世界の複雑な問題群-複雑系と持続可能性-

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世界の複雑な問題群-複雑系と持続可能性-の紹介

問題解決と創造を学び実行する」において,4要素(ヒト,企業,政府,環境)5領域(4要素の領域+社会・世界)における問題を検討するための基礎的な作業を志した。

ここでは,そこで浮かび上がった現代世界・社会における解決困難と思われる問題群を,「複雑系と持続可能性」という観点から捉えることとする。

社会・世界の複雑な問題群

現代世界で解決困難と思われる複雑な問題群は,おおよそ,「地球の環境問題」,「地球温暖化とエネルギー問題」,「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」「資本主義と企業の行方」,「地域の行方と災害」とまとめることができよう。

このような問題が生じる基本的な構造は,地球環境というシステム(自然+人工物+情報)において展開されてきた産業革命以降の資本主義システムによって,地球は「満杯」となり,それに伴って多くの資源,環境問題(「地球の環境問題」や「地球温暖化とエネルギー問題」)が生じ,ヒトの持続可能性が危機に瀕している。したがって,これまでどおりの資本主義システムは継続しがたい(「資本主義と企業の行方」)。そのコロラリーとして「地域の行方」(含む災害)が問われている。ここまではヒト・組織の活動という複雑系がもたらす問題だが,今,IT・AI・DXの劇的な進歩・発展によってヒトの行動・思考と対応しないデジタル情報が氾濫・暴走し,その結果として法とルールの破綻も目前に迫り(「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」),これまでの社会のあり方が崩壊する危険性さえ生じている。そして後者は,前者の複雑性を加速している。要は,ヒト・組織の行動にデジタル情報が加わり,複雑系と持続可能性をめぐる世界の複雑な問題群が生じていると捉えることが出来る。

持続可能性が危機に瀕しているとか,破綻も目前に迫っているとか,社会のあり方が崩壊する危険性さえ生じていると記述すると「終末論者」のようだがそうではない。問題が生じている構造と動態をしっかり捉えて,問題群の解決に乗りだそうというのがこのコンテンツの趣旨である。ただ,地球環境問題-持続可能性への対応はある程度熟してきているが,資本主義と企業の行方や地域の行方は,どう考え,どこから手を付けていいのか極めて難しいというより,ことごとく失敗してきている。持続可能性と共に考え実行していくしかないだろう。

また今後ますます氾濫するデジタル情報をIT,AI等を有効に活用することができれば,全く新しいヒト・組織・社会・世界を「持続可能にする方法が生まれ,新たな価値を生み出すであろうことは間違いがなく,法とルールの破綻,社会の崩壊だけが道筋ではない。だから,IT・AI・DX等の動きも見逃せないが,デジタル情報の氾濫・暴走を,ヒトはどう統御できるのか,これも極めて重要な課題である。

個の問題

複雑系と持続可能性という場合,あまり個の問題を含めては検討されない。しかし,ヒトは複雑系であるし,社会・世界の持続可能性を達成するのは個とその集団であり,個の持続が終わったとき(個が死を迎えたとき)に,持続可能な社会・世界という目標が共有・承継されない限り,この問題はすべて終わってしまう。だから複雑系と持続可能性をめぐる社会・世界の世界の複雑な問題群の解決を目指すときは,個の問題を組み込んで考察するのが良い。

ここでの個の問題は,個の持続と自立と考えれば良い。個の持続は,「健康」であり,個の自立は,「目標の達成と依存(習慣)」からの脱却であるが,これらはいずれも,「問題解決と創造」で検討しているので,この項目では,「分業に依存しない生活は可能か」として,健康で目標の達成と依存(習慣)からの脱却によって持続・自立するが,ヒトの世界の「持続可能性」が途絶えたとき,つまりヒトの世界が無に帰したわけではないが世界のシステムのほとんどが破綻して,これまでどおりいかなくなったとき,要は,分業に依存できなくなった場合,「明日,ゼロから生活を始める」ことができるだろうかという問題を取り上げる。

