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目次

世界一深い100のQ_への道標

書誌_世界一深い100のQ いかなる状況でも本質をつかむ思考力養成講座

短い紹介と概略目次

400字の紹介文

本書は、誰もが一度は抱くであろう素朴な疑問から、現代科学の最前線が挑む宇宙や生命の根源的な問いまで、幅広い分野にわたる100の問いを探求する一冊である。その形式は、各分野の専門家である著者たちが個別の問いに明快に答えるQ&A形式を採用している。
扱われる領域は、物理学、生物学、数学といった科学分野はもとより、経済学やテクノロジー、人間の思考や身体に関するテーマにまで及び、その射程は極めて広い。この多様な問いの数々は、読者自身の知的好奇心と共鳴する確かな入り口となり、知的な探求心を深く刺激するものである。
本書が提供するのは、単なる知識の羅列に留まらない。各分野の第一線で活躍する著者たちによる解説は、複雑な事象の背後にある本質を鮮やかに浮き彫りにし、それぞれの知が織りなす壮大な世界の繋がりを示唆する。本書を読む体験は、断片的な情報を鵜呑みにするのではなく、物事の本質を見抜くための思考の“型”を養う。それは、世界をより深く、多角的に理解するための新たな知の視座を獲得するに等しい知的訓練である。

