業務においてPC・IT・AI技法を活用する研究を展開するが、当面、私の仕事である弁護士業務を中心にせざるを得ない。事務、もうすこし広げれば知的活動一般を射程に収めることができるだろうが、ここでは、弁護士業務から始めるために「IT・AIと法」を起点にして考えよう。
「IT・AIと法」から考える
問題の所在
3層の問題
弁護士業務を「IT・AIと法」から考えるというとき、次の3つの層の問題が考えられる。
Ⅰ まず、IT·AIの発展が、社会における法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらす(ことができる)かという問題である。
Ⅱ 次に、①AIが将来、実用的な「人工知能」レベルに成熟し社会に浸透した場合に、どのような法律問題が生じるのか、②現在のIT·AIは「人工知能以前」であるのに、現実は今IT·AIに生じている法律問題を解決することさえ困難な状況にあるのではないか 、という問題である。
Ⅲ 最後に、法律に関連する業務で、IT·AIを使いこなすためにはどうすればいいのかという問題である。
検討
キラキラした魅力を発しているのは、もちろん、Ⅰである。対象には司法(裁判)のみならず、立法手法や行政過程も含まれるし、更には任意のルールや社会規範も含まれるであろう。私が今後考え、追い詰めていきたいのも、もちろんⅠである。これについては、IT·AIと法」のメインテーマとして今後「PC・IT・AI研究所」や「山ある日々の問題解決と創造」において、集中的に検討し、論考を掲載していきたい
法律家はⅡ①を論じるのが好きだが、これはあくまで仮想の問題である。
Ⅱ②について、現に頻発しているシステム開発やネットトラブルをめぐる紛争に、司法システムはきちんと対応できているだろうか。Ⅱについては「情報法とIT·AI法務」で 、基本的な検討をすることになる。
Ⅲは、法律家の「仕事の仕方」-生産性、効率性-の問題である。これはこのページで検討するほか、先行して「情報総論・情報学からAI・生成AIの整理・理解へ」の「AI論」で検討している。
これらの前提となる、上記ⅠないしⅢを貫く生成AI登場以前の「IT·AIと法」についての基本的な問題を、次項の、「AIに期待すること・しないこと」で指摘しておきたい。
IT·AIに期待すること・しないこと
IT·AIに期待すること
「私は、現時点で、(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは、法律が自然言語によるルール設定であることから、①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや、②適用範囲(解釈)に関する法的推論について、これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは、証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても、ベイズ確率や統計等の科学的手法がとられていなかったことである」と指摘し、これを変える「方向性を支えるのがIT·AIだとは思うが、まだ具体的なテクノロジーというより、IT·AIで用いられる論理、言語、数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」(<プロフェッショナルの未来>を読む)と書いた。
「そしてこれが実現できれば、「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと、また「国家」(立法、行政、司法)がどのような振舞いをしようと、上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば、依頼者に役立つ「専門知識」の提供ができると思う。」と考えていたのである。
イギリスでの議論
「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには、「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり、これは、同書の対象を法曹に絞り、さらに詳細に論じているようだ。
これに関連するKindle本を検索していて「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。。その中に(1.5)、内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。
Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.
Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.
Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.
Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.
Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.
このように紹介されたこの本の内容と、私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのかという観点から、この本を読み込んでみよう。
IT·AIに期待しないこと
実をいうと、私はつい最近まで「IT・AIの発展が、法のあり方や法をめぐる実務にどのような変化をもたらすか?」という質問に答えれば、今後、我が国の法律実務の現状を踏まえ、これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし、そもそも世界の中で日本語の市場自体狭い。開発のインセンティブもないし、開発主体も存在しない。ただ、英語圏で画期的な自然言語処理、事実推論についての技法が開発され、それが移植できるこのであれば、それはまさに私が上記したような、法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。
したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは、AIに期待し、怯えることではない。今の時代は誰でも、自分の生活や仕事に、PC(スマホを含む)・IT・AIの技法を活かしている。弁護士も、仕事に役立つPC・IT・AII技法を習得して、業務の生産性と効率性の向上に力を注ぐことが大切ではないだろうか。それをしないと、弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく、他の国際レベルで不採算の業種もろとも、自壊していくのではないかと、私には危惧されるのである。」と考えていた。
しかし生成AIによって、まさに「英語圏で画期的な自然言語処理、事実推論についての技法が開発され、それが移植」されたのである。
生成AI前史を復習する
生成AIが登場するまで私がIT・AIと弁護士業務の関係についてどのように考えていたかを振り返ってみよう。
私が204年に考えていたこと
私は、弁護士会の委員会でITを担当していた2004年に「ITが弁護士業務にもたらす影響」という論考を作成している(2004年に私が考えていた「ITが弁護士業務にもたらす影響」参照)。
その中で「デジタル化して収集した生情報(注:事実情報)、法情報を、弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするツールの開発が急務である。例えば、弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき、必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり、しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり、証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したいこともある。このような作業(の一部)は、パソコンの得意な分野である。また少なくても、当方と相手方の主張、証拠、関連する判例、文献等をデジタル情報として集約し、これらを常時参照し、コピー&ベイストしながら、書面を作成することは有益であるし、快感さえ伴う。これらの書面作成をいつまでも手作業ですることは質的にも問題であるし、実際これまで弁護士は忸怩たる思いを抱えながらこれらの作業をこなしていたのではなかろうか。目指すは、当面は進化したワードプロセッサー、データプロセッサーのイメージであるが、データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」があることも充分にあり得る。これらの開発には、練達の弁護士の経験知をモデル化する必要があり、弁護士会がすすんで開発に取り組む必要があろう。」と指摘している。今振り返るとこれこそ、弁護士業務におけるAIの活用そのものである。
私が2017年に考えていたこと
その後、2012年に画像認識に劇的な変化があったが私はそんなことも知らず、だんだん世間がAIについて騒ぎ出した2017年9月になって「弁護士として「AIと法」に踏み出す」を作成している。
そこでは、①「これからは、AIやIoTの中味に少しでも立ち入ってソフトやハードに触れながら、これを継続して使いこなすのが大事だと思う。傍観し批評する「初心者消費者」から、これを使いこなす「主体的消費者」へ大変身」が必要であること、②「弁護士と「AIと法」との関わりは、怒濤のように進展するであろうAIやIoTの開発、製作、販売、提供、利用等をいかなるルールの上に載せて行うかという、自ずから国際的な規模とならざるを得ない立法、法令適用、契約、情報保護、及び紛争処理等の問題である。我が国での現時点での弁護士の取り組みは、今の法令ではこうなる、こうなりそうだという程度であるが、それでは法的需要は支えきれない。AIに「主体的」に係わり、弁護士としての仕事をしていく必要がある」ことを指摘している。
これは正しいが、②の方はamari
進展していない。我が国のAIやIoTの開発レベルは、外国の技術の導入に追われ、これまではそのような需要をさほど多くは生み出していないのかもしれない。
私が2020年4月に考えていたこと
私は2020年4月号の「法の支配」に「AI時代の弁護士業務」という論考をまとめ(もとの投稿は「AI時代の弁護士業務(法の支配No.197)」)、その時点でのAI論について詳細に検討している。そこでは「BERT」に注目しているし、「デジタル化して収集した生情報、法情報を、弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするIT技法の開発が急務である」としており、今の生成AIを彷彿とさせるとしても、あながち言い過ぎではないだろう。
そして最後のまとめとして「そもそもAIを研究・開発することの目的は何だろうか。「便利」になるなどということの優先度は極めて低い。AIによって世界(人と情報・自然・人工物の動的関係)そのものが大きく変容する中で、持続可能な世界を築くことを最優先すべきことは当然であるし(気候変動、環境破壊、資源枯渇、原発事故、兵器の暴走、自然災害、疫病、地方衰退、インフラの壊滅等、AIが問題を整理し解決に役立つことが期待されている分野は山ほどある)、その中で人間の生存が、意味や価値に充たされることが重要である。AI法がその方向を目指しているかどうか。自動運転車が、そこいら中を走り回る必要があるのだろうか。」としており、今もその指摘を変える必要性を認めない。なお、これについては、「AI時代の弁護士業務」で包括的な検討をしている。
そして2022年11月にChatGPTが登場し、Google等もこれを追い、私は、少なくても2025年に入ってからの生成AIは、十分に実用的なレベルに達したと評価している。
