上記のグループには、システムダイナミクスを踏まえ地球の持続可能性を真正面から検討したローマクラブの「成長の限界」(1772)、これに続く「限界を超えて」(1992)、「成長の限界・人類の選択」(2005)、さらにヨルゲン・ランダースさんの「2052」(2012)がある。
既に亡くなられたドネラ・メドウズさん、デニズさん、後記の枝廣さんも含めた共著の「地球のなおし方 限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵」(2005)もある。
世界の社会や経済や地球の自然や生態系の今後を検討するうえで、必読の文献だ。

2 システム思考を社会、経営に適用する…Vensimを利用する

システム思考は広く複雑なシステムの問題に適用できるが、その基本として「世界はシステムで動く- いま起きていることの本質をつかむ考え方」(著者:ドネラ・H・メドウズ)や、「システム思考―複雑な問題の解決技法」(ジョン・D・スターマン)、更には、「学習する組織 システム思考で未来を創造する」(著者:ピーター・センゲ)は、重要だ。社会の変革を対象とした「社会変革のためのシステム思考実践ガイド-共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する」(著者:デイヴィッド・ピーター・ストロー)もある。
なお上記したように「システム思考」には、「因果ループ図」を用いるが、その作画ができるソフト(Vensim)が無料で提供されている。
この利用法については、後記の日本未来研究センターのWebでの紹介のほか、「Vensim Fast Guide: Martín García, Juan.」がある。

3 システム思考の日本での展開

日本では、前項の本を翻訳している 小田理一郎さん、枝廣淳子(チェンジ・エージェント社を作り、わかりやすい記事を提供している。)が書いた「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」や「もっと使いこなす!「システム思考」教本」がある。たしかにわかりやすいが、前項で紹介した本も十分にわかりやすい。

その他にも日本で書かれた本はいろいろあるが、ここまでの紹介で十分だろう。

なお、システム思考を紹介する活動として、日本未来研究センターシステムダイナミックス日本支部システム思考・デザイン思考で夢をかなえる/(株)Salt、、應義塾大学大学院ステムデザイン・マネジメント研究科、、慶応丸の内シティキャンパス(慶応では思考デザイン×システム思考が追求されている。このシステム思考は、広義のシステム思考だという説明をどこかで見た。)等があり、参考になる。日本未来研究センターは、上記の「Vensim」のマニュアルの翻訳、紹介をしている他、代表者が英文で長大な「貨幣とマクロ経済ダイナミックス−会計システムダイナミックスによる分析」を表しているが、読みきれない。

とにかくシステム思考が、現在と将来の世界を考えるために重要な方法(技法)であることは間違いない。ビジネス書にあれこれ目を通す暇があったらこれに習熟したほうが良さそうだ。ただ日本での普及は今ひとつのようだ、欧米でもあまり歓迎はされていないか?

「シスム思考」本の紹介-まとめ

  1. 「世界はシステムで動く- いま起きていることの本質をつかむ考え方」(著者:ドネラ・メドウズ)
  2. 「システム思考―複雑な問題の解決技法」(著者:ジョン・D・スターマン)
  3. 「学習する組織 システム思考で未来を創造する」(著者:ピーター・センゲ)
  4. 「2052」(著者:ヨルゲン・ランダース)
  5. 「地球のなおし方 限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵」(著者:ドネラ・メドウズ)
  6. 「なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方」(著者:枝廣 淳子, 小田 理一郎)
  7. 「もっと使いこなす!「システム思考」教本」(著者:枝廣 淳子, 小田 理一郎)
  8. 「社会変革のためのシステム思考実践ガイド-共に解決策を見出し、コレクティブ・インパクトを創造する」(著者:デイヴィッド・ピーター・ストロー)

因果関係による問題の類型化(フレームワーク)

カネヴィンフレームワークの導入

ところで、問題を解決しようとする(現状を目変革する)場合に、実行する手段によって目標が達成されるか否かという、その「プロセス」=因果関係がポイントとなることは明らかである。ただ「問題解決の方法」で検討する、ごく単純と思われる「問題構造図式」でも、原因となる「入力」や「制約条件」「外乱(不可抗力)」が影響する「プロセス」を経て、結果となる「出力」が生じる」とするので、これだけでもその因果関係は単純ではない。
そこであらかじめ頭を整理するために、問題を因果関係の明確さによって類型化する「カネヴィンフレームワーク(cynefin framework)」を導入しよう(ここではCFと略称する。)。ただし最初からこれに付き合うのはくたびれるという人は、ひとまずこの項は飛ばそう。

