社会と世界

経済指標と統計学

「経済」はわからない-経済指標にアクセスする-」で,ときおり,経済指標にアクセスし,ボヤッと眺めることにした私だが,一体,経済指標とは何だろうかということを考えないではいられない。

また,経済指標は,統計学を踏まえて作成されているわけだから,これを使いこなすには統計学の知識も必要だろうと思う。

経済指標について考える

経済指標について,ふたつの面からとらえてみよう。ひとつは,経済指標が作り出され使用されるようになった経緯,もうひとつは現在の運用実態である。まず,前者から。

もっとも代表的な経済指標は,GDPといっていいだろうが,私は経済学の教科書の最初に,GDPとはこういうもので,三面等価の原則が成り立つというようなことが「公理」のごとく記載されていて,その内容の妥当性について検討がなされていないことが不思議でならなかった。誰が言い出したことで,出典はどこだ(一部は,ケインズだろうが)?

あるいは,インフレ,デフレであるといって「経済政策」について議論するが,2%という「物価変動」というものを,確実にとらえることができるのだろうか,これも不思議であった。

経済指標のウソ」(著者:ザカリー・カラベル)という本を読むと(原書は,「The Leading Indicators:A Short History of the Numbers That Rule Our World」で,嘘というニュアンスはない。),これらの経済指標は,歴史的な経緯の中でおずおずと登場したもので,しかも登場してから,数十年に過ぎないし,現在のような大それた役割を担うことが期待されていたわけでもなかった。アダム・スミスのときにも,マルクスのときにも,ケインズのときにも,GDPという数値はなかった。

「経済指標のウソ」には,「半世紀以上前の経済指標に価値はあるのか-「自然法則」なみに尊重されている経済指標。経済についての誤った前提が,国の経済政策や国際戦略の基盤になっているとしたらどうだろう。2008年〜2009年の世界金融危機以降,先進国の混迷が長引く原因がここにあるとしたら?世界は経済指標によって定義されている。経済成長や所得,雇用など,個人や集団の経済動向を示す統計を,私たちは成功や失敗を測る絶対的な標識とみなす。だが,こういった数字は,どれも100年前には存在していなかった。1950年の時点でさえ,ほとんどが誕生していなかったのだ。それなのに,現在ではまるで自然法則であるかのように尊重されている。」,「国内総生産(GDP)や失業率,インフレ,貿易,消費者マインド,個人消費,株式市場,住宅。日々押し寄せる数字に基づいて,私たちは現実を認識する。主要経済指標と呼ばれる数字は,経済の健全性を判断するために重要な知見を与えてくれるものとみなされている。ところが実際に測定されているのは,指標が考案された時点で意図されたものだけだ。」という指摘があるが,経済指標はそういうものだとして扱うべきであろう。

物価については,この本の「第6章 「物価の測り方」が政争の火種になる-インフレ率」にも書かれているし,「MONEY」(著者:チャールズ・ウィーラン)の「第3章 物価の科学:技芸,政治,心理学」にも,面白く説明されている。何ら確実なものではない。

08SNAとは?

「08SNA」と聞いてピンとくる人は,国民経済計算作成の関係者か,国民経済計算について相当詳しい人であろう(「季刊 国民経済計算」!という雑誌もある。)。

国民経済計算は,現在,国連の基準に準拠して作成されるが,「従前,日本が準拠してきた国際基準は,1993年に国連で採択された「1993SNA」であり,平成12年以降採用してきましたが,平成28年末に実施する「平成23年基準改定」に際して,各種基礎統計の反映や推計手法の見直し等に加えて,最新の国際基準であり,平成21年2月に国連で採択された「2008SNA」に対応することとなりました。準拠する国際基準の変更は,約16年振りとなり,GDPに計上される範囲をはじめ,日本の国民経済計算の見方・使い方は大きく変化することになります。例えば,企業の生産活動における役割が高まっている研究・開発(R&D)支出がGDPの構成要素である投資(総固定資本形成)に記録されるようになるなど,より経済の実態が包括的に捉えられるようになります。」というのが現状である。

「08SNA」自体,膨大な文書であり(その翻訳はこれ),これに基づいて従前の処理方法を改め,これをこれからの経済指標に反映させることには,膨大な手間暇がかかるであろうことは容易に想像できる。内閣府の,「統計情報・調査結果(Statistics)」の,「国民経済計算(GDP統計)」に資料がまとめられている(「景気統計」,「その他」 もある。上記の仮訳は,「国民経済計算の整備・改善 > 国民経済計算の平成23年基準改定および2008SNA対応について」にある。)。