概略目次

  • Q.01 声帯移植はいつ可能になるのか?
  • Q.02 先史時代の人間は何を考えていたのか?
  • Q.03 数学がなかったら、我々の世界はどうなるか?
  • Q.04 反芻は何の役に立つのか?
  • Q.05 人類は鳥インフルエンザで絶滅するのか?
  • Q.06 心配性の人間は暗記が得意か?
  • Q.07 樹木は移動できるのか?
  • Q.08 バクテリアには思考能力があるのか?
  • Q.09 レマン湖を満たすにはどのくらいの時間がかかるか?
  • Q.10 時空はいくつの次元を持っているのか?
  • Q.11 実際に「物質を構成する素粒子」はいくつあるのか?
  • Q.12 「注意」はどうやってするのか?
  • Q.13 生物学の研究はどのように行なわれるのか?
  • Q.14 脳はどのように学ぶのか?
  • Q.15 脳はどのように思考を作り出すのか?
  • Q.16 どうしたら進化論者にならずにいられるのか?
  • Q.17 赤ちゃんの目はどのくらい見えるのか?
  • Q.18 エネルギーを消費するのは悪なのか?
  • Q.19 経済成長は需要から生まれるのか、供給から生まれるのか?
  • Q.20 粒子はどうやって質量を持ったのか?
  • Q.21 平行線は交わることができるか?
  • Q.22 神は数学が得意なのか?
  • Q.23 もしもアメリカと同じように、中国人とインド人の4分の3が車を持ったなら、原料とガソリンは足りるのか?
  • Q.24 虹の色はどこから生まれるのか?
  • Q.25 我々が吸っている酸素はどこから来るのか?
  • Q.26 水は水源から流れるのか?
  • Q.27 数学においては、すべての無限は同じ価値を持つのか?
  • Q.28 核エネルギーは永続的か?
  • Q.29 エントロピーとは乱雑になることか?
  • Q.30 空間は本当に存在するのか?
  • Q.31 種とは現実か、それとも机上の空論か?
  • Q.32 ラドンは致死性か?
  • Q.33 植物は繁殖が容易なのか?
  • Q.34 人工生命の形を造ることは可能か?
  • Q.35 生物の進化は事実か仮説か?
  • Q.36 化学物質を含まない食品は存在するのか?
  • Q.37 反物質の世界は存在するのか?
  • Q.38 宇宙は複数存在するのか?
  • Q.39 人獣共通感染症を恐れるべきか?
  • Q.40 石油の枯渇は悪夢か天恵か?
  • Q.41 重力は斥力になり得るか?
  • Q.42 偶然は予見できるのか?
  • Q.43 現生人類は進化を続けているのか?
  • Q.44 近い将来、人類は冬眠状態で宇宙旅行をすることができるのか?
  • Q.45 知能は脳の大きさに比例するのか?
  • Q.46 グローバル化は格差を拡大するのか、それとも縮小するのか?
  • Q.47 0・9999999……は1に等しいのか?
  • Q.48 森は消滅するのか?
  • Q.49 我々の社会は、深刻な自然界の危機に対して、これまでの社会よりも抵抗力があるだろうか?
  • Q.50 我々の脳は知らぬうちに情報を受け取っているのか?
  • Q.51 遺伝子組み換え食品は健康にいいのか?
  • Q.52 コンピューターはある数字を無作為に引くことができるか?
  • Q.53 コンピューターは匂いを感知できるか?
  • Q.54 グレープフルーツには毒性があるのか?
  • Q.55 脳を「回復させる」ことは可能か?
  • Q.56 4次元の世界を「見る」ことはできるか?
  • Q.57 脳のなかの考えを読むことはできるか?
  • Q.58 癌の発症を予見することはできるか?
  • Q.59 目をあけたまま、夢を見ることはできるか?
  • Q.60 仮想現実に浸ることは可能か?
  • Q.61 電気の備蓄はできるか?
  • Q.62 眠らずに生きることはできるか?
  • Q.63 最短距離は常に直線か?
  • Q.64 ニュートンのリンゴは青かったのか?
  • Q.65 脚はどうして4本か6本か8本なのか?
  • Q.66 どうして大きい動物と小さい動物がいるのか?
  • Q.67 どうして偶然に頼らなくてはならないときがあるのか?
  • Q.68 人間の手の指はどうして5本なのか?
  • Q.69 どうしてフランス人の過半数は平均給与を稼げないのか?
  • Q.70 どうして空は青いのか?
  • Q.71 どうして世界には色があるのか?
  • Q.72 どうして人間はいびきをかくのか?
  • Q.73 樹木の葉を食べる動物は怠け者なのか?
  • Q.74 グリンピースはゆでるとどうして色が薄くなるのか?
  • Q.75 どうして1は9よりも多く現われるのか?
  • Q.76 どうしてコンピューターにはモデルがひとつしかないのか?
  • Q.77 難聴が完治する日は来るか?
  • Q.78 自然についてすべてを知ることはできるのか?
  • Q.79 流氷をリモートコントロールで溶かすことはできるか?
  • Q.80 意識するとはどういうことか?
  • Q.81 アダムのリンゴとは何か?
  • Q.82 コンピューターがアインシュタインよりも賢くなるのはいつか?
  • Q.83 健康の「質」とは何か?
  • Q.84 明日、我々はどんな空気を吸うのか?
  • Q.85 宇宙は何歳か?
  • Q.86 最も美しい数式は何か?
  • Q.87 1立方センチメートル当たりに、どれだけの情報を記憶させることができるか?
  • Q.88 バタフライ効果とは何か?
  • Q.89 ピタゴラスの定理を作ったのは誰か?
  • Q.90 ビッグバン以前には何があったか?
  • Q.91 人種は存在するのか?
  • Q.92 気候を人工的に冷却するのは、SF世界のなかだけか?
  • Q.93 ロボットはなくなるのか?
  • Q.94 経済学は「経済科学」か「政治経済」か?
  • Q.95 治療にはリスクがあるのか?
  • Q.96 地球温暖化の責任は我々にあるのか?
  • Q.97 雌牛は牛乳工場なのか?
  • Q.98 ミミズには人間と同じように記憶力があるのか?
  • Q.99 真空は空からなのか?
  • Q.100 よい昼寝と悪い昼寝があるのか?

