資本主義は持続可能な世界を実現出来るか-多角的に読む6冊の最初の2冊

2020-12-01

MORE from LESS(モア・フロム・レス)  資本主義は脱物質化する (日本経済新聞出版) :アンドリュー・マカフィー

デジタル化する新興国  先進国を超えるか、監視社会の到来か:伊藤亜聖

問題の所在を考える

あたりまえのことだが、私たちは子や孫の世代においても「持続可能な世界」を、何とかして、作りあげなければならない。知恵なく気候変動等を放置すれば、人類の文明が大打撃を受け、子や孫の生存が危ういかも知れない。

ただこれは、資本主義以外にこれに代替する経済システムは見当たらないという状況下で、どういう方法があるかという問題である。一方、資本主義が、大量生産、大量消費、大量廃棄によって回転するシステムであるとすれば、ほぼ不可能である。どうすればよいか。

行儀良く消費を減らし、様々な規制で対応しましょうという話もあるのだが、昨今の、テクノロジーに支えられたデジタル情報の氾濫・暴走を見ていると、そんなことは出来そうもない気がする。

「モア・フロム・レス」を読む

そんなことを考えていて「モア・フロム・レス  資本主義は脱物質化する:アンドリュー・マカフィー」という本を目にした。要は、アメリカを含む先進国で資源消費が減少しつつあり(脱物質化)、しかも付加価値は増加している。それは、①資本主義と②テクノロジーの力によるのであり、更にこの「モア・フロム・レス」を支えるのは、③反応する政府と④市民の自覚、併せて<希望の4騎士>であるとする。著者は、MIT経営大学院の先生で、私も共著だが「機械との競争」や「一流ビジネススクールで教える デジタル・シフト戦略―テクノロジーを武器にするために必要な変革 」を持っていた。立論は分かりやすいが、問題は、資本主義の論理に従ったテクノロジーの駆使によって先進国で資源消費が減少しつつあるのかという事実確認の問題と、そうではあっても、これらの先進国のフットプリントは大幅に正常値を超え、減少しつつあるという趨勢だけでは駄目ではないのかということである。

そのあたりを確認した上で、テクノロジーによる脱物質化に希望が持てるのであれば、③反応する政府と④市民の自覚の実現に突き進む勇気がわいてくる。

いや仮にそうであるとしても、先進国以外の新興国はどうなのか、これから先進国以上の資源消費に向かうのではないかという疑問がもたげてくる(もちろん、抑圧すべきことではなく、ある当然の「権利行使」であることは間違いないが、地球環境はどうなるか。)。

「デジタル化する新興国」を読む

そこで、「デジタル化する新興国  先進国を超えるか、監視社会の到来か:伊藤亜聖」を手に取ろう。当面の私の関心は、新興国は先進国を追随して、大量生産、大量消費、大量廃棄の道をたどろうとしているのかということである。この本を読むと、新興国が重苦しい重工業や固定電話のインフラを飛び越して、いきなりデジタルの世界に、場合によってはわが国よりはるか先に飛び出そうとしていることが分かる。もう世界の目は、資源を浪費して、重苦しい物質を扱うことに向いていない。この本の課題である新興国の今後の経済発展とわが国の有り様はしばらく横に置くとして、「モア・フロム・レス」と「デジタル化する新興国」の論陣がある程度正しいのであれば、私たちが何をすべきかが少し見えてくる気がする。

次の4冊

そこで見通しが立てば、資本主義から逸脱しない「資本主義の再構築 公正で持続可能な世界をどう実現するか:レベッカ・ヘンダーソン」を読んで更に資本主義のテクノロジーの知恵を磨こう。

でも上滑りしないか。

そういうときは、「世界の起源 人類を決定づけた地球の歴史:ルイス・ダートネル」で地球が人類に与えたものを確認し、「テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス:カール・B・フレイ」で、テクノロジーの歴史を確認し、更に焦点のPCテクノロジーについて「TOOLs and WEAPONs―テクノロジーの暴走を止めるのは誰か:ブラッド・スミス, キャロル・アン・ブラウン」を読もうではないか。

