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大人のための国語ゼミ_を読む

目次

大人のための国語ゼミ_への道標

書誌_大人のための国語ゼミ:野矢茂樹

短い紹介と大目次

短い紹介

本書は、子どもではなく、国語の授業から離れた大人たちを対象とした、実用的な文章力を鍛えるための指南書である。本書の主な目的は、日常生活や仕事で必要とされる「普段使いの日本語」の運用能力を磨くことにあり、読み手が「国語の学び直しが必要かもしれない」と感じさせる問いかけから始まる。具体的なテーマとして、「相手のことを考える」コミュニケーションの重要性、「事実なのか考えなのか」を区別する洞察力、そして「言いたいことを整理する」論理的な文章構成力に焦点が当てられ、特に接続表現を適切に用いて文章を「きちんとつなげる」技術が集中的に解説されている。本書は、単なる知識の解説ではなく、読者に問題を解く体験を通じて「国語力」を向上させることを目指しており、読み手に負担をかけない分かりやすい文章を書くための実戦的な方法論を提供している。

大目次

  • はじめに
  • 1 相手のことを考える
  • 2 事実なのか・考えなのか
  • 3 いいたいことを整理する
  • 4 きちんとつなげる
  • 5 文章の幹を捉える
  • 6 そう主張する根拠は何か
  • 7 的確な質問をする
  • 8 反論する
  • おわりに
  • 参考文献
  • 後記

一口コメント

要約と詳細目次

要旨

本書は、学校教育を終えた大人に向けて「普段使いの日本語」の能力を再構築・向上させることを目的とした実践的な指南書である。本書は知識の伝達に留まらず、読者が国語力の必要性を痛感すること(第一の目標)、実際に能力を鍛えること(第二の目標)、その過程を楽しむこと(第三の目標)を目指している。

核となる思想は一貫して「相手のことを考える」という姿勢にある。自分の言葉が相手にどう伝わるかを常に意識し、理解を促すための説明や言い換えを厭わない態度を指す。この姿勢と具体的な国語力は「スパイラル構造」にあり、一方が向上すればもう一方も向上する正のスパイラルを生み、一方が欠ければ負のスパイラルに陥ると警鐘を鳴らす。

本書で詳述される国語力は、以下のスキルで構成される:

  1. 言いたいことの整理:思いつくまま書かず、「よけいなことは書かない」「話題ごとにまとめる」「書く順序に注意する」という三原則に基づき文章の骨格を明確にする能力。
  2. 論理的な接続:接続表現(「だから」「しかし」など)を的確に用い、文と文の関係を明示して文章全体の流れを示す能力。
  3. 核心の把握(要約):文章を「幹」(中心的主張)と「枝葉」(具体例・補足)に区別し、本質的情報だけを抽出する能力。文章が答えようとしている「根」(問いかけ)を捉えることが鍵。
  4. 説得力のある議論:事実と意見を区別し、意見や推測を述べる際は適切な根拠を示す能力。
  5. 能動的な理解(質問):受け身で情報を処理せず、「情報の問い」「意味の問い」「論証の問い」を通じて主張の核心に迫り理解と納得を深める能力。
  6. 建設的な対話(反論):単なる「水かけ論」を避け、相手の論証の不備を指摘し、対立する主張を新たな根拠とともに提示する能力。

本書はこれらを具体的な問題演習で体得させる構成をとり、国語力は単なる言語技術ではなく、他者と分かりあおうとする努力を支える根源的な力であると結論付けている。

1. 本書の目的と方法論

本書は国語の授業から遠ざかった大人を対象に、文学的鑑賞ではなく日常生活や仕事に不可欠な「普段使いの日本語」の能力を鍛えることを主眼に置いている。

1.1 三つの目標

著者は本書の目標を次の三点に集約している。

  1. 必要性の喚起:日常のコミュニケーションで意図が正確に伝わらない場面を指摘し、読者に「国語を学び直す必要」を感じてもらうこと。
  2. 国語力の鍛錬:解説を読むだけでなく、読者が実際に問題に向き合い思考する経験を通じて実践的な国語力を鍛えること。
  3. 学習の楽しさ:実用性を重視しつつ、面白みやマンガ形式を取り入れて学習を継続しやすくすること。

1.2 方法論的特徴

本書は以下の方法論を採用している。

  • 「普段着の文章」への注力:名文ではなく、物事を正確に伝え理解するための実用的な文章を扱う。
  • 実践的な問題演習:解説を読むだけで身につかないため、読者が主体的に考える問題演習を中心に据える。
  • 学習効果を最大化する問題設計:著者が学習ポイントを明確にするために自作または書き直した問題文を用いる。
  • マンガによる学習支援:高校生キャラクター4人のマンガで要点確認や疑問提示、学習プロセスを楽しく分かりやすくする。

