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書誌

因果推論の科学 「なぜ?」の問いにどう答えるか:ジューディア・パール、ダナ・マッケンジー (文藝春秋)
The Book of Why: The New Science of Cause and Effect (English Edition):Judea Pearl、Dana Mackenzie 

今一押しの本を記事作成の「練習」として紹介しよう 

今私が一番読み込みたいと思っている本は「因果推論の科学」だ。著者のジューディア・パールは、「アメリカの計算機科学者で哲学者であるが、人工知能への確率的アプローチとベイジアンネットワークを発展させたことで知られている(確率伝搬法を)。また、構造モデルに基づいた因果的かつ反事実的推論の理論を発展させた」(ウィキペディア)と紹介されている。
本書を読んでいてわかるのは、著者が、解決すべき問題に、「科学界の常識」とされていてもおかしな「因襲」に真正面から向き合い、自分の頭で考えて、自足することなく、次々に解決策を切り拓いてきたことである。「統計学」「データ」が支配的な状況の中でこれらが避けてきたが人の脳が得意とする「因果関係」を、「因果モデル」と「記号言語」を導入して取扱い、人の思考、社会の問題解決や「強いAI」を視野に入れていることである。このような一生を送っていることに感動すら覚える。
ただし本書の詳細な紹介は追ってとし、ここでは、やっと目途のついた「Obsidian」での原稿作成と「WordPress」での記事作成の「練習」(導入)を試みてみたい。
今回は、目次、及び序章の「推論エンジン」と第一章の「因果のはしご」を紹介したい。ついでに第六章で紹介されているモンティ・ホールのパラドックスを、最初に紹介しておこう(これはベイズ推計の本で紹介されていたように思う。)。本当はリストの該当箇所に次の画像を入れたかったのだが、ブロックエディターがすぐには言うことを聞いてくれないので、とりあえずモンティ・ホールのパラドックスの次に入れておく。

モンティ・ホールのパラドックス

モンティ・ホールのパラドックスとは次のような問いである。

「あなたがテレビのクイズ番組に出たとします。プレーヤーであるあなたの前には三つのドアが用意され、そのうちの一つを選ぶよう言われます。一つのドアの後ろには景品の新車が置かれ、残り二つのドアの後ろには、外れを意味するヤギがいます。新車の置かれたドアを選べば、その車をもらうことができます。プレーヤーがいずれか一つのドアを選択すると、司会者は残り二つのドアのうち、ヤギのいる方を開いて見せてくれます。ここで司会者からは、選択するドアを変更してもよいと言われます。あなたはどうしますか。ドアの選択を変更せず、そのままにしますか。それともまだ開かれていないドアに変更しますか。ドアを変更すると、少しでも有利になるでしょうか」。

