デジタルの活用と陥穽_PC・IT・DX・生成AI
課題と構成
課題
この項目で目指すのは、デジタル技術(PC、IT(ネット)、DX(Digital Transformation。DS(Digital Shift)とも表現する、及び最近の焦点である生成AI)の活用とその陥穽を検討することである。
PCは多くの人が使用しているし(最近はスマホにチェンジしたとも言われるが)、ITは、それが社会において過不足なく使いこなされているか否かはともかく、言葉としては既に十分に定着している。AIは、数十年も見えつ隠れつしつつあったが、深層学習を経て生成AIで大ブレイクした
DX(Digital Transformation)は、数年前に喧伝されたが、コンピュータ科学・技術(IT,AI,IoT等)を利用して、個人や組織の行動・思考や振舞いを変え、問題解決と生産性・創造性の向上に結びつける試みと考えることができる(人工物や自然を対象とする場合もある。)。いわゆるバズワードで定まった定義はなく、これからも使われるかどうかは分からないが、ただ「デジタル」という視点からの問題の整理は分かりやすく、この項目ではこれからもDXあるいはDS(Digital Shift)として利用したい。私は、DSという用語の方が問題の焦点を捉えていてわかりやすいと思うので、DSを優先して使うことにする。
上記のように整理すると、デジタルの活用は順風満帆のように思える。もちろん現状はそのような状況ではない。デジタルを巡って生じている諸問題は多様かつ深刻であり、容易には解決できない。人類が地球環境と資本主義の問題を解決できず、人類が終焉するとすれば、この問題も最後までついて廻るかもしれない。このような事態を、デジタルの陥穽と称することにする。
本項目の構成についての説明と下位頁一覧
構成についての説明
「デジタルの活用と陥穽_PC・IT・DX・生成AI」という項目の中で、今大ブレイクしつつある生成AIが一番注目されるのは当然であろう。ただこの問題は、今現在激動しており、今後も大きく変容することが予想されるので、当面、下位頁の「生成AIはPythonと共に_その活用と陥穽」に論点を集約しよう。
ここでは、DSというフィールドで問題を整理することにし、まずITについて、個人、企業を問わず、DSの主たる舞台となる一方、現実社会へも功罪半ばする大きな影響与えているので「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」として検討する。
次いで現在最も人々の関心を集めているAIについて「AIとは何か」、DXについて企業の変革という観点から「DSが変えるビジネスと社会」、更にこれらを「評論」レベルでなくできるだけ具体的に理解するための理論と技術を「DSを支える理論と技術」という観点から捉え、整理しよう。最後にDSが何を変えるかについて、知的生産や労働生産性も含め「デジタルと生産性」を検討しよう。
なお付言すると、コロナ禍によってIT技術(ネット会議)等が身近になったのは一応慶賀すべきことだが、これを契機としたセキュリティ侵害や詐欺という問題が多発しており、ますます人の知恵が問われている。民事裁判の全面IT化、マイナ保険証でも同様のことが起こるのは火を見るより明らかだ。
下位頁一覧
- 「生成AIはPythonと共に_その活用と陥穽」
- 「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」
- 「AIとは何か」
- 「DSが変えるビジネスと社会」
- 「DSを支える理論と技術」
- 「デジタルと生産性」
DSの現状と理解のポイント
DSの現状
「デジタル」というのは以前から使用されていた用語であるが、なぜ今「デジタル」が前面に出ているのか。その理由として、ひとつは、コンピュータに関連する技術が進化し、デジタル情報の処理速度、容量が十二分に実用に耐える域に達したこと、これに対応して個人の大部分が所有・使用する「スマホ」の能力が大幅に向上したこと、ディープラーニングを利用した技術(画像認識、音声認識、将棋、碁等のゲームAI等)が画期的な進歩を遂げたことが挙げられよう。
ドイツのSAPは、デジタルの5大特長として「差分コストゼロ」、「無制限」、「時差ゼロ(リアルタイム)」、「記録・分析・予測」、「明細×組み合わせによるパーソナライズ」を挙げ、ポイントは「ヒトではなく、電子を走らせろ。電子は疲れない」にあるとする(「Why Digital Matters?-“なぜ”デジタルなのか」)。わかりやすい指摘である。
