「図解 老人の取扱説明書」を読む

「図解 老人の取扱説明書」(著者:平松 類)(Amazonにリンク

どこから「老人」を見るか

「老人」というと,「頭がぼけ(認知症),体を支えられなくなり,心もゆがむ」(いわば「全滅論」といえよう。)という固定イメージがある。誰だって,自分がそんな「老人」になるなんて思いもよらないはずだが,街中には,少なくてもそういうふうに見える「老人」があふれている。私もそろそろ60台半ばを迎えて,「老人」と見られる場面も出てくるはずだが,あまり「老人」の自覚はない。でもこれから一体,どうなるんだろう。そういう中でたまたま本書を手に取った。

本書(図解 老人の取扱説明書)は,老人の困った行動を16取り上げている。ここでは最初の8個をあげてみよう。

①都合の悪いことは聞こえないふりをする。②突然,「うるさい!」と怒鳴る,でも,本人たちは大声で話す。③同じ話を何度もする。過去を美化して話すことも多い。④「私なんて,いても邪魔でしょ?」など,ネガティブな発言ばかりする。⑤せっかく作ってあげた料理に醤油やソースをドボドボとかける。⑥無口で不愛想。こちらが真剣に話を聞こうとすると,かえって口を閉ざす。⑦「あれ」「これ」「それ」が異様に多くて,説明がわかりにくい。⑧赤信号でも平気で渡る。

すべて「頭がぼけ(認知症),体を支えられなくなり,心もゆがむ」全滅論に起因するように思えてくる。

しかし,著者は,その前に,年を取ると五感がどうなるかを問題にし,五感の変化について次のように説明する。

五感の変化

Ⅰ視覚 老眼が40代中盤からはじまり,60代になると老眼鏡を使わないと辛くなります。また,白内障が50代から半数以上の人に発症し,80代を超えると99%が白内障になります。白内障になると,暗い所と明るい所が見にくくなります。

Ⅱ聴覚 難聴は50代後半からはじまり,60代後半で急速に進み出し,80代以上では7~8割を占めます。まずは高い音が聞き取りにくくなり,電子音などを聞き逃します。次第に,複数の音声の聞き分けができなくなります。後ろから迫っている車の音にも気づかなくて,轢かれそうになります。

Ⅲ嗅覚 50~60代までは年齢とともに機能が高くなりますが,それ以降はやがて低下します。70代からの機能低下が大きいです。嗅覚と味覚は関連しているので,味も感じにくくなります。普段の生活では自分の体臭・口臭に気づかず,相手を不快にさせます。

Ⅳ味覚 60代から衰えてきます。味覚障害により,醬油やソースをたくさんかけたくなります。味がわかりにくくなることで食べる楽しみが減るため,食欲もなくなります。

Ⅴ触覚(温痛覚) 50代から衰えはじめ,70代から顕著になります。手に持っているものの感覚が弱まるため,物を落としやすくなります。温度感覚も鈍るので,やけどをしやすくなります。若い人と同じ空間にいても空調の設定が違うため,嫌な顔をされます。

困った行動のかなりの部分は五感の変化が原因だ

上記した8つの困った行動のうち,①②⑤⑥は,五感の変化が原因の可能性が大きく,③⑦は記憶の問題,⑧は歩く速度の問題であり,五感以外の心身機能の一部が衰えてくるということだ。④は,役割の問題である。残りの8個の困った行動の多くも,五感の変化と心身機能の一部の衰退が原因だ。

五感の変化や心身機能の一部の衰退については,それぞれ「老人」自身で,それ相応の対応ができるし,家族や第三者もそのことが理解できると対応の仕方が大きく変わるだろう。「老人」の行動を「全滅論」で理解し,対応することはお互いにとって不幸だということだ。

全滅論につながる機能の衰退は阻止できる

五感の変化はそれを理解し,適切に対応すれば,さほど問題ではない。一方,心身機能の一部の衰退が,徐々に大きな衰退につながると,その影響は甚大である。これを防ぐのは,食動考休,特に動考である。本書でも簡単に触れられているが,見過ごしてしまいそうだ。間に合ううちに始めなければ…

