情報をめぐって

2018-12-04

勉強法から情報へ

最近私は,お酒を飲むと翌日の体調が悪くなるので,できるだけお酒をひかえるようにしている。「お酒をひかえる」という道は何度も来て引き返した道ではあるが,今回は朝のスロージョギングとペアで実行しており,劇的なリバウンドもなく,なかなか快調だ。問題はこの時期,朝,外は寒く暗いということだが,朝風呂に入ってから走り出すので,なんとか乗り切れるだろう。ジョギングはスローなので,辛くはない。

そうするとある程度まとまった時間ができる。これまでは,時間ができても,その場限りの思い付きの読書をすることがほとんどだったが,今回は,少し系統的に勉強してみようと思い立った。そこでまずいろいろな「勉強法」の本に目を通してみた。結果,「勉強法」は大きく「目標・やる気」,「計画とプロセス」,「具体的方法」に大別できるだろうか。その中で,アメリカのAmazon 2017年ベスト・サイエンス書に選ばれた「Learn Better」(著者:アーリック・ボーザー )(Amazonにリンク)あたりは読みやすいのだが,各章(章題は,Value,Target,Develop,Extend,Relate,Rethink)に書かれていることが必ずしも体系的でないのと,内容も高低精粗ばらばらという面もあって,??という感想も持つのだが,とにかくこの本が取材を積み重ねていることには好感が持てるので,導入にはよいだろう。ちなみに,この本が推奨する「具体的方法」は様々な観点,方法の自問自答を繰り返すことであって,私にいわせれば中高年にぴったりの「ぶつぶつ勉強法」である。

「勉強法」はおって紹介することとするが,「勉強法」の本の中で私が気になったのは,「リファクタリング・ウェットウェア ―達人プログラマーの思考法と学習法」(著者:Andy Hunt)(Amazonにリンク)や,「エンジニアの知的生産術」(著者:西尾泰和)(Amazonにリンク)という,デジタル社会における真偽をかっちりさせなければならない領域の「勉強法」である。そこからにわかに興味が「情報」に移り,何点かの「情報」の本に目を通してみた。この記事はその最初の導入である。デジタル情報を流通させるためには,論理的で正確な手続が必要だが,一方,今現在流通している大量の情報には内容がでたらめなものが多いということが出発点である。

情報をめぐる問題①…情報の基礎

そもそも情報とは何で,どうして上記のようなことが起きるのかを原理的に説明できるのか。

それについて真正面から説明しようとする試みに,西垣通さんの「基礎情報学」がある(例えば「生命と機械をつなぐ知-基礎情報学入門」(Amazonにリンク))。基礎情報学は,情報を,生命情報,社会情報,機械情報に分類して考察する。そして各情報を,システム,メディア,コミュニケーションとプロパゲーションに位置付け,関係付けて考察しており,情報の基礎と問題点を学ぶには十分の本だ(ただ「情報科学」の本とは違い,哲学的な考察を導入して議論の広がりがあり,全体を把握するのは大変だ。)。因みに,生命情報の最初はアフォーダンスのようなことから説明されているので,どうして物的世界の情報の流れが生命情報になるのかというところは,「哲学入門」(著者:戸田山和久)(Amazonにリンク・本の森へリンク)が参考になる。

その他,「情報と秩序-原子から経済までを動かす根本原理を求めて」(セザー・ヒダルゴ)(Amazonにリンク)(冒頭は,「宇宙はエネルギー,物質,情報からできている。だが,宇宙を興味深いものにしているのは情報だ」から始まる。)や,「インフォーメーション-情報技術の人類史」(ジェイムズ・グリック) も,情報の基礎を別の観点から明らかにするものとして参考になるだろう。

冒頭に述べた,現在流通する多くの情報の内容がでたらめなものであるという事態はどこから生じるのか,どう対応すべきかは,すぐに答えの出る問題ではないが,カッカせずに,情報の基礎に立ち返って考察を重ねるべきであろう。

情報をめぐる問題②…CS(IT・AI)

情報をめぐる次の問題として,Computer Scienceを利用した情報の創造,流通,処理等(ITやAI)が,今どこに到達し,今後何を成し遂げるかという問題から目を離すわけにはいかない。これについて私は「ウキウキ派」ではあるが,一方,西垣さんがいう生命情報と機械情報の差異,またIT・AIが生み出す機械情報は,数学ができることしかできないという「コンピュータが仕事を奪う」(Amazonにリンク)等における新井紀子さんの指摘は,肝に銘じる必要がある。IT・AIについては,このWebでは「AIと法」,「IT・AI法務」,「IT・AI・DX」等に分散して記載しているが,いずれ再整理する必要があるだろう。いずれにせよIT・AIは,情報の基礎に立ち返って考察することが大切である。

これとは別に,今現在,IT・AI環境の利用について多くの人が多大なストレスを感じておりそれをどう解消できるのかというのが目の前の大問題であり(「ウェルビーイングの設計論-人がよりよく生きるための情報技術」(著者:ラファエル A. カルヴォ & ドリアン・ピーターズ )(Amazonにリンク)),それをAIで成し遂げようというのは,やりたくはなるが,おそらく問題を複雑にするだけだろう。

