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書誌と一口コメント
書誌_プログラミング知識ゼロでもわかる プロンプトエンジニアリング入門 第2版:掌田津耶乃
版元ドットコム


プログラミング知識ゼロでもわかる プロンプトエンジニアリング入門 第2版 掌田津耶乃(著) – 秀和システム
プロンプトエンジニアリングの入門書です。プロンプトエンジニアリングの基本的な手法から、最後は生成AIを利用したアプリを作成する方法まで説明します。プログラマでなく…
一口コメント
要約と目次
プロンプトエンジニアリング入門:主要テーマと技術に関するブリーフィング
要旨
本書は、生成AIから意図した応答を引き出すための核心技術である「プロンプトエンジニアリング」について、AI関連論文に基づいた知識体系を提供します。要点は以下の通りです。
- 基本原則と構造: プロンプトエンジニアリングは単なる質問作成ではなく、AIの基本動作原理である「文章の続きを生成する」という特性を理解し、応答を制御する技術です。基本は「指示」と「対象」を明確にすることですが、出力形式の指定、役割(ロール)の付与、学習データ(例)の提供などを構造的に組み合わせることで応答の質を高めます。
- 推論能力の向上: AIの推論能力を高める鍵は「思考の連鎖(Chain-of-Thought, CoT)」とその派生技術です。複雑な問題を「ステップごとに考える」よう指示したり、推論過程の例を示したりすることで、問題を段階的に分解・解決させ、正答率を向上させます。
- 高度な推論フレームワーク: 複数の思考経路を並行して探求・評価する「思考の木(Tree of Thoughts, ToT)」や、生成した回答を自己検証・自己修正する「Chain-of-Verification (CoVe)」「Self-Refine」などの反復改善サイクルを導入する手法があります。これにより、より深く正確な推論が可能になります。
- 実践的応用:カスタムAIチャット: 最終的な応用は、特定業務や目的に特化した「カスタムAIチャット」の構築です。Perplexityの「Space」やChatGPTの「GPTs」などの機能を用い、システムプロンプト(カスタム指示)に専門知識や役割、行動制約を組み込むことで、プログラミング知識がなくても高機能なAIチャットを作成できます。
1. プロンプトエンジニアリングの基礎概念
1.1. 生成AIの基本原理と課題
生成AI(大規模言語モデル、LLM)の普及が進む一方、導入をためらう組織があるのは動作原理に起因します。
- 基本原理: 生成AIは、入力されたプロンプトの「続きとしてもっとも確率の高い文章を生成する」ことを基本動作とします。人間のように意味を理解しているわけではなく、膨大な学習データから文章パターンを学習してテキストを生成します。
- 内在する課題: この原理から以下の課題が生じます。
- 誤答・捏造(ハルシネーション): 学習データにない、あるいは正確さが重要な場面で、もっともらしいが誤った情報を生成することがあります。
- セキュリティ懸念: 入力情報が意図せず他のユーザーへの応答生成に利用されるリスクが完全に排除されているわけではありません。
1.2. プロンプトエンジニアリングの定義
プロンプトエンジニアリングは、これらの課題に対処し、生成AIの能力を最大限に引き出すための技術体系です。
- 定義: AIへの入力(プロンプト)の「書き方」を設計・研究し、意図した応答を引き出すための方法論。
- 技術としての側面: 単なる質問の工夫にとどまらず、モデルの仕組みやタスク処理の内部プロセスを理解した上で、応答を制御するための構造的アプローチが求められるため「エンジニアリング」と呼ばれます。
1.3. 学習の場:プレイグラウンド
プロンプト技術の学習と検証には、各AIサービスが提供する開発者向け「プレイグラウンド」の利用が推奨されます。
- プレイグラウンドの利点:
- パラメータ設定: 応答の創造性を調整する Temperature や、応答の最大長を指定する Max tokens などを調整できます。