持続可能性

持続可能性というとらえ方

持続可能性という地球・世界の捉え方もようやく定着してきたようである。
現在の地球・世界は,資源枯渇,環境汚染,生態系破壊,生物多様性の喪失,気候変動,格差拡大等の問題を抱えている。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」(1962年刊),ローマクラブの「成長の限界」(1972年刊)等がこれらの問題を指摘し,その後,「エコロジカルフットプリント」の提言,「成長の限界」執筆者グループ(デニス・L・メドウズ, ドネラ・H・メドウズ, ヨルゲン・ランダース)による,20年目,30年目,40年目の分析と報告,国際機関の様々な活動と報告等を経て,最初からすでに半世紀が経過したが,これらの問題を克服できて,これまでどおりの地球が持続可能なのか,見通しは必ずしも明るくない。

しかし2015年9月の国連サミットで「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2016年から2030年までの「持続可能な開発目標」(SDGs)が採択され,そのうちに持続可能性についての多くの目標が掲げられ,多くの国際機関,各国政府,企業がこれを推進しようとしており,一応,持続可能性に向けた態勢は整いつつあるといえるだろう。だが,持続可能性と開発が簡単に両立するとも思えず,問題も多い(Come On! 目を覚まそう!―ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 ~環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか? :エルンスト・フォン・ワイツゼッカー, アンダース・ワイクマン)。

それについて検討する前に,持続可能性をよりよく理解するために「地球のなおし方-限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵」(2005年刊)(デニス・L・メドウズ, ドネラ・H・メドウズ, 枝廣淳子)(Amazonにリンク)から,少し長いがそのさわりを引用しよう。

持続可能な社会・世界を理解する

「宇宙に地球という星が誕生したのは,約46億年前といわれます。やがて,水をたたえ,緑あふれる星となった地球に,多くの生命が誕生し,深海から火山の火口まで,あらゆる場所にいのち輝く星となったのです。これまでにいったいどれぐらいの数の生命がこの地球上に生まれたのか,想像もできません。そうして,数十万年前に,私たち人類が地上に登場したのでした。…この地球という星に約40億年前に生命が誕生して以来,人間を含め,あらゆる生命はこの地球上に生まれて生きてきたということ,そして,今後も,すべての生命はこの地球上に生まれて生きていく,ということです。…私たち人間も含め,地球上の生命は「ごく短期間,地球に間借りしている旅人」のようなものかもしれません。 みなさんが地球で,入れ代わり立ち代わりやってくる,間借りする旅人たちに寝る場所や食べ物を出してあげていると想像してみてください。植物,微生物,虫たち,鳥たち,動物たち……。多くの旅人たちは,地球にも他の人にも迷惑をかけることなく,静かに訪れては立ち去っていきました。むやみに大勢で押し寄せたり,ごっそり食糧を持ち去ったり,来年のために取ってある種まで食べてしまったり,地下に埋まっているものを掘り出したり,無害化する方法も知らない有害なものをつくり出したり,ということはありませんでした-人間がその活動を拡大しはじめるつい100年ほど前までは。…世界のあちこちから,環境が悪化しつつあるという報告が寄せられています。温暖化が進み,南極の氷がどんどん溶け,北極の氷も薄くなり,珊瑚礁が白化し,海水面がじりじりと上昇しています。酸性雨によって森林が傷つき,かつて耕地や草地だったところが砂漠化しています。健全な森は燃えないはずなのですが,世界の各地で山火事が頻発しています。 はたして,人間の活動は,地球のようすを変えるほど,増大しているのでしょうか?地球は人間の活動を支えきれなくなってきているのでしょうか? この視点からわかりやすく現状を伝えてくれるのが,「エコロジカル・フットプリント」という考え方です。「フットプリント」とは,「足跡」のこと。私たちの暮らしや経済は,地球のどのくらいの面積を踏みつけているのか? 人間活動はどのくらいの面積に支えられているのか? ということです。 まず「自然に対する人間の影響の総量」を計算します。これは,世界が必要とする食糧や魚,木材,都市部の土地などの資源を提供したり,人間活動から排出される二酸化炭素を吸収するために必要な土地の合計の面積です。これを実際に利用できる土地面積と比較すると,「人類が地球に対して要求しているもの」と「地球が提供できる能力」との関係がわかるのです。…世界のエコロジカル・フットプリントは,1980年代後半から,地球が提供できる能力を超えてしまっていることがわかります。人間の現在の資源消費量は,地球が支えてくれる力(扶養力)を約20パーセントも上回っているのです。」(村本註:なお,WWFは,2017年で70%上回っているという数字を挙げている。)。

