「シンポジウム 人工知能が法務を変える?」を聞く

2019-10-31

人工知能が法務を変える?

2017年11月29日(水),日弁連法務研究財団と,第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会共催の,標記のシンポジウムを聞いた。

登壇して話をしたのは,マイクロソフトのエンジニア,日本カタリスト及びレクシスネクシス・ジャパンのそれぞれ外国人弁護士,日本人弁護士2名の,計5名である。

「AIと法」に関わる新しい話が聞けてそれなりに面白かったが,登壇者の誰も「人工知能が法務を変える?」ということをまともに考えている訳ではなく,ふらふらと「題名」につられて顔を出した人には拍子抜けだったかもしれない。ざっと内容を概観する。なお当日用いられた資料が法務研究財団のWebにアップされている。

マイクロソフトのエンジニアの人

現時点でのAiとは何かということを,地に足のついた議論として紹介してくれた。現にAIビジネスを魚化している人の話は,信頼できる。

ビジネス分野でAIが理解できている人は10人に1人だ。

画像や音声の分野はどんどん進むが,自然言語の意味の処理はむつかしい。ただし検索ということでいえば,先日公開されたアメリカのJFKの資料をデジタル化し,あっという間に処理,分析した。「犯人」とFBIのある人物との「関係」が浮かびあがった。人が見ていくと何年かかっても処理できない膨大な量だ。

AIというより機械学習という捉え方の方がわかりやすい。

日本カタリストの人

AIを利用したドキュメントレビューの紹介である。

アメリカの電子情報開示制度の下で,開示の対象となる電子情報(メール,チャット,LINE,FACEBOOK,電子ファイル,会計データ,Web等々)についてのドキュメントレビュー(関連あり・なし,秘匿特権あり・なし)が,AIシステムを利用して行われている。これによって大幅な弁護士費用の削減が可能だ。

まず,関連性あり・なしのレビューをする。AIシステムが,文書全体を関連する文書にグループ化し,そのサンプルを取り出し,レビューワーが,レビューすることで,グループ文書の関連性あり・なしのランク付けができる。

また関連性がある文書について,秘匿特権のレビューをし,提出する,しないを決定する。

これはアメリカでは現に利用されており,法廷におけるTAR(technology assisted review)の利用として連邦民事規則にも取り入れられている(のだと思う)。

日本の法廷でこういう形の立証が取り入れられるかどうかは疑問だが,例えば,今,証拠にするため電子メールを検討すると,返信が様々な送信メールになされているので送受信の全体の流れを把握するのがとても大変だ。それだけでも,工夫が欲しいところだ。でもそれはAIか?

レクシスネクシス・ジャパンの人

レクシスネクシス・ジャパンのトルコ人弁護士は,リーガルテックという観点から弁護士業について検討したる。その内容は,以下のとおりだが,きわめて刺激敵だ。

AI/Legal Techの現在の環境

リーガルリサーチ&情報収集

法改正及びインパクトへ対応

コンプライアンスリスク監視

 e Discovery

顧客ニーズ分析を含む業務支援

自動紛争解決(ODR)

資料/契約文書のレビュー

3分間でドラフティング

リーガルテックの成長

2012年リーガルテックに関する特許出題数:2012年99件から2016年579件に大幅増加 38% アメリカ 34% 中国 15% 韓国

法律家への影響

顧客開拓

ニッチ・専門分野へのニーズに対応

Data driven lawyerになり,best lawyerとなる

ネイティブ弁護士と競争

ビジョンを持つ信頼できるアドバイザーになる

真の付加価値を提供する

値段競争に陥らないサービス差別化

ワークライフバランス

レクシスネクシスの取り組み

検索,分析,可視化

その後,レクシスネクシスの「判例検索に加え、法令や立法、行政情報といった、リーガル情報を一元的に収録」したデータベース「Lexis Advance」のデモがあった。アメリカは,州ごとに法が違うこと,陪審があること等から,リーガルリサーチ&情報収集は徹底する必要があるから,これは有益だろう。日本ではまず情報がでてこないし,そもそもこのようなシステムを構築・提供するような市場もないというのが現実だろう。

我々は,当面。各種の判例検索,その他のデータベースを有効活用するしかない。

日本の弁護士ふたり

日本の弁護士ふたりは,これから「AIと法」に取り組みたいというところだろうか。

高橋弁護士は,「チャットボット」を作ってみたことの紹介である。すぐに「ボットの理解を超える」,人間は5回の入力で飽きることの報告は貴重だ。オタクレベルだが,AIを切り開くのはオタクである。

齋藤弁護士は,まだ見ぬAI法務の紹介である。講演に備えて十分な準備をされたのだろうが,その問題はどこにあるのと思ってしまう。この種の議論をする弁護士は多いが,私は他にすることがあるのではと思う。ただアメリカでの利用の報告は貴重である。

今後

いずれにせよこの時点で,このシンポジウムを試みたことは,高く評価されるべきだ。今後とも,このような企画があれば参加しよう。

 

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