一口コメント

同じ100の問いでも、本書は主として科学的な事象を取り上げているから、半分「事実」に重なっている。こういう本の方が安心できる読者も多いだろうが、私は「哲学上」の問いも好きだ。

本_要約と詳細目次(資料)

要旨

本書『世界一深い100のQ――いかなる状況でも本質をつかむ思考力養成講座』は、物理学、生物学、数学、医学、経済学、環境科学など多岐にわたる分野で第一線に立つ35名の専門家が、100の根源的な問いに答える形式で構成された知的探求の書である。各項目は一見素朴な疑問から始まり、科学的事実と理論に基づく深く簡潔な解説へと展開する。
主要テーマは宇宙の成り立ち(時空、素粒子、ビッグバン)、生命の進化とメカニズム(人類の起源、遺伝子、脳機能)、人間の知覚と意識(思考、記憶、睡眠)、そして現代社会が直面する喫緊の課題(地球温暖化、エネルギー問題、経済格差、テクノロジーの未来)に及ぶ。執筆陣は確立された科学的知見を提示するだけでなく、未解決の問題や常識を覆す理論(例:重力が斥力になり得る可能性、無限にも種類があること)にも光を当てる。
その結果、読者は断片的な知識を得るだけでなく、科学的思考のプロセス自体に触れることができる。本書は複雑な世界の本質を掴む思考力の養成を目的とし、現代を生きる上で不可欠な科学的リテラシーを高める優れた指針となる。

I. 宇宙・物理・数学の基本原理

宇宙の構造、物理法則、それらを記述する数学に関する根源的な問いは、世界の根幹を理解する上で不可欠である。本書ではこれらの分野における現代科学の到達点と、未解明の謎を示している。

– 宇宙の構造と起源

  • 時空の次元 (Q.10): アインシュタインの一般相対性理論は時空を4次元(空間3次元+時間1次元)とするが、量子物理学とは整合しない。両者を統一する理論として、時空を個別の塊の集合体とみなすループ量子重力理論や、時空に4次元以上を仮定する超弦理論などが探求されている。
  • 宇宙の年齢と始まり (Q.85, Q.90): 遠方の銀河ほど速く遠ざかるハッブルの法則から宇宙年齢は約140億年と推定される。一般相対性理論ではビッグバンは時空の始まりであり「ビッグバン以前」という問いは意味をなさない。しかし量子論的アプローチでは、現在の膨張が過去の収縮の続きである可能性や、高次元空間での膜(ブレーン)衝突がビッグバンを引き起こしたという説もある。
  • 反物質の世界 (Q.37): 観測されるガンマ線が微量であることから、我々の銀河系に反物質はごくわずかしか存在しない。もし物質と反物質が互いに斥力を持つなら、宇宙に両者が同量存在する可能性があり、これは宇宙の加速膨張を説明する暗黒エネルギーの正体を示唆し得る。
  • 真空の正体 (Q.99): 量子物理学において真空は単なる「無」ではなく、エネルギーが最も低い状態の「場」であり、短時間だけ現れる仮想粒子を含んでいる。

– 物理法則と概念

  • 物質の構成要素 (Q.11, Q.20): 素粒子物理学の標準模型では、物質を構成する素粒子はレプトン6種、クォーク6種の計12種で、それぞれに反粒子が存在するため総数は24となる。粒子が質量を持つ仕組みはヒッグス機構による自発的対称性の破れで説明され、ヒッグス粒子の発見がこれを裏付けた。
  • 重力の謎 (Q.41, Q.64): ニュートンの万有引力は一般相対性理論により、質量が時空を曲げる効果として再定義された。宇宙膨張の加速化という観測から、宇宙規模で働く斥力としての暗黒エネルギーの存在が示唆され、重力が斥力になり得る可能性が示されている。
  • エントロピー (Q.29): 一般に「乱雑さ」と訳されるが、物理学的には「ミクロな状態からマクロな状態が作り出される方法の数」を表す。系は確率的に実現しやすい(エントロピーの大きい)状態へ移行し、これは利用可能なエネルギーの質が低下する過程でもある。
  • バタフライ効果 (Q.88): カオス理論における初期値鋭敏性の寓意的表現で、「小さな原因が大きな結果を生む」ことを示す。初期状態のわずかな違いが時間経過とともに予測不可能な大きな変化を引き起こす現象を指す。

