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問題解決大全:読書猿_を読む

目次

Mのコメント

よく考えられた「問題解決論」で、学ぶべき点が多い。多少複雑で右往左往するが。

問題解決大全_要約と目次

書誌

序文:問題解決の本質

本レポートは、『問題解決大全』で紹介されている多様な問題解決技法を体系的に要約し、実践的に活用できるよう整理することを目的としている。本書は単なるハウツー集ではなく、問題解決という営みの歴史的背景と本質を深く掘り下げた人文的な側面も持っているいる。
本書の中核となる哲学は「まえがき」で示されている。それによれば、問題解決とは既存のノウハウをただ適用する作業ではなく、既存の手段で対処できない未知の困難や、自身の内外に存在する多様な制約を乗り越えて望ましい未来を形作ろうとする際に要請される、根源的な人間の営みである。アイデアを実現するには、内的制約だけでなく、我々の自由にならない「外なる制約」を巧みに扱う知恵が不可欠だ。
この普遍的な課題に応えるため、本書は問題解決の本質に「再帰性」という概念を提示する。再帰性とは有限の手段で無限の可能性に対応する性質であり、問題解決においては「方法を生み出す方法」として機能する。つまり、既存の道具で解決できない新たな問題に直面した際、その問題を解決するための新たな方法を創り出す能力を指す。再帰性があることで、本書の技法群は時代や分野を超えた汎用性を持つ。
したがって、本書に収録された技法群は単なるツールの羅列ではない。交通渋滞という「問題」を発見・定義したウィリアム・フェルプス・イーノのように、過去の問題解決者たちが積み上げてきた知的遺産である。我々は「巨人の肩の上に立って」問題を解き、先人の知恵を受け継ぎ未来へ渡していく存在である。本レポートは、その知的遺産の核心を解き明かすための羅針盤となることが期待される

1. 問題解決の2大アプローチ:リニア思考とサーキュラー思考

本書で提示される技法を理解し効果的に活用するには、根底にある2つの基本的思考アプローチを把握することが不可欠である。それは「リニアな問題解決」と「サーキュラーな問題解決」だ。これら2つの世界観を理解することは、直面する問題の性質を見極め、適切な技法を選択するための戦略的基盤となる。

リニアな問題解決 (Linear Problem Solving)サーキュラーな問題解決 (Circular Problem Solving)
定義: 原因から結果へ至る直線的な因果律を前提とする。問題を遡れば究極の根本原因にたどり着けると想定する。定義: 原因と結果が相互に影響し合う円環的な因果ループを前提とする。因果関係を遡ってもループを巡るだけで究極原因にはたどり着かない。
立ち位置: 問題解決者は問題の外に立ち、状況を客観的に分析できる存在と見なされる。立ち位置: 問題解決者自身もシステムの一部として組み込まれ、その認知すら問題の影響下にあると考える。
アプローチ: 問題の根本原因を特定し除去・変更することで下流の結果を解決することを目指す。アプローチ: 因果ループのどこかに介入して影響をループ全体に行き渡らせ、システム全体の振る舞いを変化させることを目指す。介入点の範囲が広がる。
両者は対照的に見えるが排他的ではない。リニアな因果関係はサーキュラーな因果関係の一部を切り取ったものと捉えられ、相互補完的に活用することで問題解決の視野は広がる。以降のセクションでは、これら2つのカテゴリに分類された具体的技法を検討する。

2. 第Ⅰ部:リニアな問題解決の技法

このセクションでは、直線的な因果関係の世界観に基づく問題解決技法を要約する。これらは多くが日常的な思考と連続しており直感的に理解しやすい特徴がある。問題の「認知」から「解決策の探求」「実行」「結果の吟味」まで、構造化されたプロセスを辿ることで複雑な課題を着実に解決へ導く。

2.1. 第1章 問題の認知

この章で紹介するのは、問題解決プロセスにおける最もレバレッジの効く段階――「問題の認知」に用いる技法群である。解決策の探求に着手する前に、まず取り組むべき「問題」そのものを正確に捉えることが不可欠である。問題定義の誤りは、その後の努力を無駄にするため、ここに挙げるツール群は単なる手続き上の正しさではなく、戦略的な状況設定(フレーミング)の基礎を築くために重要である。