「秩序系」、「非秩序系」、「無秩序」

CFでは、問題領域を大きく3つに分ける。「秩序系」、「非秩序系」、「無秩序」である。 そして因果関係の明確さによって、「秩序系」を、自明か、煩雑かで、「Obvious=自明(単純)系」と「Complicated=煩雑系」に、「非秩序系」を、複雑でわからないか、解明が不可能かで、「Complex=複合(複雑)系」と「Chaotic=混沌系」に分類する。
そして有効な問題解決の方法として、「秩序系」のうち、自明(単純)系では、「実行、ベストプラクティス、標準ルール、マニュアル化」、煩雑系では、「専門家に相談する、調べる、分析する、プロジェクトマネジメンント、PDCA」を挙げる。
「非秩序系」のうち、複合(複雑)系では、「試す、直感、セーフフェイルな探索をする」(人工知能や量子コンピュータを挙げる向きもある)、混沌系では、「決める、損害を抑制する、秩序を取り戻す、複合系に移動し思考や探索に時間を使えるようにする、長居しない」(緊急対応、レッド型組織、強いリーダーシップを挙げる向きもある)を挙げる(「不確実な世界を確実に生きる:コグニティブ・エッジ」)。
私が複雑な問題群として捉えている多くの問題は、煩雑系、複合(複雑)系、場合によっては、混沌系であろう。CFの枠組みで、複雑系科学、システム思考等を展開すれば、かなり問題の実態に迫れるであろう。AI(機械学習)で。自動的に可能となるという人もいるが、それはどうだろうか。
なお「カネヴィンフレームワーク」は、デイヴ・スノーデンさんが提唱し、日本では田村洋一さんが紹介している。YouTubeで、簡単な説明が見られる(本人の説明田村さんのインタビュー)。「ソーシャル・インパクト・アクト」というWebにも紹介がある(外部サイトの記事にリンク)。

制度論

「制度論」は、システムの要素を、形式的に4要素5領域(人・企業・政府・環境+世界)ととらえるのではなく、より機能的に捉える(したがってこれを改変する)ヒントとなる。青木昌彦さんは、「青木昌彦の経済学入門-制度論の地平を拡げる」の中で、経済交換、政治交換、社会交換、組織内交換を挙げ、同書で青木さんと対談している山形浩生さんは、レッシグが4つの要素として、「法(Law)」、「規範(Norm)」、「市場(Market)」、「アーキテクチャ(Architecture)」を挙げていることを紹介している・
「制度論」ではないが、哲学者の河野哲也さんは、ギブソンを参考にしながら「人間的環境を五つの構成要素に分類することができるであろう。すなわち、改変環境、構築物、道具、他者、社会制度である」とする(「意識は実在しない 心・知覚・自由」 )。

制度論の本の紹介

制度論については次のような本があるが、なかなか読み切れない。1~3あたりが必読書だろう。

  1. 「現代経済学-ゲーム理論・行動経済学・制度論」(著者:瀧澤 弘和 )
  2. 「制度とは何か-社会科学のための制度論」(著者:フランチェスコ・グァラ)
  3. 「ダグラス・ノース 制度原論」(著者: ダグラス・C・ノース)
  4. 「制度・制度変化・経済成果」(著者:ダグラス・ノース )
  5. 「経済史の構造と変化」(著者:ダグラス・ノース)
  6. 「経済史」(著者:小野塚 知二)
  7. 「青木昌彦の経済学入門-制度論の地平を拡げる」(著者:青木昌彦)
  8. 「比較制度分析序説-経済システムの進化と多元性」(著者:青木昌彦)
  9. 「社会制作の方法-社会は社会を創る、でもいかにして?」(著者:北田暁大)
  10. 「比較制度分析・入門」(著者:中林 真幸)

ビッグヒストリー

ビッグヒストリーとは

ビッグヒストリーとは、最新の宇宙論、生物学、化学などの自然科学と歴史学、地理学、社会学などの人文社会学科学の成果に基づいて138億年前のビッグバンから未来にわたる長大な時間の中に「人間」の歴史を位置づけ、それを複雑さが増大する大きな8つのいう転換点を軸に読み解いていく試みである。次に紹介する本の他、The Great Coursesにおいて、この分野を牽引するデヴィッド・クリスチャンが講義している。

ビッグヒストリーの本の紹介
  1. 「ありえない138億年史~宇宙誕生と私たちを結ぶビッグヒストリー~」(著者:ウォルター・アルバレス)
  2. A Most Improbable Journey: A Big History of Our Planet and Ourselves  by Walter Alvarez
  3. 「ビッグヒストリー われわれはどこから来て、どこへ行くのか―宇宙開闢から138億年の「人間」史」 (著者:デヴィッド・クリスチャン)
  4. 「ビッグヒストリー入門」(著者:デヴィッド・クリスチャン)
  5. This Fleeting World: A Short History of Humanity (This World of Ours)  by David Christian
  6. 「オリジン・ストーリー 138億年全史」(著者:デヴィッド・クリスチャン)
  7. Origin Story: A Big History of Everything (English Edition) by David Christian
  8. 「ビッグ・ヒストリー入門 地球宇宙平和研究所所報第8号 (地球宇宙平和研究所所報)」(著者:吉野良子・遠藤美純)
  9. 「ビッグ・ヒストリーと21世紀の国際秩序」(著者:中西治・桜井薫・辻村伸雄・片山博文)
  10. 「ビッグ・ヒストリーの実用 (自然・戦争・平和)」(著者:中西 治)