- システムメッセージの利用: AIの基本的な役割や性格を定義するシステムメッセージ(システムロール)を設定でき、応答制御が可能です。
- LLMの提供方式:
- Completions: プロンプトを送信して単発の応答を得る方式。プロンプト技術の基本を学ぶのに適しています。
- Chat: ユーザーとAIが交互にメッセージをやり取りする対話形式。過去のやり取りを文脈として利用して応答を生成します。
2. プロンプトデザインの基本構造
効果的なプロンプトは、複数の基本要素を組み合わせて構築します。
2.1. プロンプトの構成要素
| 要素 | 説明 | 具体例 |
|---|---|---|
| 指示 | AIに実行してほしいタスクを明確に命令する部分。 | 「要約しなさい」「英訳してください」「リストアップしてください」 |
| 対象 | 指示が適用されるテキスト、データ、主題。 | 「以下の記事」「このメールの本文」「2024年のAI技術トレンド」 |
| 入力データ | 応答生成に必要な具体情報。 | 製品スペック、自己紹介項目、メールの送受信者情報 |
| 出力指定 | 生成される応答の形式やスタイルを指定。 | 「箇条書きで」「300文字以内で」「JSONフォーマットで」 |
| ロール | AIに与える役割やペルソナ。 | 「あなたは歴史の専門家です」「小学生向けの先生のように」 |
| 例 | 応答の模範となるサンプル(学習用)。 | ワンショット/フューショット学習で使用する例 |
2.2. 基本的な指示テクニック
- 説明・要約: 「小学生でもわかるように」「専門家向けに」など対象読者のレベルを指定することで難易度を調整します。文字数指定(例:「100文字以内」)で簡潔な応答を得られます。
- 命令: 翻訳、コード生成、メール作成など特定タスクを明確に実行させます。
- アイデア出し: アイデア、俳句、キャッチコピーなど創造的なコンテンツを生成させます。
- 分類・判断: 「ポジティブかネガティブか」「緊急・重要・後回し」など、事前に定義したカテゴリや基準に基づきテキストを分類させます。
3. 推論能力を向上させる主要技術
単純な指示だけでは難しい複雑な問題には、AIの推論プロセスに働きかける高度な技術が有効です。
3.1. 学習データの活用(インコンテクスト学習)
プロンプト内に例(サンプル)を含めることで、AIはその場でタスクの解き方を学習します。
- ゼロショット: 学習データを与えずタスクを実行させる方法。単純なタスクで有効です。
- ワンショット/フューショット: 1つ(ワンショット)または複数(フューショット)の「質問と回答のペア」を例として提示し、応答フォーマットや思考プロセスを学習させます。
3.2. ロールプロンプティング:AIへの役割付与
AIに特定の役割やペルソナを与えることで、応答の質と方向性を制御する手法です。
- 役割の指定: 「あなたは〇〇の専門家です」「あなたは礼儀正しいカスタマーサポート担当者です」と明確に定義します。
- 効果: 応答の一貫性、専門性、トーンが向上し、文脈に適した出力を得やすくなります。
- キャラクターの補強: 年齢、話し方、具体的な会話サンプルなどを提供すると、キャラクターをより精緻に構築できます。
3.3. 思考の連鎖(Chain-of-Thought, CoT)とその派生
CoTは、複雑な問題を中間的な推論ステップに分解して言語化させ、段階的に結論へ導くことで推論精度を向上させる技術です。
| 技術名 | 概要とプロンプト例 |
|---|---|
| Zero-Shot CoT | AI自身に推論プロセスを分解させる簡単な手法。例:「ステップごとに考えてください。」 |
| Few-Shot CoT | 推論過程を含んだ例を提示し、思考のパターンを学習させる方法。 |
| Plan-and-Solve | 解決前にまず計画を立てさせ、その計画に従って実行させる手法。例:「まず問題を理解し、計画を立て、その計画を実行してください。」 |
| ReAct | 推論(Reasoning)と、計算や検索などの具体的行動(Acting)を交互に繰り返すフレームワーク。 |
