会社設立登記をオンラインでする

2022-04-04

何をするのかをよく見極めよう

今般、私も発起人に入るDXやITを業とする小規模会社の設立をすることになったので、印紙代の節約のためと設立会社の業務内容からしてできないとはいいづらいので、大分前に導入されたはずの「オンラインでの設立登記」をしようと考えたのだが……そこは深い闇夜の中の巨大な迷路であった。

登記手続というのは、弁護士は登記法や申請手続の訓練を受けていないこと、(明記されていない)慣例レベルの様々な細かなルールに支配されていてなかなか面倒だなこと、以前は対応する登記官の対応が小役人風で余り愉快なものではなかったこと等から、概してやりたくはないのだが、仕事の都合上必要な場合は、書式集を参考にし秘書さんの助力を得てなんとかこなしてきたというのが実情だ(秘書さんは胃が痛くなるといっていた。)。ただ司法書士さんは日常的にやっていることなのだから、常時やっていないのでわかりにくいレベルの話といえよう。会社設立登記は、法務局だけが相手ではなくて、定款の認証という公証役場での手続も入るので、少し複雑になるが、そんなにわかりにくいものではない。私も数年に1件ぐらいは会社設立の登記申請をしている。

今回の「オンラインでの設立登記」も、振り返ればそんなに理解困難な話ではないのだが、手続内容の全体が 見えない状態でゼロからググって食いついてしまうと、厖大な情報の中で文字どおり立ち位置を見失って迷走してしまう。

その原因は、魑魅魍魎が跋扈するネット世界での行為であるということ、主たる情報提供者であるお役人が穴のあることを嫌い平板かつ厖大な情報を提供することを躊躇わないことにあるともいえようが、それよりも最大の問題は、何をするのかについての注意がそれてしまったことにあったと思う。

重要なことは、会社の発起設立についてオンライン申請する手続であることを忘れないことだ。オンライン登記とか、電子署名とかに振り回されると、いつまでも迷走する。オンライン申請とは、登記申請書とその添付書類(これらの電子情報だが)をネットで送付できる状態にして送信する手続で、電子署名は、実印の押印+印鑑証明書に変わる手段にすぎないということだ。これが腑に落ちると、あとは主として技術的な問題だが、ただ電子署名には飲み込みづらい点がある。

登記・供託オンライン申請システム+公的認証サービス

登記申請

登記のオンライン申請は、法務省が主宰する登記・供託オンライシステム(本システム)を利用する。利用するためには、法務省が用意した申請用総合ソフト(申請ソフト)をダウンロードし、指示された事前準備をして申請ソフトを使用できる状態にすることが先決だ。その事前準備については、Webの記述は複雑怪奇なので、やってみようオンライン登記申請!!事前準備編を見るのが早い。

申請人(代理人)が申請ソフト内でソフトが用意する各手続についての申請書情報を作成し、ソフト外で作成する添付書類を取り込んで添付し、オンラインで法務局に送信するというのが原則である。その際、少なくても送信する申請書情報に申請人(代理人)がソフト内で電子署名を付すことになる。

電子署名(ICカード)

話を簡単にすれば、会社等で別途の方法が用意されていない限り、電子署名は、申請人(代理人)のマイナンバーカードの「公的個人認証サービス」を利用する。必要なものは、マイナンバーカードの他に、カードリーダーとそれを読み込む「ソフト」である。この「ソフト」は「公的個人認証サービス」を提供する地方公共団体情報システム機構のWeb にあり、これをみて実行すれば、電子署名の準備は難しくない。これによって、申請ソフトで申請書情報に電子署名を付することができるようになる。やれやれ。