SNAは,従前の数値との連続性を保ちつつ,世界基準としてすべての国で使用されることを想定しているので,今や,あらゆる方向に対応しようとする重戦車という面持ちだ。内閣府のお役人が,これを理解せよとばかりに,内閣府の経済社会総合研究所が刊行している上記した「季刊国民経済計算」に「SNAのより正確な理解のために~SNAに関し,よくある指摘について~」という論文を掲載し,批判をなぎ倒そうとしているが,自分らが「08SNA」に照らして正しいというのではなく,「08SNA」が経済実態を描写する一つのモデルにすぎず,当然問題もあるというスタンスをとればいいのにと思う。

まあ,この問題に踏み込むと面倒くさそうだし,私はマクロ経済とはほどほどの付き合いにとどめたいと思うので,あまり深みにはまるようなことはやめて,今後分かったことがあれば,また報告しよう。

なお国民経済計算を,ここでリンクしたような内閣府の情報だけで追うのはなかなか大変なので,「08SNA」がJSNAに盛り込まれる以前の時点で書かれたものではあるが「経済指標を見るための基礎知識」を紹介しておく(お役人が大和総研への出向時に書いた本だ。)。GDP以外の経済指標についても紹介されている。

以上のようなことで,経済指標はほぼ理解できそうだ。

なおケインズの「一般理論」を書いたときに国民経済計算はあったのかを確認しようと思い,「要約 雇用と利子とお金の一般理論」というKindle本を入手した。私が読む多くの本を翻訳している山形浩生さんが,翻訳,要約したものだ。これはとても分かりやすくてお薦めだ(ネット上でも,見れるようだ。)。経済学者の飯田泰之さんの「解説」というのも?でよい。

さて次は統計学だ。それを概観したら,弁護士業務に近くなる,創造性,イノベーションの方に入っていこう。

社会と世界

遅ればせながら社会と向き合う

私はある時期から政治や社会の問題に積極的には関わることをやめ,弁護士として,法によって縛られるのはもっぱら国家(立法,行政,司法)だという限りで,政治や社会の問題と関わればよいと考えてきた。政治や社会の方向付けについては,自信満々の多くの政治家,官僚,企業家,実務家,学者等々が,世界中にいたから。

そのときからずいぶん時間がたったが,どうも社会主義国の崩壊,生産性の向上,科学技術の進歩等々に関わらず,世界中の政治,経済,社会は,至る所でアップアップしており,暴力的衝突は絶えないし,貧富の格差も解消されない。これについて,誰かをつかまえて,「お前のせいだ」だけでは済まないようだ。

そういう中で私も「法とAI」の世界からもう一歩外に出て,遅ればせながら社会に向き合い,その問題解決と価値創造の一端を担いたいと思うようになった。そこでさびついた私の政治・経済・社会観を更新すべく,社会に向き合う最新の方法・ツールを探すことにした。

年末,年始に集めた本,読んだ本

このように考えて,年末,年始に,社会に向き合う方法・ツール足り得ると思われる本を集め,読み始めてみた。Kindle本を中心に,集めやすい本を集めただけで,網羅的ではない。過去集めた本について本棚をひっくり返すことはしなかったが,Kindle本で重要だとして触れられているような本は,引っ張り出した(事務所移転時に何千冊も処分(寄付)したので,見当たらないものも多い。読み始めたと言っても,あっちにフラフラ,こっちにフラフラの,ランダムウオークでの一瞥という方が正しい。

私の目的は,自分の何らかの動きにより社会がより良い方向に動くことは可能なのか,可能とすればその方法・ツールは何かを探すことだ。

社会を理解する方法・ツールのポイント

まず,人間や社会を考える上で,生命の誕生と進化,進化の結果として人間が進化論的には合理的なシステム1(ファスト思考)と,論理的・合理的なシステム2(スロー思考)せ獲得,使用していること,かかる人間が相互に複雑なネットワークを形成しその総体として社会を形成していること,が基本である。

そしてその社会において世界には数多くの統治組織が分立し,権力を背景にルールと貨幣を用いて,生産される価値を交換,分配,消費するというメカニズムが行なわれているが,可能であればそのシステムと複雑系ネットワークの関係を理解したい。

