資本主義の行方を検討する本

  1. 資本主義の本質について イノベーションと余剰経済 : コルナイヤーノシュ (講談社学術文庫)
  2. 資本主義の再構築:公正で持続可能な世界をどう実現するか: レベッカ・ヘンダーソン (日本経済新聞出版)
  3. MORE from LESS(モア・フロム・レス)  資本主義は脱物質化する : アンドリュー・マカフィー (日本経済新聞出版)
  4. 監視資本主義―人類の未来を賭けた闘い :ショシャナ・ズボフ (東洋経済新報社)
  5. 資本主義だけ残った―世界を制するシステムの未来:ブランコ・ミラノヴィッチ(みすず書房)
  6. 資本主義の次に来る世界:ジェイソン・ヒッケル ( 東洋経済新報社 )
  7. ポストキャピタリズム―資本主義以後の世界 :ポール・メイソン(東洋経済新報社)
  8. 生命の網のなかの資本主義:ジェイソン・W・ムーア ( 東洋経済新報社)

  • 本書は、ハンガリー出身の経済学者ヤーノシュ・コルナイが、長年の社会主義と資本主義の両システムの内側からの経験と研究に基づき、資本主義の本質、特にイノベーションと余剰経済という側面を深く掘り下げた学術エッセイです。著者は、主流派経済学が資本主義を唯一の経済システムと捉えがちであるのに対し、社会主義との比較を通じて資本主義の特異性を明らかにしようと試みます。また、ポスト社会主義諸国の移行という歴史的実験を直接観察した経験から、経済システムの変化が社会に与える影響について独自の洞察を提供します。
  • 本書の主要な主張の一つは、資本主義はイノベーション、技術進歩、近代化の根本的な推進力であるということです。著者は、分権的な創意性、巨額の報酬への期待、激しい競争、広範囲な実験という資本主義経済の特性が、 끊임없는 イノベーションを生み出すメカニズムとして機能すると分析します。社会主義体制下では、創造的な精神や発明が存在したにもかかわらず、集権的な計画経済や官僚主義的な許可制度が企業家精神の発揮を阻害し、イノベーションが社会全体に広がることは稀であったと指摘します。
  • もう一つの重要な主張は、資本主義経済においては余剰経済が正常な状態であるということです。著者は、財・サービス市場における慢性的な超過供給(遊休生産能力、過剰在庫)と、労働市場における慢性的な労働力余剰(失業、潜在的労働力)を、資本主義の内在的な特性として捉えます。これは、社会主義経済における慢性的な不足経済とは対照的です。著者は、価格の下方硬直性、不完全競争、絶え間ないイノベーションによる供給の増加などが、需要が供給に追いつかない状況を生み出す要因として分析します。
  • 本書は、実証的な説明と規範的なアプローチを可能な限り区別するという著者の方法論に基づいて展開されます。著者は、主流派経済学が実証研究偏重であるのに対し、倫理的結論を考慮した規範的な視点の重要性を主張します。また、初期の研究における数理モデル重視から、晩年の言葉による説明を重視するようになった経緯を述べつつも、数理モデルの重要性も認識しています。
  • 本書は、市場均衡という概念に対する批判も内包しています。著者は、絶え間ない技術進歩とイノベーションが存在する現実の経済においては、静的な均衡状態はありえないと主張し、経済をダーウィンの進化論になぞらえ、イノベーションを突発的な変異体、市場競争を自然淘汰のプロセスとして捉える視点を提示します。
  • さらに、本書は、ポスト社会主義諸国の経験を踏まえ、自由、平等、友愛というフランス革命の標語を現代社会の基本的価値として考察します。政治的自由と経済的自由の同時獲得の重要性を強調しつつ、市場経済への移行が所得不平等の拡大をもたらした現実や、福祉国家のあり方について議論します。
  • 著者は、反資本主義の感情が広がる背景には、「資本主義→イノベーション→生活様式の変化」という因果関係の説明が政治によって無視されているという認識を示し、資本主義が生み出した恩恵を享受しながら資本主義を批判する矛盾した状況を指摘します。
  • 本書は、経済学の多様な学派の知見を統合する実証的統合の可能性を探ります。政治的な立場が異なる研究者たちが、事実の理解と説明において合意に達することを目指す試みであり、著者は自身の研究がその一助となることを期待しています。
  • 最後に、著者は自身のマルクス主義との関わりを振り返りながら、現代においてもマルクスの思想から学ぶべき点があるとしつつも、資本主義の堅固さを強調します。
  • 本書は、経済システムのダイナミズムを捉え、社会主義との比較を通じて資本主義の本質を深く理解するための重要な視点を提供します。特に、イノベーションの源泉としての資本主義の力と、常に過剰が存在するという資本主義経済の宿命的な特徴についての著者の洞察は、現代経済を考察する上で示唆に富んでいます。
  • 1.社会主義を資本主義の観点から、資本主義を社会主義の観点から比較することは、私に染みついた思考様式になってしまった.
  • 2.主流派経済学者にとって、資本主義こそが経済システムであって、歴史上に存在する複数のシステムの一つというわけではない.
  • 3.私はソヴィエト連邦の崩壊と社会主義から資本主義への転換を経験できたことは幸運であったと思っている.
  • 4.主流派経済学に属する者は誰も現実にこの実験に関心を向けなかった.
  • 5.構造を分析し因果関係を明らかにするときに、私は状況の実証的(positive)説明と規範的(normative)アプローチとをできる限り区別するようにしている.
  • 6.私は自らに義務的なルールを課している。すなわち、より高い価値の実現のために実証的な分析の結果を考え抜くことである.
  • 7.問題を認識し、この認識と結びつけて最初の理論的な記述をすると、それはしばしば曖昧なものになる。振り返ってみると、このことは疑わしくもある。しかし、たとえ、新しい重要な認識を含む最初の草稿では最先端のところに精確さを欠いても、斬新なアイディアが生まれていることこそが大切なのである.
  • 8.私は、上記のいずれの潮流にも与しておらず、明確に資本主義を支持している。もっとも、私はシステムの優位性しか見ない偏屈な信者ではない。私は資本主義を「良い社会」だとは思っていない。多くの点で「悪い」と思っているが、それはちょうどチャーチルの民主主義にかんする見方と同じである。つまり、私は資本主義を、あらゆる実現可能な選択肢のなかでもっとも悪くはないものと見なしているのだ.
  • 9.本書の課題は、資本主義の真に重要な長所を導きだすことにある。主流派経済学の教科書は、市場の調整的・均衡的役割に分析の焦点を当てる場合、ぼんやりとしたスケッチしか描いていない。もちろんそれも重要だろう。しかし、本研究のメッセージとなる結論はそれ以上にずっと重要である。資本主義はイノベーション・技術進歩・近代化の発動力である.
  • 10.この持続的な両システムの並置が両者に対する私の見識と理解を深めたのである.
  • 11.私は人生において、二つの偉大なシステムが長い時間をかけてお互いをいかに追いかけあうのかを経験してきた。つまり、はじめは社会主義が資本主義にとって代わり、再び資本主義が奪い返したのである.
  • 12.A 分権的創意性.
  • 13.B 巨額の報酬.
  • 14.C 競争.
  • 15.D 広範囲の実験.
  • 16.社会主義システムにおいてさえ、企業家の才を有するものはたくさんいたのだが、発揮されないままであった.
  • 17.計画が最終的に承認される前に、企業管理者は新しい製品や新しい技術に適応する意思を示すことが認められている。すなわち、彼らはイノベーションの伝播過程に参加できるのだ。しかしながら、彼らは重要なイニシアチヴを行うに際し許可を求めなければならない.
  • 18.とはいえ、ほかのすべての説明要因が関連すると認めたとしても、私は、システム特有の効果がきわめて強いという命題を支持している.
  • 19.現代の資本主義の典型は混合経済といえる。私的所有、および市場メカニズムによって調整される領域に加え、相当程度の公的所有と、官僚的メカニズムによって調整される活動が併存している.
  • 20.社会主義システム下の電信部門は慢性的な超過需要の状態にあった.
  • 21.資本主義経済は超過供給という現象が支配的となる傾向にあるのである.
  • 22.「不足なし、余剰なし」というワルラス均衡点は理論モデルの仮想世界にしか現れない.
  • 23.命題1──資本主義システムだけが経済全体を覆う余剰経済を継続的に生み、再生できる。資本主義だけが継続的に余剰経済という慢性的な兆候を生むメカニズムをもたらし、再生することができる.
  • 24.命題3──社会主義システムだけが経済全体を覆う不足経済を継続的に生み、再生できる。社会主義だけが継続的に不足経済という慢性的な兆候を生むメカニズムをもたらし、再生することができる.
  • 25.資本主義のシステム特有の性質は、十分にその力を発揮したり、さまざまな要素(政策立案者、社会の倫理的規範、法規制やその他の固有の国家介入による緩和)によって抑えられたりする。しかしながら、内的な諸力はなお作動しており、社会のコントロールや国家による規制では除去しえないものである。それらは資本主義の遺伝子のなかに存在しているのである.
  • 26.余剰経済の持つ大きな優位性のうちの一つは、不足経済の、柔軟性に欠けギクシャクとした遅い調整よりも、摩擦があるにもかかわらず、調整がスムーズで早く柔軟であることである.
  • 27.私は社会学者に対して科学的にこの問題を検証する課題を与えてきたが、思い切って余剰経済と不足経済の観察に基づいた論をしたいと思う.
  • 28.フランス革命の標語は、すべての基本的価値を包括するものではない。そこには成長と物質的福祉の二つの価値が欠けている.