  • 01 100年ルール (The 100-Year Rule)
  • 副題: 大した問題じゃない
  • 目的: 「この問題は100年後にも重要か?」と長期視点で問い直すことで問題との心理的距離を作り、過度な不安を軽減して客観的視点を取り戻す思考実験。
  • レシピ:
  • これは100年後にも重大か?
  • これは5年後にも重大か?
  • これは5分後にも重大か?
  • レビュー: 18世紀の文人サミュエル・ジョンソンの問いに由来。時間的隔たりを設けることで思考停止に陥る不安の悪循環を断ち切る効果があり、認知行動療法にも通じます。
  • 02 ニーバーの仕分け (Niebuhr’s Assorting)
  • 副題: 変えることのできるもの/できないもの
  • 目的: 問題を「変えられるもの」と「変えられないもの」に仕分けし、リソースをコントロール可能な領域に集中させる。
  • レシピ:
  1. 問題や課題を細分化する。
  2. 各要素の「可変度」を点数化する。
  3. 可変度が低いものは「受け入れるべきもの」とする。
  4. 可変度の高いものから着手する。
  5. 状況変化に応じて定期的に見直す。
  • レビュー: ラインホルド・ニーバーの「平静の祈り」に基づく。変えられないものを受け入れ、変えられるものを変える勇気を持つことで無駄な努力を避ける。
  • 03 ノミナル・グループ・プロセス (Nominal Group Process)
  • 副題: ブレスト+投票で結論を出す
  • 目的: ブレインストーミングと投票を組み合わせた構造化されたグループ意思決定法。発言の偏りを防ぎ全員の意見を公平に引き出す。
  • レシピ:
  1. 参加者を小グループに分ける。
  2. 各自が沈黙の中でアイデアを書き出す。
  3. 順にアイデアを発表、批判はしない。
  4. 類似アイデアをまとめ議論する。
  5. 各自が投票し順位付けする。
  6. 結果を共有する。
  • レビュー: 沈黙や投票といった構造が同調圧力を抑え、透明性と納得感を高める。
  • 04 キャメロット (Camelot)
  • 副題: 問題を照らす理想郷という鏡
  • 目的: 理想的な状態を具体的に描き、現状と比較してギャップを明確化する。
  • レシピ:
  1. 問題のない理想状態を想像して書き出す。
  2. 理想と現状の違いをリスト化する。
  3. なぜ差が生じているか分析する。
  • レビュー: ハーバート・サイモンの「問題=目標と現状のギャップ」に基づく。理想設定時には、実現に必要な知識や能力が現実的に備わっているかを考慮する必要がある。
  • 05 佐藤の問題構造図式 (Sato’s Problem Structure Scheme)
  • 副題: 目標とのギャップは直接解消できない
  • 目的: 問題を「目標」「出力」「プロセス」「入力」「制約条件」「外乱」の6要素に分解して図式化し、コントロール可能なのは「入力」であることを明確にする。
  • 図式の構成:
  • 目標/出力/プロセス/入力/制約条件/外乱/問題=目標と出力のギャップ
  • レビュー: 「問題解決者は魔法使いではない」という洞察を与え、実行可能なアクションに集中させる。
  • 06 ティンバーゲンの4つの問い (Tinbergen’s Four Questions)
  • 副題: 「なぜ」は4種類ある
  • 目的: ある事象や行動を、至近要因(機構)、発生要因(発達)、系統進化要因(進化・歴史)、究極要因(機能)の4つの分析レベルで多角的に問う。
  • レビュー: 生物行動学の枠組みだが、組織問題の分析などにも応用可能で、問題の重層的理解に有効。
  • 07 ロジック・ツリー (Logic Tree)
  • 副題: 問題を分解し一望する
  • 目的: MECEの原則で問題を階層的に分解し、全体像を構造的に把握する。
  • レシピ:
  1. 出発点の問いを決める。
  2. MECEで答えを枝分かれさせる。
  3. 各答えを新たな問いに変換してさらに分解する。
  4. 具体的なアクションに繋がるまで分解する。
  • レビュー: 問題を管理可能な要素に分解する基本フレームワーク。工学のフォルト・ツリーやドゥンカー、デカルトの思考法に系譜がある。
  • 08 特性要因図 (Fishbone Diagram)
  • 副題: 原因と結果を図解する
  • 目的: 結果(特性)に対する原因(要因)を系統的に洗い出し、魚の骨のように整理する。
  • レシピ:
  1. 特性(魚の頭)を決める。
  2. 大骨(カテゴリ)を記入する(例:人、機械、材料、方法)。
  3. 中骨・小骨として具体的要因を追記する。
  4. 要因の漏れや妥当性を確認する。
  5. 重要な要因に印をつける。
  • レビュー: 石川馨が考案。結果は直接コントロールできず、原因(インプット)を操作することが基本であるという原則と一致する。