データとその科学的分析を知る

資源枯渇,環境汚染,生態系破壊,生物多様性の喪失,気候変動,格差拡大等について各別に議論する(局地戦をする)と,多くの異論が出てくる。私だって,地球温暖化だけをみると,過去の地球の激しい気候変動から見て現状は温室効果ガスが原因なのだろうかとか,生物多様性の喪失についていえば,過去5度の大量絶滅があったとか,いいたくなる。ただ同時並行的に起こっている多くの問題を,エコロジカル・フットプリントという観点から整理すると「人間の活動は,地球のようすを変えるほど,増大している」(オーバーシュート)ことは,確実だろう。
私はこの点については,このコンテンツでは,次に掲記する本を中心にして出来るだけ最新かつ客観的なデータ,及び科学的な分析を提供したいと思う。

データとその科学的分析を知る

  1. 〔データブック〕近未来予測2025 :ティム ジョーンズ,キャロライン デューイング(Amazonにリンク
  2. Come On! 目を覚まそう!―ローマクラブ『成長の限界』から半世紀 ~環境危機を迎えた「人新世」をどう生きるか? :エルンスト・フォン・ワイツゼッカー, アンダース・ワイクマン(Amazonにリンク
  3. 2052 今後40年のグローバル予測:ヨルゲン ランダース(Amazonにリンク
  4. エコロジカル・フットプリント 地球1コ分の暮らしへ:ニッキー チェンバース,クレイグ シモンズ, マティース ワケナゲル(Amazonにリンク

これとは別に最近「地球をめぐる不都合な物質」(ブルーバックス)を入手した。「成長の限界」にせよ「エコロジカル・フットプリント」にせよ,これまでのペースのままで人口と経済(生産,消費・廃棄)が拡大していけば,これまでどおりにはいきませんよという話なのだが,「地球をめぐる不都合な物質」には,現在の化学物質(POPs,マイクロプラスチック,重金属,PM2.5,水銀)の汚染とその毒性には深刻な影響(回復不能な打撃)があることが述べられている。努力しようだけでは済まない問題のようだ。

持続可能性に向き合うのはむつかしい

問題は,地球の現状についてデータを収集し,科学的分析を重ねて行動指針を作っても,なかなかそれが実際の持続可能性に向けた人と組織の行動に結びつかないということである。これについては,多くの人が問題の所在を知らないといういい方もできるし,知ってもそれが行動に結びつかない,あるいは何をすればいいかが分からないといういい方もできる。さらには,データと科学的分析を提供される側が,正しいことを押し付けられることを疎ましく思うという人間心理もあるかもしれない。

ただ視点を変えてみれば,私たちは,確実に自分自身の生存期間を延長することを知っている「ダイエット」を実行しようとしてもそれは往々にして頓挫し,世界の「肥満率」は高まる一方らしい。そして私たちは生存期間を延長できないまま確実に死亡し,私の「世界」はなくなる。そういう私たちが,一人一人の行動とは距離のある持続可能性に向けて任意に行動するのはむつかしい。可能にするの「データとその科学的分析」を踏まえた実効性のある「ルールづくりとその実行」という問題であろう。

ただそれにも障害がある。ひとつは持続可能性を支える大きな勢力にならなければならないアメリカで特異な行動が見られる現状(「気候カジノ 経済学から見た地球温暖化問題の最適解:ウィリアム・ノードハウス」,「ルポ 人は科学が苦手~アメリカ「科学不信」の現場から~:三井 誠」),及び日本のこれまでの知識人の動きも素直に現実に向き合っていなかったこと(「人類が永遠に続くのでないとしたら:加藤典洋)」は理解しておく必要があろう。

もっとも1972年にローマクラブの「成長の限界」を書き,その後も,20年目に「限界を超えて」,30年目に「成長の限界 人類の選択」を書いた,デニス・L・メドウズさん, ドネラ・H・メドウズさん,ヨルゲン・ランダースさんらは,複雑なシステムの分析を専門とするシステム思考家で,自分の行動がシステムの動きに大きな影響を与えることを充分に理解している人達であり,自分の行動を除外して他人に警鐘を鳴らす人たちではない。ドネラ・H・メドウズさんは,学者からジャーナリストに転身したが,おそらくこれを痛感したからであろう。
「成長の限界」から40年目の2012年にはヨルゲン・ランダースさんが「2052」を書き,2052年までの破滅は何とか免れるだろうが,その後の見通しは危ういとする。SDGsという動きは歓迎すべきだが,決め手になるわけではない。私は,2052年まで生き延びて,世界を見届けよう。