  • この文書は、現代の資本主義が直面する課題を分析し、より公正で持続可能な世界を実現するための資本主義の再構築を提唱しています。筆者は、ビジネスの現場で変革を志す企業人と協働する経験から、変化の必要性を強く感じています。変化には抵抗が伴うものの、技術や資源、そして人間の可能性を信じれば、変革は可能であると筆者は楽観的な見方を提示しています。
  • 本書の根底には、株主価値の最大化という従来の資本主義の原則に対する深い疑念があります。筆者は、利益のみを追求する企業の行動が、環境破壊、格差の拡大、社会の分断といった深刻な問題を引き起こしていると指摘し、その倫理性を問いかけています。フリードマンが提唱した株主価値最大化論は、特定の時代と状況下で生まれたものであり、現代の現実にはそぐわないと論じています。市場は常に自由で公正であるとは限らず、企業のロビー活動や寡占化によって歪められている現状を指摘し、市場には「大人の監督」、つまり適切な規制が必要であると主張しています。
  • これに対し、筆者は「目的主導型」の資本主義を提唱します。利益最大化だけでなく、社会全体の利益に貢献するという明確な目的を持つ企業こそが、持続可能な成長と社会の繁栄を実現できると主張しています。この目的を達成するためには、正しい戦略、組織の再編だけでなく、従業員が仕事に意義を見出し、共有された目的を地球規模で広げていくことが不可欠であると強調しています。
  • 文書では、目的主導型経営を実践し、成功を収めている企業の事例が多数紹介されています。例えば、廃棄物処理業のノルスク・ジェンヴィンニングは、リサイクル事業を核とした新たなビジョンを掲げ、業界の悪弊を一掃しました。ユニリーバのリプトンは、サプライチェーン全体で持続可能な茶葉の調達を推進し、コスト増を乗り越えてブランド価値とサプライヤーの生活水準向上に貢献しました。ウォルマートは、ハリケーン・カトリーナの経験から持続可能性を経営の中核に据え、コスト削減と企業イメージ向上を両立させました。カーシェアリングのジップカーは、共有経済の先駆けとして成功を収めました。一方で、ナイキはサプライチェーンにおける児童労働問題を軽視した結果、ブランドイメージを大きく損なうという失敗例も示されています。
  • 変革を成功させるためには、アーキテクチュラル・イノベーション、つまり既存の枠組みにとらわれずに新しいシステムや組織を構築する視点が重要であると指摘しています。イギリス陸軍が戦車の可能性を理解できなかった事例を挙げ、既存のメンタルモデルからの脱却の難しさを解説しています。
  • また、従業員を尊重する経営の重要性も強調されています。トヨタは、「人の尊重」を核とした経営戦略によって、自動車業界で大きな成功を収めました。キャドバリー兄弟は、従業員の教育や福利厚生に力を入れ、労働委員会などの参加型組織を導入しました。ヘイムーア炭鉱やGMのリマ工場の事例は、従業員の自律性とエンパワーメントが生産性向上につながることを示唆しています。
  • 投資家の短期志向が企業の長期的な取り組みを阻害するという議論に対しては、必ずしも全ての投資家が短期的な利益のみを求めているわけではないと反論しています。ギリアドやアマゾンの事例を挙げ、長期的な成長の可能性を持つ企業には投資が集まることを示しています。目的や意義を共有する投資家の重要性も指摘されています。トリオドス銀行の事例は、企業の目的と財務的リターンの両立を目指すインパクト投資の可能性を示唆しています。従業員支配型の企業(モンドラゴン、パブリックス、ジョン・ルイス)の成功例も紹介され、新たな所有構造の可能性を示唆しています。
  • 資本主義の再構築には、政府の適切な役割も不可欠であると論じています。環境規制、格差是正、教育・医療への投資など、政府が果たすべき重要な役割を強調しています。民間セクターからの資金提供を受けた反政府・自由市場主義の思想運動が、政府への信頼を損なってきた歴史的経緯も指摘されています。包摂的な制度を持つ社会の経済成長と幸福度が高いことを示し、制度の重要性を強調しています。フロン規制やアメリカ大気浄化法の成功例は、政府の規制が地球規模の問題解決に貢献できることを示しています。
  • 最後に、筆者は個人レベルでの行動の重要性を訴えています。飛行機の利用を減らす、倫理的な企業から購入する、再生可能エネルギーを利用するなど、小さな行動でも周囲に影響を与え、社会を変える力になり得ると説いています。目標を共有する仲間と協力すること、自分自身を大切にし喜びを見つけることの重要性も強調しています。
  • 全体として、本書は、現状の資本主義の問題点を鋭く指摘し、社会的な目的を重視する「目的主導型」の資本主義への転換を力強く提唱するものです。政府、企業、そして個人の行動が連携することで、より公正で持続可能な世界が実現可能であるという希望に満ちたメッセージを伝えています。
  • 1.「変化とはそういうものだ。現状に異議を唱えるのはむずかしく、気が滅入り、孤独なものだ。強力な既存勢力は、そうやって変化の見通しに反発するのが常だ。」: 変革の困難さと既存勢力の抵抗を示唆する重要な認識。
  • 2.「変化することはできる、という確信が私にはある。問題に対処するための技術と資源はある。人間の可能性は無限大だ。」: 変革への希望と根拠を示す楽観的なメッセージ。
  • 3.「自分の仕事は自分自身のためだけでなく、それを超える意義があると信じる人たちは、すばらしいことを成し遂げることができるはずだ。そして、共有された目的を地球規模で広げていく機会はある。」: 目的意識の重要性と地球規模での連携の可能性を示唆。
  • 4.「『事実が変われば、考えを変えます。あなたはどうされますか』」: 変化への柔軟な対応の必要性を問いかける本書の重要なメッセージ。
  • 5.「公正で持続可能な社会を築くことは、とりもなおさず、民間セクターの利益に適う。」: 社会的課題の解決が企業の利益にもつながるという「共有価値の創造」の考え方の萌芽。
  • 6.「利益の最大化を追求すれば、顧客や従業員、あるいは広く社会に大きな悪影響を及ぼすことはほぼ確実だとわかっていながら、利益の最大化を追求する義務を負っているのだろうか。」: 株主価値最大化原則に対する倫理的な問いかけ。
  • 7.鉛筆の例: 真に競争的な市場における資源配分の効率性と、現代経済の複雑な相互依存関係を示す象徴的な例。
  • 8.フリードマンらの株主リターン重視の三つの主張: 株主価値最大化論の理論的根拠を理解する上で重要。
  • 9.「だが、こうした考え方は、特定の時期の特定の場所の産物であり、特定の制度的条件のもとでしか成立しない。現在の世界の現実を踏まえると、危険なほど誤っている。」: 株主価値最大化論の限界と現代への不適合性を示す重要な批判。
  • 10.「市場には大人の監督が必要なのだ。」: 自由市場の限界と規制の必要性を簡潔に示す重要な主張。
  • 11.ディズニーの著作権延長ロビー活動の事例: 企業が自己利益のために市場のルールを歪める具体的な例。
  • 12.化石燃料企業の気候変動対策ロビー活動の事例: 短期的な利益追求が地球規模の課題を悪化させる深刻な例。
  • 13.ノルスク・ジェンヴィンニングのエリック・オズムンゼンの事例: 目的主導型のリーダーシップによる企業変革の成功例。
  • 14.「単純な株主価値の最大化を乗り越えなければ、システム全体が壊れてしまう。」: 株主至上主義の限界とシステム崩壊の可能性を示唆する強い警告。
  • 15.モトローラのスマートフォン投資への否定的反応の事例: 既存の枠組みにとらわれ、変革の機会を逃す企業の典型的な例。
  • 16.リプトンによる100%持続可能な茶葉調達の取り組み: コスト増を乗り越え、社会的価値と経済的価値を両立させた目的主導型経営の成功例。
  • 17.ウォルマートのサステナビリティへのコミットメント: 大企業が持続可能性を経営戦略に取り込むことのメリットを示す事例。
  • 18.ジップカーのロビン・チェースの言葉「オンデマンド・カーならぬオンデマンド・ライフで、大きな充足感が得られるのです」: 共有経済がもたらす新しいライフスタイルの可能性を示唆。
  • 19.ナイキの児童労働問題への対応の遅れの事例: 社会的責任を怠った結果、ブランド価値を損なうリスクを示す事例。
  • 20.イギリス陸軍の戦車に対する誤った認識の事例: アーキテクチュラル・イノベーションの認識と対応の難しさを示す教訓的な事例。
  • 21.「利益最大化を超える明快な『目的』をもった企業──すなわち、企業の存在意義は株主を豊かにすることではなく、社会のためになる良い商品やサービスをつくることだということが明確に理解されている企業こそが、変革を主導できる勇気とスキルをもつ企業である。」: 目的主導型経営の本質を明確に示す重要な定義。
  • 22.エトナのマーク・ベルタニョーリによる「消費者側のヘルスケア革命」: 共有価値創造によるビジネスモデルの転換の具体的な例。
  • 23.トヨタの「人の尊重」の理念とサプライヤーとの協調関係: 従業員とサプライヤーを尊重する経営が競争優位につながることを示す事例。
  • 24.キャドバリー兄弟による従業員の教育と福利厚生への投資: 従業員を大切にする経営の歴史的な成功例。
  • 25.ヘイムーア炭鉱における自律型チームの成功: 従業員のエンパワーメントと生産性向上の関係を示す事例。
  • 26.トリオドス銀行の融資審査における価値観の重視: 財務的側面だけでなく、企業の目的や社会への貢献を重視するインパクト投資の具体例。
  • 27.モンドラゴン協同組合企業: 従業員支配というオルタナティブな企業形態の成功例。
  • 28.グリーンピースによるユニリーバへの抗議活動: NGOによる企業の環境問題への取り組みを促す外部からの圧力の例。
  • 29.シカゴのクリーンアップ作戦の事例: 産業界の自主的な協調による環境改善の可能性と限界を示す事例。
  • 30.ミネアポリス・セントポールの産業界と地元政府の連携: 地域社会との連携による公共財の創造の重要性を示す事例。
  • 31.フロン規制(モントリオール議定書)の成功: 地球規模の環境問題に対する国際的な規制の有効性を示す事例。
  • 32.デンマークの包摂的な制度と産業界の役割: 包摂的な制度が経済成長と社会の幸福を両立させる例。
  • 33.「世界を救ったかどうかで、自分の成功を判断してはいけない。誰にも世界を救うことはできない。一人ひとりは、自分にできることをやるだけだ。」: 個人レベルでの行動の意義を強調する重要なメッセージ。
  • 34.著者の夫ジョン・ハクラの生き方: 人生を精一杯生きることの価値と、行動することの重要性を示す著者の個人的な経験に基づく深い洞察。

  • 本書「MORE from LESS(モア・フロム・レス) 資本主義は脱物質化する」は、人類が工業化時代を経て、より少ない資源でより多くの価値を生み出す「脱物質化」の時代に入りつつあるという楽観的な視点を提示しています。著者は、マルサスの法則が предсказывал 食糧生産の限界による人口増加の抑制が、工業化によって克服された歴史を振り返り、技術革新、資本主義、反応する政府、市民の自覚という「希望の四騎士」が、経済成長と資源消費のデカップリング(分離)を可能にしていると主張します。
  • 前工業化時代において、人類は自然の制約を受け、マルサスの描くように人口と生活水準は拮抗していました。しかし、18世紀後半の工業化革命以降、蒸気機関、電気、内燃機関、屋内配管といったイノベーションが生産性を飛躍的に向上させ、人口と豊かさが同時に増大する未曽有の時代を迎えました。都市化が進み、生活環境は当初劣悪でしたが、疫学の発展や公衆衛生の改善によって徐々に健康的なものへと変化していきました。
