検討すべき課題と構成
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この項目は、「環境:自然・人工物・情報」の一分野として、「情報」の基礎的な問題について考察する。なおデジタル情報(機械情報)については、「IT・AI・DX」の「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」で、その「技術」については、「DSを支える理論と技術」で取り上げ、これらから生じる「サイバー空間の病理と対応」を現代社会・世界の問題として捉え返せば、「世界の複雑な問題群」で検討する「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」の問題となるだろう。多少、重複するかも知れない。
なぜ「情報」が、「環境」の「自然」と「人工物」に続くのか、不思議な気がするかもしれないが、「自然」と「人工物」に秩序(パターン)を与える存在が「情報」だと考えれば、おかしな話ではない(物質、エネルギー、情報を、宇宙や自然の3要素としてあげることは、「情報と秩序-原子から経済までを動かす根本原理を求めて:セザー・ヒダルゴ)(Amazonにリンク)(冒頭は、「宇宙はエネルギー、物質、情報からできている。だが、宇宙を興味深いものにしているのは情報だ」から始まる。)を始め、特に、自然科学書では普通である。
そのような巨視的な観点を除くと、「情報」はこれまで、人間の、コミュニケーション論、メディア論、あるいは諜報論として、大きく位置づけられてきた。
しかし、今、世界は、コンピューター技術の発展に支えられたIT、AIによる「デジタル情報」流通の高速化、劇的増加によって、まさにハリケーンに急襲された状態だ。今後中長期的に、IT、AIが世界に何をもたらすのか、実は誰にもわかりはしないのだ(「世界の現在と未来を知るために」)。
ここでは、「情報とは何か」という基本的な問題と、人類史のほとんどとオーバーラップする「アナログ情報史」、更に「デジタル情報入門」を取り上げよう。上記したように「デジタル情報」の詳細は、「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」、「DSを支える理論と技術」、「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」で取り上げる。
情報の基礎
そもそも情報とは何で、どうしてデジタル情報によって「まさにハリケーンに急襲された状態」のようなことが起きているのかを、原理的に説明できるかが情報論の課題である。
情報についての定義はいろいろあるが、社会学者の吉田民人は、①物質・エネルギーのパターンを「広義の情報」とし、②パターン同士が生物によって連合されて成立する「有意味な記号集合」を「狭義の情報」としたとされ、西垣通は、これに加えて、③人間社会に関連するもので、何らかの意味作用をともなう人為的・恣意的な〈記号〉で、〈認知〉〈指令〉〈評価〉という三つの機能をもつもの(西垣は、伝達、蓄積、処理を挙げる。)、④更に日常的にはこの一部である伝達や認知を取り上げて情報とされているとする。
われわれが検討すべきは、③の用法での情報であるが、「伝達された「情報」は、意味を解釈され、蓄積され、処理加工され、ふたたび伝達されていきます。この行為をおこなう主体が生物なのです。情報の意味解釈や処理加工は、これまでにその生物の身体内に蓄積されてきた情報系にもとづいて実行されます。そして結果として、情報系じたいも変化します。こういう累積効果こそが、〈情報〉なるものの基本的性格なのです。」(西垣通. こころの情報学 (ちくま新書) )。これはさわりの部分で、更に西垣は、「社会情報」を取り上げて、議論を深めていく。
西垣の「基礎情報学」(例えば「生命と機械をつなぐ知-基礎情報学入門」(Amazonにリンク))では、情報を、生命情報、社会情報、機械情報に分類して考察する。そして各情報を、システム、メディア、コミュニケーションとプロパゲーションに位置付け関係付けて考察しており、情報の基礎と問題点を学ぶには十分の本だ(ただ「情報科学」の本とは違い、哲学的な考察を導入していて議論の広がりがあり、全体を把握するのは大変だ。)。因みに、生命情報の最初はアフォーダンスのようなことから説明されているので、どうして物的世界の情報の流れが生命情報になるのかというところは、「哲学入門:戸田山和久」(Amazonにリンク・読む1/読む2)が参考になる。私は、「行動論」で取り上げるアフォーダンスとオートポイエーシスはどういう関係かなあと戸惑っていたが、西垣はそのそれをかなり詳細に検討しており(「こころの情報学」第4章「アフォーダンスとオートポイエーシス」)、その問題の所在の把握力は、評価できる。
「そもそも情報とは何か」論は、興味深いし教科書的に正確に論じることも出来るが、今の私の興味は、アナログ情報と対比する「デジタル情報」の氾濫にある。情報は、様々な分野で、現在と未来の「世界」の動向を支配するもっとも重要な要素だが、例えば、デジタル情報を流通させるためには、論理的で正確な手続が必要だが、一方、今、流通している大量のデジタル情報には内容がでたらめなものが多いという事態はどこから生じるのか、どう対応すべきかは、カッカせずに、情報の基礎に立ち返って考察を重ねるべきであろう。