進化論,複雑系科学が出発点となること,人間相互の関係は,行動ゲーム理論で解明できそうなこと,人間相互の関係は自己組織化される複雑系ネットワークであることまではいいとして,そこから,後段のシステムの理解につながるだろうか。アベノミクスやヘリコプターマネーというマクロの経済政策が導き出せるだろうか。たぶんできないだろう。

ではどう考えたらいいのか。

ダンカン・ワッツの「偶然の科学」における指摘

スモールワールド理論の端緒を開いたダンカン・ワッツは,人間のありようがスモールワールドの複雑系ネットワークであることに関して「偶然の科学」で次のように指摘している。

「思慮深い人物なら、われわれがみな家族や友人の意見から影響を受けていることや、状況が重要であることや、万事が関係していることは内省するだけで理解できる。そういう人物なら、社会科学の助けを借りずとも、認識が重要であることや、人々が金ばかりを気にかけるのではないことも知っている。同じように、少し内省すれば、成功が少なくとも部分的には運の産物であることや、予言が自己成就予言になりがちなことや、よく練られた計画も意図せざる成り行きという法則に苦しめられやすいことも見当がつく。思慮深い人物なら、未来が予測不能で、過去の実績は未来の利益を保証しないことももちろん知っている。人開か偏見を持っていてときには理性を失うことや、政治システムが非効率や矛盾に満ちていることや、情報操作がときとして実態を葬ることや、単純な物語が複雑な真実を覆い隠しがちであることも知っている。すべての人開かほかの人間とわずか「六次の隔たり」でつながっていることも知っているかもしれない。少なくとも何度も聞いているうちにそう信じているかもしれない。つまり、こと人間の行動に関するかぎり、思慮深い人間にとっては自明に思えるもの以外で、社会科学煮が発見できそうなものというのは、たとえそれが見つけがたいものであっても、現実には想像しにくい。しかしながら、自明でないのは、こうした「自明の」事柄がどう組み合わさっているかである。」

私は,できるだけ「思慮深い人物」として,ここに掲げられていることが自明に思える地点に立ちたい。そして,それらがどう組み合わさって社会のメカニズムにつながっているかは,結局,わからないというのが正しく,そういう場面(要するにマクロの政治,経済政策だ。)に口角泡を飛ばす暇があれば,少しでも現場で「組み合わせ」の実践を重ね,中距離での,問題解決や,価値創造につなげたい(ワッツが同書で力説しているのも「多分」そういうことだろう。)。そういう場面では,ゲーム理論,ミクロ経済学,行動経済学,行動ゲーム理論がとても役に立つだろう。そしてそれを支えるのは,コンピューターサイエンス,AI,データ処理(因果推論)であろう。大分頭がすっきりした。

ところで,私はある日Kindleで,「現実に役立つかどうかは、経済学を評価する重要な基準ではない。超一流のゲーム理論が教える、ほんものの洞察力。優れたモデルは、感性を豊かにする。社会を見る眼を深く鍛える本。著者の人生にひきつけながら、ゲーム理論、交渉、合理性、ナッシュ均衡、解概念、経済実験、学際研究、経済政策、富、協調の原理などの基礎概念が語られる」という触れ込みの,「ルービンシュタイン ゲーム理論の力」を,うっかりクリクしてしまった。内容が触れ込みにふさわしいかどうかはわからないが,今思えば,大事な観点のような気がする。