この4冊については、追って取り挙げよう、

MORE from LESS(モア・フロム・レス)  資本主義は脱物質化する (日本経済新聞出版) :アンドリュー・マカフィー

著者側の情報発信

「経済が成長すれば資源の消費量が増えるに決まっている」、「資本主義と技術が進歩し、社会が豊かになれば、自然環境はダメージを受ける」――産業革命以降、人間が繁栄すればするほど、地球を壊してしまうという予想が無批判に信じられてきた。
だが、実際にはどうであったのか。予想とはまったく逆のことが起きたのだ。資本主義は発展し続け、世界中に勢力を拡大し続けているが、同時にテクノロジーが資源を使わない方向に進歩した。
人類はコンピュータ、インターネットを始めとして多様なデジタル技術を開発し、消費の脱物質化を実現させた。消費量はますます増加しているものの、地球から取り出す資源は減少している。デジタル技術の進歩により、物理的なモノがデジタルのビットに取って代わられた。かつて複数機器を必要とした作業は、いまやスマホ一つで事足りる。なぜ経済成長と資源の消費を切り離すことができたのか?脱物質化へと切り替えられたのはなぜか?このすばらしい現象について、なぜそれが可能となったのかを解き明かし、どんな可能性を秘めているのかを記していこう。
テクノロジーの進歩、資本主義、市民の自覚、反応する政府――「希望の四騎士」が揃った先進国では、人間と自然の両方が、よりよい状況となりつつある。この先の人類が繁栄し続ける道がここにある。

詳細目次

  • はじめに
  • 第1章 マルサス主義者の黄金時代
  • 第2章 人類が地球を支配した工業化時代
  • 第3章 工業化が犯した過ち
  • 第4章 アースデイと問題提起
  • 第5章 脱物質化というサプライズ
  • 第6章 なぜリサイクルや消費抑制は失敗するか
  • 第7章 何が脱物質化を引き起こすのか──市場と脅威
  • 第8章 アダム・スミスによれば──資本主義についての考察
  • 第9章 さらに必要なのは──人々、そして政策
  • 第 10 章 〈希望の四騎士〉が世界を駆け巡る
  • 第 11 章 どんどんよくなる
  • 第 12 章 集中化
  • 第 13 章 絆の喪失と分断
  • 第 14 章 この先にある未来へ
  • 第 15 章 賢明な介入
  • 結 論 未来の地球
  • 謝辞

デジタル化する新興国  進国を超えるか、監視社会の到来か:伊藤亜聖

著者側の情報発信

デジタル技術の進化は、新興国・途上国の姿を劇的に変えつつある。中国、インド、東南アジアやアフリカ諸国は、今や最先端技術の「実験場」と化し、決済サービスやWeChatなどのスーパーアプリでは先進国を凌駕する。一方、雇用の悪化や、中国が輸出する監視システムによる国家の取り締まり強化など、負の側面も懸念される。技術が増幅する新興国の「可能性とリスク」は世界に何をもたらすか。日本がとるべき戦略とは。