– 数学の世界

  • 数学の重要性 (Q.03): 数学がなければ、データ圧縮アルゴリズム、暗号技術、エラー検出コードなどが存在せず、コンピューターやインターネットをはじめとする現代テクノロジーは成立しない。論理的に結論を導く思考法は、裁判や民主主義といった社会制度の基盤にもなる。
  • 幾何学の革命 (Q.21, Q.63): ユークリッド幾何学では「平行線は交わらない」が成り立つが、非ユークリッド幾何学では平行線が交わることや、平行でない直線が交わらないこともあり得る。地球のような球面上での最短距離は直線ではなく大円の弧(測地線)である。
  • 無限の概念 (Q.27): 数学においてすべての無限が等価ではない。カントールは集合の要素を1対1で対応させることで無限の大きさを比較し、整数全体の集合と偶数全体の集合は同じ濃度である一方、実数全体の集合は整数よりはるかに大きいことを示した。
  • 最も美しい数式 (Q.86): 多くの数学者が最も美しいと挙げるのはオイラーの等式「e^(iπ) + 1 = 0」。数学の基本定数(e, π, i, 1, 0)が基本的な算術演算だけで簡潔に結びつく点が高く評価されている。

II. 生命と進化の謎

生命の起源から多様な生物の仕組み、そして人類の進化に至るまで、生物学は多くの謎を解き明かしてきた。本書は進化の事実、生物の精巧なメカニズム、種の概念の複雑さを解説する。

– 進化のプロセスと人類

  • 人類の思考の進化 (Q.02): 初期人類(アウストラロピテクスなど)の思考はチンパンジーに近かったが、道具を作る技術的思考が急速に進歩し、それを伝えるための言語が発達した。クロマニョン人(ホモ・サピエンス)は実用性のない芸術作品を創造しており、「芸術的センスは技術的思考より早く進化した」とする見方がある。
  • 進化論の正当性 (Q.16, Q.35): 生物の多様性、異なる種における器官の発生学的共通性、化石記録などは、生物学的進化が「仮説」ではなく「事実」であることを示している。進化論を否定することは、科学的思考過程を無視し、神話と科学を混同することに等しい。
  • 現代人類の進化 (Q.43): 現生人類も生物学的に進化しており、特に新石器時代以降、人口増加とともに多様性が深化した。現代では文化的適応により自然淘汰の影響は小さくなっているが、エイズのような新たな生物学的脅威に直面しており、進化は現在も続いていると考えられる。
  • 「人種」の非存在 (Q.91): 人類の生物学的多様性の研究により、ある集団に固有の生物学的特性は存在せず、集団間の差異より集団内の個人差の方が大きいことが判明している。したがって生物学的な意味での「人種」は存在しない。

– 生物の多様なメカニズム

  • 消化戦略 (Q.04): 植物の主成分であるセルロースは動物の酵素で分解できないため、草食動物は食糞、巨大な盲腸での発酵、反芻(第一胃の微生物による分解)など多様な戦略を進化させた。
  • バクテリアの知能 (Q.08): バクテリアは個体レベルとコミュニティレベルで知能を示す。共同体ではクオラムセンシングと呼ばれる化学的通信を用いて情報交換し、集団で意思決定を行う。バイオフィルム形成や一部が自死して仲間を救うアポトーシスなど高度な集団行動を示す。
  • 代謝と体の大きさ (Q.66): 動物の大きさは代謝の物理化学的限界で制約される。クレイバーの法則(代謝率 ∝ 体重の3/4乗)によれば、小さいほど代謝は速い。この法則は平均寿命(代謝が速いほど短い)など多くの生物学的現象を説明する。
  • 脚の数 (Q.65): 動物の脚の数が4本、6本、8本など特定の数に定まっているのは、機能的最適化だけでなく、共通の祖先から受け継いだ遺伝的遺産(系統発生学の歴史)によるところが大きい。
  • 植物の繁殖 (Q.33): 移動できない植物はクローン化(無性生殖)や、花粉を風・水・動物に運ばせる多様な有性生殖(自家受粉、他家受粉など)を駆使し、「出会い」の困難さと進化に必要な遺伝的多様性の確保を解決している。

