法とルールの基礎理論
「法とルールの基礎理論」に取り組む
「法を問題解決と創造に活かす」ためには、「法とル-ルの基礎理論」から考える必要がある。
これまで法律をめぐる「学問」は、実定法についての「解釈学」と、さすがにこれだけで「学問」と称するのは恥ずかしいので、その周辺に「法哲学」、「法思想史」、「法制史」、「法社会学」、「法と経済学」等々を配置することで、何とか「学問」という体裁を整えてきた。ただ問題は、この周辺の「学問」は、実定法「解釈学」にほとんど影響を与えていないし、法律学徒には大な影響力のある実定法「解釈学」も、裁判所は法解釈にあたって参照する程度である。更には、実定法「解釈学」も裁判所の法解釈も、少なくても日本においては、「科学」ではない。私の関心は、「法とル-ルの基礎理論」についての、新しい周辺の「学問」(上記に加えて、進化論、言語ゲーム、ゲームの理論、行動経済学、複雑系ネットワーク科学、ベイズ推定、統計学等を加えよう。)が、政府の立法実務と裁判所の法実務(法解釈+事実認定)を「科学」にすることにある、
しかし我が国の上記の実定法学者の「解釈学」と裁判所の法解釈の隔たりは、いま、崩れつつあるといっていいかもしれない。法令は実定法学者を巻き込んだ審議会で迅速に制定、改廃されるし、ロースクールを通じて実定法学者と裁判所実務の距離は縮まりつつあるだろう。世界中で、社会が急速に変化、流動化し、人の行動を支えるルールも激変しつつあるという現実が、それを支えていることは間違いない。
ただ我が国の法をめぐる現状は、このような現実に適格に対応するという動きの中から生じたというより、その場しのぎの対応を繰り返しているだけという方が近そうだ。
今後なすべきこと
新しい周辺の「学問」については、以前「「法とルールの基礎理論の本」まとめ読み」をまとめたが、今見るとこれらの検討だけでは不十分だ。これを補充する総論的な本として、「法律」、「法と社会科学をつなぐ」、「法哲学」、「数理法務のすすめ」を挙げておく。これ以外についても、現在、充電中である。
ルールについて、「複雑系ネットワーク」(社会)の中で「限定合理性」を有する人が営む「ゲーム」(行為)についてのルールはどうあるべきなのか、どうすれば紛争、権利侵害を除去し、生産性をあげることができるのかというのが、立法と、法解釈学の根本問題である。中心となるツールが、行動ゲーム理論であろう。
もうひとつの問題は、事実認定が「科学」的であるためには、どうすればいいかということである。
この両者について、IT・AIの利用を進めることも必要だ。「法とAI」、「仕事の役立つIT技法」もこのような観点からのを目指している(現状は全く不十分だが。)。
これらに加え、法が言語によるルールであることや、法がどのように機能してきたかという歴史的な観点も必要だ。
法が言語によるルールであること
法が言語によるルールであることについては、ウィトゲンシュタインの言語ゲームとの関係が気になっていた。というのは、ハートの「第一次ルール」、「第二次ルール」の考え方は、ウィトゲンシュタインの影響を受けているのではないかという指摘を 橋爪大三郎さんが「人間にとって法とは何か」、「はじめての言語ゲーム」でしているが、どうもその根拠があいまいで、ウィトゲンシュタインの言語ゲームを考察の基本にしていいかわからなかったからだ。しかし、「二十世紀の法思想」(著者:中山竜一)の第2章、3章に、ウィトゲンシュタインのハートへの影響がが明記されていたので、安心した?
言語ゲームと、ゲーム理論は、関係ないが、期せずして、法とルールを「ゲーム」を基盤として考察することになった。
その後(平成30年6月23日)、「規範とゲーム」(著者:中山康雄)を入手、一読した。この本は、橋爪さんの上記「はじめての言語ゲーム」をあげて、示唆的ではあるものの、精緻化されることはなかったとし(私も同感だ。)、自身は上記著作で「社会的規範や(社会的)ゲームを基盤として人々の活動原理を明らかにすること」を目的とするとする。そして実際、規範体系、ゲーム体系を提示し、後者の「中に、言語ゲーム、ゲーム理論を位置づけ、全体の構造を明らかにしようとしている。更に、生活、組織、法体系、経済活動等を、規範。ゲームの観点から分析しており、現時点での私の関心を十二分に満たしてくれる内容になっている。加えて、法体系では、法文の分類、法律の分類、法的推論、法実践(裁判)の分析にも及んでおり、このような関心を持つ哲学者がいたことにいささかびっくりしている。
これで、法、ルール、ゲーム等が見えやすくなったので、立法や、事実認定の問題に、検討を進めることができるだろう。
実は上記した「法と社会科学をつなぐ」も優れた本で、ここから全体の見通しをつけようとも思っていたのだが、この本は個々の問題のとらえ方は秀抜であるが、全体の構造が見えにくく、どうしようかと思っていた。上記「規範とゲーム」によって、この本も生きてくる。
各論
追ってきちんとした、参考本の目録を作成し、各論を展開していきたい。
検討すべき課題
デジタル情報の氾濫
法とルールの破綻
法とルールについては、「弁護士が受任する法律事務とは」の「法を問題解決と創造に活かす」において、基礎的な検討をしている。そこでの問題意識は、問題が山積する現代の法のあり方を踏まえつつ、「法を問題解決と創造に活かす」というプラスの方向で考えてみようとことであった。下位メニューとして下記のものを設けた。
しかしデジタル情報が氾濫しつつある現時の状況に対応、是正できなければ、現代から近未来において社会を支える一要素である「法とルール」は破綻するというのが、私の「見立て」である。私にとっていちばん身近な問題である。少し時間を掛けて検討したい。