さて、変更するのが正解だと聞かされたあなたはどう思うであろうか(確率は3分の1で変わるはずがないというのは間違いである。)。

因果推論エンジン

i因果推論エンジン

因果のハシゴ

因果のはしご

目次

  • はじめに
  • 序 章  「因果推論」という新しい科学
    • 導入 因果関係、すなわち原因と結果の関係について語ることは、科学の長年のタブーとされてきた。しかし近年、政治からAIにいたる幅広い分野で、因果関係の新しい科学である「因果推論」が大きな注目を集めている。
    • 無視されてきた因果関係
    • なぜ誰もやらなかったのか?
    • 統計学という抑圧
    • データは何も教えてくれない
    • 因果ダイアグラムと記号言語
      • P(L | do(D))
      • P(L | D)
    • 反事実的推論の重要性
    • 強いAIと因果推論
    • 現実の青写真
      • 「推論エンジン」のⅠないし9の説明
    • 「なぜ?」の問いに答えるロボット
    • 本書の構成
      一章から一〇章の簡単な説明
  • 第一章   因果のはしご
    • 因果関係を理解する能力を手に入れるには、三段の「因果のはしご」をのぼらなければならない。学習機械は一段目、初期人類は二段目にいる。三段目に到達できたのは、現在のところ私たち人間だけである。
  • 第二章   シューアル・ライトが起こした革命──因果推論創世記
    • 科学や統計学において因果関係はなぜ拒絶されるようになったのか? フランシス・ゴルトンによる相関の発見から、シューアル・ライトによる因果関係の再評価まで、因果推論誕生前夜の歴史をたどる。
  • 第三章   結果から原因へ ──ベイジアンネットワークの真価と限界
    • 一八世紀に発表されたトーマス・ベイズの理論をルーツとする「ベイジアンネットワーク」によって、コンピュータは不確実なことがらをはじめて扱えるようになった。その様々な応用例と限界について考える。
  • 第四章   交絡を取り除く──ランダム化比較試験と新しいパラダイム
    • R・A・フィッシャーが提唱したランダム化比較試験は、交絡因子の解消に関して、長らくゴールドスタンダードとみなされてきた。しかし因果革命によって、私たちはそれ以外の手段を手に入れることになった。
  • 第五章   タバコは肺がんの原因か? ──喫煙論争の煙を吹き飛ばす
    • 一九五〇~六〇年代初頭にかけて、統計学者たちは「喫煙は肺がんの原因か」という問題をめぐる論争に明け暮れていた。この難問はいかに解決されたのか? 因果推論が投げかける新しい光とは何か?
  • 第六章   パラドックスの詰め合わせ──因果のレンズで世界を見る
    • モンティ・ホールのパラドックス、シンプソンのパラドックス、バークソンのパラドックスなど、楽しくも手強い謎の数々を紹介する。おなじみの問題も、因果のレンズを通して見ると違う姿が浮かび上がってくる。
  • 第七章   介入──険しい山を登るための強力な道具一式
    • 介入は因果のはしごの二段目に位置する。「介入の山」の道は険しく、無事に登りきるためには、パスブロッキング、バックドア調整、フロントドア調整、操作変数、do計算法といった強力な登山道具が必要になる。
  • 第八章   反事実 ──「こうであったかもしれない」世界を考える
    • デヴィッド・ヒュームが一七四八年に因果性の定義を与えて以来、「反事実」は、因果関係の根底をなすものと捉えられてきた。因果のはしごの最上段に位置する反事実。その発展の歴史と現代の応用例を概説する。
  • 第九章   媒介──因果関係の背後にはどんな仕組みがあるのか?
    • 原因と結果をつなぐ「媒介」は、反事実の要素を含む難解な概念だが、因果推論の発展によって、今では簡単な数式で表せるようになった。媒介研究のパイオニア、バーバラ・バークスの知られざる業績とともに振り返る。
  • 第一〇章   ビッグデータ、AI、ビッグクエスチョン
    • 人間と同等の知性を持った「強いAI」を実現するには、自由意志の問題をはじめ、解決すべき課題が数多く残っている。だが、そうして生まれたAIは、人類の味方なのか、脅威なのか?私たちとAIの未来予想図。まず目次と本書に掲載されている /

日々雑感,本の森

清明(2021/4/4~)から穀雨(2021/4/20)へ

前回の投稿は、3月31日で、3月20日からの春分の3月30日からの末候「雷乃発声」であった。
今日はあっという間に4月22日である。
この間、清明(2021/4/4~)の、「玄鳥至」(つばめ いたる)、「鴻雁北」(こうがん かえる)、「虹始見」(にじ はじめてあらわる)が過ぎ、穀雨(4/20~)の初候「葭始生」(あし はじめてしょうず)となった。
この3週間、非常に寒い時期があり、昨日は暑いばかりの日だった。
割と忙しかったということと、「国際法」へ関心があちらこちらに飛び、収拾が付かなくなったということもある。とりあえず私の今の関心は、「戦略論」と「地政学」(この固定的な発想は批判的に捉えるしかないが、おじさんたちは、すきなようだ。)にある。おってまとめていこう。それにしても本の買いすぎだ。この他に若干の法律R本もある。