2.2. 第2章 解決策の探求

問題の構造が明らかになったら、次は「解決策の探求」に移る。このフェーズでは分析から創造性への橋渡しが求められ、収束的思考と発散的思考を往復する。本章の技法は、その多様な探求活動を支援する。

  • 09 文献調査 (Library Research)
  • 副題: 巨人の肩に乗る
  • 目的: 既存の知見を活用して「車輪の再発明」を避ける。
  • レシピ:
  1. 問題を定義する。
  2. 関連キーワードをリスト化する。
  3. 探索分野と検索語を計画する。
  4. 文献を検索・入手し知見を記録する。
  5. 新情報に基づき手順を反復する。
  • レビュー: 過去の蓄積にアクセスする習慣を持つことが重要。情報調査を怠る心理的障壁を克服する必要がある。
  • 10 力まかせ探索 (Brute-Force Search)
  • 副題: 総当たりで挑む万能解決法
  • 目的: 全ての解候補を体系的に検証していく手法。
  • レシピ:
  1. 解の条件を定義する。
  2. 解候補を順に試す。
  3. 条件を満たすかチェックする。
  • レビュー: 組み合わせが爆発的に増えるため非効率だが、理論や知識が不足している未知領域では有力な方法となる。
  • 11 フェルミ推定 (Fermi Estimate)
  • 副題: 未知なるものを数値化する
  • 目的: 直接測定が困難な数量を既知の知識や仮定で分解し概算する。
  • レシピ:
  1. 桁数を当てることを目標とする。
  2. 問題を計算可能な要素に分解しロジック・ツリーを作る。
  3. 各要素の数値を推定する。
  4. 掛け合わせて最終答を算出する。
  5. 妥当性をチェックする。
  • レビュー: エンリコ・フェルミ由来。桁レベルの概算で迅速な意思決定と数量感覚の形成に有用。
  • 12 マインドマップ® (Mind Mapping®)
  • 副題: 永遠に未完成であるマップで思考プロセスを動態保存する
  • 目的: 中心テーマから放射状にキーワードやイメージを繋げ、思考を視覚的に整理して発想を広げる。
  • レシピ: 中心にテーマを置き、枝を伸ばし色やイメージを使って連想を広げる(詳細は省略)。
  • レビュー: 追記・修正可能なオープンエンドな性質により、思考プロセスを動態的に保存できる。
  • 13 METHODE 635 (Brainwriting)
  • 副題: 30分で108のアイデアを生む集団量産法
  • 目的: 沈黙の中でアイデアを書き、他者のアイデアに触発されて連鎖的に発想する集団発想法。
  • レシピ: 6人が3つのアイデアを5分ごとに記入しシートを回す(計30分)。
  • レビュー: 同調圧力を避け全員が平等に貢献できるが、短時間での生産が求められるためプレッシャーとなる場合がある。
  • 14 コンセプトマップ (Concept Map)
  • 副題: 知識と理解を可視化する
  • 目的: 概念をノードで示し、リンクラベル付きの矢印で関係性を示すことで知識の構造を可視化する。
  • レビュー: マインドマップと異なり中心のないネットワーク構造を描け、関係性を明示することで深い理解を促す。
  • 15 KJ法 (KJ Method)
  • 副題: 混沌をして語らしめる、日本で最も有名な創造手法
  • 目的: 断片的な質的データをカードに書き、ボトムアップでグループ化して内在的構造を発見する。
  • レシピ: カード化→直感でグループ化→要約ラベル→統合→図解化→叙述化。
  • レビュー: 既存の分類枠に頼らず直感的な親和性でまとめる点が核心で、認知負荷は高いが洞察を生む。
  • 16 お山の大将 (King of the Mountain)
  • 副題: 比較で判断を加速する
  • 目的: 一つを暫定勝者とし、残りを順に比較して最良を見つけるヒューリスティック。
  • レシピ: 候補を一つ選び順に比較して更新する。
  • レビュー: 認知負荷は低いが、三すくみや複雑な判断基準がある場合は最適解に到達できないことがある。
  • 17 フランクリンの功罪表 (Franklin’s Merit and Demerit Table)
  • 副題: 線1本でつくる意思決定ツール
  • 目的: 賛成理由と反対理由を左右に書き出し比較するシンプルな意思決定法。
  • レシピ: 縦線でPRO/CONを記入し、相殺して残りを比較する。
  • レビュー: シンプルだが確証バイアスに脆弱。決意を固めるためのツールとして有用。
  • 18 機会費用 (Opportunity Cost)
  • 副題: 「選ばなかったもの」で決まる
  • 目的: 選択の真のコストに「最善代替案の価値」を含めるという意思決定の基本概念。
  • レシピ: Aの便益と費用を記し、諦めるB(最大便益)の価値を機会費用として比較する。
  • レビュー: 目に見えない機会費用を意識することで合理的判断が可能になる。
  • 19 ケプナー・トリゴーの決定分析 (Decision Analysis)
  • 副題: 二重の評価で意思決定する
  • 目的: MUST(必須条件)とWANT(希望条件)の二段階評価で選択肢を絞る構造的手法。
  • レシピ: 候補列挙→MUSTで足切り→WANTで重み付け評価→合計点が高いものを選ぶ。
  • レビュー: 多属性効用理論に基づき、認知負荷を抑えつつ説得力ある意思決定を支援する。