2. コミュニケーションの基本姿勢:相手のことを考える

本書が最も重視する基盤は「相手のことを考える」姿勢である。自分の言葉が相手に理解されているかに敏感になり、理解してもらう努力を惜しまない態度を指す。

2.1 国語力とのスパイラル構造

「相手のことを考える」姿勢と「分かりやすく説明する」国語力は相互に影響する。

  • 正のスパイラル:相手を考える努力が説明力を高め、国語力向上が相手を考える姿勢を促進する。
  • 負のスパイラル:国語力が不足すると説明を怠り、相手を考えなくなり、国語力がさらに衰える。

本書の目的の一つは読者を負のスパイラルから脱却させ、正のスパイラルへ導くことである。

2.2 具体例に見る実践

本書は、聞き手の知識や背景を考慮しないことで生じるコミュニケーションの失敗を複数例で示す。

場面設定不適切な説明・伝わらない言葉相手が理解できない理由
小学5年生に消費税を説明「税金」「定価」を説明せず使用小学5年生は概念を学んでいない。相手の知識レベルを想定していない。
外国人に日本の「お祭り」を説明「神社」「参道」「境内」「屋台」「お神輿」などを説明せず使用日本の文化を知らない相手には意味不明。共通の知識基盤がない。
料理初心者の高校生に飯盒炊さんを指導「米をとぐ」「4合」「無洗米」「はじめチョロチョロ中パッパ」「蒸らす」などを使用経験者には自明でも初心者には手順や意味が分からない。

これらは、話し手が当然とする知識が聞き手には未知である可能性を常に念頭に置く重要性を示す。

3. 論理的思考の基礎:事実、意見、多面性の理解

正確なコミュニケーションには、発言内容の性質を正しく理解し区別する必要がある。本書は「事実」と「考え」の区別を基本とし、その境界が明確でない「事実の多面性」にまで踏み込む。

3.1 事実・推測・意見の区別

区分定義
事実その正しさが既に確定している事柄。
考え推測:事実だと思われるが不確か。意見:価値評価・規範・態度表明など。

意見を事実であるかのように述べることを批判し、考えを述べる際には「~と思う」「私の考えでは」などで明示するべきだとする。

3.2 事実の多面性

自然科学以外の領域では事実と意見の区別は単純でない。

  • 見方の影響:事実描写は視点に影響される(新聞による描写の違いなど)。
  • 「ものは言いよう」:表現で印象が変わる。
  • 多面性の認識:事実そのものが多面的であると理解し、他の見方を常に考える感受性が重要。

3.3 議論の前提と決めつけの排除

建設的な議論には、議論の「前提」と「主題」の区別が必要である。

  • 議論の前提:参加者間で共有されている事実や価値観。
  • 議論の主題:これから論じるべき事柄。
  • 決めつけを外す:本来主題である事柄を前提とみなして話を進める「決めつけ」を見抜き、それを主題として取り上げることが不可欠である。

4. 明確な伝達のための文章構成術

分かりやすい文章は個々の文が正しいだけでなく、文章全体の流れが明確である。本書は、思いつくままに書くことを戒め、書く前の「下ごしらえ」として思考を整理する重要性を説く。

4.1 分かりやすい文章の3原則

  1. よけいなことは書かない:主題から外れる話は切り捨てる。
  2. 話題ごとにまとめる:関連する内容を一つのブロックにまとめる。
  3. 書く順序に注意する:導入から結論へ、あるいは時系列など、読者が理解しやすい順序で配置する。

4.2 例文による改善プロセス

これらの原則により、混乱した文章がどのように改善されるかを示す。

  • ごみ問題の文章:脱線を削除し「消費者」「販売者」「生産者」の観点で再構成することで明確な骨格にする。
  • ドイツビールの歴史:脱線を削除し「ビール純粋令」と「修道院」という中心話題に整理、時系列で並べ替えることで流れを改善する。
  • 選択肢とストレスの文章:原因を明確に分類してまとめることで論点をクリアにする。

5. 文章の構造を的確に捉える:接続と要約

文章を深く理解し自分の思考を明確に表現するには、文と文の論理的つながりを意識し、文章全体の構造を把握する能力が必要である。

5.1 接続表現の重要性

接続表現(「だから」「しかし」「例えば」など)は個々の文を結びつけ、文章全体の流れを示す道しるべである。

  • 論理関係の明示:順接、逆接、例示、換言など多様な関係を示す。
  • 理解の補助:適切な接続表現がないと読者は関係性を推測する負担を強いられる。
  • 「語調モード」からの脱却:雰囲気で読む「語調モード」ではなく、論理的につながりを意識する「理解モード」に切り替えることが重要。