  • 一方で、工業化は環境に深刻な負の影響をもたらしました。石炭燃焼による大気汚染は人々の健康を害し、蒸気動力や新たな狩猟技術はバイソンやクジラといった野生動物の大量虐殺と絶滅の危機を招きました。1970年代には、環境問題への危機意識が高まり、最初のアースデイが開催され、人類の存亡に関わる悲観的な予測も多くなされました。
  • しかし、著者によれば、20世紀後半から21世紀にかけて、特に豊かな国々において、経済成長と資源消費の間に新たな変化が現れています。アメリカやイギリスのデータを見ると、主要な金属資源、肥料、水、木材、紙などの消費量がピークを迎え、その後減少に転じていることが示されています。これは、より少ないインプットでより多くの आउटपुट を得る「脱物質化」の明確な兆候です。
  • この脱物質化を推進する要因として、著者は以下の点を挙げています。第一に、技術革新です。より効率的な製品設計、製造プロセスの改善、代替素材の開発などが資源の使用量を削減します。デジタル技術の進歩は、情報やサービスの無形化を促進し、物理的なモノへの依存度を低下させます。第二に、資本主義の競争原理です。企業は利益を最大化するために、原材料費などのコスト削減に непрерывно 取り組みます।高価になった資源の代替品を探したり、製品の小型化・軽量化を進めたりするインセンティブが働きます।第三に、反応する政府の役割です。環境規制や排出権取引制度の導入は、企業に公害削減と資源効率化を促します。モントリオール議定書のような国際的な協力体制も、地球規模の環境問題解決に貢献します。第四に、市民の自覚の高まりです。環境保護への意識向上は、消費者の行動を変化させ、企業に持続可能な бизнес モデルへの転換を促します。動物愛護の意識も高まり、保護政策を支持する動きが広がっています。
  • 著者は、資本主義に対する批判(縁故主義、アナーキー、抑圧的)は、その本質を理解していないと反論し、適切な規制と法の執行によって資本主義は благосостояние を向上させる力を持つと主張します。社会主義の失敗例としてベネズエラの экономический крах を挙げ、市場経済の重要性を強調します。
  • ただし、著者は現代社会が依然として多くの課題を抱えていることも認識しています。気候変動は深刻な脅威であり、早急な対策が必要です।経済格差の拡大、社会関係資本の衰退、政治の二極化 なども憂慮すべき問題です。しかし、著者は、脱物質化の流れと「希望の四騎士」の力を信じ、これらの課題も克服できると楽観的な見通しを示しています।
  • 最後に、著者は、より持続可能で豊かな未来を実現するために、政府、企業、市民社会、そして個人レベルで行動を起こすことの重要性を強調し、地球へのより良い未来への「賭け」を提示して本書を締めくくります。
  • マルサスの誤り: マルサスの人口論が、産業革命以降の技術進歩と生産性向上によって予測が外れたことを指摘。人口は指数関数的に増加するが、食料生産は等差級数的にしか増加しないというマルサスの考えは、技術革新によって克服された。
  • 「18世紀が終わりに近づいた頃にマルサスはとてつもなく暗い未来を予測し、結果的にその予測は見事にはずれた。」
  • 産業革命の変革力: 産業革命が、エネルギー利用、技術革新、社会開発において、人類の歴史において前例のない変革をもたらした。
  • 歴史家イアン・モリスの社会開発指数を紹介し、産業革命以降の劇的な進歩を数値的に示す。
  • ジェヴォンズ・パラドックスの再考: 効率化による資源消費量の削減が、かえって総消費量の増加を招くというジェヴォンズの指摘は、需要の価格弾力性の変化や技術革新によって必ずしも当てはまらない場合がある。
  • 「地球の出」のインパクト: アポロ8号が撮影した地球の写真は、人々の環境意識を高める転換点となった。
  • 「地球の出が転換点となって、宇宙時代とは地球の時代であると認識があらたまった。」
  • 脱物質化の兆候: アメリカやイギリスにおける金属、肥料、紙などの消費量のピークアウト、製品の軽量化(アルミ缶の例など)は、脱物質化の具体的な証拠である。
  • レアアース問題の教訓: 中国のレアアース禁輸措置は一時的なパニックを引き起こしたが、技術革新と代替手段の開発によって価格は暴落し、資源の希少性が必ずしも長期的な制約にならないことを示した。
  • 資本主義の基本原則: 利潤追求、市場への自由参入と競争、強い財産権と契約履行が、資本主義の重要な特徴である。
  • 社会主義の失敗例: ベネズエラの社会主義政策の失敗を例に挙げ、資本主義の基本的な要素を排除した経済体制の脆弱性を指摘。
  • 公害対策の進展: モントリオール議定書によるフロン削減、キャップ・アンド・トレード制度による二酸化硫黄削減など、政府の介入による公害対策の成功例を紹介。
  • 気候変動の深刻さ: 地球温暖化は、過去5000年間で人類が経験した変動の10倍のスピードで進行する可能性があり、深刻な影響をもたらす。
  • ノードハウスの気候変動研究を紹介。
  • 「希望の四騎士」: 脱物質化、公害削減、種の保護などを推進する力として、資本主義、技術進歩、反応する政府、市民の自覚の4つの要素を「希望の四騎士」として提示。
  • 社会関係資本の重要性: 人と人とのつながり(社会関係資本)の衰退は、孤立、疎外感、社会の分断を招き、深刻な問題である。

  • 本書は、情報通信技術が普及した現代において台頭した新たな資本主義の形態、「監視資本主義」を深く掘り下げ、その起源、メカニズム、社会への影響、そして人類の未来に対する潜在的な脅威を警告するものです。著者は、この未曽有の経済システムを理解し、抵抗し、より良い未来を築くための議論を促します。
  • 監視資本主義は、グーグルによって「発明」され巧妙に作り上げられていきました。その基本的なメカニズムは、個人の経験を無料で原材料として取得し、行動データに変換・分析することで得られる「行動余剰」を基盤としています。この行動余剰は、予測製品として企業に販売され、莫大な利益を生み出します。当初、グーグルは検索サービスの改善のためにこのプロセスを利用していましたが、2000年のドットコムバブル崩壊を機に、持続的な利益成長を求められ、広告ターゲティングへとその応用を拡大しました。
  • 監視資本主義の特徴は、個人のプライバシーや自律性を軽視し、一方的な監視を正当化する権利を主張することです。企業は、ユーザーの同意なしに、あるいはユーザーが理解しないうちに、日常生活のあらゆる側面からデータを抽出し、それを所有し、自社の利益のために利用します。このプロセスは、オンライン環境だけでなく、現実世界にも拡大しており、「モノのインターネット」などの技術を通じて、人間の経験のあらゆる側面が原材料として求められ、行動データへの変換の対象となっています.
  • 著者は、この状況を、私たちが知る場所であり、知られる場所であり、愛する場所である「ホーム」の感覚の喪失という普遍的な不安と結びつけます。デジタル世界は、より快適な生活を約束する一方で、私たちの経験と知識に対する独占的な権限を強奪し、本来の「ホーム」となるべき場所から私たちを疎外していると指摘します.
  • 監視資本主義は、過去の産業資本主義の発展とも類似点と相違点を持っています。産業資本主義が自然を破壊したように、監視資本主義は人間の本質を犠牲にしていると著者は警告します。また、20世紀に全体主義が予期せず現れたように、監視資本主義もまた、私たちの理解を超えた形で社会を浸食していると警鐘を鳴らします.
  • 行動余剰から得られる予測は、商業的な利益だけでなく、選挙戦略にも利用されることが示されています。フェイスブックなどの企業は、ユーザーの感情や心理的な状態を分析し、行動を修正するための実験や技術を開発しており、これは個人の自律性と民主的秩序に対する深刻な脅威となり得ます.
  • 著者は、監視資本主義を支える「宣言」を批判的に分析し、これらの主張が個人の権利や利益を無視する基盤となっていると指摘します.また、この新たな市場形態が、長年にわたって資本主義の持久力と適応性を示す特徴であった市民との有機的な互恵関係を放棄していると論じます。監視資本主義者はもはや市民を顧客とは見なさず、その行動を予測し、操作することに焦点を当てています. これは、知識と権威と力を市場に集中させる新たな形態の「集産主義」であると著者は指摘します.
  • 監視資本主義の台頭は、社会における「知の分割」を根本的に変化させています。監視資本家は、私たちの知らないうちに私たちの情報を収集・分析し、その知識に基づいて私たちの行動を予測・修正する力を持つ一方で、私たちはそのプロセスや結果を知る機会を奪われています.
  • 著者は、監視資本主義の活動をコントロールしようとする従来の「プライバシー」と「市場独占」の枠組みは、その主要なメカニズムを十分に抑制できていないと指摘します.監視資本主義は、人間の経験を強奪し、未来に対する私たちの権利を侵害しており、この状況を変えるためには、新たな社会契約と民主的な監視が必要であると主張します.
  • 本書は、監視資本主義という新たな脅威の本質を理解し、それに対抗するための議論を喚起し、個人の自律性、民主主義、そしてより良い情報文明の未来を守るための行動を促す力強い警鐘です。
  • 1.「今、この最古の問いには、あらゆる社会、階層、世代の、数十億の人間が答えなければならない。情報通信技術は電気より広く普及し、70億の世界人口のうち30億人に到達した★1。知識と権威と力のもつれから生じるジレンマはもはや、1980年代のように職場に限定されるものではない。今や日常生活の必需品に深く根を張り、ほぼあらゆる形態の社会参加を仲介しているのだ★2。」:情報通信技術の広範な普及と、知識・権威・力のジレンマが日常生活のあらゆる側面に及んでいる現状を強調し、問題の普遍性と緊急性を示唆しています。
  • 2.「アウェア・ホームは、他の多くの先進的なプロジェクトと同様に、より快適な生活を約束するデジタルの未来を想像させた。最も重要なことは、2000年に設計されたそのプロジェクトが当然のこととして、個人のプライバシーの保護を前提にしていたことだ。個人が自分の経験のデジタル化を選ぶのであれば、その人は、そうしたデータから得られた知識とその使い方に対して、独占的な権限を持ってしかるべきだ。しかし現在、これらの個人情報や知識やアプリケーションに対する権限は、図々しいマーケットベンチャーに強奪された。」:かつてはプライバシー保護が前提とされていたデジタル化の未来が、現在では個人データの強奪という現実に変貌したことを示し、監視資本主義の核心的な問題を提起しています。
  • 3.「監視資本主義者は、意のままに侵入する権利を主張し、一方的な監視を可能にするために個人の意思決定権を強奪し、他者の利益のために個人の経験を抽出することを肯定する。」:監視資本主義者の根本的な権利主張を明確に示し、その侵略性と非倫理性を批判しています。
  • 4.「第2部では、予測製品をめぐる競争の激化に伴って、監視資本主義がオンライン環境から現実の世界へ移行して来た過程をたどる。この新たなリアリティ・ビジネスに注目するのは、人間の経験のすべての側面が原材料として求められ、行動データへの変換レンダリングの対象になっているからだ。」:監視資本主義の活動領域が現実世界へと拡大し、人間のあらゆる経験がデータ化の対象となっている現状を指摘し、その影響の深刻さを示唆しています。
  • 5.「監視資本主義の操作は、未来に対する権利の侵害だとわたしは考える。その権利は、個人の未来を想像し、計画し、約束し、建設する権利だ。それは自由意志にとって必須の条件であり、さらに痛切なこととして、意志力の源なのだ。監視資本主義者はどうやって、それを人々から奪い取ったのだろう。」:監視資本主義が個人の未来に対する権利を侵害しているという著者の強い主張であり、問題の本質を突いています。
