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ライト、ついてますか:ワインバーグ_を読む

目次

ライト、ついてますか_要約と目次

書誌 ライト、ついてますか 問題発見の人間学:ドナルド・C・ゴース; ジェラルド・M・ワインバーグ

1. 問題の本質:それは何か、そして誰のものか

本書の核は、問題そのものに対する深い洞察である。問題解決の第一歩は、目の前の事象を正確に「問題」として捉えることである。

問題の定義:「望まれた事柄と認識された事柄の間の相違」

問題は客観的事実ではなく、主観的認識のズレから生じる。
問題とは、望まれた事柄と認識された事柄の間の相違である。
この定義によれば、客観的な室温が25℃でも、当人が「寒い」と感じる限りそれは問題である。したがって、認識そのものを変えること(例:鏡を設置してエレベーターの待ち時間を気にならなくさせるなど)も有効な解決策となり得る。本書は「幻の問題は本物の問題」であると強調する。

複数の視点と利害関係者

同一の事象でも、関係者ごとに問題の本質は異なる。ブロントサウルス・タワーのエレベーター問題の例では、関係者ごとに問題が別物として認識される。

  • エレベーター利用者(オフィス労働者):通勤時間、手間、苛立ちを最小化したい。
  • ビル所有者(ディプロドーカス氏):苦情をなくしたい。
  • 入居会社の上層部:従業員不満からの労働組合結成の脅威を避けたい。
    効果的な問題解決者は、単一の問題ではなく複数の問題群を扱う「問題群解決者」であるべきだ。そのためにはまず、次の問いを立てることが不可欠である。
    問題を抱えているのは誰か?
    そして、個々の当事者に向けて
    あなたの問題の本質は何ですか?
    と問う。

問題の転嫁と責任の所在

問題解決では、誰が問題のオーナーシップを持つべきかを見極めることが重要である。

  • 他者に解決を委ねる:喫煙問題の事例では、教師は介入せず学生自身に解決させた。彼らは当事者であり、解決策を実行する動機も最も強かった。
  • 問題を当事者のものにする:大学の駐車場問題では、学長は指定駐車場があるため問題を感じていなかった。学生たちは学長の駐車スペースに停めることで、問題を学長自身のものへ転嫁しようとした。

2. 問題定義における陥穽

問題定義のプロセスには、思考を誤らせる多くの罠がある。

解決策を問題定義と取り違えるな

ビリー・ブライトアイズの入札問題は典型例だ。依頼主は「400万通りの組み合わせをすべて計算する」という自らの解決策を問題として提示したが、ビリーは入札規則を調べることで論理的に問題を短時間で解いた。
依頼者の解決方法を問題の定義と取り違えるな。
この教訓は自分自身にも当てはまる。ビリーの後、別の計算センターが同じ問題を「線形計画法」というパッケージで解いていたことが判明する。どちらも特定の解法を問題定義と見なしていた。
解法を問題定義と取り違えるな──特にその解法が自分の解法であるときは注意すること。

「正しい」定義は存在しない

ビリーの事例が示すのは、問題定義に絶対的な正解はないということだ。入札の裏で、各社が情報を得て入札額を変更するなど、さらに複雑なゲームが展開されている可能性もある。
問題の「正しい」定義が得られたかどうかは決してわからない──問題が解けたあとでも。
重要なのは唯一の正解を見つけることではなく、問い続ける姿勢である。

言葉の罠と意味の探求

問題が言葉で表現された瞬間、解釈の曖昧さが生じる。50万ドルの損失を生んだ「too」の位置の誤りのように、些細な言葉の違いが致命的な結果を招くことがある。これを防ぐために、社会的プロセスとしての「言葉遊び」が有効である。
問題が言葉の形になったら、それがみんなの頭に入るまで言葉でもてあそんでみよう。
例えば「Mary had a little lamb.」という文でも、強調する語を変えるだけで意味合いが異なる。辞書を引いたり、肯定と否定を入れ替えたりする遊びは、隠れた解釈の違いを明らかにする有力なツールだ。

