デジタル・テクノロジーの氾濫と持続不可能性-2020年年末からの展望(v.1)

2020-12-13

デジタル・テクノロジーの氾濫と持続不可能性は乗り越えられるか

2020年末にあたって、現在から未来を俯瞰、展望してみよう。今のところ問題の焦点は、「デジタル・テクノロジーの氾濫と持続不可能性」であると考えている。取り急ぎ、V.1として公開し、年内には、最終版を公開したい。

出発点の2書

この問題へは、様々なアクセスがありうるが、暫定的に出発点を「MORE from LESS(モア・フロム・レス)   資本主義は脱物質化する:アンドリュー・マカフィー 」と「操られる民主主義:デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか:ジェイミー ・バートレット」の2書に定めよう。そしてそこから枝分かれする問題を、上下前後左右に追っていき、私の「2020年末の眺望」を見定めよう。年末までに間に合うだろうか。

なお前者は、「資本主義は持続可能な世界を実現出来るか-多角的に読む6冊の最初の2冊」の出発点にもしたが、最初にこちらの記事から完成させよう。

ところで、最近よく思うが、英書の翻訳書にはpoorな英語の読み手はとても助けられるが、題名だけはよく確かめないと、本の内容を変に誤解して選別してしまう。

前者の原題は「More from Less: The Surprising Story of How We Learned to Prosper Using Fewer Resources—and What Happens Next」である。標題はそのままだと分かりにくい点は措いても、副題の「資本主義は脱物質化する」は、カルトみたいだ(「CHAPTER 5  The Dematerialization Surprise 」とはあるが。)。

後者の「操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか」であるが、原題は「The People Vs Tech How the internet is killing democracy(and how we save it)」である。これは、原題の方がはるかにわかりやすいし適切だ(当たり前だが)。

出版社は売りたいという気持ちとわかりやすくしたいという気持ちから翻訳名を決めるのだろうが、直訳を補うくらいの方が読者としては助かる。

「MORE from LESS」と「操られる民主主義」について

「MORE from LESS 資本主義は脱物質化する:アンドリュー・マカフィー 」

「MORE from LESS」は「資本主義は持続可能な世界を実現出来るか-多角的に読む6冊の最初の2冊」でも簡単に触れたが、アメリカを含む先進国で資源消費が減少しつつあるが(脱物質化)、付加価値は増加している。それは、①資本主義と②テクノロジーの力によるのであり、更にこの趨勢を支えるのは、③反応する政府と④市民の自覚、併せて<希望の4騎士>であるとする。あくまで希望があるということであるが。

「操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか::ジェイミー ・バートレット」」

一方、「操られる民主主義」は「6本の柱」(①行動的な市民、②文化の共有、③自由選挙、④利害関係者の平等性 、⑤競争経済と市民の自由、⑥政府に対する信頼)を立てて、それを1~6章で展開しているという。しかし、翻訳を見る限り、対応関係はピンとこない。

著者の ジェイミー ・バートレット氏は、イギリスのシンクタンクにいて、デジタル・テクノロジーに大きな期待を持ちこれが実現してきたネット社会に触れ「闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕」などを書くうちに、デジタル・テクノロジーがもたらした現状には大きな問題があるという観点を得て、この「The People Vs Tech」を書いている。その中心的な問題意識は、日々デジタル情報に晒されている「人間」がどうなってしまったのか(Chapter 1: What the Power of Data is Doing to Our Free Will、Chapter 2: Why the Closer We Get, the Further We are Apart;要は、人はデジタル情報に操られ、分断されている )ということにある。

そして、その「応用」として「2016年のアメリカ大統領選挙」(第3章  ビッグデータと大統領選 デジタル分析が政治のあり方を揺るがす)の批判があり、デジタル・テクノロジーの進展は、AI等で代替可能な中層階級を一掃し、代替不能な自らの頭と体で経営を実践するしかない上層と現場労働者に分解し、格差がますます拡大し(第4章  加速する断絶社会 AIによって社会はどうなるのか)、デジタル企業の独占もますます進む(独占される世界 ハイテク巨大企業が世界をわがものとする)と分析する。

最後に「Crypto-Anarchy」を持ち出して、これが拡大すれば国家の存続が危ういので政府の信頼を取り戻さなければというが、これは??で、第1章から第5章の現状のままでは、それだけで政府の存続(私から見れば、法とルールであるが)は危ういと思われる。