– 生命の定義と探求

  • 種の概念 (Q.31): 「互いに生殖可能だが他の集団とは生殖できない集団」という生物学的種の概念は基本だが、実際の雑種(ハイブリッド)を説明するには限界がある。種は固定的なものではなく、進化の連続体上の一瞬の姿である。
  • 生物学の研究手法 (Q.13): 生物学の進歩は観察技術(顕微鏡など)の発展に支えられているが、常に論理的に進むわけではない。ワトソンとクリックのDNA構造予測のように想像力が先行することもあれば、モーガンの突然変異発見のように偶然が契機になることもある。
  • 人工生命の創造 (Q.34): 生物の化学的メカニズムは解明が進むが、生物の複雑さを完全に再現しナノスケールの部品を組み立てる技術は未熟で、機械と生物の間には依然として大きな隔たりがある。ただし合成生物学によりウイルスの生成やバクテリアのゲノム合成は実現している。

III. 人間と知覚・意識

人間の思考、学習、記憶、意識といった内面的プロセスは、神経科学や心理学の進歩で徐々に解明されつつある。本書は脳の可塑性から意識と無意識の境界、睡眠の重要性まで多角的に解説する。

– 脳の機能と学習

  • 脳の可塑性 (Q.14): 人間の脳は生まれた時点で未完成で、外界との関わりや学習、体験を通じて神経回路(シナプス)が形成・強化される。脳の可塑性は成人後も続き、個人の経験が脳の構造に刻まれるため、各人の脳は異なる。
  • 思考の生成 (Q.15): 知覚情報から行動を導く認知機能は他の動物にも見られるが、人間は大脳皮質が発達しているため言語や意識、想像力といった高度な知的機能を持つ。ただし思考を構成するのは脳だけでなく、文化や社会との相互作用も含む「人間」そのものである。
  • 注意の役割 (Q.12): 脳は膨大な情報を同時処理できないため、注意が処理すべき情報を選択するフィルターとして機能する。注意には意図的に向ける選択的注意と、爆発音などに無意識に向く反射的注意があり、後者は予期せぬ事態への対処に不可欠である。
  • 知能と脳の大きさ (Q.45): 19世紀に脳の大きさが知能の指標とされたが、著名人の解剖例やMRI研究により、知能は脳の量ではなくニューロン間の接続の「質」に関係することが明らかになっている。
  • 脳を読む技術の限界 (Q.57): fMRIは脳のどの部位が活動しているかを画像化できるが、「どのように考えているか」は示せても「何を、なぜ考えているか」という思考の内容までは読み取れない。

– 意識と無意識の世界

  • 潜在知覚 (Q.50): 人間の脳は意識できないほど短時間に提示された情報(サブリミナル情報)も無意識に処理する。潜在知覚は消費者の購買決定に影響を与えようとするニューロマーケティングで研究・応用されている。
  • 意識のレベル (Q.80): 意識には周囲を認識するレベルと自己を客観視する反省的意識のレベルがある。後者はチンパンジーや象、イルカなどが鏡に映った自分を認識する鏡像認知実験で一部の動物にも存在することが示されている。

– 睡眠、夢、知覚

  • 睡眠の不可欠性 (Q.62): 睡眠は生命維持に不可欠である。睡眠不足は注意力や判断力の低下、情動の不安定化を招き、完全に睡眠を奪われた動物は死に至る。脳には睡眠不足を補うメカニズムが備わっている。
  • 昼寝の効果 (Q.100): 10~30分程度の短い昼寝は疲労回復に有効だが、45分以上の長い昼寝は深い眠りに入り、覚醒後しばらく脳が正常に機能しない睡眠慣性を引き起こす可能性がある。
  • 目を開けたまま夢を見る (Q.59): まぶたの麻痺などにより目を開けたまま眠ることは可能。逆に覚醒中に夢のような幻覚を見る白昼夢は、ナルコレプシーやパーキンソン病などの神経疾患や極度の疲労時に起こり得る。
  • 色の知覚 (Q.71): 色は光の物理的性質そのものではなく、異なる波長の光に反応する網膜センサーからの信号を脳が解釈・再構成したものである。ピンクやグレーといった色は太陽光線そのものには存在しない。