3. 解決策がもたらす新たな問題

問題解決は一直線のプロセスではなく、循環的である。

終わりのない連鎖

ダン・デアリングが開発したプリンタ用工具は、精度測定時間を短縮する問題を解決したが、鋭いピンが上向きに置かれる設計のため上司が座って怪我をするという新たな問題を生んだ。
すべての解答は次の問題の出所である。
問題解決の目標は問題を消し去ることではなく、より扱いやすい問題に置き換えることだ。

設計における不適合

設計者は自らの設計がもたらす結果を直接体験しないことが多く、その結果利用者との間に「不適合」が生じる。安全カミソリの刃を捨てる際に家族が怪我をする問題は、設計者が「捨てる」という行為まで考慮していなかったことに起因する。この種の不適合は、利用者が状況に順応することで見えにくくなる。

順応と副作用

人間は環境の不変な部分に順応し、やがてそれを意識しなくなる。解決策がその「当たり前」を取り除いたとき、予期せぬ結果に衝撃を受ける。
魚は水を見ない。
オプーの妻が亡くなったとき、それまで鳴り続けていた目覚まし時計が止まる。突然の沈黙が、彼女の存在という「当たり前の環境」の喪失を痛感させる。問題解決者は、関係者が無意識に泳いでいる「水」が何かを、解決の初期段階で見極める必要がある。

4. 問題の源泉を探る

問題の根本原因を特定することは、効果的な解決策を見出す鍵となる。

問題はどこから来たか?

ジャネット・ジャウォルスキーがポーランドの入国管理局で直面した問題は、一見「官僚主義」という巨大で抽象的なものが原因に見えた。しかし彼女が「この問題はどこからきたのか?」と自問したことで、係員の無能、権限の欠如、意図的な嫌がらせ、あるいは自分自身の態度といった具体的な可能性へ思考を移せた。

問題製造者としての組織

学部長のコンマに関するメモの事例は、問題解決の仕組み自体が問題の源になることを示している。この種の問題は「どこでもないところから」、すなわち問題を作り出すこと自体が目的化した人々から生じる。
「世界には二種類の人間がいる。仕事をする連中と手柄を立てる連中だ。仕事をする方に入っていたまえ。その方がずっと競争が少ない。」
このような問題への対処は、問題を解決しようとせず発生源にそのまま送り返すことが有効である。

最も身近な源泉:自分自身

ジャネットの問題は、最終的に彼女が係員ヤン・マチーチンを人間として扱い敬意を払ったことで解決した。彼女の挑戦的な態度が問題の一因になっていたのだ。
問題の出所はもっともしばしばわれわれ自身の中にある。
同様に大学の駐車場問題も、「歩くのが面倒だ」という自己の問題を認め、それを運動の機会と捉え直すことで一部の教授にとって問題が消滅した。

5. 問題解決への動機と倫理

問題に取り組む前に、その動機と結果を深く考察する必要がある。

本当にそれを解きたいか?

特務機関の暗号解読員は、2年の努力の末に解読した外交暗号がただの経費勘定だと知る。解答は些細で、彼の努力を無に帰すものであった。この経験は、問題解決に着手する前の最重要の問いを浮き彫りにする。
私はそれを本当に解きたいか?
解答を得た結果、失業したり無力感に苛まれたりする可能性がある。また、漁師の妻の物語のように、性急な願いが悲劇を招くこともある。
本当にほしいか考える暇がないものはあっても、後悔する暇はいくらでもある。

人々が本当に望むもの

トム・タイヤレスがおもちゃ工場の問題を分析した際、論理的な最適解は「他の2工場を閉鎖すること」だった。しかし経営陣は社長と会長がその地に住んでいるためその解答を拒否した。彼らが本当に欲しかったのは、コスト削減ではなく、上層部を説得するための「計算機のお墨付き」だった。
ちょっと見たところと違って、人々はくれといったものを出してやるまでは自分が何を欲しかったか分からないものだ。