2.3. 第3章 解決策の実行

最良の解決策を選んでも行動に移されなければ意味がない。実行段階では計画どおり進まない事態や先延ばしの心理、意志力の問題などが待ち受ける。本章の技法はこれらの課題を克服し、決定を成果に結びつける戦略を提供する。

  • 20 ぐずぐず主義克服シート (Anti-Procrastination Sheet)
  • 副題: 先延ばしはすべてを盗む
  • 目的: タスクを小ステップに分解し各ステップの「困難度」と「満足度」を予測・実行・評価することで先延ばしを修正する。
  • レシピ: タスク分割→予測(0〜100点)→実行→実測を記録→繰り返し。
  • レビュー: 課題分析と行動実験の組合せで認知の歪みを修正し、実行を促す。
  • 21 過程決定計画図 (Process Decision Program Chart, PDPC)
  • 副題: 行動しながら考える思考ツール
  • 目的: スタートからゴールまでのプロセスに起こり得る分岐と対策をフローチャートで図式化し、行動開始と適応を促す。
  • レシピ: 目的・制約設定→最短ルート描画→分岐点と対策追加→情報に応じて改訂。
  • レビュー: 未来が予測不能でも暫定的な地図を描き行動を始め、フィードバックで図を更新する実践的アプローチ。
  • 22 オデュッセウスの鎖 (Chain of Odysseus)
  • 副題: 意志の力に頼らない
  • 目的: 将来の誘惑に負けないよう、選択肢を物理的・社会的に制限するコミットメント装置をつくる。
  • レシピ: 目標設定→ゲートキーパー依頼→契約で基準・報酬・ペナルティを決める→定期報告。
  • レビュー: 意志に頼らず制約を設けることで動学的不整合性を構造的に解決する。
  • 23 行動デザインシート (Behavior Design Sheet)
  • 副題: 過剰行動の修正は不足行動で
  • 目的: 変えたい習慣を過剰行動/不足行動に分類し、きっかけ・ハードル・ライバル行動・結果の4要素を分析・再設計する。
  • レシピ: ターゲット選定→ベースライン測定→現状と対策を記入→実行→測定。
  • レビュー: 行動と環境の関係をデザインすることで習慣変更を促す。内面の「意志」より環境設計を重視する。