IV. 現代社会とテクノロジーの課題

エネルギー問題、地球温暖化、経済格差、医療の進歩、人工知能の台頭など、現代社会は複雑な課題に直面している。本書はこれらの問題に対する科学的・技術的視点を提供する。

– エネルギーと環境問題

  • エネルギー消費と豊かさ (Q.18): 国連の人間開発指数(HDI)とエネルギー消費量には相関があり、一定水準の生活には最低限のエネルギーが必要である。課題は温室効果ガスの排出を抑制しつつ必要なエネルギーを確保することである。
  • 地球温暖化の原因と影響 (Q.48, Q.96): IPCCの報告書は、20世紀以降の気温上昇、海面上昇、北極氷の減少などの気候変動が人間活動による温室効果ガス排出に起因すると高い確率で結論づけている。温暖化は森林の枯死を増加させ、生態系に深刻な脅威を与える。
  • エネルギー資源の未来 (Q.28, Q.40): 石油など化石燃料は数百年で枯渇する見込みである。一方、核エネルギーはウラン238を利用する高速炉や海水からのウラン抽出、トリウム利用などを考慮すると、数千年以上にわたってエネルギーを供給し得る資源となり得る。
  • 気候変動への対策 (Q.79, Q.92): リモコンの待機電力でさえ、その電気が化石燃料で作られていれば間接的に地球温暖化に寄与する。対策として大気中に硫黄を散布して太陽光を反射させるジオエンジニアリングのような人工的冷却案も存在するが、倫理的問題や未知のリスクをはらむ。

– 経済と社会

  • 需要と供給 (Q.19): 「供給が需要を創る」とするセーの法則と「需要が経済を動かす」とするケインズ理論は経済学の古典的論争である。現代では政府の介入(需要政策)と生産システムの効率化(供給政策)が状況に応じて議論され、2008年の金融危機ではケインズ的政策が再評価された。
  • グローバル化と格差 (Q.46): グローバル化は各国が比較優位を持つ分野に特化することで全体の富を増やす一方、豊かな国では高度技能労働者と低技能労働者の賃金格差を拡大させる可能性がある。国家間の格差を縮小する反面、国内の格差を拡大する傾向が指摘されている。
  • 現代社会の脆弱性 (Q.49): 高度な技術インフラと分業に依存する現代社会は、自然災害やパンデミックに対して過去の社会より脆弱である可能性がある。例えば給与所得者の大半が機能不全に陥れば、社会システム全体が麻痺する危険性がある。

– 医療・健康・生命倫理

  • 遺伝子組み換え食品 (GMO) (Q.51): GMOは害虫抵抗性や栄養価向上(ビタミンA強化米など)を通じて食料増産、農薬使用量の削減、栄養失調改善に貢献する。現時点で従来品種より高いリスクを持つという証拠は見当たらない。
  • 癌の予測と予防 (Q.58): ほとんどの癌は正確に予見できないが、特定の遺伝子変異(BRCA1/2など)は発症リスクを大幅に高める。予防には禁煙やワクチン接種など生活習慣の改善が有効である。
  • 難聴治療の未来 (Q.77): 従来の補聴器や人工内耳に加え、損傷した有毛細胞を修復する細胞治療や原因遺伝子を置き換える遺伝子治療によって、難聴の完治が期待されている。
  • 治療のリスク (Q.95): 医療技術の進歩と専門化により治療が複雑化し、院内感染や薬の相互作用などのリスクが常に存在する。リスクを減らすには医療従事者と患者双方の注意と責任ある行動が不可欠である。