解決への抵抗

経理部の次長は、ペイシェンス・プルーデントが作成したプログラムの1セントの誤差を理由に導入を拒んだ。彼の真の目的は問題を解くことではなく、慣れた手計算のプロセスを維持してコンピューター導入を阻止することだった。
あとから調べてみれば、本当に問題を解いてほしかった人はそんなに多くない。
当事者が解決を望んでいない場合、解決の努力はサボタージュに遭う運命にある。この認識は解決者にとって現実的かつ不可欠な視点である

  • 序文
  • 第1部 何が問題か?
  • 1.問題
    • 問題は何なのか?
    • 問題を抱えているのは誰か?
    • キミの問題の本質は何か?
  • 2.ピーター・ピジョンホールの陳情書
    • 「何がまずいか」をどう決めるか?
    • まずいのは何か?
    • そのために、何ができるか?
  • 3.キミの問題は何か
    • 問題とは、望まれた事柄と認識された事柄の間の相違だ
    • 幻の問題は本物の問題
  • 第2部 問題は何なのか?
  • 4.ビリー・ブライトアイズの最適入札
    • 彼らの解決方法を問題の定義と取り違えるな
    • 彼らの問題をあまりやすやすと解いてやると、彼らは本物の問題を解いてもらったとは決して信じない
  • 5.ビリーが舌を嚙んだ
    • 解法を問題の定義と取り違えるな──ことにその解法が自分の解法であるときには注意──
  • 6.ビリーふたたび入札者のもとへ
    • 問題の正しい定義が得られたかどうかは決してわからない──問題が解けたあとでも
    • 結論に飛びついてはいけないが、自分の第一印象は無視するな
  • 第3部 問題は本当のところ何か?
  • 7.終わりのない連鎖
    • すべての解答は次の問題の出所
    • 問題によっては、それを認識するところが一番むずかしいということもある
    • キミの問題理解をおじゃんにする原因を三つ見つけられないうちは、キミはまだ問題を把握していない
  • 8.不適合を見落とす話
    • 結論に飛びつくな、だが第一印象を無視するな
    • キミの問題定義を外国人や盲人や子供について試してみよう またキミ自身が外国人や盲人や子供になってみよう
    • 新しい視点は必ず新しい不適合を作り出す
  • 9.うまいレベルに着陸する話
    • 問題文をどう変えたら、解答を変えることができるだろうか? 自分は何を解いているのか?
  • 10.意味に気をつけよう
    • 問題が言葉の形になったら、それがみんなの頭に入るまで言葉をもて遊んでみよう
  • 第4部 それは誰の問題か?
  • 11.煙が目にしみる
    • それは誰の問題か?
    • 他人が自分の問題を自分で完全に解けるときに、それを解いてやろうとするな
    • もしそれが彼らの問題なら、それを彼らの問題にしてしまえ
  • 12.構内は車で一杯
    • それは誰の問題か?
    • もしある人物が問題に関係があって、しかもその問題を抱えていないなら、何かをやってそれをその人物の問題にしてしまおう
    • 変化のために自分を責めてみよう──たとえほんの一瞬でも
  • 13.トンネルのかなたのあかり
    • それは誰の問題か?
    • もし人々の頭の中のライトがついているなら、ちょっと思い出させてやる方が、ごちゃごちゃいうより有効なのだ
  • 第5部 それはどこからきたか?
  • 14.ジャネット・ジャウォルスキー変人と衝突
    • この問題はどこからきたか?
  • 15.ミスター・マチーチン事態を収拾
    • この不作法さはどこからきたか?
  • 16.仕事する人いばる人
    • その問題はどこからきたか?
    • 世界には2種類の人がいて……
  • 17.試験について
    • その問題はどこからきたか?
    • 誰がこの問題をよこしたか?
    • それは私をどうしようというのか?
  • 第6部 われわれはそれをほんとうに解きたいか?
  • 18.トム・タイヤレスのおもちゃいじり
    • ちょっと見たところと違って人々は、くれといったものを出してやるまでは何がほしかったか知らぬものである
  • 19.政治には忍耐が肝要
    • あとから調べてみれば、本当に問題を解いてほしかった人はそんなにいないものだ
  • 20.ある特務

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