2.4. 第4章 結果の吟味

解決策の実行後、その結果を客観的に評価しプロセス全体を振り返り、得られた教訓を将来に活かすことで学習サイクルは完結する。本章の技法はこの「学習」を支援する。

  • 24 セルフモニタリング (Self-Monitoring)
  • 副題: 数えることで行動を変える
  • 目的: 行動や感情を頻度・強度・状況などで観察・記録する。記録行為自体が行動を変える効果を持つ。
  • レシピ: ターゲット決定→記録方法準備→即記録→1〜2週でベースライン把握→継続と見直し。
  • レビュー: 記録が自己認識を修正し、モニタリング自体が望ましい行動を促す。
  • 25 問題解決のタイムライン (Problem Solving Timeline)
  • 副題: 問題解決を時系列で振り返る
  • 目的: 問題解決のステップを縦軸、時間を横軸にして実際の活動をプロットし、どこでつまずいたかを分析して学びを抽出する。
  • レシピ: グリッド作成→活動プロット→分析と教訓抽出。
  • レビュー: 後戻りや寄り道を失敗として切り捨てるのではなく、学習の材料として活用する。
  • 26 フロイドの解き直し (Solve Again From Scratch)
  • 副題: 解き終えた直後が最上の学びのとき
  • 目的: 問題解決後に記憶だけを頼りに再びゼロから解き直し、得た洞察を一般原則として抽出するメタ学習法。
  • レシピ: 解決後に同じ問題を再度解く→共通原則を探す→より効率的な解法や一般化を発見する。
  • レビュー: ロバート・フロイド提唱。解決直後の深い理解を活かし技能を固定化する投資的手法。

3. 第Ⅱ部:サーキュラーな問題解決の技法

第Ⅱ部では、相互に影響し合う円環的な因果性(因果ループ)に基づく技法を紹介する。これらは、問題解決者自身がシステムの一部となっているような複雑な問題、堂々巡りの行き詰まりに対して有効である。客観的距離が幻想である状況に対して、分析麻痺の解毒剤となり、多くは問題そのものを操作するのではなく、問題に対する我々の「認知」や「物語」を書き換える(リフレーミング)ことに焦点を当てている。

3.1. 第5章 問題の認知

サーキュラーなアプローチでは、問題の「原因」を探るよりも、問題を維持している構造――自己強化的な悪循環のループ――を理解することに主眼を置く。本章の技法は、問題の捉え方そのものを変え(リフレーミング)、新たな解決の糸口を発見することを目指す。

  • 27 ミラクル・クエスチョン (The Miracle Question)
  • 副題: 問題・原因ではなく解決と未来を開く
  • 目的: 「もし奇跡が起きて問題が一夜で解決したら、朝どう違っていると気づきますか?」と未来を描かせ、解決状態を構成する要素を特定する。
  • レシピ: 奇跡後の詳細描写→実現しやすい要素を選ぶ→その第一歩を実行する。
  • レビュー: 問題中心の思考から希望ある未来へ認知をシフトさせ、具体的な一歩を生む。
  • 28 推論の梯子 (The Ladder of Inference)
  • 副題: 正気に戻るためのメタファー
  • 目的: 観察から意味づけ、推論、確信に至る無意識の思考プロセスを可視化し、非生産的な思い込みから脱する。
  • レシピ: 自分の位置を認識→事実まで下りる→各ステップを検証しながら再構築する。
  • レビュー: メタ認知を促進し、自動的な推論を検証する余地を作る。
  • 29 リフレーミング (Reframing)
  • 副題: 事実を変えず意味を変える
  • 目的: 事実そのものは変えずに認識の枠組み(フレーム)を転換して意味を変えるコミュニケーション技法。
  • レシピ: 問題のフレームを特定→別の枠組みで捉え直す→しっくりくるまで繰り返す。
  • レビュー: 意味を変えることで行動を変え、悪循環を断ち切る強力な鍵となる。
  • 30 問題への相談 (Consulting the Problem About the Problem)
  • 副題: 問題と人格を切り離す
  • 目的: 問題を擬人化して外在化し、問題と当事者を分離して距離を作るナラティブ・セラピーの技法。
  • レシピ: 問題へのインタビュー(擬人化)→主人公へのインタビュー(影響と抵抗経験)。
  • レビュー: 自己非難を防ぎ、問題を客観的に扱う心理的余裕を生む。
  • 31 現状分析ツリー (Current Reality Tree)
  • 副題: 複数の問題から因果関係を把握する
  • 目的: 複数の望ましくない結果を起点に因果関係を論理で結び、システムの中核問題や根本原因を特定するTOCのツール。
  • レシピ: 目的設定→問題列挙→因果矢印で結ぶ→論理チェック→中核問題特定。
  • レビュー: AND関係やフィードバックループを明示でき、複雑な問題群を現実に近い形で把握できる。
  • 32 因果ループ図 (Causal Loop Diagram)
  • 副題: 悪循環と渡り合う
  • 目的: システム内の要素間因果を矢印で示し、自己強化型(R)か平衡型(B)かを特定して動的振る舞いを理解する。
  • レシピ: 問題選定→重要変数抽出→因果矢印(+/−)描画→ループ特定→物語化。
  • レビュー: 循環的因果性の理解に有効で、なぜ問題が持続するかを洞察する強力なツール。