この「情報」の項目では、「アナログ情報史」(アナログ情報のこれまでの流れ(歴史))を押さえ、それとの対比で、「デジタル情報入門」を取り上げるが、そこでは、「入口」として「サイバー空間の病理と対応」と、「情報法」を取り上げる。
以下の本が参考になる。アナログ情報と対比して「デジタル情報」の氾濫を「考えようとする場合、まず最初に、ⅱかⅲで「デジタル情報」を概観しておくと、問題の所在が把握しやすい。
- 「情報と秩序-原子から経済学までを動かす根本原理を求めて」(著者:セザー ヒダルゴ)(Amazonにリンク)
- 「情報-第2版」(著者:山口 和紀)(Amazonにリンク)
- 「情報学へのとびら」(著者:加藤浩、大西仁)(放送大学教材)(Amazonにリンク)
- 「生命と機械をつなぐ知-基礎情報学入門」(著者:西垣通)(Amazonにリンク))
- 「こころの情報学」(著者:西垣通)(Amazonにリンク)
- 「インフォーメーション-情報技術の人類史」(著者:ジェイムズ グリック)(Amazonにリンク)
- 「IT全史-情報技術の250年を読む 」著者:中野明)(Amazonにリンク)
21世紀型スキル
まったくの「おまけ」だが、ⅲの本に「21世紀型スキルの学びと評価プロジェクト」(グリフィン、マクゴー、ケア、2014)が作成した21世紀型スキルの枠組みとして定義された10個のスキルが紹介されている。初耳だが、参考になるので転載しておこう。しかしこんなところにこっそり書くのも何だが、「情報科学」畑の人は、「情報科学」固有の問題はともかく、その社会的な意味や価値について、行政や何らかの権威の「作文」等に追随することが多く、「批判的思考」に欠けているのではないか。「専門外」だから仕方ないともいえるが、それでいいかどうか。
思考の方法
1.創造性とイノベーション
2.批判的思考、問題解決、意志決定
3.学び方の学習、メタ認知
働く方法
4.コミュニケーション
5.コラボレーション(チームワーク)
働くためのツール
6.情報リテラシー
7.ICTリテラシー
世界の中で生きる
8.地域とグローバルのよい市民であること(シチズンシップ)
9.人生とキャリア発達
10.個人の責任と社会責任(異文化理解と異文化適応能力を含む)
アナログ情報史
この項目は、今後作成していく。人類の発生以来のコミュニケーション、言語、文字、印刷術、マスメディア等を踏まえた情報史である。当面参考書を掲載しておこう。
参考書
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「デジタル情報」の詳細は、「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」、「DSを支える理論と技術」、「デジタル情報の氾濫と法とルールの破綻」で取り上げるという前提での「デジタル情報入門」であるので、ここでは、その中から「サイバー空間の病理と対応」と、「情報法」を取り上げよう。当面、個人にとってもっとも緊急性が高く解決が求められるのが「サイバー空間の病理」であり、その「古典的」な解決方法が「情報法と判例」であるからである。それに先立って「基本的な知識」の紹介をする。
基本的な知識
放送大学の講義
「デジタル情報学」に関する基礎から応用までの知識は、「放送大学」の「情報コース」でほぼ網羅的に提供されている。ただ「情報コース」は科目が多いのにその相互の関係が分かりにくく、一応「履修科目案内図」が作成されているものの、それはもう一歩の整理に欠けている。そこで私は、私用に少し手を加えて「情報コース の科目概要」を作成し、別添した。情報コースの「ソフトウェア系、情報数理系、マルチメディア系、ヒューマン系、情報基盤系」の各系で導入科目、専門科目、総合科目のそれぞれ何を学ぶのかかが分かる。上記「科目概要」の表で、背景を黄色にした科目は、既に私が印刷教材を入手したものだが(2020年10月)、結構ばらばらであることが分かる。
ただ私はそのようなことがわからないまま、いずれの系でも入門に当たる「遠隔学習のためのパソコン活用」と「情報学へのとびら」、締めくくりの「情報技術が拓く人間理解」と「AIシステムと人・社会のとの関係」を購入済みなのは、悪くない(自画自賛)。ここではその4講義と各回の内容を挙げて置こう。なお、最初に、上述した「情報」も「紹介しておこう。実際、これだけ目をとおせばかなりのことが分かる。
- 情報(第2版):山口和紀
- 第1章 情報の学び方(山口和紀) 第2章 情報システム(玉井哲雄) 第3章 情報の表現――記号・符号化(開 一夫・垣村尚徳) 第4章 情報の伝達と通信(金子知適) 第5章 計算の方法(福永アレックス・森畑明昌) 第6章 計算の理論(河村彰星) 第7章 データの扱い(山口和紀) 第8章 コンピュータの仕組み(山口 泰) 第9章 ユーザインタフェース――人に優しいデザイン(植田一博) 第10章 情報技術と社会(藤垣裕子) 章末問題解答・ヒント
