思考について
この投稿記事は、固定頁のコンテンツ「問題解決と創造」、「ヒトの行動と生活」を見やすく整理するために、「思考」を、「ヒトの行動と生活」の下位項目に移転するに際し、投稿記事にしたものです。今後、固定記事の方が、修正されます。
検討すべき課題と構成
「思考」は、「行動」の一部であり、情動、記憶、知覚等と並んで、心的世界を構成する。思考は、「推論」、「問題解決」、「意思決定」で構成されるとされるが、(「教養としての認知科学」「考えることの科学」等)、そのリジナルな出典は今のところ確認できていない。
この項目については、今までに作成した「思考の基礎となる基本5書」と「危機的な状況にある現代の思考に係わる2書」を紹介し、次いで「総論」、「問い」、「推論」、「問題解決」、「意思決定」に分けて参考本を紹介する。
思考
思考を論じた本は多い。まず「思考の基礎となる基本5書」と「危機的な状況にある現代の思考2書」を紹介し、「参考本」を掲記する。
思考の基礎となる基本5書
- 「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」
- 「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」
- 「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」
- 「原因を推論する-政治分析方法論のすすめ」(著者:久米郁夫)
- 「物事のなぜ-原因を探る道に正解はあるか」(著者:ピーター・ラビンズ)
「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」
人の思考の基礎である早い思考、遅い思考(「二重過程理論」について概括的に論じた本として、「意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策」(著者:阿部 修士 )(Amazonにリンク)を挙げておこう。もちろん、「ファスト&スロー」を読み込めばいいのだが、批判的に検討しやすい本として当面これをあげておく(カーネマンについて、アレコレ言うのは、多少しんどい。)。
これを踏まえ、早い思考について、1992年時点で検討している「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)と、主として遅い思考の内容を緻密に検討している「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)を紹介しておく。この2冊については内容を簡単に紹介しよう。
「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」
「不合理~誰もがまぬがれない思考の罠100」(著者:スチュアート・ サザーランド)(Amazonにリンク)は、 ヒトと組織(の中のヒト)の思考の特質(不合理性)について、丁寧にきちんと整理して論じている。著者は、サセックス大学の心理学教授であったが1998年に亡くなっており、本書の刊行は1992年で30年近い前である(しかしKindle本の刊行、翻訳等は最近行われているようだ。)。しかし内容は非常にしっかりしており、かつ著者の表現は機知に満ちていて、読んでいて楽しい。本書刊行後、ネットの普及等でヒトと組織(の中のヒト)の思考の不合理性は強まっているが、この本をネット普及前の「原型」はどうだったのかという観点から読み、現状をその「変容」と捉えればいいだろう。本書は近々「本の森」で紹介したいが、著者が「序章」で本書の構成について述べている部分だけも紹介しておきたい。
「こうした本では、序章の締め括りで、各章の要約を述べるのが約束事になっている。読者が本書を読まないでもすむように、ここで内容を要約するほど私は親切ではないが、全体の構成だけ簡単に説明しておこう。2章(誤った印象)では、人が判断ミスをおかす最もありふれた原因を述べる。その後に詳しく見ていく不合理な思考の多くにこの原因が絡んでいる。続く七つの章(服従、同調、内集団と外集団、組織の不合理性、間違った首尾一貫性、効果のない「アメとムチ」、衝動と情動)では、不合理な判断や行動をもたらす社会的要因と感情的要因を見ていく。10章から19章まで(証拠の無視、証拠の歪曲、相関関係の誤り、医療における錯誤相関、因果関係の誤り、証拠の誤った解釈、一貫性のない決断・勝ち目のない賭け、過信、リスク、誤った推理)は、事実をねじ曲げてしまうために陥る誤りを扱い、それに続く二つの章(直感の誤り、効用)では、手元にある情報の範囲内で、少なくとも理論上は最善の結論を出せるような方法を述べ、そうした方法で出した結論と直感的な選択とを比較して、直感がいかに当てにならないかを示す。22章(超常現象)では、それまでに述べてきた誤りのいくつかを振り返り、超常現象やオカルト、迷信がなぜ広く信じられているかを考える。最終章(合理的な思考は必要か)では、ヒトの進化の歴史と脳の特徴から、不合理な思考をもたらす根源的な素地を考え、併せて合理的な判断や行動を促すことが果たして可能かどうかを考える。そして最後(合理的な思考は必要か)に、「合理性は本当に必要なのか、さらには、合理性は望ましいのか」を考えてみたい。」。
なお著者は合理性について次のように言っている。
「合理性は、合理的な思考と合理的な選択という二つの形をとる。手持ちの情報が間違っていないかぎり、正しい結論を導き出すのが、合理的な思考だと言えるだろう。合理的な選択のほうはもう少し複雑だ。目的がわからなければ、合理的な選択かどうか評価できない。手持ちの情報をもとにして、目的を達成できる確率が最も高い選択が合理的な選択と言えるだろう。」。
「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」
