書誌_リーガル・テック:佐々木隆仁
デジタル社会の難問、病理に向き合う
先日あった「シンポジウム 人工知能が法務を変える?」では、レクシスネクシスのトルコ人弁護士が「リーガルテック」という観点から、今後の弁護士業務のあり方を切り取っており、刺激的だった。その直後に本書の発刊を知り、早速入手してみた。著者は、AOSリーガルテックという会社の代表取締役であるが、本書は、会社で展開している、」あるいは今後展開したいと思っている事業から、会社色を抜いたからか、焦点が定まらない「報告書」という印象だ。強いて軸を求めるなら、現在のデジタル社会の難問、病理に向き合うのは大変だということであろうか。
まず問題が展開される場は、①アメリカ、②日本、③アメリカで事業する日本企業がある。これについて、デジタル情報が爆発的に増加している中で、ⅰアメリカの法律家が①について訴訟やeDiscovery、カルテル捜査、あるいは法情報を含む情報収集にどう対応しているかという問題、ⅱこれについて日本の法律家が③との関わりでどう対応するかという問題が、固有の「リーガルテック」の問題である。これから派生して、ⅲ②日本において、日本の法律家に、これらの流れが今後、どのように及ぶかという問題がある。
これらとは別に、ⅳデジタル情報が爆発的に増加しているデジタル社会の進展につよて、日本の社会全般に様々な難問、病理が生じており、これに向き合い対応することが必要であるという問題領域がある。この本の記述の主流は実はこちらであって、「リーガルテック」という署名がそぐわない気がするわけだ。
痕跡は消せない
この本の著者はもともと「ファイナルデータ」というデータ復元ソフトの開発・販売をしていたそうで、そういう中で、検察庁や警察の捜査に役立つ手段(フォレンジック)を提供してきたという歴史もよくわかる。
本書には、「Line の情報をデジタルフォレンジックでさらに解析すると、人間関係、行動範囲、考え方、趣味・嗜好など、あらゆる個人情報がわかってしまいます。それが、Line が犯罪捜査に活用されている理由です。」等、デジタルの痕跡は消せないこと、画像のフォーカス補正によって「見えないものがみえてくる」、「重要機密はハッキングではなく社内から漏れる」等々の記述もあって、デジタル社会の難問、病理がよくわかる。セキュリティも考え直す必要性を感じる。
楽しいかなあ
本書を通読して思うのは、デジタル社会の難問、病理に向き合う必要があるということだが、一番の問題は、「こんな社会は楽しいんだろうか。いつまでもこれでいいんだろうか。」ということである。少なくてもAIという切り口には夢がある。
目次
- はじめに なぜ、いまリーガルテックが注目されているのか?
- 第1章 リーガルテックが法律業界を変える
- リーガルテックは世界の法律業界の主流
- リーガルテックはどうしてアメリカで進化したのか
- 訴訟の数だけリーガルテックは進化する
- リーガルテックがないと訴訟費用で企業が倒れる
- 弁護士費用をいかに抑えられるか
- eディスカバリに対応して急成長するリーガルテック市場
- スタートアップ投資額は4年間で3倍以上
- 刑事捜査や訴訟を変えるデジタルフォレンジック
- リーガルテックが変える法律サービス
- M&Aに活用されるリーガルテック
- アメリカで起きたことは日本で起きる
- 第2章 デジタルデータで運命が変わる
- たった1通のメールが運命を変える
- デジタルデータは消えない
- 携帯電話の通話履歴はずっと消えない
- 誰もが簡単に情報を流出できる
- SNSは情報漏洩のツール?
- 重要機密はハッキングではなく社内から漏れる
- 情報漏洩への対応が異なる日本とアメリカ
- LINEなどのチャットツールの普及が犯罪捜査を変えた
- 見えないものが見えてくる、進化する画像解析
- 第3章 日本の弱点をリーガルテックで克服する
- 世界に立ち遅れた裁判の電子化
- 日本企業は狙われる!
- 儲かっている企業は狙われる!
- 業務中に突然現れるFBI
- 海外の刑務所に服役する日本人サラリーマン
- 日本企業にはリーガルテックを使った予防法務が必須
- 予防法務は生産性を上げる
- 多額の賠償金の裏には日本企業の準備不足がある
- 証拠保全への意識が低い日本人
- 膨らむ賠償金による経営リスクを抱える日本企業
- このままでは日本の知的財産は奪われる
- アップルも負けた訴訟相手、NPEとは?
- M&A下手といわれる日本企業
- あなたの個人情報はどこまで守られる?
- ある日、突然、あなたも容疑者になる?
- 日本はスパイ天国?
- リーガルテックが東京オリンピックを成功へ導く
- 第4章 AI、IoTがつくるリーガルテックの未来
- 世界を震撼させたパナマ文書の解析
- キーテクノロジーは人工知能(AI)とInternet of Things(IoT)
- IoT社会は証拠の宝庫になる
- AIが人間を超える?
- ロボットが人間を超える?
- 法律業界にもロボット登場!
- 2020年までに全世界で約720万人の雇用が消える
- 弁護士も安泰とはいえない
- AIが不正や犯罪を未然に防ぐ
- AI対AIの裁判?