  • 6.「2001年後半までに、この諜報コミュニティは、国の支援を得て、数千億ドル相当の世界規模の技術インフラ、人材、実践をすばやく制度化し、一般社会における『情報の支配』を確立した。すると、情報の支配をめぐって公的主体と私的主体との間に新たな相互依存が生まれた。」:9・11テロ以降の監視例外主義と、国家の諜報機関とグーグルをはじめとする監視資本主義企業との間に形成された協力関係を示唆し、その後の監視活動の拡大の背景を説明しています。
  • 7.「この新しい市場形態は、監視は投資を利益に変換するための基本メカニズムだという、独自の蓄積の論理の上に成り立っている。」:監視資本主義の核心的な経済メカニズムを簡潔に定義しています。
  • 8.「もう1つの例はセイフグラフだ。同社は、行動を追跡するアプリと提携して、『バックグラウンドで大規模な集団から集めた、精度が高く誤検出率が低い』データを蓄積している。ワシントン・ポスト紙によると、セイフグラフは2016年11月だけで1000万台のスマートフォンから17兆個の位置標識を収集した。そのデータの購入者には、ある大学の研究者2人が含まれていたが、彼らの目的は、その年の感謝祭の日の家族行動パターンへの政治の影響を調べることだった★156。セイフグラフは『匿名化』という婉曲表現を用いるが、個々のデバイスと所有者の動きを終日追跡してデータを生成しており、その詳細さは、個人の自宅住所を特定できるほどだ。」:具体的な企業活動の例を挙げ、監視資本主義によるデータ収集の規模と詳細さ、そして「匿名化」の欺瞞性を明らかにしています。
  • 9.「わたしたちがファーストテキストに送る情報はすべて、どんな些細なものも、束の間のものも、余剰抽出の標的になる。この余剰がシャドウテキストのページを埋める。それはわたしたちの目には触れない。読むのは監視資本家だけだ★19。このテキストでは、わたしたちの経験は原材料として強制的に蓄積され、分析されて、他者の市場目的を果たす手段になる。」:「シャドウテキスト」という概念を提示し、監視資本主義による秘密裏のデータ収集と分析の実態を明らかにしています。
  • 10.「予測要求は、わたしたちが所有するものを、わたしたちを所有するものへと変え、わたしたちの世界と家と身体のあらゆる要素を、利益を得るための計算と操作で使いやすいようにレンダリングしていく。」:監視資本主義が、私たちが持つべきものを私たちを支配するものへと変質させる過程を示唆しています。
  • 11.「『モノのインターネット』を使いこなすことは『ビジネスモデルを「保証されたレベルのパフォーマンス」から「保証された結果」に変換する鍵になるだろう★6』。」:企業幹部の言葉を引用し、監視資本主義の究極的な目標が人間の行動を予測するだけでなく、それをコントロールし、「保証された結果」を生み出すことにあると示唆しています。
  • 12.「2012年、フェイスブックの研究者チームは、『社会的影響と政治的動員に関する6100万人の実験』という刺激的なタイトルの論文で世間を驚かせた。その論文は科学誌『ネイチャー』に掲載された★5。チームは、2010年の米国議会中間選挙中に、ランダム化比較試験を行った。それは、約6100万人のフェイスブックユーザーのニュースフィードに選挙に関連した社会的メッセージや情報を表示し、対照群との差を調べるというものだった。」:フェイスブックによる大規模な行動修正実験の具体例を挙げ、その倫理的な問題を提起しています。
  • 13.「クリス・ワイリーは『わたしたちはフェイスブックを通じて数百万人のプロフィールを手に入れた』と認め、『その人々について知ったことを利用し、彼らの内なる悪魔をターゲットにするモデルを作った』と明かした。」:ケンブリッジ・アナリティカ事件におけるデータの不正利用を証言した人物の言葉を引用し、監視資本主義が個人の脆弱性を悪用する可能性を示唆しています。
  • 14.「極度の無関心を体系的に適用することがもたらす重大な結果は、一般に公開されている『ファーストテキスト』が、噓、大掛かりなデマ、詐欺、暴力、ヘイトスピーチといった、通常、嫌悪されるべき腐敗したコンテンツに対して脆弱になることだ。」:「極度の無関心」という監視資本主義の経営規律が、オンライン上の有害コンテンツの拡散を助長する構造的な問題を指摘しています。
  • 15.「もう1点、監視資本主義と従来の資本主義との明確な違いは、長年にわたって資本主義の持久力と適応性を示す特徴であった市民との有機的な互恵関係を、監視資本主義が放棄したことだ。」:監視資本主義が、従来の資本主義が持っていた市民との互恵関係を失い、一方的な搾取へと向かっていることを指摘しています。
  • 16.「自由の獲得と知識の蓄積は、大衆との有機的な互恵関係の欠如と結びついて、監視資本主義の第3の特徴である集産主義的志向を形作っている。その志向は、市場資本主義と市場民主主義の長年の価値観からも、監視資本主義の起源である新自由主義の世界観からも、等しく乖離している。監視資本主義は自らの商業的利益のために、わたしたちを巣の中での集団生活に追い込む。この私営化された道具主義の社会秩序は、集産主義の新たな形態であり、その領域に知識と自由を集中させるのは、国家ではなく市場である。」:監視資本主義がもたらす新たな形態の集産主義を批判的に分析しています。
  • 17.「本書が当初から目的としたのは、斬新で慎重な命名をすることによって、強奪のメカニズムを阻止し、その行動を逆行させ、必要な抵抗を早急に生み出し、病的な知の分割を是正し、最終的により良い生活への要求を真に満たす新しい形の情報資本主義を築く準備を整えることだった。社会に参加し個人の能力を発揮するために、未来に対する権利を犠牲にする必要はない。なぜなら未来に対する権利とは、わたしたちの意志、自律性、決定権、プライバシーであり、人間の本質であるからだ。」:著者の問題意識と本書の目的、そして未来に対する権利の重要性を強調する結論部分です。

  • この文書は、現代において資本主義が単一のシステムとして世界を覆うようになった現状を分析し、その未来について考察しています。特に、「リベラル能力資本主義」と「政治的資本主義」という二つの主要なモデルに焦点を当て、それぞれの特徴、発展、相互の競争、そしてグローバリゼーションとの関係について詳細に論じています。また、共産主義の歴史的位置づけや、不平等の拡大といった重要な課題についても深く掘り下げています。
  • 現代において、資本主義は共産主義という明確な対抗システムを失い、世界を制する唯一のシステムとなりました [タイトル]。しかし、資本主義は一枚岩ではなく、「リベラル能力資本主義」と「政治的資本主義」という二つの異なるモデルが存在し、それぞれ異なる特徴と発展の歴史を持っています。
  • リベラル能力資本主義は、主に欧米で発展してきたモデルであり、個人の能力と自由な競争を重視しますが、近年では不平等の拡大、特に資本所得の集中、高所得者層における労働所得と資本所得の結合(ホモプルーティア)、同類婚の増加、所得と富の世代間継承の増大といった特徴が顕著になっています。従来の不平等是正のツール(強い労働組合、大衆教育、高い税金、政府による大規模な移転)は、グローバリゼーションや政治的環境の変化により効果が薄れており、新たな社会政策として資本所有の分散(相続税や富裕税の活用など)や教育機会の平等化が提案されています。
  • 一方、政治的資本主義は、国家が経済において主導的な役割を果たすモデルであり、中国がその代表例です。鄧小平の改革によって導入され、高い経済成長を遂げましたが、固有の腐敗、拡大する不平等(都市部と農村部の格差など)といった課題も抱えています。政治的資本主義は、リベラル資本主義とは異なり、法の支配が弱く、政治的エリートが経済をコントロールする傾向があります。中国は、グローバルな影響力を拡大するために「一帯一路構想」やアジアインフラ投資銀行などを推進していますが、その政治体制や腐敗の問題から、グローバルな規模での普及には限界があると考えられています。
  • 共産主義は、マルクスが予見した先進国での革命としてではなく、第三世界の一部において、封建主義から資本主義への移行を促進する役割を果たしました。特に、社会革命と国民革命の結合が、これらの国々での共産主義政党の成功の要因となりました。
  • グローバリゼーションは、資本と労働の移動性を高めましたが、同時に「市民権プレミアム」と「市民権ペナルティ」という所得格差を生み出しています。移民問題は、福祉国家との関係や、国内の政治的対立を引き起こす要因となっています。グローバル化された超商業主義的な環境は、腐敗を助長する要因ともなり得ます。
  • 将来的には、リベラル能力資本主義と政治的資本主義の競争が続くと予想され、どちらか一方のシステムが世界全体を支配する可能性は低いと考えられています。アフリカの経済発展がグローバルな不平等の縮小に重要な影響を与える可能性があります。資本主義の未来は、技術革新、地政学的な変動、そして各国の社会政策によって大きく左右されるでしょう。
  • 1.資本主義の二つのモデル:「リベラル能力資本主義」と「政治的資本主義」の区別:現代資本主義を理解する上での基本的な枠組みを示しており、本書の分析の中心となります。
  • 2.リベラル能力資本主義における不平等の拡大とその要因:資本所得の集中、ホモプルーティア、同類婚、世代間継承といった具体的な現象を指摘し、現代社会の重要な課題を示しています。
  • 3.ボウリーの法則の再検討と資本シェアの上昇:従来の経済学の定説に疑問を投げかけ、近年の所得分配の変化を捉える上で重要です。
  • 4.政治的資本主義の概念と中国の事例:国家主導型の資本主義モデルを提示し、その特徴と課題を具体的に示しています。
  • 5.第三世界における共産主義の役割:マルクスの予見とは異なる共産主義の歴史的位置づけを示し、歴史認識を更新する視点を提供します。
  • 6.社会革命と国民革命の結合:第三世界における共産主義の成功要因を分析する上で重要な概念です。
  • 7.ローバリゼーションと市民権プレミアム/ペナルティ:グローバル化がもたらす新たな不平等構造を捉える視点を示しています。
  • 8.移民と福祉国家の関係:現代社会における重要な政治的課題を分析する上で不可欠です。
  • 9.グローバリゼーション時代における腐敗の根拠:超商業化、自由な資本勘定、デモンストレーション効果という三つの要因を提示し、現代社会における腐敗の構造を説明しています。
  • 10.リベラル能力資本主義における支配エリート層の特徴(キツネのたとえ):現代のエリート層の権力維持の方法を分析し、興味深い視点を提供しています。
  • 11.高額な教育費とエリート層の自己永続性:教育が不平等を再生産するメカニズムを分析し、機会の平等の重要性を示唆しています。
  • 12.相続税の役割と機会の平等:不平等是正のための具体的な政策手段とその意義について論じています。
  • 13.中国の所有権の多様性と法の支配の曖昧さ:政治的資本主義の特異性を理解する上で重要なポイントです。
  • 14.中国の民主化の可能性についての考察:中国の政治体制の将来について、経済発展との関係から考察しています。
  • 15.「一帯一路構想」の戦略的意義:中国のグローバルな影響力拡大の試みを分析しています。
  • 16.福祉国家の限界と新たな社会政策の必要性:従来の社会政策の限界を指摘し、新たな政策の方向性を示唆しています。
  • 17.経済成長と所得収束の理論:グローバルな所得格差の将来を予測する上で重要な理論的背景を提供しています。
  • 18.大国間戦争の可能性とグローバル資本主義:資本主義の発展と戦争の関係について考察し、警鐘を鳴らしています。