DSは、「デジタル化の中での企業の生き残りをかけた変革」という観点から取り上げられることが多いが、その基本は、個人を主体として一人一人の人間の行動と思考を変革し、仕事や生活の問題解決と生産性・創造性の向上に結びつけるということである。デジタルは、個人にとって嵐のごとき災厄でしかない、アナログの手法の方がはるかに優れているというのも、ある分野では間違いない。これを見極めないと、DSは、単なる「使えない高級おもちゃ」に止まる。
その上で、DSの主体を企業として対象をビジネスとする場合は、複雑、困難な問題が生じる一方、大きな力にもなる。企業のDSは、DSの導入部署、開発部署だけではなく、取り入れようとする企業の一人一人が、程度の差はあれ、DSに取り組まないと、奏功しないのは、当然すぎるほど当然である。その意味でDSは、個人、開発者、企業の総合的なプロジェクトである。私は、わが国、世界におけるその行方を見極めていこう。なお、デジタル情報が災厄をもたらしつつあることは事実であるが(「デジタル情報と法とルールの破綻」)、他の頁では、直接関連しない場合は、一々言及しない。
DSを理解するポイント
現在、企業のDSを推進・実現するための実に様々な提言、試みがなされている。これを見ていると、カオスに放り込まれ右往左往している「オシツオサレツ動物」(「哲学入門:戸田山和久」の用語)の動きを見ているような面持ちとなる。
これからの考察にあたり、無駄にカオスに飲み込まれないために、私は次の3点がDSのポイントであると考えているので指摘しておこう。現時点での私見である。
システム1の一部及びその拡張版であること
1点目は、上述したようにDSの基本は個人の行動と思考の変革にあり、人間の行動と思考がシステム1(速い思考)とシステム2(遅い思考)に大別されるとすれば、DXは、様々な問題を解決するために、システムの2の一部及び人にはそもそも不可能な論理的推論のうち数学で表現できる部分(要するに、人間では処理でない高速、大量の処理ができる部分)を利用しようとするものに過ぎず、しかもこれは今現在進行中であり全く完成されたものではないから、その限界を理解する必要があるだろうということである。逆にいえば、システム1、及びシステム2の行動及び自然言語による推論の大部分は、手付かずであり、依然として「教養」が活きる部分である。そのことが「AI讃美論者」にはわかっていない。また生成AIも人の思考・アイデアの補助ツールでしかない。
一人一人が担わないと駄目なこと
2点目は、DSを推進するためには、一人一人が、自分の置かれているデジタル環境を把握し、これを改善して生活や仕事において使いこなす姿勢が必要だろうということである。家電のように黙ってスイッチを押せばいいというものではない。
失敗を振り返ろう
3点目は、これまでのシステム開発(IT)において多発した紛争の原因を解明し、これを克服する思想と技術が必要だということである。要件定義の重要性とアジャイル開発の関係をどう考えるべきか、うまく整理できるだろうか。
附記
更に、上記したように「DSの主体を企業として対象をビジネスとする場合は、複雑、困難な問題が生じる」のであるが、これについては、「集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク:根来 龍之)の整理が秀逸である。
デジタル集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク:根来 龍之
- Part1 産業のデジタル化 バリューチェーン構造からレイヤー構造へ
- 1-1 産業構造へのインパクト
- 01 「100年に1度の大変革」は他人事ではない
- 02 デジタル化の3要因
- 03 レイヤー構造の出現
- 1-2 既存企業vs新規参入者
- 04 戦略の立て方が変わる
- 05 既存企業にとっての意思決定のポイント
- 1-3 プラットフォームとバリューチェーンの複合化
- 06 プラットフォームの強さと弱さ
- 07 アマゾンとトヨタの共通点
- 1-1 産業構造へのインパクト
- Part2 ディスラプションの脅威 デジタル化への対応
- 2-1 破壊的イノベーションの進行
- 08 「しょぼい技術」をなめてはいけない
- 09 既存産業の破壊パターン
- 10 破壊的イノベーション「3つの原則」
- 11 既存企業は合理的だから失敗する
- 2-2 代替のパターン
- 12 現実はクリステンセン理論より複雑
- 13 完全に飲み込まれるかどうかの分かれ目
- 14 「製品の代替」より恐い「プロセスの代替」
- 15 リアル店舗の合理的な戦略
- 16 「代替の危機」の4分類
- 2-3 対応戦略
- 17 4つの対応戦略
- 18 4つの戦略の適合性
- 2-4 カニバリゼーションの克服
- 19 代替のスピードをコントロールできるか?