ここまでの費用はカードリーダーぐらいだ。私は、カードを挿入する接触型を1000円ぐらいで買った。上に置く非接触型も数千円である。

添付書類(電子定款)に電子署名する

しかし申請書情報だけでなく、添付書類情報に、実印の押印に代えて申請人(代理人)やその他の利害関係人が電子署名しなければならない場合がある。実はあたふたとしたのは、申請書情報登記でいえば、電子定款)登記でいえば、電子定款)に電子署名が必要とされる場合である。少なくても、この場合は、本ソフトを利用して電子署名を付すことはできず、別の方法によらなければならない。そのために法務省が紹介しているのは、Adobe Acrobat DCという有償ソフトである(マイナンバーカードでPDFに電子署名する手順、「Adobe Acrobat DC」「PDF署名プラグイン」利用)。

  1. しかし私は、このために改めて高額なAdobe Acrobat DCなど購入したくない、私も2、3電子署名ができるという触れ込みのPDFソフトを持っている。どれかが利用できるんだろうと、そのマニュアルを読み込もうとした。
  2. いやその前に、法務省がこのようなことを言っているのは大分前のことで、実は本システムで添付書類に電子署名できるようになったのではないか、と考えた。
  3. そうでなくてもAdobe Acrobat DCではない、PDFに電子署名できるソフトがあるのではないかと考えた。  

3については、「JPKI PDF SIGNER 」というフリーソフトウェアがあったので、 これをダウンロードして準備した。この準備もそんなに難しくない。印影なしだけはなく、印影ありも用意した(マニュアルの後半に書いてある「証明書」のダウンロードは意味は解らないがやっていた方が安心だ。

正解はどれだろう。私は1はどうも駄目そうなので、2であると思い、公証人のところに本システムから本ソフトによる傳ス署名を付して電子定款を送信して認証に出かけていったが、電子署名がついていないといわれた。本システムに添付した電子定款に署名済みとあったので2だろうと考えたのだが、あれこれ考えるとこれは単に申請書情報に電子署名がされているだけで、添付している電子定款にはは別途電子署名をする必要があるのではないかと思い至った。そこで事務所に戻り、改めで3で印影ありの電子署名をし、手続をしたところ、無事認証を得られたたのである。

結局、本ソフト外で作成する添付書類には、別途、電子署名が必要なものがある。その際、Adobe Acrobat DCは高額なので、「JPKI PDF SIGNER 」を利用すれば無料で電子署名ができる。

関係者の電子署名が必要なときを含め添付書類は郵送で

私の電子署名はこれで済んだのだが、設立時代表取締役や取締役について必要な電子署名はどうすればいいのか。これは実際問題として、都合よく用意できるはずがない。ただこれについては、上記ソフトをいじっているとき添付書類は別途「送付」という記載が見受けられたので、電子署名が必要でも用意できないものは別途対応、というより、関係者の添付書類には電子署名は止めて一括してすべて郵送する方が合理的だと見通しを立てていた(ただ電子定款は本ソフトから送信したいなあ。)。

ただその準備の過程で「QRコードによる書面申請」という手続が登場し、これでいいのかなと思ったが、これは要は、ソフトをいじったがうまくいかない場合、申請書も含めてすべてQRコードを付けて郵送することだとわかり、これはドツボへの途だと理解したのである。

まとめ

以上、まとめれば簡単だが、これを解読するために文書、Webの森に迷い込み、多大の時間、労力を要したのである。たとえばこれらの手続を記載した次に記載した「登記・供託オンライン申請システムにある関係する操作手引書」は、全部で1000頁くらいあるのではないだろうか

  • 申請者操作手引書~ 導入編 ~
  • 申請者操作手引書 ~ 共通操作編 ~
  • 申請者操作手引書 ~商業・法人 かんたん証明書請求編~
  • 申請者操作手引書~商業・法人登記申請 申請用総合ソフト編~
  • 申請者操作手引書~電子公証手続~

本システム、本ソフト、操作手引書のいずれも、厖大な労力、費用をかけて整備の途上にあることがよくわかる。ただ費用対効果という意味では、印紙代が数万円節約できるだけであり、少なくても単発の申請者は全くペイはしない。ただ私は嫌いではない。