– テクノロジーと人間の未来

情報記憶の密度 (Q.87): デジタル情報の記憶密度は向上し続けている。理論上の究極形はDNAであり、2020年時点の全世界のデジタル情報(44ゼタオクテット)は理論上1リットルの瓶に収まるほどの高密度で記録可能である。

コンピューターの万能性と限界 (Q.52, Q.76): コンピューターは決定論的アルゴリズムで動作するため真に「無作為」な乱数を生成できず、疑似乱数を用いる。一方で情報を記号列として処理できるため、計算可能であれば原理的にどんな機能でも一台で実行できる万能性を持つ。

人工知能 (AI)と人間 (Q.82): チェスなど特定分野では既にAIが人間を凌駕しており、計算能力や記憶の信頼性でも優位に立つ。遅くとも20年以内に、ほとんどの知的活動でコンピューターが人間を上回る可能性がある。

ロボットの進化 (Q.93): 人型ロボットだけでなく、お掃除ロボットや自動運転車のように特定機能に特化した形でロボット技術は社会に浸透する。テクノロジーが物体に溶け込むことで「ロボット」という形態は目立たなくなるかもしれない。

仮想現実 (VR) (Q.60): 視覚神経や聴神経に直接信号を送る技術が実現すれば、人間の知覚は現実と仮想の区別がつかなくなる。その時、両者を区別できるのは判断力のみとなる。