- 20 ネットはアナログの制約をはずす
- 2-5 競争と連携
- 21 「過剰満足」を突いてくるディスラプター
- 22 あの会社が「今のまま」とは限らない
- 2-6 生存可能領域
- 23 生存可能領域のズレ
- 24 既存企業の宿命
- 25 組織の重さ問題
- 2-1 破壊的イノベーションの進行
- Part3 バリューイノベーション 顧客価値の見直し
- 3-1 新しい価値提案
- 26 3つのバリューチェンジ
- 27 価値の空白
- 28 タイミングの重要性
- 29 デジタル化は2周目、3周目がある
- 3-2 ジョブの解決
- 30 顧客にとってのバリューは何か?
- 31 顧客の選び方を間違えていないか?
- 3-3 ブルーオーシャンと価値曲線
- 32 市場の境界線を引き直す
- 33 競争の軸を選ぶ
- 34 ライバルより劣っているところがあっていい
- 3-4 バリューインパクト
- 35 バリューの評価尺度
- 36 人の満足度の決まり方
- 3-5 サブスクリプション
- 37 定額料金制で需要を喚起する
- 38 利益を最大化することができるか?
- 39 デジタル化で登場した進化系
- 40 サブスクに向かない事業もある
- 41 サブスク化による価値曲線の変化
- 3-1 新しい価値提案
- Part4 プラットフォームの構築 新しい基本戦略
- 4-1 1人勝ちのメカニズム
- 42 独自の経済圏を構築
- 43 プラットフォームの本質
- 44 プラットフォームが1人勝ちする理由
- 4-2 ネットワーク効果
- 45 2つのネットワーク効果
- 46 小規模な集団にも働く
- 47 ネットワーク効果の設計ポイント
- 48 ネットワーク効果を使ってどうやって儲けるか?
- 4-3 エコシステムの駆動
- 49 プラットフォームへの移行
- 50 どちらの戦略を選ぶべきか?
- 51 「ぐるぐる回り」を作る
- 52 「遅れている業界」にもチャンスあり
- 4-4 オープン&クローズ
- 53 どこまで他社にオープンにするか?
- 54 どうやって品質をコントロールするか?
- 4-5 先行者への対抗
- 55 後発企業の勝ちパターン
- 56 クロスプラットフォーム
- 57 ニッチ市場で勝負する
- 58 「土俵替え」による形勢逆転
- 4-6 覇権争い
- 59 スマホ決済の普及可能性
- 60 スマホ決済の戦略的ポイント
- 61 LINE、メルカリの狙い
- 4-1 1人勝ちのメカニズム
- Part5 エクスポネンシャル企業の正体 爆発的な成長と限界
- 5-1 強烈な成長志向
- 62 規模拡大を最優先
- 63 MTPを掲げる
- 64 キャッシュフロー思考で資金を回す
- 5-2 事業の複数化と資源蓄積
- 65 シナジーのある事業を展開
- 66 指数関数的に成長する事業戦略
- 67 メルカリはエクスポネンシャル企業でいられるか?
- 5-1 強烈な成長志向
- さらに学ぶ人のために
- 参考文献
- あとがき