  • 本書「資本主義の次に来る世界」は、現代資本主義が抱える根源的な問題を、環境破壊、不平等、そして成長至上主義の観点から深く掘り下げ、その先に訪れるべきポスト資本主義の世界像を描き出す意欲的な一冊です。著者は、資本主義の成長要求が地球の生態系を破壊し、気候変動を加速させ、大量絶滅の時代を招いていると警鐘を鳴らします。工業型農業による土壌の劣化と生物多様性の喪失、海面上昇による沿岸部の危機、極地の氷床や森林のフィードバックループによる温暖化の加速、そして海洋性氷崖不安定などのティッピングポイントを超過する可能性などが、具体的な危機として提示されます。
  • 著者は、資本主義の本質を、人間のニーズや社会の向上ではなく、絶え間ない拡大、すなわち「成長」の要求を中心として組織された経済システムであると定義します。国内総生産(GDP)という指標がその最優先命令を象徴しており、利益の蓄積こそが至上の目的であると指摘します。そして、生態系の危機は「全人類」によって引き起こされているのではなく、主に高所得国の過剰な成長、特に超富裕層による過剰な蓄財に起因する不平等の危機であると強調します。
  • 資本主義の成立過程についても歴史的に考察し、囲い込みや植民地化といった暴力的なプロセスを通じて、自給自足的な社会を破壊し、賃金労働者を創出した歴史を明らかにします。資本主義は決して自然で必然的なプロセスではなく、組織的な暴力と大衆の貧困化を背景に成立したと主張します。また、二元論的な世界観、すなわち人間と自然を分離し、人間を優位とする思想が、自然の搾取を正当化してきた歴史を指摘します。アニミズム的な相互依存の世界観が抑圧され、デカルトの機械論哲学が主流となることで、自然は単なる資源、所有と搾取の対象と見なされるようになったと論じます。
  • 著者は、永遠に続く経済成長という資本主義の幻想を批判し、テクノロジーによるグリーン成長という考え方にも懐疑的な見方を示します。過去の「成長の限界」に関する議論を紹介しつつ、効率化による資源消費の絶対的なデカップリングは起きていないと指摘します(ジェヴォンズのパラドックス)。むしろ、技術革新は生産能力を拡大し、資源消費を増やす傾向にあると主張します。
  • このような現状を踏まえ、著者は資本主義に代わるポスト資本主義経済の必要性を提唱します。それは、際限のない資本の蓄積ではなく、人間の繁栄を中心に組織された、より公正で公平で思いやりのある経済です。その実現に向けた具体的なステップとして、以下の点を挙げます。
  • •計画的陳腐化を終わらせ、製品の耐久性を高める。保証期間の延長義務化や修理する権利の法制化、リース方式への移行などを提案します。
  • •広告の力を抑制し、無駄な消費を減らす。総広告費の削減、操作的な広告手法の規制、公共空間からの広告排除などを提言します。
  • •不必要な仕事の削減と労働時間の短縮。週の労働時間を短縮し、余暇時間を増やすことで、人々の幸福度を高め、環境負荷の低い活動を促進すると主張します。公的な雇用保障制度の導入も提案します。
  • •公共財を脱商品化し、コモンズを拡大する。医療、教育、住宅などの公共サービスを充実させ、人々の「福利購買力」を高めることで、経済成長への依存度を下げることを目指します。
  • •債務を帳消しにする。学生ローンやグローバル・サウスの不当な債務を帳消しにすることで、成長を求める圧力を軽減すると主張します。
  • •金融システムの民主化。銀行による貨幣創造の仕組みを問い直し、より公平な金融システムを構築する必要性を指摘します。
  • •政治腐敗の是正。企業による政治への影響力を制限し、民主主義を取り戻すことを目指します。
  • さらに、著者は、アニミズム的な世界観から学ぶべきだと主張します。人間と自然を分離する二元論を超え、すべての生物が相互につながり、同じ精神あるいは霊的本質を共有するという考え方を取り戻すことで、他の生物や生態系からの搾取を抑制する倫理観を再構築できると論じます。互恵主義の精神に基づき、生態系が再生できる量を超えて採取しないこと、そして生態系を豊かにするために積極的に関わることの重要性を強調します。
  • 本書は、ポスト資本主義への移行は、単なる経済システムの変革ではなく、世界と人間の位置づけについての見方そのものを変える必要があると訴えます。成長至上主義から脱却し、真の豊かさ、公平性、そして地球との調和を目指す社会への転換こそが、人類が直面する危機を乗り越える道であると力強く主張します。
  • 1.「複雑な生態系を一元化した結果、他のすべてが見えなくなった。昆虫と鳥に何が起きているか、さらには土壌そのものに何が起きているかに誰も気づかなかった。」 – 工業型農業による生態系破壊の深刻さを指摘する冒頭部分。
  • 2.「科学者は本来、感情的な表現を避け、中立的で客観的な論調で書くことを好む。しかし、これらの報告書を読むと、科学者の多くが、ボキャブラリーを変更せざるを得ないと感じていることに気づかされる。」 – 環境危機の深刻さが科学者の言葉遣いを変えていることの重要性を示す一節。
  • 3.「人類はいずれ非常に高い代価を支払うことになるだろう」と著者は記している。「知られる限り宇宙で唯一の生物群に対して大量殺りくを行ったことへの代価を★20」 – 大量絶滅の倫理的、文明的な意味合いを強調する部分。
  • 4.「わたしたちにとって、この仕組みを理解するのは難しい。なぜなら、わたしたちは世界を複雑な全体としてではなく、部分として考えがちだからだ。」 – システム思考の欠如が問題認識を妨げていることを指摘。
  • 5.「資本主義が歴史上の他の経済システムの大半と異なるのは、それが絶え間ない拡大、すなわち「成長」の要求を中心として組織されているからだ。」 – 資本主義の本質を明確に定義する重要な一節。
  • 6.「成長は資本主義の最優先命令だ。資本主義における生産の増大が目的とするのは、人間のニーズを満たすことでも、社会を向上させることでもなく、利益を引き出し蓄積することだ。」 – 資本主義の目的を批判的に示す部分。
  • 7.「地球規模の生態系崩壊のほぼすべての原因は、高所得国の過剰な成長、とりわけ超富裕層による過剰な蓄財にあり、グローバル・サウスと貧困層は不当に傷つけられている★33。結局のところ、これは不平等がもたらす危機なのだ。」 – 環境問題の根本原因が先進国の過剰消費と不平等にあると指摘。
  • 8.「資本主義の台頭は決して自然で必然的なプロセスではなかった。一般に考えられているような、穏やかな「移行」ではなく、平和的でもない。資本主義は、組織的な暴力、大衆の貧困化、自給自足経済の組織的破壊を背景として生まれたのだ。」 – 資本主義の成立史に対する一般的な見方を覆す重要な主張。
  • 9.「資本家は農奴制の原理を採用し、新しい極端なやり方で、その原理を再利用した。すなわち、生産手段をほぼ完全にコントロールし、小作農と労働者を、資本家に依存しなければ生きられないようにしたのだ。」 – 資本主義と農奴制の連続性を示唆する批判的な視点。
  • 10.「人類は、30万年に及ぶ歴史の大半を通じて、他の生物と親密な関係を保ってきた。」 – かつての人間と自然の関係性を振り返る重要な一節。
  • 11.「アニミズムでは、すべての生物は互いとつながっていて、同じ精神あるいは霊的本質を共有するとされる。アニミズムを信仰する人々は、基本的に人間と自然を区別しない。」 – アニミズムの核心的な考え方を説明する部分。
  • 12.「神は言われた、「我々にかたどり、我々に似せて、人を造ろう。そして海の魚、空の鳥、家畜と、地の獣と、地を這うものすべてを支配させよう」 – 人間中心的な世界観の起源を示す聖書の記述。
  • 13.「もし精霊が至るところに存在するのであれば、神は存在しない。神が存在しなければ、司祭も王も存在しない。そのような世界では、「神から授かった王権」はデタラメと見なされる★32。」 – アニミズム的思考が権威構造を脅かす可能性を示唆。
  • 14.「あらゆるものが生きていて精霊や主体性エージェンシーを内包する世界では、万物は権利を持つ存在と見なされ、所有および搾取──すなわち、財産化──は倫理的に許されない。」 – アニミズム的倫理観と資本主義の根本的な対立を示す部分。
  • 15.「デカルトによって、人間と他の生物界とのつながりは断たれ、二者の間には埋めがたい溝が刻まれた。」 – 二元論の決定的な影響を示す一節。
  • 16.「経済成長が今後2500年間続くことを否定する理由はない」 – 無限成長を信じる楽観論の極端な例。
  • 17.「経済が生物界を代謝する速度とほぼ等しいことがわかる。そのこと自体は問題でないが、一線を越えると──これから見ていくように、富裕国はかなり前から越えている──きわめて破壊的になる。」 – 経済成長と環境負荷の関係性を明確に示す重要な指摘。
  • 18.「クリーンエネルギーはダーティーなエネルギーに取って代わるのではなく、追加されている★19。」 – エネルギー転換の現状に対する重要な警鐘。
  • 19.「継続的に効率を向上させれば奇跡的に絶対的デカップリングが起きる、という考え方には、経験的にも理論的にも根拠がないのである。」 – グリーン成長論に対する批判的な結論。
  • 20.「もしアメリカが公的医療・教育制度に移行したら、人々はより良く生きるために必要なものを、これまでの何分の1かのコストで利用できるようになる。そうなれば突如として、何とか暮らしていくために高収入を追求しなければならないというプレッシャーから解放されるだろう。」 – 公共サービスの拡充が成長への依存を減らす可能性を示す部分。
  • 21.「大切なのは、生産高、強化、仕事のリズムについて語るのをやめることだ。わたしたちは、誰かに追いつきたいわけではない。望むのは、昼も夜も常に人と共にあり、すべての人と共に前進することだ。」 – グローバル・サウスの視点から成長至上主義を批判するファノンの言葉。
  • 22.「売上を伸ばしたくてたまらない企業は、比較的短期間で故障して買い替えが必要になる製品を作ろうとする。」 – 計画的陳腐化の実態を説明する一節。
  • 23.「もし洗濯機やスマートフォンが4倍長持ちするようになれば、その消費量は75%減る。マテリアル・スループット(物質の処理量)は大幅に削減されるが、人々の生活にマイナスの影響はまったくない。」 – 製品寿命延長の潜在的な効果を示す部分。
  • 24.「余暇の少ない人ほど、より集約的な消費をしやすいのだ。そのような人は、高速での移動、食事の宅配、衝動買い、買い物リテールセラピーなどに頼っている。」 – 労働時間短縮が環境負荷の低いライフスタイルを促す可能性を示唆。
  • 25.「真の自由をもたらすという約束は永遠に果たされない★35。」 – 資本主義の自由の概念に対する批判。
  • 26.「資本主義は、生産性と利益を驚くほど向上させるが、それらを豊かさと自由にではなく、新たな形の人為的希少性に変える。そうしなければ資本蓄積のエンジンが止まる恐れがあるからだ。」 – 資本主義が意図的に希少性を生み出しているという核心的な主張。
  • 27.「脱成長は結局のところ、脱植民地化のプロセスだと考えざるを得ない。」 – 脱成長の政治的、倫理的な意味合いを強調する重要な視点。
  • 28.「「取ってはならない」ではなく(もしそうなら、生きていけない)、「相手が望むより多く、あるいは、与えられるより多く取ってはならない」、すなわち、「生態系が再生できる量を超えて取るべきではない」というものだ。」 – アニミズム的な倫理観の核心を示す一節。

  • この文書は、現代資本主義が直面している危機と、それを超えた先に存在する可能性のある「ポスト資本主義」の世界について論じています。
  • 現代資本主義は、2008年の金融危機以降、新自由主義的モデルの限界を露呈し、長期的な停滞、不平等、そして気候変動、高齢化、人口増加といった新たな課題に直面しています. 著者は、情報技術の発展が資本主義の根幹を揺るがしており、もはや資本主義が技術変化に適応できなくなっていると主張します.