PC・IT・AI技法を復習する
次に、生成AI以前の(弁護士の)仕事に役に立つPC・IT・AI技法を簡単に復習する。これが生成AIによってどのように変容するかが今後の課題である。
AIする前に
AIが、コンピュータやインターネットの技術的進展とデータ量の増加を背景に、従前の機械学習(プログラミング)にディープラーニングの手法を組み込んだ情報処理技術の最前線だとすれば、AIに心をとらわれる前に、今あるコンピュータ、インターネット、プログラミングに基づくIT技法を使いこなすことが、弁護士がAIにつき進むための前提である(「AIする」(あいする)はギャグです)。
重要な法律関連情報の収集
弁護士が業務でする情報処理のうち、当面、もっとも重要なのは、法律関係情報の収集分析である。これについては、何種類かの、判例、法令、法律雑誌の検索システムが提供されている。私は、「判例秘書」を使っている。
通常、判例検索システムには掲載している雑誌に含まれる以外の論文等は掲載されていないので、補足のため「法律判例文献情報」を使っている。ただ、これは単に文献の名称や所在が分かるだけで、文献がオンラインで見れるわけではない。法律のきちんとしたコンメンタールが、ネットで検索等で利用できれば便利だろうが、今のところ限られたものしかないようである。私は、パソコン版の「注釈民法」は利用しているが、民法改正を踏まえてでどうなるのだろう。
ところでアメリカのレクシスネクシスが開発中の「Legal Advance Research」のデモを見たことがあるが、州によって法律が違うこともあって、法令、裁判例、陪審例、論文、関連事実等、膨大になる事実を収集し、一気に検索、分析、可視化できるデータベースとのことである。これまでアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしていたリサーチの作業時間が一気に減り、弁護士のタイムチャージの減少(いや、弁護士の仕事の生産性の向上、効率化)とクライアントの経費削減が実現しつつあるようである。ついでにいうと、同じくアメリカの弁護士が膨大な時間を費やしてすることで依頼者の大きな負担になっているe-ディスカバリーも、AI導入で、これもタイムチャージの大幅な減少がはかられつつあるとのことである。我が国において「リーガルテック」とか「レガテック」とかをいう人がいるが、やがて多くの工夫に支えられてその方向に行くとは思うが、現状では単なる「商売」以上とは思えない。
判例、法令、文献検索以外の技法
そこで前項の重要な法律関連情報(判例、法令、文献等)の収集以外で、今行われている弁護士業務を支えるIT技法を集めている本「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」、「法律家のためのスマートフォン活用術」を紹介する。いずれも私が昔所属していた「日本弁護士会連合会 弁護士業務改革委員会」の編著だ。
そのほかに、税理士さんIT技法を駆使している「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)(Amazonにリンク)も役立ちそうなので紹介しておく。
それともともと裁判所がワープロ「一太郎」を使っていたことから、私もワープロというより清書ソフトとして「一太郎」を使っていた。Wordには不慣れなので、いろいろと勝手なことをされて「頭に血が上る」ことが多い。そこで「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」(Amazonにリンク)、「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)(Amazonにリンク)と「法文書作成のためのMicrosoft Word 2016 」(著者:高田靖也)(Amazonにリンク)を紹介しておく。「頭に血が上る」のは、私だけではない。
普通の仕事では、Excelも重要だろうが、弁護士業務ではそんなには使わない。
- 「法律家のためのITマニュアル【新訂版】」
- 「法律家のためのスマートフォン活用術」
- 「ひとり税理士のIT仕事術」(著者:税理士 井ノ上 陽一)
- 「今すぐ使えるかんたんmini Wordで困ったときの解決&便利技」
- 「Wordのムカムカ!が一瞬でなくなる使い方 ~文章・資料作成のストレスを最小限に!」(著者:四禮静子)
- 「法文書作成のためのMicrosoft Word 2016 」(著者:高田靖也)
ここで紹介した6冊については「仕事に役立つIT実務書」であるが、これから紹介する本は見直したい。
追加
「技法」としてアプリと本を追加しておく(2020/11/10)。1は、キーボードの役割からショートカットキーを理解して使いこなそうという本、2はGoogleを利用する学術的な情報収集と蓄積のアプリ、3は、アウトラインプロセッサー、いずれの今私がハマっている「技法」である。
- 脱マウス最速仕事術-年間120時間の時短を実現した50のテクニック :森新
- paperpile https://paperpile.com/?welcome
- dynalist
再掲-以上に欠けていたもの
これらに決定的に欠けているものは、上記した「法律が自然言語によるルール設定であることについて科学的な検討や、証拠から合理的に事実を推論する事実認定においてベイズ確率や統計等の科学的手法」が取り込まれた「人工知能」や、「進化したワードプロセッサー、データプロセッサー」」である。「でも何が起こるかは分かりませんよね。今後、「IT・AIと法」Iと法」について、新しい情報、新しい考え方を集積していきたい」としていたら、状況は劇的に変わった。
生成AIが変える弁護士業務_生成AIを巡る動きは激しい