問題の焦点…宇宙船地球号

地球について,「宇宙船地球号」というとらえ方がある。「地球の持続可能性」はその乗客である個々人には,直接には御しがたい問題だが,その運航をしている個々人が所属する政府・国連,生産・消費,廃棄の大きなウエイトを占める企業が解決への大きな糸口を握っているのは間違いない。

ただ政府を指導する政治家は,目の前の利害誘導による「選挙当選」が最大の問題だから,政治家主導はむつかしい。アメリカの現状も上記のとおりだ。

経営コンサルタントが,企業の課題としてのSDGsやESGについて様々な提言をしているが,どうしても企業的価値と社会的価値の両立という提言になる。しかしその前提として,地球が持続不可能の領域に突入すればそのような問題は雲散霧消してしまう(核戦争でもなければ壊れてなくなるわけではないが)。地球号が沈めば,そのような問題も吹っ飛ぶことを前提にして,痛みを伴うかもしれない考察が必要だ

複雑系

複雑系については,私はもう随分前になるが,「歴史の方程式―科学は大事件を予知できるか:マーク・ブキャナン」(その後,「歴史は「べき乗則」で動く-種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学 (ハヤカワ文庫)」に改題)を読んで衝撃を受けた記憶がある。ただ複雑系科学は自然科学も含めて多方面に拡がり,纏め方が難しいし,要は問題を解決するためにどう使えるかであるから,当面「システム思考」で代表させ,おいおい必要に応じて纏めていきたい。ここでは私の手許にある次のような本を挙げておく。

  1. 増補 複雑系経済学入門 :塩沢由典(Amazonにリンク
  2. 複雑性の科学の原理:唐沢昌敬(Amazonにリンク
  3. インテグラル理論 多様で複雑な世界を読み解く新次元の成長モデル:ケン・ウィルバー(Amazonにリンク
  4. 複雑性とパラドックスーなぜ世界は予測できないのか? Complexification.:ジョン・L. キャスティ(Amazonにリンク
  5. ガイドツアー 複雑系の世界: サンタフェ研究所講義ノートから Complexity.:メラニー ミッチェル(Amazonにリンク
  6. システム思考―複雑な問題の解決技法:ジョン・D・スターマン(Amazonにリンク
  7. 複雑で単純な世界: 不確実なできごとを複雑系で予測する Simply complexity.:ニール・ジョンソン(Amazonにリンク
  8. 複雑ネットワーク: 基礎から応用まで:増田 直紀, 今野 紀雄(Amazonにリンク
  9. 複雑系科学の哲学概論:菅野 礼司(Amazonにリンク
  10. 複雑系の哲学:小林道憲(Amazonにリンク
  11. 複雑系としての経済―豊かなモノ離れ社会へ (NHKブックス) :西山 賢一(Amazonにリンク
  12. 心の発見―複雑系理論に基づく先端的意識理論と仏教教義の共通性:浅野孝雄(Amazonにリンク
  13. 「複雑系とは何か」よくわかる本:松本幸夫(Amazonにリンク
  14. マンガでわかる複雑ネットワーク 巨大ネットワークがもつ法則を科学する :右田 正夫, 今野 紀雄(Amazonにリンク
  15. 複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線:マーク・ブキャナン(Amazonにリンク
  16. Q&A:入門複雑系の科学―ゆらぎ・フラクタルで現象を測る:木下栄蔵(Amazonにリンク
  17. .歴史は「べき乗則」で動く―種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学:マーク・ブキャナン(Amazonにリンク

世界の複雑な問題群の構成

次の項目で構成したい。なお,地球の環境問題を考えるとき,裏側から「エネルギー問題」を考えることが必須である。これを曖昧にしたまま,「環境問題」を考えるのは,一方的と言われても仕方がない。「分業に依存しない生活は可能か」までの項目については,この記事で紹介した。

「2052年を生きる」は,私が2052年を生きるという宣言(大丈夫なあ)である。もちろん,乗り物が適切に運行され,私の「健康」と「目標達成と依存からの脱却」が実行できていない限り,そんなことはできない。だから,私の「健康」と「目標達成と依存からの脱却」をここで振り返ろう。
「システム思考・制度論・ビッグヒストリー」は,複雑系と持続可能性が織りなす問題群を俯瞰するのに一番便利であろう。

 

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