| Tree of Thoughts (ToT) | 複数の思考経路を並行して探索・評価し、最適解を見つける手法。 |
| Self-Refine / CoVe | AIが生成した回答に対し自己検証・フィードバックを行わせ、出力を反復的に改善するサイクル。 |
4. 高度なプロンプト構造化技術
4.1. 知識の生成と補完
LLMの応答品質は、そのタスクに必要な知識があるかに大きく依存します。
- 知識の補完: LLMが知らない情報(未発表の製品スペックや社内文書など)をプロンプト内で提供することで、その知識に基づいた応答を得られます。
- 知識の生成: 最終的なコンテンツ作成前に、まず必要な「事実」や「要点」をAIに生成させ、次にその生成物を基に最終文章を作成する二段階アプローチ。情報の密度と質が向上します。
4.2. プロンプトの構造化と仮想言語(PAL)
LLMの「組成汎化」(要素から新しい組み合わせを理解する能力)を活用し、プロンプト内に独自のルールや構文を構築できます。
- ミニ言語の構築: 「命令:四角×2 → 結果:□□」のようなパターンを学習させることで、テキストベースの簡易言語を定義し、グラフィック描画やデータ処理を行わせることができます。
- Program-aided Language Models (PAL): 数学的・論理的問題をPythonなどのコードに変換させる手法。LLMに解法ロジックをコードとして記述させることで、人間やコンピュータが検証可能な厳密な処理を実行させられます。
5. 実践:カスタムAIチャットの作成
プロンプトエンジニアリング技術の最終的な応用は、特定目的に特化したカスタムAIチャットの構築です。
5.1. カスタマイズの目的と方法
- 目的: 社内ヘルプデスク、製品Q&Aボット、特定知識分野に特化した学習アシスタントなど、汎用AIチャットでは対応が難しい用途にAIを最適化します。
- 方法: Perplexityの「Space」やChatGPTの「GPTs」など、各AIサービスのカスタマイズ機能を利用することで、プログラミング不要で独自のAIチャットを構築できます。
5.2. 作成プロセス(例:PerplexityのSpace)
Perplexityの「Space」を例に取ると、作成プロセスはシンプルです。
- スペースの作成:新しいスペースを作成し、タイトルと説明を設定します。
- カスタム指示の設定:最も重要なのが「カスタム指示」(プレイグラウンドのシステムロールに相当)です。ここにプロンプトエンジニアリングを適用します。例として:
- 役割の定義:「あなたは〇〇に関する専門家アシスタントです。」
- 知識の提供:「以下の製品情報に基づいて回答してください。」
- 行動の制約:「指定された情報以外のことは『わかりません』と回答してください。」
- 応答形式の指定:「回答は必ず箇条書きで、3つのポイントにまとめてください。」
これらの指示を組み合わせることで、特定タスクを高精度で実行する専用AIチャットを構築できます。
- はじめに
- Chapter1 生成AIのプロンプトの基礎を知ろう
- 1-1 開発者向けプレイグラウンド
- 1-2 プレイグラウンドを利用する
- Chapter2 プロンプトデザインの基本
- 2-1 プロンプトの基本
- 2-2 AIに指示を出そう
- 2-3 さまざまな指示を考えよう
- Chapter3 学習とロールプロンプト
- 3-1 学習データを活用しよう
- 3-2 プレフィックスとサフィックス
- 3-3 アシスタントを利用しよう
- 3-4 分類とクラス分け
- 3-5 プロンプトチューニング
- Chapter4 思考の連鎖とその周辺
- 4-1 ステップごとに考える
- 4-2 解決にたどり着くための道筋
- 4-3 思考の連鎖(CoT)のためのテクニック
- 4-4 推論の精度を高める工夫
- Chapter5 LLMの推論を深める
- 5-1 知識と推論
- 5-2 推論を深める工夫
- 5-3 プロンプトの構造化
- Chapter6 AIチャット作成のための知識
- 6-1 カスタムAIチャットの作成
- 6-2 プロンプト攻撃とその対策
- 6-3 ハルシネーションの対策
- 索引