5.2 要約による核心の把握

要約は単なる短縮ではなく、文章の構造を分析し核心を抽出する作業である。

  • 「幹」と「枝葉」の区別:要約は幹(中心主張)と枝葉(具体例・補足)を見分ける訓練である。
  • 文章の「根」の発見:文章が答えようとする問い(根)を特定すれば、幹が明確になる。
  • 要約のプロセス:「切って(枝葉を切る)・つないで(幹をつなぐ)・書き直す(自然な文章にする)」という手順を通じて読解力と表現力を鍛える。

6. 説得力のある議論の構築:根拠、質問、反論

他者と分かりあうためには、主張を支える論理的基盤を示し、相手の主張を理解し建設的に応答する能力が不可欠である。

6.1 根拠の提示

主張の説得力はそれを支える根拠の質に依存する。

  • 根拠の必要性:事実を述べる場合は不要でも、推測・意見を述べる際には根拠が必須である。根拠のない推測は憶測、根拠のない意見は独断に過ぎない。
  • だめな根拠・弱い根拠:誤った根拠、循環論法(論点先取)、結論との関連性が低い根拠などは説得力を欠く。

6.2 的確な質問力

質問は受け身の理解から能動的な理解へと転換させる強力なツールである。

  • 質問の3タイプ:
  1. 情報の問い:より詳細な情報や関連情報を求める。
  2. 意味の問い:不明な言葉や曖昧な表現の意味を明確にする。
  3. 論証の問い:主張と根拠の論理的つながりを問う。
  • よい質問:議論の「幹」や「太い枝」に関わる核心に迫る質問であり、表層的な理解を超えるものである。

6.3 建設的な反論

対立は「水かけ論」に陥りがちであり、建設的な反論の技術が必要である。

  • 反論の定義:相手の論証の不備を指摘した上で、対立する主張を新たな根拠とともに述べること。
  • 反論のコツ:
  • 相手の論証構造(根拠と結論)を把握する。
  • 常に批判的な視点で根拠を検討する。
  • 隠された前提を見つけその妥当性を問う。
  • 類比論法には重要な相違点を指摘する。
  • メリットとデメリットを比較考量する。

7. 結論:言葉の力と正のスパイラル

本書の最終メッセージは、国語力、すなわち言葉の力が人間関係や社会における「分かりあう」営みを支える基盤であるという点にある。

人間同士が完全に分かりあうことは幻想だが、「どうせ分かりあえない」と諦めることはさらに危険である。重要なのは、不完全でも分かりあおうとする努力を続けることであり、その努力を支えるのが言葉の力である。

分かりあおうとする努力と言葉の力の間には正のスパイラルが存在する。分かりあおうと願うことで言葉の力は磨かれ、言葉の力が向上すれば分かりあう努力が容易になり、さらに意欲が湧く。本書は読者がこの正のスパイラルに踏み出すための最初の、重要な一歩を後押しすることを企図している。

  • はじめに
  • 1 相手のことを考える
    • 本当に分かってもらおうとして話していますかっ
    • なぜ100円でコアラのマーチが買えなかったのかを説明する.
    • 日本のお祭りはどういうものですか?
    • 高校生に飯金炊さんのやり方を教える
  • 2 事実なのか・考えなのか
    • 事実・ 推測・ 意見を区別する
    • 事実の多面性
    • 意見や見方を共有していない相手に向けて話す
    • 決めつけをはずす
  • 3 いいたいことを整理する
    • 思いつくままに書いてはいけない
    • よけいなことは書かない・話題ごとにまとめる・ 書く順序に意する
    • ストレスについて書かれたストレスを生む文章
  • 4 きちんとつなげる
    • さまざまな接続関係
    • つなぎ方に敏感になる
    • つなげて書く
  • 5 文章の幹を捉える
    • 枝葉を切り取り、幹の 形を見きわめる
    • 文章の 根を捉える
    • 解説と根拠を要約でどう扱うか
    • 要約の下準備
    • 要約の練習をする ―中級編
  • 6 そう主張する根拠は何か
    • 根拠を示さなければいけない
    • 「理由」や「原因」は「根拠」と同じものなのか
    • だめな根拠・ 弱い根拠
  • 7 的確な質問をする
    • なぜ質問の練習をしなければいけないのか?
    • 情報の問い・ 意味の問い・ 論証の問い
    • 質問のよしあし
  • 8 反論する
    • 水かけ論から抜け出すために
    • 反論のコツ
    • さあ、反論してみよう
  • おわりに
  • 参考文献
  • 後記

Mのコメント(言語空間・位置付け・批判的思考)

ここでは、対象となる本の言語空間がどのようなものか(記述の内容と方法は何か)、それは総体的な世界(言語世界)の中にどのように位置付けられるのか(意味・価値を持つのか)を、批判的思考をツールにして検討していきたいと思います。ただサイト全体の多くの本の紹介の整理でアタフタしているので、個々の本のMのコメントは「追って」にします。

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