穀雨のアイキャッチ画像は一太郎付属の物だ。これでは面白くないのでいろいろと変えていこう。

  • シンプルな英語で話す世界史:ジェームス・M・バーダマン, 松園伸
  • The Penguin History of the World: 6th edition (English Edition):J M Roberts, Odd Arne Westad
  • 図解でわかる 14歳から考える資本主義 図解でわかるシリーズ:インフォビジュアル研究所
  • パヴァーヌ (ちくま文庫):キース ロバーツ
  • ハリネズミと狐――『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫):バーリン
  • 図解でわかる 14歳から知る影響と連鎖の全世界史:大角修, インフォビジュアル研究所
  • 図解でわかる ホモ・サピエンスの秘密:インフォビジュアル研究所
  • 図解でわかる 14歳からの地政学 図解でわかるシリーズ:インフォビジュアル研究所, 鍛冶俊樹
  • 全世界史 下巻(新潮文庫):出口治明
  • 全世界史 上巻(新潮文庫):出口治明
  • 大戦略論 (早川書房):ジョン ルイス ギャディス
  • 新版 図説歴史散歩事典 新版 図説歴史散歩事典:佐藤信
  • 国際社会学入門:石井香世子
  • 世界文学名作大全集(注釈付): コナン・ドイル/スティーヴンソン/ディケンズ/モーパッサン/トルストイ/ドストエフスキー他
  • On War (Annotated) (English Edition):Carl von Clausewitz, Marie Clausewitz, J. Graham
  • The Art of War. A New Edition, with Appendices and Maps (English Edition):Antoine Henri Jomini, George H. Mendell, Wm. P. Craighill
  • The political and military history of the campaign of Waterloo (English Edition):Antoine Henri Jomini, Stephen Vincent Benet
  • 人工知能に哲学を教えたら (SB新書):岡本 裕一朗
  • 【新版】 家族・私的所有・国家の社会哲学 -マルクス理論の臨界点-:青木孝平
  • 経済と法の原理論 -宇野弘蔵の法律学:青木 孝平
  • 【新版】 家族・私的所有・国家の社会哲学 -マルクス理論の臨界点-:青木 孝平
  • 経済と法の原理論 -宇野弘蔵の法律学:青木 孝平
  • 家族・私有財産及び国家の起源: リュウィス・エッチ・モルガンの研究に因みて:フリードリッヒ・エンゲルス
  • マス・イメージ論 (講談社文芸文庫):吉本隆明
  • NHK 100分 de 名著 吉本隆明『共同幻想論』 2020年 7月 [雑誌] (NHKテキスト)
  • 定本 想像の共同体―ナショナリズムの起源と流行 :ベネディクト・アンダーソン
  • 連句2017 歌仙: シナリオ 連句入門:出原樹音
  • 世界地図を読み直す―協力と均衡の地政学―(新潮選書):北岡伸一
  • 問いの立て方 (ちくま新書):宮野公樹
  • Adaptive Markets 適応的市場仮説―危機の時代の金融常識:アンドリュー・W・ロー, 望月 衛, 千葉 敏生
  • 社会倫理学講義 (有斐閣アルマ):稲葉振一郎
  • アテンション!:トーマス・H・ダベンポート
  • 政府は必ず嘘をつく 増補版 (角川新書):堤 未果
  • デジタルエコノミーの罠:マシュー・ハインドマン
  • 紛争解決ってなんだろう (ちくまプリマー新書):篠田英朗
  • 内戦と和平 現代戦争をどう終わらせるか (中公新書):東大作
  • 戦争と法 (文春e-book):長谷部 恭男
  • 地図で読む「国際関係」入門 (ちくまプリマー新書):眞淳平
  • 「戦争と平和」の世界史 日本人が学ぶべきリアリズム (TAC出版):茂木 誠
  • 国際公法 (伊藤真実務法律基礎講座 7):伊藤塾
  • いつでもどこでも百人一首/早引き事典(有帆堂古典ライブラリー):天瀬 豊人
  • 戦争とは何か 国際政治学の挑戦 (中公新書):多湖淳
  • 国際政治史 有斐閣ストゥディア:小川浩之, 板橋拓己, 青野利彦

IT・AI・DX,人の心と行動,本の森

ヘーゲルは分からない

ヘーゲルの法哲学、歴史哲学、あるいは論理学等は、読んでいて何を論じているのかが全く分からないわけではない。しかし、「精神現象学」、それも前半部分はお手上げだ。読んでいて、論じている対象が分からない、内容も分からない、言葉遣いが不快だ、等々がごく普通の反応だと思う。
今後、こういう本を手に取ることもないだろうから、もののついでに少しでも理解しようとKindle本で購入していた「精神現象学上下:熊野純彦訳」 、「超解読!はじめてのヘーゲル『精神現象学』:竹田青嗣、西研(講談社新書)」 等々を読み始めてみたが、上記のとおりの結果である。
「精神現象学」は、ヘーゲル37歳のときの発表(1807年)で、いわば「若書き」だが、なぜかやたらと翻訳されている。邪推であるが、先人の翻訳を読んでも分からないので、自分で翻訳すれば分かるだろうと考えた哲「学者」が何人もいたのだろうか。熊野さんは他にやることがいくらでもあると思うが、廣松さんのお弟子筋だろうからその「遺言」で翻訳したのだろうか(ただカント批判三部作も翻訳しているようなので、哲学の本道を歩んだのだろうか。)。熊野さんの翻訳を読んでも分からない。
「超解読!はじめてのヘーゲル『精神現象学』」は、内容を読み込みそれなりに理解しているであろうふたりが、簡潔に要約していると思われるが、それでも何が書いてあるか分からない。
思うに、「精神現象学」は、ヘーゲルがどのような地域、社会制度、組織の中で生き、どのような既存の知的言語空間で、どのような材料に基づき、どのような対象について、何を目的に書いたのかが、お手上げなのである。
ただ、前半は、意識、自己意識、理性という項目だから、どうも知覚・認知についての分析が、一方でカントをにらみ、一方で世界は神の一部だという前提の元に、ヘーゲルが知っているその当時の知的カタログを披露しつつ書かれたもののように思える。でも、「種の起源」の出版は1859年、ヴントやウィリアム・ジェームズにより心理学が成立したのは1870年代、いずれにせよ「意識」について様々な経験的な事実、現象に向き合って論じたものではなく、圧倒的な材料不足のなかで、ごく少数の哲学者の言説に向き合い、自己の観念で整合的に操作・表現したと思われる。ほぼ時代人のマルクスに対象・方法が面白く、後代のメルロ・ポンティーにも小説のように面白かったのだろうが、私が「精神現象学」を正確に理解したとして、それが私に何をもたらすだろうか。