詳細目次

  • 序 章  想像を超える新興国
    • インドを走る「コネクテッド・三輪バイク」  中国で進む遠隔医療  南アフリカの女性エンジニアたち  デジタル化は新興国をどう変えるか  本書の概要  新興国とデジタル化の範囲について
  • 第1章  デジタル化と新興国の現在
    • 1  新興国デジタル化のインパクト
      • 「第四次産業革命」論  2010年代の変化  新興国へと広がる情報化の波  広がるデジタル経済の生態系
    • 2  デジタル化とは何か
      • ネグロポンテの予言  唯一外れた予想  デジタル経済の特徴  恩恵とリスク
    • 3  新興国論の系譜に位置づける
      • 三つの段階とその論点  南北問題の時代  工業化の時代  市場の時代  新興アジアと変わる日本の役割  そしてデジタル化の時代へ  仮説──増幅される可能性と脆弱性  導き糸──デジタル化の温故知新
  • 第2章  課題解決の地殻変動
    • 1  プラットフォームによる信用の創出
      • 「なぜより安全に車に乗る手段がないのか?」  プラットフォームがもたらす信用  アリペイによるエスクローサービス  アフリカで広がるモバイル・マネー  南アジアに広がるフリーランス経済  携帯電話の爆発的な普及
    • 2  ベンチャーによる「下から」の課題解決
      • エチオピアのベンチャー企業  南アフリカの精密農業とスマート漁業  「これで十分」な解決策──中国の物流  ベンチャー投資の拡大  アフリカに広がるテックハブ  インド工科大学デリー校のベンチャー企業
    • 3  技術革新から社会革新へ
      • SDGsとのつながり  金融包摂と農村振興  インドの個人認証と貧困層への直接給付  ミス・ギーク・アフリカ賞  R&DからR&D&Dへ  「アナログな基盤」の重要性
  • 第3章  飛び越え型発展の論理
    • 1  デジタル時代の「後発性の利益」
      • 新興国から生まれるユニコーン企業  タイムマシン経営とイノベーション  スーパーアプリの誕生  小さな革新、関連産業の未成熟、競争維持
    • 2  甦る幼稚産業保護論
      • 輸入代替デジタル化  対称的なインドと中国の戦略  グレート・ファイアーウォールがなかったら  壁のなかでの革新  土台を作り、後は競争に任せるインド
    • 3  再び問われる社会的能力
      • 規制のサンドボックス制度  鄧小平のナラティブ  中国の「やってみなはれ」  小国のデジタル戦略  新興国からの逆輸入と横展開  新興国という巨大な実験場
  • 第4章  新興国リスクの虚実
    • 1  インフラでの限定的な役割
      • デジタル社会を支える基幹的技術とインフラ  物理層、ミドルウェア層、アプリケーション層  クラウド化の進展  クラウド市場の寡占化  プログラマー不足  オープンソースへの貢献不足
    • 2  デジタル化と雇用の緊張関係
      • 製造業が雇用を生まなくなる?  デジタル経済の雇用規模  自動化で失われる雇用は 47%か9%か  新興国の仕事の自動化は早いか、遅いか  デジタル化が作り出す仕事  インフォーマル化する雇用  新興国の逆説的な強み
    • 3  競争を歪めるプラットフォームと財閥
      • プラットフォーム企業と競争法  財閥とベンチャー  過度の悲観を超えて
  • 第5章  デジタル権威主義とポスト・トゥルース
    • 1  アップデートされる権威主義
      • 分断されるインターネット  権威主義国家でデジタル化が進む理由  幸福な監視国家?  米欧日にも共通する問題
    • 2  フェイクニュースと操られる民主主義
      • ポスト・トゥルースの潮流  東南アジアの「ストロングマン」  取締法のリスク  SNS上での情報戦
    • 3  米中「新冷戦」とデジタル化
      • デカップリングと5G  中国のデジタル・シルクロード  デジタル領域での中国の影響力  空撮の民主化、空爆の民主化  デジタル化の「いいとこどり」は可能か
  • 第6章  共創パートナーとしての日本へ
    • 1  可能性と脆弱性の行方
      • 本書の主張  再定義される「新興国」、そして「先進国」
    • 2  コロナ危機による加速
      • コロナ危機のダメージ  パンデミックがデジタル化を加速させる  感染症対策と個人情報のジレンマ  危機のなかで普及するサービス  遠隔の限界とインフォデミック  米中対立の激化、中印対立の顕在化
    • 3  日本の国際戦略と複眼的対応
      • デジタル化の時代に求められること  新興国の可能性を広げる  ボトムラインを守る  国内での社会実装のために  手を動かし、足を使って
  • あとがき 参考文献