「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」への導入
デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題で何を検討するのか
情報とは
情報についての定義はいろいろあるが、社会学者の吉田民人は、①物質・エネルギーのパターンを「広義の情報」とし、②パターン同士が生物によって連合されて成立する「有意味な記号集合」を「狭義の情報」としたとされ、西垣通は、これに加えて、③人間社会に関連するもので、何らかの意味作用をともなう人為的・恣意的な〈記号〉で、〈認知〉〈指令〉〈評価〉という三つの機能をもつもの(西垣は、伝達、蓄積、処理を挙げる。)、④更に日常的にはこの一部である伝達や認知を取り上げて情報とされているとする。
われわれが検討すべきは、③の用法での情報であるが、「伝達された「情報」は、意味を解釈され、蓄積され、処理加工され、ふたたび伝達されていきます。この行為をおこなう主体が生物なのです。情報の意味解釈や処理加工は、これまでにその生物の身体内に蓄積されてきた情報系にもとづいて実行されます。そして結果として、情報系じたいも変化します。こういう累積効果こそが、〈情報〉なるものの基本的性格なのです。」(西垣通. こころの情報学 (ちくま新書) )。
これはさわりの部分で、更に西垣は、「社会情報」を取り上げて、議論を深めていくが、それは措くことによう。
情報の特質
次に「情報」の特質について、法学(情報法入門【第5版】:小向太郎)ではどう捉えているかを見てみよう。
同書は、「情報とは、有体物そのものではなく、有体物が存在するパターン(配列等) である」とし、「情報」の特性として、「①無体物であること 物理的排他的な支配が難しく、 複製や改ざんが容易であり、拡散されやすくそれを解消することは困難である。 ②媒体と伝送路に依存すること 情報の影響力や制御可能性は、どのような媒体と伝送路によって伝達されるかどうかに大きく左右される。③主観的要素の重要性が大きいこと 情報と行動の関係は予見可能な因果律に基づくものではなく、情報の価値や影響力は主観的かつ相対的である」とする。その上で情報のデジタル化・ネットワーク化によって次のような問題が生じているとする。
①について「それでも従来の情報は、何らかの物と強く結びつくことが多かった。書類でも出版物でもレコードでも、物と情報は一体になっていた」、「従来の法制度では、情報を物に化体させてルールを適用することが多かった」が、「情報のデジタル化・ネットワーク化によって「対象物」が消失し、制度が有効に機能しなくなっている。法律には、有体物からの呪縛を解かれた情報をどのように規律してよいのかわからずに、今もまだ途方に暮れている。」。
②について「従来は、影響力の大きい情報伝達手段には、何らかのボトルネックがあり、そのボトルネックが法的または社会的な規律を及ぼす前提になっていた。例えば、放送や新聞、出版等のマス・メディアや電気通信事業者は、その担い手がかなり限定されていた」、「しかし、インターネットを構成する主体は多様かつ複雑で情報発信者の裾野も限りなく広い.こうしたことが情報に規律を及ぼすことを難しくしている」、「世界中の雑多なコンピュータの集合体であるインターネットでは、情報流通の把握、追跡、制御等が相当に難しい場合が多い.インターネットの匿名性と表現される問題である」。
③について「デジタル・ネットワークによって情報利用が飛躍的に進展し、新しい情報規律が求められるようになっているが、客観的統一的基準を確立することは困難な場合が多く、関係者の主観を尊重したものにならざるを得ない.制度設計においては、関係者の主観的要素をどのように制度に反映させるべきかという点が重要になっている。」。
これらは、情報法という限定された視点からの分析ではあるが、デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題を考察する上で当面の基準として差し支えないであろう。なお同書の「1 デジタル情報と法律」は、法律に興味のない人にも、デジタル情報とネットの現状の問題点が手際よく説明されていてお勧めしたい。
情報法入門【第5版】:小向太郎(Amazonにリンク)
これからの問題
もともと重要ではあるが目の届きにくかった「①無体物、②媒体と伝送路に依存、③主観的要素の重要性が大きい」という特質をもった「情報」が、「デジタル・ネットワーク」によって、便利なサービスや新しい価値がもたらされる一方、主観的な意図によって創作、複製や改ざんが容易な、制御困難な情報が拡散し、「ネット詐欺、電子掲示板・ブログ・SNS等での誹謗中傷、大量の迷惑メール、著作権侵害、個人情報流出、コンピュータウイルスやサイバー攻撃など」の問題が深刻化している。
「IT・AI・DX」の「「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」では、この点について実務的な検討をしていこう。
更にはこれらの問題に止まらず、人類がこれまで築き上げてきた「こころの情報」を交換し付き合わせることで成立する「民主主義」や、本を読むことで、解釈し、蓄積し、処理してきたこころの情報の英知も崩壊しようとしているのではないか。結局、デジタル情報の氾濫・暴走によって法とルールが破綻しつつあるのではない」という風景も見えてくるのである。これは「世界の複雑な問題群」の「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」で取り得挙げよう。
現在のこれらの固定記事は到底そのような内容になっていないので、早々に改訂していこう。