  • 新自由主義は市場原理を絶対視し、個人の利己主義を繁栄の基盤としましたが、その結果、国家間の不平等は増大し、社会の分断を招いています. 情報技術は、労働の必要性を減らし、情報財の潤沢性によって市場の価格設定能力を弱め、協働生産の増加を促すなど、資本主義の基本的なメカニズムと矛盾する特性を持っています.
  • 著者は、資本主義の終焉は従来の左派が想定したような強制的な破壊によるものではなく、既存のシステム内に目に見えない形で構築されつつある、よりダイナミックな何かによってもたらされると論じます. それは、新しい価値観、行動規範を中心とした経済への再編であり、情報技術によって可能となる協働生産や非市場的な活動がその萌芽を示しています.
  • 文書は、経済の長期的な変動を分析するコンドラチェフの長期波動論を紹介し、現在の危機が50年サイクルの終焉よりも大きな構造的変化の兆候である可能性を示唆します. マルクスの危機理論や、20世紀初頭の社会主義者たちの資本主義崩壊に関する議論も検証され、資本主義が危機に適応し変異する能力を持つことが指摘されます.
  • 「認知資本主義」という概念を通じて、情報技術が社会全体を工場化し、ネットワーク化された個人が新たな社会変革の主体となりつつあることが示唆されます. 労働価値説を再評価し、情報経済における価値の源泉と測定について考察することで、限界費用がゼロに近づく情報財の特性が資本主義の価格メカニズムを脅かしていることが説明されます.
  • 著者は、資本主義後の経済システムへの移行戦略として、「プロジェクト・ゼロ」を提唱します. これは、ゼロ炭素エネルギーシステム、限界費用ゼロの生産、必要労働時間の削減を目指すものであり、大規模なトップダウンの計画ではなく、分散化されたモジュール式の取り組みを通じて実現されるべきだと主張します. 金融システムの国有化、独占の禁止、公共サービスの拡充などが具体的な政策として提案されます.
  • 最後に、気候変動、高齢化、人口増加といった外部からのショックがポスト資本主義への移行を加速させる要因となることが強調され、持続可能な国際秩序の構築と経済のダイナミズムの回復が不可欠であると結論付けられます.
  • 1.「2つ目のシナリオでは、世論が分断する。一般の人々が緊縮財政のつけを払わされるのを拒否すると、極右と極左の政党が権力を握るようになる。」:現代資本主義の危機が社会の政治的分極化を招く可能性を示唆しています。
  • 2.「昨今の危機は、新自由主義的モデルの終わりを意味するだけでなく、市場システムと情報を基盤とする経済とのずれが長く存在してきた現れでもある。」:現在の危機は一時的なものではなく、構造的な矛盾に根ざしていると指摘しています。
  • 3.「私がこの本を書いた狙いは、なぜ資本主義に取って代わることが、もはやユートピア的な夢ではないのか、どうすれば既存のシステムの中で、ポスト資本主義経済の基盤を築くことができるのか、どうすればポスト資本主義経済を早急に普及させることができるのか、を説明することにある。」:本書の主要な目的を示しており、ポスト資本主義の現実味と実現方法を探求する姿勢を表明しています。
  • 4.「人間とは本来、冷酷な個人の集りで、互いに競争し合うもの、というわけだ。」:新自由主義の人間の本性に対する誤った認識を批判しています。
  • 5.「しかし、私たちが生み出したテクノロジーは資本主義とは共存できない。」:情報技術と資本主義の根本的な非両立性を主張する本書の核心的な一節です。
  • 6.「資本主義はもはや技術的変化に適応できなくなる。だから、ポスト資本主義が必要となるのだ。」:技術革新が資本主義の限界を押し広げ、新たな経済システムへの移行を不可避にするという論理です。
  • 7.「結局のところ、資本主義は強硬な手段によって終わりを迎えることはないだろう。それが終わるのは、旧システムにも存在するが目には見えない、よりダイナミックな何かが構築されたときだ。」:資本主義の終焉は漸進的かつ内部的なプロセスであると予測しています。
  • 8.「情報技術が、労働の必要性を減らし、労働と自由時間との境目をあいまいにし、労働と賃金との関係を緩めたことだ。」:情報技術が労働市場と価値観に与える根本的な変化を指摘しています。
  • 9.「情報財が、価格を正確に設定する市場の能力を弱めつつあることだ。なぜなら、市場は商品の希少性を基にして価格を決めているのに対し、情報は潤沢にあるからだ。」:情報財の非希少性が市場原理を揺るがすメカニズムを説明しています。
  • 10.「協働生産が自然発生的に増加しているのを私たちは目の当たりにしていることだ。財やサービスや組織は明らかに、市場や経営階層組織の命令に反応しなくなった。」:ウィキペディアのような事例を挙げ、非市場的な協働生産の可能性を示しています。
  • 11.「今日では、社会全体が工場と化した。通信網は日々の仕事に欠かせないもので、そこで共有された知識や不満が飛び交い、利益に影響している。」:情報ネットワークが社会全体を生産の場に変えつつある状況を「社会全体の工場化」として捉えています。
  • 12.「大衆をネットワーク化すれば、人は金銭的に搾取される。けれど、情報資本主義は、指一本で情報を発信できる人間の知識を用いて、歴史に変化を引き起こす新たな担い手を作り出してきた。」:ネットワーク化された個人が持つ潜在的な変革力を強調しています。
  • 13.「今の若者たちは、19世紀や20世紀の急進派のように思考から行動に移るわけではなく、抑圧の力によって心が揺さぶられ、急進的な考えを持つようになった。『人を監禁したり、拷問したり、苦しめたりすることもあるかもしれない。でも、心の中の抵抗は抑えられない』というようにだ。」:現代の抵抗運動の質的な変化を指摘しています。
  • 14.「情報技術があれば、ユートピア的社会主義のプロジェクトの大半が可能となる。」:技術革新がかつてのユートピア思想を現実のものにする可能性を示唆しています。
  • 15.「コンドラチェフは、資本主義は危機の下で崩壊するのではなく、たいがいは適応して変異する、と論じたのだ。」:資本主義の適応能力に着目したコンドラチェフの重要な洞察を紹介しています。
  • 16.「金融状態が好調で予測可能なときは、銀行の利益そのものが常に高くなりつつある。銀行業は、競合他社や顧客、取引先などからの金儲けに集中するようになり、あの手この手を使った戦術ゲームと化す。これが、新自由主義の3つ目の反動に相当する『マネーだけでマネーを創り出すことができるという勘違い』が広まる原因になる。」:金融化の進展がもたらすリスクを指摘しています。
  • 17.「歴史学者のフェルナン・ブローデルは、あらゆる経済超大国の衰退は、金融に目を向けたときから始まる、と主張した。」:歴史的な視点から金融の過剰な発展の危険性を警告しています。
  • 18.「情報技術が、ダイナミズムを創造するはずの能力を市場原理から奪ってきた。その代わり、情報技術はポスト資本主義経済に向けた条件を生み出しつつある。」:情報技術の二面性を指摘し、資本主義の弱体化と新たな経済の可能性を示唆しています。
  • 19.「過去20年にわたり、資本主義は新たな社会勢力を結集させてきた。その勢力は、19世紀に工場でプロレタリアートを作り出したように、いずれ資本主義の墓を掘ることになるだろう。街の広場にテントを張ったり、シェールガス掘削現場を封鎖したり、ロシア正教会の屋上でパンクロックを演奏したり、ゲジ公園の芝生にいるイスラム教徒の目の前に暴力的にビール缶を振りかざしたり、リオやサンパウロの街路に100万人集めたり、中国南部で大衆ストライキを組織したりしたのは、すべてネットワーク化された個人だ。」:ネットワーク化された個人が現代社会の変革主体であることを力強く主張しています。
  • 20.「労働価値説では、機械やエネルギー、原材料を『過去の労働』として扱っていて、それらの価値が生産物に移っているとしている。だから、例えば、1枚の服を作る綿を得るために、育てて、摘んで、紡いで、移動させるのに要する平均労働時間が合わせて30分かかるとすると、それらの価値が完成したシャツに移っていることになる。」:労働価値説の基本的な考え方を説明しています。
  • 21.「一旦設計でコストがかかれば、ソフトウェアを生産するコストはメディアのコストに移される。ハードドライブに記録したり、ファイバーネットワークで流したりされるからだ。」:情報財の生産におけるコスト構造の特異性を指摘しています。
  • 22.「もし、機械が永遠に動くとすると、ほとんど価値は移行しない──たとえ初期の支出が10億であっても『寿命がなく、永久的に動く』ため、割るとゼロになるからだ。」:限界費用ゼロの機械が労働価値に与える影響を極端な例で示しています。
  • 23.「私たちはこの技術に関心を寄せるべきだ。というのも、2030年までに、稼働する航空機の数は2倍になると航空機メーカーは予測している。ターボファンエンジンが新たに6万台増えるということだ。」:具体的な技術発展の予測を示し、それが地球温暖化に与える影響を指摘しています。
  • 24.「ベンクラーにとって、安価なテクノロジーと生産のモジュール式は、非市場となる協働作業に人々を引き寄せる。彼は、これを一時的な流行ではなく、『人類の持続可能な生産パターン』だと捉えている。」:情報技術がもたらす新たな生産様式の可能性を楽観的に捉えています。
  • 25.「サイバー・スターリン主義の攻撃」:中央集権的な計画経済に対する批判的な視点を示唆する章のタイトルです。
  • 26.「コックショットとコットレルは、労働価値説が、市場と非市場の相互作用を比較できる測定手段と移行を調整する方法をもたらすと理解しているのだ。そして、その計画プロセスを、モジュールに分割したコンピュータプログラムに似ているとみなした。」:労働価値説を基盤とした分散型計画経済の可能性を示唆しています。
  • 27.「2050年までに、世界の気温上昇を産業革命以前から2度までに抑えるために炭素排出量を早急に削減し、エネルギー危機を回避し、気候事象による災害を軽減させる。」:ポスト資本主義プロジェクトにおける最優先の目標の一つとして気候変動対策を掲げています。
  • 28.「金融システムを国有化させ、今から2050年までに安定させる。」:金融システムの安定化のための具体的な政策提言です。
  • 29.「自動化経済に向けた迅速な移行を進めるために、必要労働の削減につながるテクノロジーを連動させる。最終的に、仕事は自由意思となり、基本的物資や公共サービスは無料で利用できるようになる。」:ポスト資本主義社会における労働のあり方と社会保障の理想像を描いています。
  • 30.「地球を救うことは、技術的に実現可能で、時価で計算しても経済的に合理的だ。その道をふさぐものが市場となる。」:気候変動対策における市場の限界を指摘し、非市場的な介入の必要性を主張しています。