私が年末,年始に集めた本をまとめておこう。このぐらいあると,本当に読みでがあるし,使いでがある,というより,一巡するだけで大変だ。

社会を理解する方法・ツールとなると思う本

進化・遺伝

ゲノムが語る人類全史 アダム・ラザフォード

進化は万能である マッド・リドレー

ファスト&スロー ダニエル・カーネマン

複雑系科学総論

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学  マーク・ブキャナン

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動 マーク・ブキャナン

市場は物理法則で動く―経済学は物理学によってどう生まれ変わるのか? マーク・ブキャナン

偶然の科学 ダンカン・ワッツ

COMPLEXITY: A Guided Tour  Melanie Mitchell

スモールワールド・ネットワーク

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 マーク・ブキャナン

スモールワールド・ネットワーク ダンカン・ワッツ

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力 ニコラス・A・クリスタキス

経済は「予想外のつながり」で動く ポール・オームロッド

マンガでわかる複雑ネットワーク 今野紀雄

ゲームの理論

ゲーム理論の思考法 川西 諭

戦略的思考とは何か  エール大学式「ゲーム理論」の発想法 アビナッシュ・ディキシット

戦略的思考をどう実践するか エール大学式「ゲーム理論」の活用法 アビナッシュ・ディキシット

はじめてのゲーム理論 川越 敏司

行動ゲーム理論入門 川越 敏司

ゲーム理論による社会科学の統合 ハーバート・ギンタス

ミクロ経済学

ミクロ経済学入門の入門 坂井 豊貴

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志

ミクロ経済学の力 神取 道宏

実験ミクロ経済学 川越 敏司

マクロ経済学

マクロ経済学の核心 飯田 泰之

ヘリコプターマネー 井上智洋

MONEY チャールズ・ウィーラン

ゼロから学ぶ経済政策 日本を幸福にする経済政策のつくり方 飯田 泰之

実験マクロ経済学 川越 敏司

行動経済学

実践 行動経済学 リチャード・セイラー

愛と怒りの行動経済学 エヤル・ヴィンター

ずる 嘘とごまかしの行動経済学 ダン・アエリー

社会・政治・法

モラルの起源―実験社会科学からの問い 亀田 達也

大人のための社会科–未来を語るために 井手 英策

21世紀の貨幣論 フェリックス・マーティン

経済史から考える 発展と停滞の論理 岡崎 哲二

負債論 デヴィッド・グレーバー

ソーシャル物理学 アレックス・ペントランド

スティグリッツのラーニング・ソサイエティ スティグリッツ

政治学の第一歩 砂原庸介

シンプルな政府:“規制"をいかにデザインするか キャス・サンスティーン

避けられたかもしれない戦争―21世紀の紛争と平和 ジャン=マリー・ゲーノ

ビジネスパーソンのための法律を変える教科書 別所直哉

法と経済学 スティーブン・シャベル

方法論

創造の方法学 高根 正昭

「原因と結果」の経済学―データから真実を見抜く思考法 中室 牧子

原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ 久米郁男

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 伊藤 公一朗

計量経済学の第一歩 実証分析のススメ 田中隆一

法と社会科学をつなぐ 飯田 高

社会科学の考え方―認識論、リサーチ・デザイン、手法―野村康

 

組織の問題解決

 アイデアをカタチにする

「政府の政策」を読み、活用するという「アイデアをカタチに」しようと思っています。これは今後、固定ページで展開していきますが、その最初の投稿です。最新の内容は、固定ページで確認してください。

「政府の政策」を読み、活用する

政府は、必要と判断する多くの「政策」を実行するために、国民・企業から資金(税金)を吸い上げ、罰則を伴う「ルール」を設定して、モノ、カネ、ヒトを投入する行政活動を行っている。国民・企業は、生活・存続のための財の取得活動にその労力の大半を費やすが、政府は国民・企業の資金で政策実行のために自由な活動を行い、国民・企業への規制、影響はますます強まっているから、立法府、裁判所はその活動を合理的なものに事前・事後に規制し、国民・企業はその活動を把握、監視してこれをコントロールすると共に、自分たちのための政策だからこれを有効に活用すべきだろう。

ところで現在の政府の政策・活動は、社会の多様化、グローバル化、科学技術の進展、コンピュータやインターネットの常態化等によってきわめて複雑化・多様化しているが、政府はその政策・活動の多くをインターネットで公開するという方針が推進されているし、その内容も、各省庁ともWebサイトの作成に多くのカネ、ヒトを投入し、競って網羅化、精緻化し、かつ各省庁で横断化されている(これらによってますます細かい政策が生み出される)ように見受けられ、一昔前のお粗末なWebサイトとは全く異なっている。ただ国民・企業は、まだその利用に十分習熟しておらず、ウオッチし続ける活動にも慣れていない。特に通常、インターネットでの情報収集は、検索して必要な情報を得て終わりということが大部分だから、膨大な政府の政策情報の全体像を把握し、これを整理し、必要な情報を抜き出して自分に役立つように有効活用することは、直ちにできるわけではないだろう。特に政府の政策は「ルール」(法律、規則等の法令)に基づいて実施されているから、その解読も必要だ。

そこで「法令」を扱うことを業としIT・AIが大好きな弁護士である私として、「政府の政策を読み、活用する」という「アイデアをカタチにする」ために何ができるか、少し考えてみたい。まず、政府のWebサイトの全体像を把握してみよう。

そのうえで、今後、これから必要な情報を整理して抜き出し、国民・企業が有効活用できる方法を模索してみよう。

以後は、固定ページに。