3.2. 第6章 解決策の探求

サーキュラーな解決策の探求は、例外や強み、支配的な物語とは異なる「もう一つの物語」を発見し、それを増幅するプロセスである。

  • 33 スケーリング・クエスチョン (Scaling Question)
  • 副題: 蟻の一穴をあける点数化の質問
  • 目的: 主観的な問題を0〜10で点数化し、なぜ0点でないかを問うことで既存のリソースや強み(良い例外)を発見し小さな改善を特定する。
  • レシピ: 点数化→0点でない理由を尋ねる→小さな上昇時の変化を問う→実行と再点数化。
  • レビュー: 白黒思考を打破し、肯定的側面を足がかりに改善を促す。
  • 34 エスノグラフィー (Ethnography)
  • 副題: 現場から知を汲み出す
  • 目的: 調査者が現場に没入し参与観察することで、暗黙のルールや表出されないニーズを深く理解する質的研究法。
  • レシピ: 調査計画→アクセス→参与観察とフィールドノート→聞き取り→人工物分析→データ分析→文章化。
  • レビュー: 消費者の無自覚なニーズ発見などに有効。組織内に適用すると日常の見直し機会を提供する。
  • 35 二重傾聴 (Double Listening)
  • 副題: もう1つの物語はすでに語られている
  • 目的: 語り手のドミナント・ストーリーを聞くと同時に、その語りに含まれる強さや抵抗、希望といった代替的な物語に注意を払う聴き方。
  • レシピ: 共感的に主訴を聞く→語りの中の例外や肯定的兆候を探す→それを詳しく語らせるよう促す。
  • レビュー: 肯定的側面を増幅して新しい自己物語を共創することで、問題の影響力を相対化する。

3.3. 第7章 解決策の実行

サーキュラーな問題への実行は直観に反することが多く、不確実性の中で行動を始める価値や逆説的な介入が中心となる。

  • 36 ピレネーの地図 (A Map of the Pyrenees)
  • 副題: 間違ったプランもないよりまし
  • 目的: 不確実な状況で行動を起こすため、たとえ計画が間違っていても行動とフィードバックで適応することを重視する原則。
  • 逸話: アルプス遭難の偵察隊がピレネーの地図を頼りに生還した逸話に基づく。
  • レビュー: 完全な正しさを待つより、地図の存在そのものが行動と学習のきっかけになる。
  • 37 症状処方 (Prescribing the Symptom)
  • 副題: 問題をもって問題を制する
  • 目的: やめたい問題行動を意図的に実行させる逆説的介入。症状を可視化して制御対象に変える。
  • レビュー: 問題行動を禁止する努力が逆に強化する場合に有効。行動の自覚化により自己強化サイクルを内側から破壊する効果がある。

4. 結論:意志の力を学ぶための道具箱

本レポートが示すように、『問題解決大全』はリニアとサーキュラーという2つのアプローチを軸に、古今東西の知恵を結集した実践的な道具箱を提示している。それぞれの技法は特定の局面で力を発揮するだけでなく、これらを学び実践する過程そのものが思考様式を豊かにし、世界を捉える解像度を高める。
しかし本書の最終的なメッセージは単なる技法習得にとどまらない。「まえがき」の一節にあるように、「問題解決を学ぶことは意志の力を学ぶこと」である。問題解決は困難を「問題」として捉え直し、「〜したい」という目標を設定する意志の表明から始まる。全知全能でない人間が自らの限界を自覚しつつ、未知の未来に責任を引き受け行動することを意味する。
この道具箱は静的なツールの集合ではなく、「意志のためのジムナジウム」である。技法を繰り返し適用し、実践を通じて訓練することで、単に答えを見つけるだけでなく、未来を受け身でなく自ら形作るための認知的・感情的な強靭さが培われる。本書が提供する構造化されたアプローチは、その意志を現実に作用させ、未来を切り拓く最も信頼できる伴走者となるだろう。