本書について

「老人の取扱説明書」という題名には,多くの人が顔をしかめそうだが,本書は,老人を「取扱う」主体として,施設,病院等の第三者だけではなく,家族,そして自分自身を想定している。しかも著者は,多くの「老人」と接している「眼科医」ということのようだから,上記のとおり,問題とされる困った行動事例も,あまり深刻でない事例だ。そうなると,「取扱説明書」という機能的な観点がかえって好ましい。

なお,本書には,図解でない,新書版があるが,図解版をおすすめしたい。新書の方は記述が煩わしい。図解版はタブレットがなくてもパソコンにkindleソフトをインストールすれば読むことが出来る。

詳細目次

 

CONTENTS

目次

はじめに

第1章 老人の困った行動3大定番

その1   都合の悪いことは聞こえないふりをする。 ● 姑が嫁の話だけ聞かないのは,嫁の声に秘密が隠されていた ● 難聴を改善する! 1日5分の超簡単トレーニング

その2   突然,「うるさい!」と怒鳴る。でも,本人たちは大声で話す。 ● 年を取ると短気になるのではなく,声が大きくなるだけである ● マグネシウムを摂る。補聴器を使いこなす

その3   同じ話を何度もする。過去を美化して話すことも多い。 ● 記憶力が低下しているのなら,どうして同じ話を何度もできるのか? ● 周囲が怒ったところで,同じ話をしすぎたからだと思わない

第2章 いじわる

その4  「私なんて,いても邪魔でしょ?」など,ネガティブな発言ばかりする。 ● 話をとにかく聞くのも封じ込めるのも大間違い ● お遊戯をやらせる必要はなし。1人残された高齢者にこそ連絡を

その5   せっかく作ってあげた料理に醤油やソースをドボドボとかける。 ● 塩分は若い頃の12倍使わないと,同じ味に感じない ● 牛肉や卵を食べて亜鉛を摂取すれば,味覚が鍛えられる

その6   無口で不愛想。こちらが真剣に話を聞こうとすると,かえって口を閉ざす。 ● 男性は女性よりも2倍以上声が出にくくなる ● 1から10までを数えるだけで,声がよく出るようになる

その7  「あれ」「これ」「それ」が異様に多くて,説明がわかりにくい。 ●「あれ」や「これ」の正体をしつこく問い詰めるのはご法度 ● 会話を成立させるために「取り繕っている」可能性がある

第3章 周りが大迷惑

その8   赤信号でも平気で渡る。 ● 日本の信号機は,高齢者が渡り切れないように作られている ● 簡単スクワットとシルバーカーで,早く渡れるようになる!

その9   口がそこそこ臭い。 ● 歯ブラシと歯磨き粉だけでは,歯はきれいにならない ● 口臭を防ぐ食べ物はいろいろ。酸っぱいもの,果物,硬いものなど

その10   約束したのに,「そんなこと言ったっけ?」と言う。 ● 話を忘れていたのではなく,話が元々聞こえていなかっただけ ● 周囲を見回し,名前を呼んでから話す。青魚やクルミをよく食べる

第4章 見ていて怖い,心配…

その11   自分の家の中など,「えっ,そこで!?」と思うような場所でよく転ぶ。 ● 高齢者の事故現場で最も多いのは家の中 ● 遠近両用メガネが転倒を招く

その12   お金がないという割に無駄遣いが激しい。 ● 人間は生きた年数が長いほど,他人を信じやすくなる ● 高齢者も実は,アダルトサイトをよく見ている

その13  「悪い病気じゃないのか…?」と思うくらい食べない。 ● 野菜中心の小食は,健康志向の真逆だった ● 歯ブラシは最低でも月に1本は変えよう

その14   命の危険を感じるほどむせる。痰を吐いてばかりいる。 ● むせることや痰を吐くのを止めると,死を招くことも… ● 喉を詰まらせたら,とにかく背中を叩く!

その15   その時間はまだ夜じゃないの?というほど早起き。 ● 早起きを放置すると,昼夜逆転や認知症になることも… ● 眠くないのに寝ようとすると,かえって目が覚めてしまう

その16   そんなに出るの?と不思議に思うくらいトイレが異常に近い。 ● 高齢者は1時間以上じっとさせてはならない ● 食物繊維も摂り方を間違えると便秘を招く

コラム❶ 年を取ると五感はどう変わるのか?《実例編》 コラム❷ 年を取ると五感はどう変わるか?《解説編》