  • 「生命の網のなかの資本主義」は、資本主義文明を資本、権力、自然が共生産する「世界=生態」として捉え、資本蓄積と地球の変容を相互に密接に結びつけて理解しようとする試みです。本書は、従来のマルクス主義的な資本主義分析が社会領域に偏りがちであったのに対し、「物質代謝」という概念を取り入れ、自然環境を視野に入れた議論を展開したフォスターの『マルクスのエコロジー』 以降の議論を踏まえつつ、ムーア自身の「世界エコロジー」の視点から、社会と自然の関係性を歴史的に再検討します。
  • ムーアは、フォスターの議論を、社会における資本主義的生産と社会に利用される自然という二元論に基づくと批判し、「認識論的亀裂」に陥っていると指摘します。これに対し、ムーアは自然観を一元論的に転換し、社会と自然の関係をネットワーク的な捉え方をすべきだと主張します。本書では、「物質代謝の亀裂」論を批判的に検討し、より根源的な問題として、資本主義による「安価な自然」の収奪という視点を強調します。
  • 「安価な自然」とは、資本蓄積のために対価を支払われることなく利用される労働力、食糧、エネルギー、原材料のことであり、「四つの安価物」とも呼ばれます。初期資本主義の勃興は、こうした安価な自然の発見と収奪によって支えられており、技術革新や暴力、象徴的なイノベーションも、事実上の単位労働費用を削減するために動員されました。特に、アメリカ大陸の征服は、労働生産性の成長に巨大な影響を与えました。
  • 本書は、資本主義の歴史を、この「安価な自然」を求める不断の運動として捉えます。フロンティアの拡大は、新たな安価な自然の供給源を確保し、蓄積を可能にする重要な契機でした。しかし、フロンティアは有限であり、収奪が進むにつれて、対価を支払わずに利用できる自然は枯渇していきます。
  • ムーアは、マルクスが賃労働の搾取と同義に用いていた「収奪」という語を、商品の体系の外部にあって対価の支払われないはたらきを同定、確保して、資本の回路へと流し込む経済外的過程として用います。科学、地図製作、植物学などの革命は、この「収奪」の具体例です。搾取率の上昇は、「安価な自然」の収奪に大きく依存しています。
  • 本書は、労働生産性という指標が資本主義の富の物差しとなったことを指摘し、環境主義者によるエネルギー浪費型の工業的農業への批判を紹介しつつ、この非効率性がシステムを構成するものであると論じます。抽象的社会的労働としての富という価値は、外部からの供給が維持される限り、自然を急激に消耗させる社会=生態の発展を促します。
  • ムーアは、自然を外部に存在する客体として捉える観念が、資本の自己拡大にとって有効に機能してきたと指摘します。しかし、歴史的な自然の枯渇は、新たな自然の「発見」を促します。初期資本主義の世界-実践プラクシスは、自然の大胆な物神化を推し進め、人間とそれ以外の自然との分離を前提とする新たな知的体系を生み出しました。
  • 本書は、「大文字の自然」と「大文字の社会」の二元論を批判し、人間と人間以外の自然がどのように束ね合わされているかを問題とします。歴史をつくる能力は、人間と人間以外のアクターが織りなす特定の配置によって定まり、人間のエージェンシーは常に全体としての自然の内部にあり、自然と不可分の関係にあります。新たな世界=生態という見方は、こうした人間/人間以外の活動の束ね合わせを出発点とします。
  • 資本主義の歴史において、「大不況」は、世界=生態上の革命を通じて解決されてきました。それは、「四つの安価物」の回復に依存しており、労働の生産性に根差しています。生態学的剰余が高いときには生産性の革命が起こり、長期にわたる拡大が始まります。しかし、資本は時間とともに利潤追求の費用をますます多く負担しなければならなくなります。
  • 本書は、物質代謝の亀裂という概念を、再編成とシフトとして捉え直し、「単一の矛盾の両面としての自然の疎外と人間による生産の疎外」という理論を提示し、自然が単に結果として問題なのではなく、抽象的社会的労働の蓄積において構成的・能動的である次元で捉えられた世界史に資本主義の歴史を位置付けることを目指します。
  • 現代において、過剰生産と過剰蓄積が合流しているのは、長い化石燃料ブーム期に形成されたマルクス主義と新古典派の思想によるものであり、「2世紀モデル」と呼ばれる資本主義を1800年頃に始まったとみなす見方は、1450年以降の環境-制作における革命的なシフトを見えにくくすると批判します。
  • 本書は、生態学的剰余の減少傾向は不変の鉄則ではないとしつつも、自然の資本化が進むにつれて、収奪の侵食効果により、対価の支払われないはたらき/エネルギーのフローの増加をもたらす地域の能力が蝕まれていくと指摘します。余剰資本が増加する傾向と生態学的剰余が減少する傾向は、資本のプロジェクトとそれを支える自然のはたらきとのあいだの調停不可能な矛盾を構成しますが、フロンティアの存在がこの矛盾を一時的に解消してきました。
  • 地域の急激な発展は、蓄積、権力、生産のグローバルな中心へと緊密に統合された収奪の関係によってもたらされますが、枯渇するのは特定の時間と空間にあるオイケイオス、つまり地域固有の資本化と収奪の関係です。枯渇は、私たちが「労働を地球と混ぜ合わせる」仕方に関するものであり、「資本主義」や「自然」が枯渇するのではなく、地域固有の関係が枯渇します。
  • 本書は、過少生産への傾向が第二次産業革命により一時的に食い止められたものの、本質的な矛盾は残存しており、略奪と生産性の弁証法がグローバルな生態学的危機の先送り的な解決策として繰り返されてきたと指摘します。特に、植民地化の拡大と原材料生産への資本の浸透が重要でした。
  • 自然の資本化という視点は、蓄積の危機を検討する上で有益であり、一次産業における資本化の度合いが増加するペースは、二次・三次産業よりも速いと指摘します。収奪のフロンティアにおける高い収奪率は、商品領域における労働生産性の上昇に寄与します。化石燃料は過去3世紀のあいだ生態学的剰余の中心でしたが、資本主義が化石燃料を組み込むことで自身を作り変えたと論じます。収奪とは、資本がオイケイオスのはたらきを引き出す過程であり、資本主義がその生産にかかる基本コストをいかに削減するかにかかわっています。
  • 本書は、エネルギー資源の収奪が労働生産性を上昇させる上で特別に重要であることを指摘し、石油のピーク収奪期が過ぎ、生産コストが上昇している現状を分析します。金融化は石油価格に上昇圧力を及ぼし、市場の変動性を高め、資源の枯渇から生じる生産コストの上昇を増幅させます。エネルギー生産における収奪から資本化への移行は、有害物質による汚染という恐ろしい変化を伴いました。
  • 世界=生態の革命は生態学的剰余の増加をもたらし、収奪された自然と資本化された自然の差が「剰余」となります。新自由主義的な資本主義に関しては、収奪可能性の相対的な縮小が重要な意味を持ち、1970年代の景気下落以降の支配者層の攻勢や金融の拡大は、収奪可能性の縮小に対応するための富の再配分であると解釈します。
  • 本書は、資本が「四つの安価物」に立脚しており、それを確保する唯一の方法がフロンティアであると強調します。不断の地理的拡大とイノベーションが、この絶対的原則への対応策でした。自然の資本化が引き起こす中心的な問題は、内部の矛盾が外部につながる開口部を見出すことで克服されてきましたが、地理的拡大という古いモデルはもはや機能していません。
  • 「人新世」の議論は、自然から人間を切り離し、方程式から資本主義を消去しているという意味で問題含みであり、歴史的時間についても不当に狭い捉え方を提示していると批判します。産業化は近代化のビッグバンではなく、16世紀に始まる資本主義の周期的現象であり、過去5世紀にわたる資本、権力、自然の大規模で長期的なパターンを説明する上で最も有用な概念ではないと論じます。
  • 本書は、安価な食糧が資本主義の各時代において蓄積の回復のために繰り返し求められてきた条件であると指摘し、新自由主義時代における食糧と燃料の緊密な結びつきが、四つの安価物の目減りと投資機会の激減を予兆するコモディティブームを引き起こしたと分析します。現在の局面が新自由主義的な資本主義の臨界点なのか、それとも安価な自然に基づくシステムそのものの長期持続の限界を予兆するものなのかを問います。
  • 農業における労働生産性の向上は、土地から「過剰」人口を追放する農業の階級構造によってつくり出され、強化され、安価な労働力の貯水池を生み出しました。新自由主義の時代は農業生産性の成長率の鈍化だけでなく、反転の兆候も示しており、かつてない「逆さまの農業革命」に向かっている可能性を示唆します。
  • 本書は、イングランドの農業革命を、窒素の豊富な牧草地の耕作地への転換という「内的」転換と、カリブ海地域の砂糖プランテーションへの転換という「外的」転換の二重の地理的拡張の運動として捉え、産業革命と農業革命が不均等に相伴って展開していったと論じます。アメリカ中西部の農業革命は、土地生産性の増進をほとんどもたらさない労働生産性向上型の革命であり、フロンティアの血と汚物がその鍵となりました。しかし、「最初の」工業的農業モデルは、20世紀前半に枯渇しました。
  • 長い緑の革命は、生態環境の再配置を通じて世界=生態の剰余を増加させるという点で過去の農業革命と同様ですが、生物物理学的な「地代レント」が少なく、投資や技術変化のレートが高いという点で異なると指摘します。資本化は早く進み、収奪は緩慢に進みましたが、収奪された対価の支払われないはたらき/エネルギーの量は資本の量に比して増加し続けました。
  • 資源開発における生産コストの上昇は資源の枯渇だけが原因ではなく、アメリカ主導の帝国主義的な企てやグローバルな「南」の国々の産業化、産油国の原油開発主義なども要因であると指摘します。重要なのは、「四大投入物」の価格は、地質学、地理、生物物理性に条件づけられると同時に、階級、帝国、開発といった人間が起点となっている諸関係に共-決定されているということです。資本主義時代における「成長の限界」は「自然的」でも「社会的」でもなく、オイケイオスとしての資本主義の限界、つまり資本化の限界であると結論付けます。
  • 本書は、「蛇口としての自然」(資源供給)と「排水口としての自然」(廃棄物処理)のあいだの矛盾が、負の価値という新たな種類の限界を生み出しつつあると論じます。負の価値とは、生命の網における資本に対する限界の蓄積であり、食糧、労働力、エネルギー、原材料の回復を直接的に遮断します。気候変動は負の価値の顕著な例であり、農業生産性の低下を通じて資本の安価な自然モデルに対する直接的な障害を生み出しています。ミツバチの減少も、資本主義的な農業の論理が限界に達していることを示す負の価値の現れです。
  • オルタナティブな農業への道は、オイケイオスの配置をめぐる階級闘争であり、食糧をめぐる闘争は世界の階級闘争の中で中心的な地位を占めるようになっています。新自由主義による食糧の定義の変容とともに、食糧は自由、平等、友愛という問題の根幹に深く関わるようになり、21世紀の階級闘争のあり方は、食糧、自然、価値あるものとは何かという問いに対する答えにかかっています。
  • 本書は、資本主義的農業が画期的な転換期にあり、労働コストの削減が資本蓄積を支える段階から、蓄積に必要な条件さえも侵食していく段階へと移行していると結論付けます。これは負の価値の出現として示されており、スーパー雑草現象や地球温暖化がその兆候です。地球温暖化は資本主義それ自体を脅かし、安価な食糧モデルを蝕み、今後20年で潜在的な負の価値を徹底的に動員していくと予測します。