生成AIを巡る動きは、本当に激しい。ChatGPT、Gemini、Copilot、Claude、Notion、Perplexity等々が、妍を競っている。私はデジタル好きなので、ついついその追っかけをしたくなるが、弁護士が消費者として追っかけをしても大した意味はない。追っかけでもたらされるものは、(ベンダも含めて)次々と現れる提供者側の過大なアナウンス、消費者(弁護士側)の過大な期待、失望、そして詐欺師周りを思わせるお決まりのやり取りだ。
私のようなデジタル好きの弁護士が生成AIに騙され失望するのは勝手だが、弁護士業務や裁判所業務が破綻するのでは、本末転倒だ。
今進められつつある「民事裁判手続のデジタル化」も他の行政機関が飛びついたIT化と同様に破綻の匂いがする。私は「民事裁判手続のデジタル化」についてきちんとフォローしていないので入口でのタメ口に過ぎないが、MicrosoftのTeamsで弁論をしようとするのは、素人の大企業信仰、権威盲従である。あるいはMicrosoftがサービスを提供する姿勢を知らないといってもいいだろうか。しかしこれはとりあえず別の論点なので横に置こう。
問題はこれからの弁護士業務が生成AIを含むデジタル環境の激変でどう変わるのかということである。
生成AIはこれからの弁護士業務を変えるか
2024年6月の「当面の回答」
当面の私の回答は、何も変わらないということである。
2025年2月の「回答」
私の回答は、確実に変わるということである。
理由は何か
この問題について、私は2020年4月に「法の支配」に寄稿した「AI時代の弁護士業務」で次のように指摘している。
「デジタル化して収集した生情報、法情報を、弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするIT(AI)技法の開発」は重要であるが、現状では、弁護士の「頭の替わりに」ではなく、「加えて」が正しいだろう。自然言語の論理処理(法的三段論法)や法への言語で表現された事実の当てはめの困難さという根本的な問題が解決されない限り、「頭の替わり」はできない。「加えて」だけでも言語分野における日本語市場の狭さ、その中での弁護士市場の狭さにより、これを実現するには、弁護士がやるしかないという状況だ。ただイギリスやアメリカで開発された技法が移植される可能性はあるかも知れないし、自然言語処理にも進展があるだろうという点は指摘した。「データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」」が、まさに深層学習であろうが、これまでの検討によれば、弁護士業務の核心部分においては、当面、決定打たり得ないようだ。」。
また次の指摘もした。
「例えば、弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(最終準備書面や上訴の理由書、刑事の弁論要旨)を作成するとき、必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり、しかもなお不十分だと感じることはよくある。あるいは供述の変遷を辿ったり、証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したりしたいこともある。このような作業(の一部)は、デジタルの得意な分野である。また少なくても、当方と相手方の主張、証拠、関連する判例、文献等をデジタル情報として集約し、これらを常時参照し、コピー&ペーストしながら、書面を作成することは有益であるし、快感さえ伴う。目指すIT技法は、当面は進化したワードプロセッサー、データプロセッサーのイメージであるが、データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」があることも充分にあり得る」。
私が以上で指摘したことについて、まずNotebookLMで、デジタル化した書面、証拠、尋問調書等をソースにして、備忘メモ作成、質問、論点の整理、書面作成等が容易にできるようになり、上記したことが実現しつつある。 加えて「弁護士ドットコムライブラリー+判例秘書」(ただしこれは有償で安くはないが、最近ライブラリーで、文章によるAI検索、関連書籍部分の摘示、当該書籍収録の判例摘示、当該判例から判例秘書の判例へリンク、判例秘書で、判例評釈、関連雑誌へリンク)を利用することで、文献・判例調査は、ほぼ完璧である。
「弁護士の頭の替わりにパソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするIT(AI)技法の開発」はどうなるか分からないが(これは人の知能とは何かという問題である。)、私が一番望んでいた実務的な技法は、「アメリカで開発された技法が移植され、自然言語処理にも進展がある」ことで、実現に大きく踏み出したのである。
Googleの「NotebookLMは使える」と思っているし、MicrosoftのCopilotもこの方向にある。更に私は「生成AIはPythonと共に_その活用と陥穽」での学びを進めて習熟し、一歩でも先に進めたい。
第三者提供のサービス
「弁護士ドットコムライブラリー+判例秘書」は私が利用しているサービスであるが、類似のサービスは外にもあるだろう。あと私は利用していないが契約書のレビューというサービスがある。これはしっかりした契約書のモデルがデジタルで確保されていれば、少なくても私には余り必要がない。
少し前に弁護士が書いた4冊の本
下記の4冊は途中経過の本だが、それぞれの時点での試行錯誤が分かるし、役立つ部分も多くあるので、参考のために掲記しておこう。
- 法律事務所のためのChatGPT利活用ガイドブック 仕組みから解き明かすリーガル・プロンプト:小谷野雅晴
- ChatGPTと法律実務:松尾剛行
- 法律家のためのITマニュアル~e裁判・リモートワークでこんなに変わる弁護士業務~:日本弁護士連合会 弁護士業務改革委員会(編著)
- LegalTech:長島・大野・常松法律事務所、MNTSQ株式会社
最近の本
追って検討する。