  • まえがき 問題解決を学ぶことは意志の力を学ぶこと
  • 本書の構成について
  • 第Ⅰ部 リニアな問題解決
  • 第1章 問題の認知
  • 01 100年ルール
  • THE 100-YEAR RULE
  • 大した問題じゃない
  • 02 ニーバーの仕分け
  • NIEBUHR’S ASSORTING
  • 変えることのできるもの/できないもの
  • 03 ノミナル・グループ・プロセス
  • NOMINAL GROUP PROCESS
  • ブレスト+投票で結論を出す
  • 04 キャメロット
  • CAMELOT
  • 問題を照らす理想郷という鏡
  • 05 佐藤の問題構造図式
  • SATO’S PROBLEM STRUCTURE SCHEME
  • 目標とのギャップは直接解消できない
  • 06 ティンバーゲンの4つの問い
  • TINBERGEN’S FOUR QUESTIONS
  • 「なぜ」は4 種類ある
  • 07 ロジック・ツリー
  • LOGIC TREE
  • 問題を分解し一望する
  • 08 特性要因図
  • FISHBONE DIAGRAM
  • 原因と結果を図解する
  • 第2章 解決策の探求
  • 09 文献調査
  • LIBRARY RESEARCH
  • 巨人の肩に乗る
  • 10 力まかせ探索
  • BRUTE-FORCE SEARCH
  • 総当たりで挑む万能解決法
  • 11 フェルミ推定
  • FERMI ESTIMATE
  • 未知なるものを数値化する
  • 12 マインドマップ®
  • MIND MAPPING®
  • 永遠に未完成であるマップで思考プロセスを動態保存する
  • 13 ブレインライティング
  • METHODE 635
  • 30 分で108のアイデアを生む集団量産法
  • 14 コンセプトマップ
  • CONCEPT MAP
  • 知識と理解を可視化する
  • 15 K J 法
  • KJ METHOD
  • 混沌をして語らしめる、日本で最も有名な創造手法
  • 16 お山の大将
  • KING OF THE MOUNTAIN
  • 比較で判断を加速する
  • 17 フランクリンの功罪表
  • MERIT AND DEMERIT TABLE
  • 線1 本でつくる意思決定ツール
  • 18 機会費用
  • OPPORTUNITY COST
  • 「選ばなかったもの」で決まる
  • 19 ケプナー・トリゴーの決定分析
  • DECISION ANALYSIS
  • 二重の評価で意思決定する
  • 第3章 解決策の実行
  • 20 ぐずぐず主義克服シート
  • ANTI-PROCRASTINATION SHEET
  • 先延ばしはすべてを盗む
  • 21 過程決定計画図
  • PROCESS DECISION PROGRAM CHART
  • 行動しながら考える思考ツール
  • 22 オデュッセウスの鎖
  • CHAIN OF ODYSSEUS
  • 意志の力に頼らない
  • 23 行動デザインシート
  • BEHAVIOR DESIGN SHEET
  • 過剰行動の修正は不足行動で
  • 第4章 結果の吟味
  • 24 セルフモニタリング
  • SELF-MONITORING
  • 数えることで行動を変える
  • 25 問題解決のタイムライン
  • PROBLEM SOLVING TIMELINE
  • 問題解決を時系列で振り返る
  • 26 フロイドの解き直し
  • SOLVE AGAIN FROM SCRATCH
  • 解き終えた直後が最上の学びのとき
  • 第Ⅱ部 サーキュラーな問題解決
  • 第5章 問題の認知
  • 27 ミラクル・クエスチョン
  • THE MIRACLE QUESTION
  • 問題・原因ではなく解決と未来を開く
  • 28 推論の梯子
  • THE LADDER OF INFERENCE
  • 正気に戻るためのメタファー
  • 29 リフレーミング
  • REFRAMING
  • 事実を変えず意味を変える
  • 30 問題への相談
  • CONSULTING THE PROBLEM ABOUT THE PROBLEM
  • 問題と人格を切り離す
  • 31 現状分析ツリー
  • CURRENT REALITY TREE
  • 複数の問題から因果関係を把握する
  • 32 因果ループ図
  • CAUSAL LOOP DIAGRAM
  • 悪循環と渡り合う
  • 第6章 解決策の探求
  • 33 スケーリング・クエスチョン
  • SCALING QUESTION
  • 蟻の一穴をあける点数化の質問
  • 34 エスノグラフィー
  • ETHNOGRAPHY
  • 現場から知を汲み出す
  • 35 二重傾聴
  • DOUBLE LISTENING
  • もう1 つの物語はすでに語られている
  • 第7章 解決策の実行
  • 36 ピレネーの地図
  • A MAP OF THE PYRENEES
  • 間違ったプランもないよりまし
  • 37 症状処方
  • PRESCRIBING THE SYMPTOM
  • 問題をもって問題を制する
  • 問題解決史年表
  • 索引
  • 本書の構成について
目次