2書をぶつけ合おう

このように「MORE from LESS」と「操られる民主主義」は、「何とかなるんじゃない」、と、「このままじゃまずいんじゃない」という違いはあるが、資本主義、テクノロジー、市民、政府という分析手法をもって現実世界を解析しようとしているという点で共通項が多い。強いて言うなら前者には個人が巻き込まれているデジタル・テクノロジーの「闇」について関心が薄く、後者は世界の「持続不可能性」が余り視野に入っていないように思われる。

私はこの2書をぶつけ合って、更なる問題点、及びその相互の関係を浮かび上がらせ、総体的な問題解決に途を開きたい。

今後の分析手順

「持続不可能性」をめぐる問題は、すぐにどうこうなることでもないし、解決する方法は難しい。多分、「MORE from LESS」が期待するように、デジタル・テクノロジーが大きな意味を持つだろう。そしてこれを市民、政府が支えなければならないのであるから、まず市民、政府の、デジタル・テクノロジーの膿を開析する先にしか解決の糸口はないと思う。

市民はデジタル空間で分断されて虚偽情報をぶつけ合い、政府がそれを利用する愚かな政治家、役人によって形成されるようでは、先はない。

デジタル・テクノロジーをめぐる問題に精通する

とりあえず「操られる民主主義」を下敷きにして上下前後左右に手を伸ばそう。

1.現状を知る

サイバー空間では、現実社会のがはずれ「欲望」がかなり容易に実現可能となるので、市民は攻撃する側にもされる側にも入り込んでしまう。

現状については、次の2冊を押さえよう。

「フェイクニュースを科学する: 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ :笹原 和俊」

「闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕:ジェイミー・バートレット」

とはいえ、サイバー空間に入り、SNSを使わなければならないことは多いから、セキュリティや情報倫理の初歩は押さえておいた方がいい。放送大学の教材を紹介しておこう。

「セキュリティと情報倫理」

2.分断を乗り越える

次に「操られる民主主義」が3番目に取り上げた「社会の分断論」は、人類と社会の関係という人類史を踏まえた人類の本質に関わる問題である。次の2書が最近出ており、いずれも本格的だ。あたりまえだが、対応策はある。

「ブループリント:「よい未来」を築くための進化論と人類史(上)(下):ニコラス・クリスタキス」

「人はなぜ憎しみあうのか 「群れ」の生物学(上)(下):マーク W モフェット」

3.私たちの仕事の行方と独占企業

「テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス:カール・B・フレイ」は、「操られる民主主義」の議論と重なっている。

これからAIが大きな影響をもたらすのはいうまでもないが、著者は、これからなくなる職業を言い出した経済学者である。ただ本書を読むとテクノロジーを「労働補完型」と「労働置換型」にわけ、産業革命時も一時的(数十年)は仕事がなくなったことを丁寧に論じており、人ごとではない。

いずれにせよ、待っていれば誰かがなんとかしてくれるわけではなく、闇のサイバー空間に巻き込まれず、自分のできる範囲でデジタル・テクノロジーを工夫として取り入れ、これを活用することは不可欠であろう。デジタル・テクノロジーは面白いから。

そのため、ここで私は何冊かの実務書を読むきである。これは読んでから紹介しよう。

社会の分断化や独占による市民の不利益を乗り越えるためには、市民がそれが出来る主体となり、そういう市民が政府を形づくれば何とかなるとは思うが、道は遠い。当面、政治家・役人には期待しない。自分で切り拓こう。

4.小括

デジタル・テクノロジーが、今後、何をもたらし、人の有り様がどうなるのか、実は誰にも分からないというのが正解だが、次の2冊で今後が占えるであろうか(占いになってしまった。)。

  1. 「TOOLs and WEAPONs――テクノロジーの暴走を止めるのは誰か:ブラッド・スミス, キャロル・アン・ブラウン」
  2. 「ソーシャルメディアの生態系:オリバー・ラケット, マイケル ケーシー」

ⅰは、Microsoftの弁護士として同社の問題解決に当たってきたブラッド・スミスが書いたもので、どうかなあ。ⅱは、ソーシャルメディアには問題もあるが、いい点もあるといいう誰もが言うが、どこがいいのか輪からに問題について、本当に信じているよう、この段階でじっくり読みたい。