DSが変えるビジネスと社会
DSとは、デジタルで変えること、変わること
コンピュータ科学と技術の発展がもたらしたITやAIによって、ビジネスや社会がどう変わるのか、あるいはどう変えるべきなのか(DS)が、ここでの問題である。当面の課題は、社会の構成員である企業の問題だが、中央・地方政府もこれに追随するだろうし、これらを現実に構成するのは個人である。
DSの現在
DSやAIに熱くなる前に頭を冷やそう
Ⅰ 持続可能性という枠組みが前提である
この項目(メニュー)で取り上げるDSは、「デジタルによる企業の生き残りをかけた変革」という意味あいだが(政府も追随するし、個人にとっても大きな影響がある。)、企業がDSの成否に対する期待によって、将来に悲観的になったり楽観的になったりする前に、考えるべきことがある。それは、企業活動は、地球の存続を前提とする、したがって持続可能性という枠組の中で、世界経済や日本経済の成り行きに大きな制約を受けるということである。
DSやAIから見れば、10年先、いや5年先でさえ、その変化は分からないという。それはそのとおりであるが、DSやAIが存在すべき30年先の世界の、人口、GDP、消費と投資、生産性、生物多様性、Co2、気候変動等の状況は、おおよそ予測できる(「2052」(著者:ヨルゲン ランダース)等々。「地球の環境問題」参照)。そのような地球や世界の状況の中にDSやAIは存在するのであるから、その機能や役割を、持続可能性という枠組み、制約の中で考えるべきことは当然である。
例えば、今、自動車が、電気自動車、モジュール型の生産構造、自動運転、シェア等々で焦点となっているが、今後、自動車という手段は、社会でどういう役割を果たし、どういう範囲で、存続することができるのだろうか。みんながみんな、シェアして自動運転で利用するのだろうか。
あるいは、住宅に設置されたIoTによって、照明、空調、食料等を自動で調整できる便利な機能が備わるということを売りにする人もいるが、そんな「利便性」が必要なのだろうか。持続するのだろうか。今年(2019年9月)の台風14号によって千葉県では長期の停電が続いたが、これから本番となる、温暖化、気候変動の中では、そんな「利便性」のための設備は吹っ飛ぶし(今一番困るのは、ネットワークの崩壊だが、誰もあまり想定していない。)、まず人が生存できる地球環境が存続することに注力し、今とそう変わらないレベルでの生活水準、「利便性」を確保するための、DSやAIが考えられるべきだろう。
ただこれとは別にDSやAIによってデジタルの「快適性」を得ることー特にネット上にあふれている権利侵害セキュリティ侵害や、ユーザーに混乱をもたらす煩雑で複雑なデジタルの使用環境が、改革、改善されることや、人がより本質的な論理推論が使いこなせることーは期待できる。ただし、強いAI、汎用AIが実現することは考えない方がいい。実現できない理由、人の認知構造や機能の不可解さを噛みしめたほうがいい。
今後、志のある企業はSDGsに取り組むだろうし(ただし収益が上がる時期は遅くなる。)、そうでない企業は地球の存続に悪影響を与えない範囲を設定し、その中で企業活動をするための「デジタルによる企業の生き残りをかけた変革」に取り組むべきだろう。
持続可能性という枠組みの設定に異論のある人もあるだろうが、それは科学的な認識の問題である。
Ⅱ DSの成功率、満足度は高くない
DSについて「システムの種類別に見た成功率」について次のような聞き取り調査がある(後掲「デジタルトランスフォーメーション DXへの技術」113頁)。サンプル数が、n=1201なので、ある程度、今のDSの成功率、満足度が把握できる(左側は、n順、右側は成功率(%順)である)。SCM(Supply Chain Management、サプライチェーン・マネジメント)」、CRM(Customer Relationship Management、顧客関係管理)、SFA((Sales Force Automation、営業支援システム)や、私たちが通常DSと考える、AIを利用したシステム、データ分析、IoTを利用したシステム等が満足度の下位を占めるのは示唆的である。因みに上位に並ぶのはこれまでもなじみ深い、「基幹系情報システム」(Enterprise Resources Planning)関連であろう。