- 情報学へのとびら(’16)Introduction to Informatics:加藤 浩、大西 仁(放送大学教授)
- 第1回 情報化する社会を生きる、 第2回 情報のデジタル表現とマルチメディア、 第3回 コンピュータの構成要素とその機能、 第4回 インターネットの歴史としくみ、 第5回 インターネットの応用、 第6回 情報リテラシーと情報倫理、 第7回 情報社会のリスク、 第8回 情報セキュリティ、 第9回 情報社会と法律情報、 第10回 プログラミング(1)、 第11回 プログラミング(2)、 第12回 ユーザインタフェース、 第13回 データベースの基礎、 第14回 ソフトウェアの開発、 第15回 情報通信技術が変える社会
- 遠隔学習のためのパソコン活用(’17)Personal Computers for Distance Learning 名:秋光 淳生、三輪 眞木子
- 第1回 パソコンの基本操作、 第2回 インターネットのしくみとWebの活用、 第3回 インターネットを利用した学習、 第4回 電子メールのしくみと利用、 第5回 セキュリティと情報倫理、 第6回 ソーシャルネットワークと学び、 第7回 図書館の利用方法、 第8回 電子情報源の利用方法、 第9回 表計算の基本、 第10回 図表作成の技法、 第11回 文書作成の基本、第 12回 文書作成の技法、 第13回 プレゼンテーションの基本、 第14回 プレゼンテーションの技法、 第15回 パソコンを今後の学習にどう生かすか
- 情報技術が拓く人間理解(’20)Understanding the Humans through Information and Communication Technologies: 仁科 エミ、辰己 丈夫
- 1 科目の全体像、2 遣伝情報の基本原理、3 遺伝情報からの人間理解、4 生命体のなかでの情報の働き、5 イメージング技術が描き出す脳内情報伝達、6 視聴覚情報メディアの発展と人間の応答、7 非言語行動に着目した会話インタラクションの理解、8 ライフログ技術を使った社会活動の理解と活用、9 博物館・美術館での情報技術の利用と展開、10 人間の学習行動と学習環境のデザイン、11 人間を理解するためのロボット、12 データサイエンス・ビッグデータ、13 データクレンジング・人工知能の登場と倫理、14 人工知能の活用と人間理解、15 まとめと展望
- AIシステムと人・社会との関係(’20)Relationships between AI Systems and Human Society: 山口 高平、中谷 多哉子
- 1 AIの誕生と1960年代第1次ブーム、 2 1970年代第1次停滞期(第2次ブームの準備)、 3 1980年代第2次ブーム、 4 1990?2000年代第2次停滞期(第3次ブームの準備)、 5 2010年代第3次ブームと未来社会、 6 スポーツデータマイニング、 7 自動運転、 8 ロボット飲食店、 9 間接業務とAI、 10 社会インフラを支えるAI、 11 クラスルームAI、 12 知的パートナーAI、 13 AI技術の適用可能性と限界、 14 AIシステムを組み込む社会、 15 AI国家戦略
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なお「情報」全体への導入として、次の記事を作成しているので紹介しておく。
基本書
「サイバー空間の病理と対応」について、「サイバー攻撃」、「サイバー煽動・戦争」、「サイバーセキュリティー」に分けて考察する。当面、ここが極めて重要な部分である。全体を通じて参考になるのは次の本である。
- 「サイバーセキュリティ」(著者:谷脇 康彦)(Amazonにリンク)
- 「サイバーセキュリティ読本【完全版】-ネットで破滅しないためのサバイバルガイド」(著者:一田 和樹)(Amazonにリンク)
- 「決定版 サイバーセキュリティー新たな脅威と防衛策」(著者:ブループラネットワークス)(Amazonにリンク)
情報法と判例
導入と基本
どうして複雑な世界の問題解決にアクセスする「問題解決と創造」「情報」の「サイバー空間」に、「情報法と判例」という法律マターが入っているのかという疑問がありうるだろう。それは、「サイバー空間」は、いわばいい意味でも悪い意味でも「無法地帯」なので、これに関わるときに、一体、何がルールとされているのか、そのルールから逸脱するとどうなるかについて、法と実際例(判例)を見極めておくことが、「サイバー空間」で適切に行動するために重要だと考えるからである。そのために当面お薦めするのは、次の2冊である。
これらについては行動規範として、おおまかな目次が頭に入っていた方がいいので、目次を掲記しておこう。その他、参考本を少し掲記しておく。
目次
「情報法入門」
「新・判例ハンドブック 情報法」
参考本
- 「情報・メディアと法」(著者:児玉靖男)(放送大学教材)
- 「データ戦略と法律-攻めのビジネスQ&A」(著者:中崎隆)(Amazonにリンク)
- 「インターネット訴訟」(著者:上村哲史 他)(Amazonにリンク)