「わかる」とはどういうことか-認知科学への転進

「精神現象学」が「意識の経験の学」だとすると、現代の「精神現象学」は、「認知科学」だろう。「認知科学」は、一方で、脳科学を、一方でコンピュータ科学を見据えて、AIで何が可能か、何が不可能かを解き明かそうとしている。
ただ「認知科学」の議論は、いささかコンピュータ科学におされて錯綜しているように見えるので、その前に、脳神経学者で、失語症を扱う臨床の脳医学者(あるいは引退されたか)の山鳥重さんの「「わかる」とはどういうことか ―認識の脳科学 (ちくま新書)」 を読み込むのがよい。
本書を読んでびっくりしたが、まさに現代の「意識の経験の学」である。著者は先人の医学、神経学分野の業績を踏まえつつ、自分の経験を元に、自分の頭で考え、心の全体像を明らかにしようとしている。著者には、この他にも、少しずつ焦点の当て方が違う「「気づく」とはどういうことか ─こころと神経の科学 (ちくま新書)」、 「言葉と脳と心  失語症とは何か (講談社現代新書)」 、「心は何でできているのか 脳科学から心の哲学へ (角川選書)」 、「ヒトはなぜことばを使えるか 脳と心のふしぎ (講談社現代新書」 等の入手の容易なKindle本があり、これらを読み比べるともっと興味深い。
山鳥さんの所論をごく簡単にまとめれば、脳と心は違うレベルの現象なので、因果関係はない。心には形のない「感情」がある、y形のある「知覚」がある、内外の情報が「心像」に構成される、記憶された「心像」がある、これを照らし合わせて、区別して、同定する。「知覚心像」に記号としての言語がある。外からの「知覚」「言語」等々で構成される状況が、記憶された「知覚」「言語」と照らし合わされることで「わかる」。「わかる」には、『全体像が「わかる」、整理すると「わかる」、筋が通ると「わかる」、空間関係が「わかる」、仕組みが「わかる」、規則に合えば「わかる」』等、いろいろな「分かる」がある。「わかった」と思うのも、『「直感的に「わかる」」、「まとまることで「わかる」」、「ルールを発見することで「わかる」」、「置き換えることで「わかる」』等といろいろある。
これらの心は、「情」、「知」、「意」とまとめることができる。
著者がもっとも力を入れ、また哲学者、言語学者ではカバーできない、脳の障害がもたらす言語使用の変容を踏まえた「言語」論であり、私も言語が共有化され、意味を持つ仕組みに興味があるので、この部分は重要だ。
上記のまとめはまとめとも言えない乱暴なものだが、非常に「分かりやすく」かつ重要なので、今後も言語論も含めて、「まとめ」、考察を充実させていきたい。

イラストで学ぶ 認知科学-「認知科学」の入口


その上で、例えば「イラストで学ぶ 認知科学:北原義典」の項目を見ると、 感覚、知覚・認知、記憶、注意、知識、考えること(問題解決、意思決定、推論)、言語等々、まさにヘーゲルの「精神現象学」が乏しい手掛かりで追及しようとした(だろう)こと、山鳥さんが脳医学を踏まえて追究しようとしたことが網羅されている。この本は、イラストといっても、心的現象と脳の部位との関係図や、論じられている問題について整理されたカラー図表等が掲載されていてとてもわかりやすい。ただ、「意識の経験」を体系的に論じようとしたものではないが、山鳥さんの所論と重ね合わせて読み進めると、面白し、AI論への入口にもなる。

詳細目次

「「わかる」とはどういうことか」と、「「イラストで学ぶ 認知科学」の詳細目次を掲載しておく。