「思考と推論: 理性・判断・意思決定の心理学」(著者:ケン マンクテロウ)(Amazonにリンク) は、人間の実際の思考を踏まえて、合理的な推論と意思決定について検討した本である。著者は、イギリスの心理学者である。少し前に入手していたが、古典的三段論法、「ならば」,因果推論、確率的説明,メンタルモデル理論、二重過程理論、帰納と検証、プロスペクト理論等、感情,合理性,個人差や文化の影響がもたらす複雑さ等、幅広く検討していて、「思考と推論」を考える上では必須の本であると思っていた。ただ問題はここに入り込むと、出てこられなくなることである。ほどほどが大事だ。
「原因を推論する-政治分析方法論のすすめ」
「原因を推論する-政治分析方法論のすすめ」(著者:久米郁夫)(Amazonにリンク)は、政治(公共政策)を主たる対象とするが、方法論は、意識的で、内容もしっかりとした客観的なものなので、安心して読むことができる。本書からの広がりもある。ただし、「人間の認知の限界」という視点は乏しいようである。
「物事のなぜ-原因を探る道に正解はあるか」
一方、「物事のなぜ-原因を探る道に正解はあるか」(著者:ピーター・ラビンズ)(Amazonにリンク)は、「原因、結果とその因果関係」を主題とし、古今の哲学者、科学者の主張を様々な事象に適用して網羅的に検討し、因果関係の論理を表す3つの概念モデル(断定型、確率型、創発型)、原因の4つの分析レベル(発生を促す原因、発生させる原因、プログラム上の原因、意図による原因)、原因を得るための3つの論法(検証型、叙述型、信仰型)にモデル化する。興味深いし、最後で行っている「Hiv/Aids」、「米国法」、「うつ病」の分析も優れていると思うが、「信仰型」の記述は若干疑問であるし、他者の諸書評によると、科学事象の記述に不正確なものがあるとのことで、有益なところだけ抜き取るという姿勢がいいのかもしれない。
危機的な状況にある現代の思考に係わる2書
- 「知ってるつもり 無知の科学」
- 「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」
前項の「思考の基礎」の本がいわば原則を論じているのに対し、現代の人の思考が論理性を失い危機的な状況にあるということについてことについて論じた本は多いが、ここでは「知ってるつもり 無知の科学」(著者:スティーブン スローマン, フィリップ ファーンバック)(Amazonにリンク)と、「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」(著者:ダニエル・J・レヴィティン)(Amazonにリンク)を挙げておく。
この2冊については、「人の知能・思考がとらえる世界とは何か-方法論の基礎」に簡単に紹介したが、もう少し応用の効く内容として紹介する必要があるだろう。
参考本
総論
- まどわされない思考 非論理的な社会を批判的思考で生き抜くために:デヴィッド・ロバート・グライムス The Irrational Ape
- 武器化する嘘 ──情報に仕掛けられた罠:ダニエル・J・レヴィティン
- 知ってるつもり 無知の科学:スティーブン スローマン, フィリップ ファーンバック
- 不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100 :スチュアート・ サザーランド
- 不合理 誰もがまぬがれない思考の罠100 :スチュアート・ サザーランド,
- 批判的思考-21世紀を生き抜くリテラシーの基盤:楠見 孝・道田泰司 編
- 決断科学のすすめ—持続可能な未来に向けて、どうすれば社会を変えられるか?:矢原 徹一
- あざむかれる知性 ──本や論文はどこまで正しいか (ちくま新書)
- 議論入門-負けないための5つの技術 (ちくま学芸文庫) :香西秀信
- Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法:ロルフ・ドベリ
- Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法:ロルフ・ドベリ
- Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法 :ロルフ・ドベリ
- なぜ、間違えたのか? :ロルフ ドベリ
- 身銭を切れ――「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質 :ナシーム・ニコラス・タレブ
- 脆弱性――不確実な世界を生き延びる唯一の考え方:ナシーム・ニコラス・タレブ
- 超一流が実践する思考法を世界中から集めて一冊にまとめてみた:ガブリエル・ワインバーグ,ローレン・マッキャン;Super Thinking
- スマート・シンキング -記憶の質を高め、必要なときにとり出す思考の技術:アート・マークマン
- 考えることの科学
- 矛盾、誤謬、詭弁、強弁、偽善、屁理屈 :久野五郎
- 賢く考える
問い
- 問いこそが答えだ!~正しく問う力が仕事と人生の視界を開く~ :ハル・グレガーセン
- 問い続ける力 (ちくま新書):石川善樹
- 問題解決 自分のやっている9割のことを疑え!:堀江 巧
- 答えが見つかるまで考え抜く技術 :表 三郎
推論
- 思考と推論 理性・判断・意思決定の心理学:K・マンクロウ
- アナロジー思考 :細谷 功
- 問題解決力を高める「推論」の技術 :羽田康祐
- 類似と思考 改訂版 (ちくま学芸文庫): 鈴木宏昭
- 原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ:久米郁男
問題解決
問題解決については、「問題解決の方法」、「問題解決の基礎」で紹介、検討した。
意思決定
- 意思決定の心理学 脳とこころの傾向と対策 (講談社選書メチエ) :阿部修士
- 意思決定トレーニング (ちくま新書) (Japanese Edition):印南一路
- ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか:ピアーズ・スティール
- 幸せな選択、不幸な選択-行動科学で最高の人生をデザインする:ポール ドーラン