|
n順 |
|
|
|
%順 |
|
|
n |
% |
|
|
n |
% |
ITインフラ |
284 |
58.8 |
|
ITインフラ |
284 |
58.8 |
販売管理
|
235
|
49.4
|
|
コミュニケーション・情報共有 |
232
|
56.0
|
コミュニケーション・情報共有 |
232
|
56.0
|
|
会計
|
149
|
54.4
|
SCM・生産管理・物流管理 |
192
|
44.3
|
|
企業間のECや購買・調達 |
75
|
52.0
|
会計
|
149
|
54.4
|
|
消費者を対象としたEC |
31
|
51.6
|
データ分析 |
135 |
45.9 |
|
人事・給与 |
102 |
51.0 |
CRM・SFA |
126 |
43.7 |
|
販売管理 |
235 |
49.4 |
人事・給与 |
102 |
51.0 |
|
AIを利用したシステム |
25 |
48.0 |
企業間のECや購買・調達 |
75
|
52.0
|
|
データ分析
|
135
|
45.9
|
IoTを利用したシステム |
42 |
45.2 |
|
IoTを利用したシステム |
42 |
45.2 |
消費者を対象としたEC
|
31
|
51.6
|
|
SCM・生産管理・物流管理 |
192
|
44.3
|
AIを利用したシステム |
25 |
48.0 |
|
CRM・SFA |
126 |
43.7 |
Ⅲ DSを構想・コード化してシステムに載せるのはヒトである
ここは追って記述する。
DSの現状を把握するための本9選+α
ネットに氾濫するDSについての情報は玉石混交であるし、利益誘導しようとしている情報が多いことも誰にでもわかる。それをみてDSなりAIなりを理解しようとすることはお勧めできない。ある程度の水準で、ある程度の全体像を把握しようとする意思のもとに記述(編集)された本に目を通してみるのが早い。本屋さんに行って自分の気に入った本を選ぶのがよいのだろうが、私はKindle本で買う癖があるので、次のような本を次々と入手した。
- 「集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク」(著者:根来 龍之)(Amazonにリンク)
- 「一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略-テクノロジーを武器にするために必要な変革」(著者:ジョージ・ウェスターマン他)(Amazonにリンク)
- 「デジタルトランスフォーメーション」(著者:ベイカレント・コンサルティング)(Amazonにリンク)
- 「3ステップで実現する デジタルトランスフォーメーションの実際」(著者:ベイカレント・コンサルティング)(Amazonにリンク)
- 「データレバレッジ経営 デジタルトランスフォーメーションの現実解」(著者:ベイカレント・コンサルティング)(Amazonにリンク)
- 「デジタルトランスフォーメーション DXの衝撃」(日経BPムック)(Amazonにリンク)
- 「デジタルトランスフォーメーション DXの技術」(日経BPムック)(Amazonにリンク)
- 「BCGデジタル経営改革」(著者:ボストンコンサルティンググループ)(Amazonにリンク)
- 「Why Digital Matters?-“なぜ”デジタルなのか」(著者:プレジデント社企画編集部、協力SAP)
- 「IT負債 基幹系システム「2025年の崖」を飛び越えろ」(著者:室脇慶彦)
<DXレポート~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~>(経産省の外部サイトにリンク)
かんたんな紹介
