「山の名作読み歩き」を読む

2021-03-17

大森 久雄
山と渓谷社
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一口コメント

帯にあるとおり「豊かな山の世界を綴った紀行、記録、エッセー、詩歌のアンソロジー」である。53編も収録されているそうだから1編当たりは抄録も含めて短いものだが、それだけに相応の経験のある山好きには次々とめくるめくような世界が展開されていてたまらないが、この世界に乗れない人にはつまらないかも知れない。

また見慣れない作品も多いが、編者の「固まった既成概念で選ぶのではなく、もっと自由に羽ばたいてみたい」結果なのだろう。

ついでに書くと、実際の本の副題は「読んで味わう山の楽しみ」なのに、Amazonでは「山の文章世界の道しるべ」となっているのは不思議だ。

私的メモ

この本は、手にとって味わってもらえばいいので、あまり私が書くべきこともないが、一つだけ取り上げてみよう。

「山に忘れたパイプ」(藤島敏男)

藤島敏男は名前しか知らなかったが、紹介されている白砂山は、私は2回ぐらい計画したが、未だに登っていない山だ。最寄り駅の長野原草津口から夏の短い期間バスが出ていて、車を運転しない私はその期間しか登れないが、残念ながら過去の計画は流れてしまった。それと、八間山を回ると帰りのバスの間に合うかという問題もあったように思う。花敷温泉に泊まればいいのだが、だいぶ距離がある。

藤島は花敷温泉から白砂山に登っている。野反池が素晴らしく、何度か訪れている、。のちに白砂山から佐武流山へ尾根伝い、苗場山へ抜けたが、「野反湖と池から湖に昇格(?)した野反は、北端に堰堤が築かれて、見る影もないただの貯水池に変わり果てていた」と書いている。その思いは手に取るように分かる。でも、白砂山、佐武流、苗場山というのは、素敵なコースだ。今は荒廃して行きにくいようだが、藤島の頃だってそんなに立派な登山道があったわけではないだろう。

ところで「山に忘れたパイプ」というのは雪道で休憩したときにパイプを置き忘れ旅館の若者が探しに行って見つけ届けてくれたという話だが、藤島は日銀に勤めていて「仕事も遊びも誤魔化しを嫌い、手厳しかった」ことから「あの藤島が忘れものをするわけがない、拾ったパイプ、の間違いだろう」と揶揄した人がいるそうである。笑える。

次に収録された作品名と作者の一覧を載せておく。

収録された作品と作者

山へ入る日・山を出る日
石川欣一
原野と樋高の山波
坂本直行
『北の山』縁起
伊藤秀五郎
静観的とは-若き山友達に送る手紙-(抄)
伊藤秀五郎
小屋・焚火・夢(抄)/頂・谷・書斎(抄)
大島亮吉
五色温泉スキー日記(抄)
板倉勝宣
名山論
橘南𧮾
苗場山
鈴木牧之
おくのほそ道(抄)
松尾芭蕉
山に忘れたパイプ
藤島敏男
初めて尾瀬を訪う
武田久吉
ひとり息子の山-谷川岳のある単独行
安川茂雄
峠は待っている
鳥見迅彦
孤独な洗礼
串田孫一
風の道
鷹野照代
孤独
加藤泰三
山頂
深田久弥
小林秀雄
遠き山見ゆ-序にかへて
三好達治
秩父のおもいで
木暮理太郎
山行ほか(抜粋)
石橋辰之助
上田哲農6
黒部探険の頃
冠松次郎
鹿島槍の月
石川欣一
発哺温泉にて(抜粋)
三好達治
高瀬入り(抄)
辻村伊助
山頂の心
尾崎喜八
困った話
加藤泰三
涸沢の岩小舎を中心としての穂高連峰(抄)
三田幸夫
山荘雑記(抄)
穂苅三寿雄
神河内
松方三郎
雪山をみつめて-徳沢での越冬記録-(抄)
芳野満彦
山の樹列記(抄)
田淵行男
日本アルプスの五仙境
木暮理太郎
甲斐の山々
前田普羅1
杖突峠
尾崎喜八
伊那から木曾へ
細井吉造
南アルプスへの郷愁
日高信六郎
山恋
野尻抱影
積雪期の白根三山
桑原武夫
日本アルプスの登山と探検(抄)
W・ウェストン/青木枝朗訳
芙蓉日記(抄)
野中千代子
山道
浦松佐美太郎
山顛の気
堀口大學
山稜の読書家たち
島田巽
山への作法
今西錦司
山の背くらべ(抄)
柳田國男
雑(抄)
加藤泰三
『岳』から降りて来た男
藤木九三
帰来
尾崎喜八
山は終生の友
日高信六郎
0F THE ORIGIN OF THE TERM “THE JAPANESE ALPS"
Walter Weston