法とルールの基礎理論・序説
「法とルールの基礎理論」でどんな問題を解決するのか
これまで「法とルールの基礎理論」、「法とルールの基礎理論の本まとめ読み」という記事を作成してきたが、いずれも「入口」の前に佇む風情に止まっている。
そもそも私はなぜ「法とルールの基礎」を考察しようとするのかの確認から始めよう。
基礎法学の学者であれば、「学問」、あるいは「知的好奇心」ということで済ますこともできるだろうが、私は「問題解決と創造」を志す弁護士実務家であるから、目的は、法に関わる現実の「問題解決と創造」に活かすことである。
では解決すべき法に関わる現実の問題とは何か。
3つの問題設定
3つの問題とは
当面、解決すべき問題を、「権力制御と人権保障」、「専門性・複雑性による制御不能」、「デジタル情報の氾濫による制御不能」の3点と捉えてみる。
私も含めて、これまで法のあり方を批判的に検討しようとする者は、少なくても「権力制御と人権保障」は視野に入れていた、あるいはそれ以外の視座を持てなかったといっていいであろうか。
でも今法が直面しているのは、「専門性・複雑性の制御不能」によって現実へ対応できず、「デジタル情報の氾濫による制御不能」によってその機能が破綻しつつあるという現実だ。
しかし、だから「法の再生、復権だ」などと軽々にいうと、「権力制御と人権保障」と衝突することは間違いない事実だ。
いずれの問題も深くその根拠に遡り、法をどのように定立、運用すれば、上記3点の問題解決への展望が開かれるのかを探求しよう。
3つの問題についてどのようにアプローチするのか
「権力制御と人権保障」は、これまでの実定法学に加えて、周辺の「法哲学」、「法思想史」、「法制史」、「比較法」、「法社会学」、「法と経済学」等々(以下、「周辺法学」という。)、更に、法学から離れ、進化論、言語ゲーム、ゲーム理論、行動経済学、複雑系ネットワーク科学、ベイズ推定、統計学等々(以下、「周辺科学」という。)を踏まえ、活用することによって、政府の立法実務と裁判所の法実務(法解釈+事実認定)を「権力制御と人権保障」を実現する「科学」にすることが目的だ。
「専門性・複雑性の制御不能」は、周辺法学、周辺科学をにらみつつ、,複雑系科学、システム思考により、複雑化した世界や社会、テクノロジーに対応すること、及び、対象が複雑で専門的であっても、一般市民として通常の日本語運用能力があれば、理解し、使いこなせる平易な立法化(立法学)の問題といえるであろうか。
「デジタル情報の氾濫による制御不能」は、デジタル・テクノロジーの氾濫による、社会(コミュニケーション。ルーマンは社会の要素とした。)の制御不能、破綻の問題である。その根底には、ヒトの「本性」の問題があり、法で規制すれば済むというような問題ではない。
最近、私は後2者に首を突っ込んでいたが、これらの問題を法の定立、運用によって解決するためには、「権力制御と人権保障」の深掘りが不可欠であろうと気が付いたのである。
実定法学という面から見たとき、主として、「権力制御と人権保障」は公法、私法、刑事法、「専門性・複雑性の制御不能」は社会法、経済法、「デジタル情報の氾濫による制御不能」は情報法の問題といえるだろう。
そこで新しい「法とルールの基礎理論」として、まず上記した諸学を検討し、政府の立法実務と裁判所の法実務(法解釈+事実認定)を「権力制御と人権保障」を実現する「科学」にすることを志しつつ、後2者の問題に突入しようと考えた次第である。このブログ記事も大分法律家らしくなってきた。
「法とルールの基礎理論」の方法と枠組み(暫定版)
法文と国際法から馴染もう
