「ドラッカーと会計の話をしよう」を読む

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著者:林 總

ドラッカー経営学のケーススタディ第3弾だ

「もしドラ」,「もしドラ2」が,クリエーターが作った野球の物語によるドラッカー経営学のケーススタディだとすれば,本書は公認会計士さんが作った営利組織(イタリアンレストラン)と,非営利組織(病院)の物語によるドラッカー経営学のケーススタディである。著者の職業故というべきか,「もしドラ」より本書の方が地に足の着いた説明になっているし,ドラッカー経営学の内容も,はるかに理解しやすい。それに今だけかもしれないが,Kindle本が230円なので,「買い」である。

ドラッカー経営学のポイントは,「顧客の創造」であり,それを実現するためのマーケティング(顧客の現実,欲求,価値)とイノベーションである。これは営利組織,非営利組織に共通している。要するにドラッカーはこのことを状況に応じて変形させ,繰り返して述べているだけのような気がする。

これが頭に入っていれば,本書は簡単に通読できる。

営利組織について

売上-費用=利益と,儲けは同じか。利益は便宜上の期限で区切られ,いくらでも操作できる。存在しない。儲けとは,稼いだ現金,キャッシュフローだ。

新たな価値だけが新たなキャッシュフローを生む。経営で大切なのは将来にわたり価値を創造し続けることだ。

10対90の法則,商品にはライフサイクルがある。明日の主力商品にコストをかける。

企業の内部にあるのはコストセンターである。プロフィットセンターは顧客にある。コスト,お金は儲け利益を生むように使わなければならなコストは,ビジネスプロセス全体で考える。ABC原価計算(「レレバンス・ロスト」)を考える。コストを負担するのは,顧客である。

非営利組織について

ここでは,知識労働が問題とされる。

労働生産性の向上とは,それまで人がしてきた作業を機械に置き換えることにほかならない。 機械に置き換えられるのは肉体労働の生産性だけなんだ。 知識労働の生産性は逆に悪化してしまう。より賢く働くことしか方法はない。

知識労働者の生産性を高める第一歩は,仕事の目的を考え,仕事の内容を明らかにすることだ(条件一)。これができれば,自律性が高まり,生産性の向上を目指し,専門性を磨くようになる(条件二)。さらに,イノベーションを積極的に行い(条件三),学習意欲が高まる(条件四)。そして,生産性とは質の問題であることを知り(条件五),知識労働者は組織に価値をもたらす資本財であることを理解する(条件六)。

すでに起こってしまい,もはやもとに戻ることのできない変化,しかも重大な影響力をもつことになる変化でありながら,まだ一般には認識されていない変化を知覚し,かつ分析することである(傍観者の時代)。

ドラッカーにどの程度向き合おうか

ところで,入山章栄さんという経営学者の「世界の経営学者はいま何をかんがえているのか」という本の「「第1章 経営学についての三つの勘違い」の最初に,「アメリカの経営学者はドラッカーを読まない」と書いてあることは,かなり前から知っていた。そうですかというだけのことだが,入山さんはそれに引き続いてくどくどといろいろなことを書いていて,要するにドラッカーは「科学」ではないということなんだろうけれど,そもそも「経営学」は科学なのかという問いの方がよっぽどましな気がする。科学的に構築・検証されたものでないので「真理に近くない」可能性が大いにあるそうだが,入山さんは,科学とか,真理の概念分析から始めたほうがよさそうだ。

といっても,私はドラッカーのにわか読み手に過ぎないので,このような「神々の争い」に参戦する気はないが,確かに「ドラッカー365の金言」とか「名言集…の哲学」とかがたくさん出ているところを見ると,ドラッカーの世界全体を視座に入れた切れ味鋭い文章を読んで,ドラッカーはすべて正しいとする熱烈なファンがいるのだろう。「もしドラ2」に「ハーバート・サイモンに似たところがある」と書いたが,ドラッカーが分身と名指しする翻訳者がいたり,「知の巨人」などと言われているところを見ると,日本の吉本隆明の名をあげるほうがぴったりかもしれない。吉本隆明とドラッカーでは,「政府,政治」が「企業,経営」に置き換わっているだけだと考えると納得できる。

ただとにかく「経営」という現実を切り取り整理するのに便利な言葉が多いので,これからも折に触れてドラッカーを読もうと思うが,一種の自伝であろうが「傍観者の時代」だけは,すぐに読もうと思っている。入山さんもこれは読まれた方がいいだろう。支える文化,教養の違いが歴然としている。

それからいったんコーポレートガバナンスに戻り,法やITについて検討しよう。
詳細目次

PART1  利益は幻想である(営利組織編)

prologue ファーストクラス ──レストラン経営者と謎の紳士 独立/予想外のアップグレード/ファーストクラスの値段/離陸

第❶章 ディナータイム ──利益が会社を潰す フレンチのフルコース/経営の神様ドラッカー/アリとキリギリス/経営の究極の目標/事業年度という暴君/キャッシュフローこそ儲けである/利益の本当の意味/新たな価値だけが新たなキャッシュフローを生む/利益は幻想

第❷章 あかりの消えた機内 ──「松」「竹」「梅」はどれがお得か? 消灯時間/豊富なメニューは誰のため?/売れる商品はごく一部/商品ラインナップを売れ筋に絞り込む/商品のライフサイクル

第❸章 真夜中の決断 ──コストカットは未来を奪う 誰のための夢なのか/プロフィットセンターはどこにある/コストの 90%はムダに使われる/目標を実現するためにお金を使う/投資もコストも同じ支出

第❹章 再起の朝──客はオーケストラの何にお金を払うのか? 削れないコスト/最古の情報システム/ビジネスプロセス全体で考える/間違いだらけの原価計算/ABC原価計算/最後にコストを負担するのは誰か/ムダなコストの正体/「将来は誰にもわからない」/着陸 epilogue 2年後 ──経営の神髄 再会/再出発した家族/パレオの復活

PART2  病院はなぜ儲からないのか(非営利組織編)

prologue ニセ看護師と金満病院経営者 決別/佐原病院/理想と現実の壁

第❶章 500万円の金婚旅行 ──「使命」のためなら赤字でもかまわないのか ファーストクラス/離陸/急患/傍観者ドラッカー/病院はミッション第一でいいのか

第❷章 大介の決断 ──黒字でなければ生き残れない 根津の居酒屋/会社と病院の経営に違いはない/病院のミッション/利益の本質/この病院を救えるのは自分しかいない

第❸章 西園寺のレクチャー ──なぜ病院は入院患者を追い出そうとするのか 病院再建案/経営委員会/企業の目的は「顧客の創造」/マーケティングとイノベーション/マーケティングは「患者の視点」/治療と予防,どちらが儲かるか/ベッドの稼働率と回転数を上げる/病院の工程管理/QCD(品質とコストと納期)

第❹章 再建のカギ ──病院は燃費の悪いアメ車なのか 最新の画像診断装置/事務作業でイノベーション/知識労働者の生産性/組織が生み出す付加価値とは/設備投資が生産性を高めるとはかぎらない

第❺章 最後の問題 ──知識労働者と肉体労働者 さらば,佐原病院/仕事を定義する/医師の生産性/資本財としての知識労働者/急変/ヒースロー空港到着

第❻章 新生・佐原病院 ──知識労働者の生産性イノベーション 再会/ブライアン看護師の原則/佐原病院再建プロジェクト/QCDの実現/競争原理で治癒率が向上/ミスの予防こそ最大のコスト削減/ケアサイクル

epilogue 馬淵美子の手紙

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