  • Q.01 声帯移植はいつ可能になるのか?
  • Q.02 先史時代の人間は何を考えていたのか?
  • Q.03 数学がなかったら、我々の世界はどうなるか?
  • Q.04 反芻は何の役に立つのか?
  • Q.05 人類は鳥インフルエンザで絶滅するのか?
  • Q.06 心配性の人間は暗記が得意か?
  • Q.07 樹木は移動できるのか?
  • Q.08 バクテリアには思考能力があるのか?
  • Q.09 レマン湖を満たすにはどのくらいの時間がかかるか?
  • Q.10 時空はいくつの次元を持っているのか?
  • Q.11 実際に「物質を構成する素粒子」はいくつあるのか?
  • Q.12 「注意」はどうやってするのか?
  • Q.13 生物学の研究はどのように行なわれるのか?
  • Q.14 脳はどのように学ぶのか?
  • Q.15 脳はどのように思考を作り出すのか?
  • Q.16 どうしたら進化論者にならずにいられるのか?
  • Q.17 赤ちゃんの目はどのくらい見えるのか?
  • Q.18 エネルギーを消費するのは悪なのか?
  • Q.19 経済成長は需要から生まれるのか、供給から生まれるのか?
  • Q.20 粒子はどうやって質量を持ったのか?
  • Q.21 平行線は交わることができるか?
  • Q.22 神は数学が得意なのか?
  • Q.23 もしもアメリカと同じように、中国人とインド人の4分の3が車を持ったなら、原料とガソリンは足りるのか?
  • Q.24 虹の色はどこから生まれるのか?
  • Q.25 我々が吸っている酸素はどこから来るのか?
  • Q.26 水は水源から流れるのか?
  • Q.27 数学においては、すべての無限は同じ価値を持つのか?
  • Q.28 核エネルギーは永続的か?
  • Q.29 エントロピーとは乱雑になることか?
  • Q.30 空間は本当に存在するのか?
  • Q.31 種とは現実か、それとも机上の空論か?
  • Q.32 ラドンは致死性か?
  • Q.33 植物は繁殖が容易なのか?
  • Q.34 人工生命の形を造ることは可能か?
  • Q.35 生物の進化は事実か仮説か?
  • Q.36 化学物質を含まない食品は存在するのか?
  • Q.37 反物質の世界は存在するのか?
  • Q.38 宇宙は複数存在するのか?
  • Q.39 人獣共通感染症を恐れるべきか?
  • Q.40 石油の枯渇は悪夢か天恵か?
  • Q.41 重力は斥力になり得るか?
  • Q.42 偶然は予見できるのか?
  • Q.43 現生人類は進化を続けているのか?
  • Q.44 近い将来、人類は冬眠状態で宇宙旅行をすることができるのか?
  • Q.45 知能は脳の大きさに比例するのか?
  • Q.46 グローバル化は格差を拡大するのか、それとも縮小するのか?
  • Q.47 0・9999999……は1に等しいのか?
  • Q.48 森は消滅するのか?
  • Q.49 我々の社会は、深刻な自然界の危機に対して、これまでの社会よりも抵抗力があるだろうか?
  • Q.50 我々の脳は知らぬうちに情報を受け取っているのか?
  • Q.51 遺伝子組み換え食品は健康にいいのか?
  • Q.52 コンピューターはある数字を無作為に引くことができるか?
  • Q.53 コンピューターは匂いを感知できるか?
  • Q.54 グレープフルーツには毒性があるのか?
  • Q.55 脳を「回復させる」ことは可能か?
  • Q.56 4次元の世界を「見る」ことはできるか?
  • Q.57 脳のなかの考えを読むことはできるか?
  • Q.58 癌の発症を予見することはできるか?
  • Q.59 目をあけたまま、夢を見ることはできるか?
  • Q.60 仮想現実に浸ることは可能か?
  • Q.61 電気の備蓄はできるか?
  • Q.62 眠らずに生きることはできるか?
  • Q.63 最短距離は常に直線か?
  • Q.64 ニュートンのリンゴは青かったのか?
  • Q.65 脚はどうして4本か6本か8本なのか?
  • Q.66 どうして大きい動物と小さい動物がいるのか?
  • Q.67 どうして偶然に頼らなくてはならないときがあるのか?
  • Q.68 人間の手の指はどうして5本なのか?
  • Q.69 どうしてフランス人の過半数は平均給与を稼げないのか?
  • Q.70 どうして空は青いのか?
  • Q.71 どうして世界には色があるのか?
  • Q.72 どうして人間はいびきをかくのか?
  • Q.73 樹木の葉を食べる動物は怠け者なのか?
  • Q.74 グリンピースはゆでるとどうして色が薄くなるのか?
  • Q.75 どうして1は9よりも多く現われるのか?
  • Q.76 どうしてコンピューターにはモデルがひとつしかないのか?
  • Q.77 難聴が完治する日は来るか?
  • Q.78 自然についてすべてを知ることはできるのか?
  • Q.79 流氷をリモートコントロールで溶かすことはできるか?
  • Q.80 意識するとはどういうことか?
  • Q.81 アダムのリンゴとは何か?
  • Q.82 コンピューターがアインシュタインよりも賢くなるのはいつか?
  • Q.83 健康の「質」とは何か?
  • Q.84 明日、我々はどんな空気を吸うのか?
  • Q.85 宇宙は何歳か?
  • Q.86 最も美しい数式は何か?
  • Q.87 1立方センチメートル当たりに、どれだけの情報を記憶させることができるか?
  • Q.88 バタフライ効果とは何か?
  • Q.89 ピタゴラスの定理を作ったのは誰か?
  • Q.90 ビッグバン以前には何があったか?
  • Q.91 人種は存在するのか?
  • Q.92 気候を人工的に冷却するのは、SF世界のなかだけか?
  • Q.93 ロボットはなくなるのか?
  • Q.94 経済学は「経済科学」か「政治経済」か?
  • Q.95 治療にはリスクがあるのか?
  • Q.96 地球温暖化の責任は我々にあるのか?
  • Q.97 雌牛は牛乳工場なのか?
  • Q.98 ミミズには人間と同じように記憶力があるのか?
  • Q.99 真空は空からなのか?
  • Q.100 よい昼寝と悪い昼寝があるのか?

Mのコメント(内容・方法及び意味・価値の批判的検討)

ここでは、対象となる本の言語空間がどのようなものか(記述の内容と方法は何か)、それは総体的な世界(言語世界)の中にどのように位置付けられるのか(意味・価値を持つのか)を、批判的思考をツールにして検討していきたいと思います。ただサイト全体の多くの本の紹介の整理でアタフタしているので、個々の本のMのコメントは「追って」にします。

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