「法とルールの基礎理論」を再考する場合、通常、「法哲学」に飛びつくだろうが、問題は分析ではなく、上記の3つの問題の解決が焦点であるから、対象であるで法と慣れ親しむことが何より重要である。
そのため、前提として「Ⅰ 法文を読む」と「Ⅱ 国際法を読む」を先行させようと考えた。
「法文を読む」のは当たり前の前提だが、「国際法を読む」は盲点であった。
法律実務家は、憲法の裁判規範化(憲法裁判)を、少なくても民事法、刑事法と並んで身につけようとしてきたことは間違いないが、「国際法」は憲法サイドから眺めるぐらいで、「国際法」の実態(「戦争と平和」のみならず、経済、環境問題)はほとんど把握していなかった。その結果、憲法規範が先行して、国家とか法に関する現実的な認識が不十分にならざるを得なかったと思える。まず「国家」間で何が起こっているのか、国内法と「国家」の対応にはどのような関係があるのか(アメリカやイスラムはどうして不思議な対応をするのか)等に目を向けなければならない。
ルール論
ただ「法文と国際法」の前に、そもそも「法や規範」を包み込む、「ルール」(規則)とはどのようなもので、どのように機能しているのかを確認しようか。当面思いつくのは、ヴィトゲンシュタインの「言語ゲーム」と、文字どおりのゲーム(遊戯ゲーム)の「ルール」である。「法とルールの基礎理論Ⅰ ルール論」について簡単に検討してみよう。
基礎理論の方法
通時性、共時性と領域
その上で(法令と国際法の具体性を踏まえて)、法とは何かについて、法がどのように機能してきたのかについて、どの時点でのどの領域での話かについて、比較検討することが重要だろう。要するに、今私たちが抱いている「法」のイメージは、近代ヨーロッパの国民国家の成立後のかなり一時的かつ偏頗な(要は偶然成立している)法のあり方に過ぎず、それを普遍的なものとして法を再生させようとしても意味がないということを肝に銘じよう。
法、規範、ルール
前項と関連するが、法の定義、内容は、流動的であり、法以外の、社会規範、これらを含み込む「ルール」を想定し、そういう中で、3つの問題に対して機能する「法、規範、ルール」を検討すべきであると考えている。ここについては、更に「法とルールの基礎理論」で挙げた「規範とゲーム 社会の哲学入門:中山康男」を読み込んで、使いやすいツールにしようと思うが、それに先立って、「哲学」を整理しておくことが便利だろう。そこで「法とルールの基礎理論Ⅱ 方法としての哲学」を検討することにした。
法文と国際法の次は何か
「法文を読む」の延長上に、立法学、法制執務も視野に入れるべきだろう。行政法、行政学にもつながる。
「国際法」については、比較法、法制史、法思想史も検討しなければならない。
その上でいったん様々な「法学」、「法哲学」も読んでみよう(「AI時代の法学入門-学際的アプローチ」は必須であろう。)。既に「法とルールの基礎理論」で紹介した、「規範とゲーム 社会の哲学入門」や「法と社会科学をつなぐ:飯田高」をじっくり読み込んでみよう。
ここら辺りまで来ると、「専門性・複雑性の制御不能」、「デジタル情報の氾濫による制御不能」の問題にいったん課題を転じることになるだろうか。
当面の構成予定
法とルールの基礎理論Ⅰ ルール論
法とルールの基礎理論Ⅱ 方法としての哲学
法とルールの基礎理論Ⅲ
- Ⅰ 法文を読む
- Ⅱ 国際法
- Ⅲ 法制史・法思想史
- Ⅳ 比較法学
- Ⅴ 憲法
- Ⅵ 法学
- Ⅶ 法哲学
- Ⅷ 法とは何か
- Ⅸ 法と社会科学
- Ⅹ 公法
- Ⅺ 私法
- Ⅻ 弁護士実務
基礎理論Ⅳ「専門性・複雑性の制御不能」,Ⅴ「デジタル情報の氾濫による制御不能」の構成は追ってということにしよう。