ⅰ「集中講義デジタル戦略」について私は現時点でDSについて整理して考えるために最も重要な本であると考えているが、ここに掲げると同時に、次項の「ビジネスと社会の未来」で検討したい。もっとも要領よくまとまっているのがⅱであろうか。ただしこの本はプラットフォーム系企業を除外し、対象を大企業にかぎっているため、少し物足りないかも知れない。
コンサル系の本(ⅲⅳⅴⅷ。他にも、「デジタルの未来 事業の存続をかけた変革戦略」(著者:ユルゲン・メフェルト他)(Amazonにリンク)、「デジタルトランスフォーメーション経営 生産性世界一と働き方改革の同時達成に向けて」(著者:レイヤーズコンサルティング編)(Amazonにリンク)等々、たくさんある。)は、一見、「遅れた」企業を先導しようと、情熱的を持ち客観的に整理して記述しているように見えるし有益な情報も多いが、その立ち位置は微妙である(目的は戦略コンサルの受任であろうし、いつからDS派になったのですかといいたくなる。)。これらの本から「教訓」を導き出すのは、各企業がDSや自社の現状をある程度把握する「実力」を付けたうえで、既存のルートでは処理できない問題にぶつかったときであろうか。
日経BP社のコンピュータ雑誌からDSに関連する記事を集めたのがⅵ「衝撃」、ⅶ「技術」の2冊だ。これに経産省が設けた「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」の中間報告であるⅹ(「DXレポート」)に目を通すと、「官民」のあるレベルのDSへの認識が浮かび上がってくる。
「衝撃」は、「DXに進路を取れ」、「デジタルで突き抜けろ、20社の挑戦」、「AI・IoT活用戦」、「国境なきデジタル戦、激変する海外IT事情」という構成で、いろいろやってるねというイメージだ。
「技術」は、「次世代リーダーの覚悟と役割」、「基幹系全面刷新 あるプロジェクトの軌跡」、「Digital Readyへの道 基幹システム刷新」、「デジタル時代のプロジェクト管理新常識」、「IT+デジタル システム部門の変革ノウハウ」という構成で、「衝撃」よりもう少し、地に足がついている感じだ。
ただ両書とも、外国のDS本や内外の経営学者の分析と比べると、経産省の「DXレポート」の影が大きく落ちていてあまり元気がない印象だ。要は、「2025年の崖」、既存の技術的負債を抱えた企業の古い基幹システムが明日を引っ張り、DSが推進されないのみならず、2025年以降、毎年最大12兆円の経済的損失が生じる可能性があるというのである。おそらく「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」は、ⅸ(「IT負債」)の著者である室脇慶彦さん(野村総研理事)の影響が大きかったのだろう。
ただ、毎年最大12兆円の経済的損失が、日本の政府が毎年積み上げる「負債」に比べてどれだけ大きいのか、このような提言は、日本のITベンダーを大事にしましょうという「立場」からの応援歌にも思える。
まずここから取り組もう
私の現時点でのお薦めは、ドイツSAP社の日本法人が協力して作成したというⅸ「「Why Digital Matters?」と、宮脇さんのⅹ「IT負債」を対比して読むことである。
ⅸは、SAPが自社の失敗を踏まえ大きく成長した経験に基づいていること、デザイン思考講座開設の出資者であったこと等から、内容は非常に柔軟で説得力がある。「ソフトウエアは自社開発したら負け」が前面に出ている。
一方、室脇さんのⅹ「IT負債」は「マイクロサービス」が、システム開発の救世主となる」というスタンスだ。宮脇さんはもともと「失敗しないITマネージャーが語るプロフェッショナルPMの神髄」で「要件定義」に基づくPM「進め方を力説していたようだから、「改説」したわけだ(関係あるかどうかは分からないが、ⅶ「技術」にJALが非常に苦労して基幹システムを入れかえた経験談が掲載されているが、このようなシステムにはSAPは使えないのだろうし、野村総研はIBMにコンサルを変えられている。)。
SAP路線と室脇路線、あるいは第三の路線の関係、あるいはいずれが有効かはまだこれからの問題であろう。ただ、上記した「システムの種類別に見た成功率」は頭に叩き込む必要がある。
DSが切り拓くビジネスと社会の未来
ここの記述は、これからだ。