情報をめぐる問題③…規制とGDPR

政府による規制

次に企業や政府が取得,利用等する情報の問題であるが,これはもっぱら政府が法によって企業の情報利用を規制するという局面が問題となる。通常の「情報法務」である。実務書はたくさんあるが,「データ戦略と法律 攻めのビジネスQ&A」(Amazonにリンク)あたりが利用しやすい。

これとは別に,政府は,みずから情報をどう扱っているか,企業の情報利用を規制する能力があるかということが,最近,深刻である。

前者についていえば,世界でも,わが国でも,政府(政治家+官僚)が行政情報を隠匿しようという動きが顕著である(例えば,「武器としての情報公開」(著者:春日部聡),(Amazonにリンク),「公文書問題 日本の「闇」の核心」(著者:瀬畑源)(Amazonにリンク))。その時いくらうまく立ち回り,もてはやされても,情報を隠匿すれば,後代から激しく弾劾されるというのが政治の常なのだが,ジャンク情報の氾濫の中でそれが見えなくなっているようだ。

後者の規制する能力があるかということは,要は政府が,多面的な情報の性格を的確にとらえて,必要不可欠情報規制に係る政策を立案,実行しているかということである。まず無理だろう。おかしければ批判し改善を促していかなければならない。その一番手は弁護士のはずだが,弁護士はどうも立法論,裁判所に弱く(これは個別事件の処理にあたっては,当たり前かもしれないが。),心もとない。自戒しなければならない。

GDPR

政府の規制する能力とも関係するが,2018年5月からGDPRが施行されたことを踏まえ,「黒船来る」みたいな議論がされているが,GDPRの目的は何であろうか,本当にプライバシー保護の徹底だろうか。もちろんそういう体裁はとっているが,実際の問題は,ヨーロッパにおけるビズネス権益だろう。

Googleにせよ,Face bookにせよ,始まりはまさに「電脳」の理念だったろうが,それを維持拡大するために頭を絞って始めた広告に個人のデータが結びつき,いまやその手法がビジネスの主流になってしまった。それはヨーロッパでは許さないよというのがGDPRではないか。「さよならインターネット-GDPRはネットとデータをどう変えるのか」(著者:武邑 光裕)(Amazonにリンク)を読んでそんなことを感じた。

情報をめぐる問題④…知財

最後の問題として,インターネットで流通する情報を,知財(特に著作権)との関係で検討すべき局面がある。知財とは何か,知財はどう保護されるか(あるいは利用が促進されるか)は,相当程度,流動的であり,インターネットで流通する大量の情報について,いちいちその権利侵害性を問題にしてもあまり意味はないと思うが,許容できない侵害行為もあるだろう。一方,インターネットで流通している情報に対して,いったい何権なのかよくわからない「権利」(あるいは複合体)が主張され,これをめぐって紛争になることも多い。流通する情報量に比べれば,多いというより僅少というほうが正しいか。ただしっかりした見識を持って対応しないと,つまらない「炎上」騒動に巻き込まれる可能性がある。これはある表現に対して,根拠もないでたらめな情報をぶつける(流通させる)という冒頭に指摘した問題と同じ構造である。

これらについて知財の概要を把握するために,「楽しく学べる「知財」入門」(著者: 稲穂 健市)(Amazonにリンク),「こうして知財は炎上する ビジネスに役立つ13の基礎知識 」(著者: 稲穂 健市)(Amazonにリンク)等が参考になる。あと「著作権」の概説書に目を通すのがよいだろう。

情報をめぐるその他の問題

ところで,西垣通さんが,基礎情報学に取り組む前に「こころの情報学」()という新書がある。その中で西垣さんは,情報が関連する分野として(1)コンピュータ科学分野 ,(2)遺伝情報を扱う分子生物学や、動物コミュニケーションを研究する動物行動学など、生物学の関連分野,(3)言語情報をはじめ諸記号の作用を研究する、記号学・哲学・言語学などの関連分野 ,(4)マスコミをはじめ多様なメディア情報と社会・文化・歴史との関係を研究する、社会学・メディア論・メディア史などの分野,(5)認知科学など、情報処理に関連した心理学の分野 ,(6)図書館情報学など、事物や概念の分類法を研究する関連分野 ,(7)情報経済や経営情報など、情報をめぐる経済学・経営学の分野 ,(8)著作権など、情報に関する法学の分野を挙げている。学者から見た当時の俯瞰図としてもっともであるが,私としては,現在,解決すべき問題はないかという観点から「情報をめぐる問題」を取り⑨挙げたということである。

西垣さんは,第2次人口知能ブームの時代に,アメリカでそれを実見したという立場にあり,その経験を踏まえ,「ネットとリアルのあいだ-生きるための情報学 (ちくまプリマー新書)」,「ネット社会の「正義」とは何か 集合知と新しい民主主義 (選書)」,「集合知とは何か-ネット時代の「知」のゆくえ (中公新書),「ビッグデータと人工知能 – 可能性と罠を見極める (中公新書)」,「AI原論 神の支配と人間の自由 (講談社選書メチエ)」」等の著作があり,参考になる。IT,AIの問題は,若い人のイケイケどんどんだけでは,なかなか「正解」には達しない。

以上は一応の整理である。私の主たる関心は,情報そのものというより,情報の一機能であるルールにある。そこまでうまくつながるだろうか,朝のスロージョギングを継続しよう。