  • 本書は、自然を資本蓄積の危機を構成するものとして捉える説明を試み、2003年以来のコモディティ市場のブームが四大安価物の一つの循環の「終焉」なのか、累積的な「終焉」なのかを問い。過去の資本主義は画期的な農業革命を通じて顕在的・潜在的なボトルネックを克服してきましたが、直近のバイオテクノロジーによる農業革命は生産性の減速を食い止められていません。資本主義が長期的な終焉の時代に入った可能性も示唆します。
  • 初期近代における土地生産性から労働生産性への移行は、景観の変容を説明し、ブラジル北東部、スカンジナビア、ポーランドなどの土壌や森林、新世界の砂糖生産とアフリカの奴隷供給における人間の自然が収奪されました。長い19世紀と20世紀には地下資源のフロンティアが収奪され、農村の編成が不安定化し、農民の労働が収奪されました。今日の資本主義が新たな蓄積の局面を起動できるほどの自然からの無償の贈与の収奪を行うことができるのか、それとも生産性と掠奪の弁証法がついに失効するのかを問います。
  • 資本主義の拡大の大きな波は、大規模なフロンティアの運動に立脚しており、収奪と資本化のあいまった世界=生態の革命を通じて、収奪のピークを乗り越え、資本蓄積が最大化されてきました。しかし、フロンティアの拡大による巨大な棚ぼた的利益は次第に消失し、資本の価値構成の上昇と生態学的剰余の減少という長期的な趨勢が生じてきました。
  • 「安価な自然」の戦略は、地球の生物学的能力と地質学的賦存の収奪を狙いとし、利益率の低下を食い止めてきましたが、収奪による蓄積の機会が収縮するにつれ、空間的な「修復フィックス」から時間的な「修復フィックス」(新自由主義的金融化)へとシフトしてきました。21世紀の初頭までに安価な自然の終焉は視野に入っており、収奪は行き詰まりつつあり、農業、エネルギー、鉱業における生産・採掘のコストは上昇しています。
  • 今日の問題は、資本主義が長期持続における生態的レジームの限界を迎えつつあることであり、安価な自然をはたらかせる過程が資本主義による商品の大フロンティアの歴史でした。フロンティアの急速な閉鎖により、安価な自然の戦略は二重の意味で行き詰まっており、対価の支払われないはたらきの流れの確保が難しくなり、廃棄物や汚染物の蓄積が既存のはたらきを脅かしています。これは剰余価値から負の価値への移行であり、気候変動はその最大の例です。安価な食糧を取り戻すことは困難であり、21世紀の最大の問題は安価な資源の終わりではなく、安価なゴミの終わりとなるでしょう。
  • フォスターとマルムによる本書の批判は、彼らの信念構造に合わないため自己準拠的であり、世界史と現実的抽象という本書の弁証法的前提に向き合っていないと批判します。彼らはエコソーシャリストとしてのドグマにとらわれ、世界史から逃走していると指摘します。
  • マルクスが資本主義は土壌と労働者を堕落させると述べたのは、生命の網における資本主義の発展の必要条件を指摘したものであり、「プロレタリアート」と「バイオタリアート」(人間以外の生命を資本のためのはたらきに供せしめること)は世界史的な一体をなしていると論じます。エコソーシャリストは階級闘争への忠誠を主張する一方で、今日の気候危機の核心にある人間と他の生命の網との弁証法的関係を無視していると批判します。
  • 「文明化」のプロジェクトとそのプロメテウス的幻想への弁証法的な対抗傾向は、生命の網における階級闘争、つまり「プロレタリアート」と「バイオタリアート」の相互貫入的な一体性であり、この弁証法こそが本書に命を吹き込み、今日の資本主義による環境-制作のダイナミクスの脆さを理解させてくれると結論付けます。資本主義はプロレタリア諸力とともにバイオタリアの墓掘り人を生み出し、両者があわさって資本主義の通常の政治を通じては解決できない限界が生じるとします。
  • 1.マルクスが強く関心を持ったのが「物質代謝」の概念であり、それが資本主義の下で資本蓄積に有利なかたちで再編成されることによって物質代謝に「修復不可能な亀裂」が生じるとするエコロジカルな資本主義批判に発展したと説いたのである.
  • 2.資本はできるだけ自分の価値を高めようと膨張し、しかもその回転を速めようとする。一方、土壌の栄養の分解や生物の成長など、自然資源が再生する速度には自ずと限界がある。そのサイクルが資本主義の下で空間的、時間的、技術的に再編される過程で歪められ、最終的には深刻な環境破壊、当時の文脈でいえば土壌疲弊や森林伐採につながるというのが「物質代謝の亀裂論」の主旨だ.
  • 3.ムーアによれば、フォスターの議論の前提は、一方に社会における資本主義的な生産、つまり社会の物質代謝があり、もう一方には社会に利用される自然、つまり資源や地球システムがあるとする二元論である。その際、働きかけるのは常に社会の側で、自然の側は受動的であり、基本的には外的な存在とされる.
  • 4.マルムはさらに、人間が自然の法則までコントロールすることはできないと指摘する.
  • 5.近代の共-生産の核心にあるのは、人間と非人間との境界のたえまない引き直しである。人間とそれ以外の自然との区別は、たしかに近代に始まったものではない。しかしながら、自然を外的なものとする実践プラクシスを中心として組織された文明はそれまでなかったものである.
  • 6.本書における私の関心の焦点は、資本主義文明に置かれている。資本主義文明とは、共-生産された資本、権力、そして自然からなる一つの世界=生態である.
  • 7.オイケイオスの概念は──この概念だけで可能になるわけではないが──生命の網のなかの資本蓄積の理論を可能にする.
  • 8.初期資本主義は、安価な自然を生産し収奪することに加えて、技術のイノベーション、体系的な暴力、労働日の延長を正当化する記号上のイノベーションを動員して、事実上の単位労働費用を削減した.
  • 9.以下本書で「収奪」とは、商品の体系の外部にあって対価の支払われないはたらきを同定、確保して、資本の回路へと流し込む経済外的過程のことを指す言葉として用いる.
  • 10.対価の支払われていないはたらきの収奪はきわめて重要であり、搾取率の上昇は「安価な自然」──特に労働力、食糧、エネルギー、原材料という「四つの安価物」──を収奪することから得られる果実に依存しているといえる.
  • 11.もし自然が実際に歴史の主人公であるなら、そのエージェンシーはデカルト主義的二元論の外に出ることによってはじめて正しく理解可能なものとなる。この問題は、[大文字の]自然のエージェンシーと[大文字の]人間のエージェンシーというものでは決してない。両者は互いを抜きにしては考えることができない。むしろ、この問題は人間と人間以外の自然がどのように束ね合わされているかという問題なのだ.
  • 12.緑の思想は、歴史変化を説明する主要な概念的用語に対するデカルト主義的な二元論のヘゲモニーの妥当性を問題にすることがほとんどなかった。[大文字の]自然と[大文字の]社会の二元論を哲学的に、理論的に、ないしは地域や一国の歴史のなかで超克することと、世界システム全体の変化として[大文字の]自然と[大文字の]社会の二元論を超克することは、次元の異なる課題であったのだ
  • 13.前資本主義文明において「土地生産性」が最も重要であったとすれば、資本主義の時代においては「労働生産性」が富の物差しとなった.
  • 14.この自然は歴史的な存在であり、それゆえ有限であるから、一つの歴史的自然の枯渇は、質的に新しく、量的により多くの対価の支払われないはたらきの源泉となる新たな自然の「発見」へとすぐさま駆り立てるだろう.
  • 15.あらゆる文明はフロンティアに類するものを有するが、資本主義のフロンティアは他の文明とはまったく異なっている.
  • 16.収奪による蓄積とは、資本がオイケイオスのはたらきを引き出す多岐にわたる過程を意味している。これはつまり、生命の網の再生産の関係を資本化することなく労働生産性を最大化するということである.
  • 17.資本主義の歴史とは、自然の変革の歴史である。それゆえに資本主義文明は一つの生態学的体制を持つわけではなく、生態学的体制そのものなのである.
  • 18.近代世界システムにおいて資本が抱える歴史的課題は、供給の調整(供給はどうしてもつねに増加していく)と、この供給を拡大された蓄積が可能になるほど安価に抑えることとのあいだに適切なバランスを取ることだった.
  • 19.枯渇するのは「資本主義」や「自然」ではなく、ペルー植民地でのように、地域固有の資本化と収奪の関係である.
  • 20.「生産性」(資本化)の契機は「略奪」(収奪)の契機によって可能となっていたことだ.
  • 21.資本化の増進に対して地理的拡大が鈍化すると、貨幣の関係に依拠する社会化された自然の割合が上昇する。時を経るうちに商品化の増進はある転換点に達し、社会化された自然は資本化された自然に移行する.
  • 22.「すべては産業革命で始まった」という考え方は、実に長い間私たちの発想の前提となってきたものである
  • 23.安価な食糧とは資本主義の各時代のなかで蓄積の回復のために繰り返し求められてきた条件のことである.
  • 24.農業におけるこの生産性の向上は、土地から「過剰」人口を追放する農業の階級構造によってつくり出され、強化された。それは、安価な労働力の膨大な貯水池を生み出し、さらにこの労働力を養えるだけの──それも比較的安価に──大量の農業生産物の余剰を生み出すうえで不可欠の条件であった.
  • 25.「自然的限界」が原因になっているのではない。生物物理学的な行き詰まりのように見えたものはむしろ、それ自体が資本主義的関係によって共-生産された限界だったのだ.
  • 26.蛇口としての自然と排水口としての自然のあいだの矛盾──は、新たな種類の限界を生み出しつつある。それが負の価値という限界なのだ.
  • 27.気候変動は1990年代以前からすでに表れていた様々な趨勢──たとえば帯水層の減耗──を助長しつつある一方で、新たな問題も生み出している。「四大」作物(米、小麦、トウモロコシ、大豆)の収量の停滞、降雨パターンの変化、そして播種と収穫の繁忙期となる夏季の暑さが年々増すなかでの労働生産性の停滞といった事態がそれだ
  • 28.食糧をめぐる闘争はたしかに階級闘争を超えたものであり、そのうえ食の正義の取り組みの多くはとても穏健な形態をとる。それはたとえば有機農業に対する支援の訴え、地元の生産者による直売市場、トランジション・タウンといったものだ.
  • 29.資本主義の農業革命モデルは階級を問題とする。そのモデルは資本を問題とする。そしてそのモデルは自然を外部化し、コントロール可能にし、安価にする資本主義のプロジェクトを問題にする。こうして権力、資本、自然は一つの有機的全体を形成するのである.
  • 30.今日の問題は、資本主義がその長期持続ロング・デュレにおける生態的レジームの限界を迎えつつあることである.

Posted by murachan54