IT・AI・DX
検討すべき課題と構成
構成の一覧
- 「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」
- 「AIとは何か」(下位項目として「AI時代の弁護士業務」)
- 「DSが変えるビジネスと社会」
- 「DSを支える理論と技術」
- 「IT・AI・DX法務」
- 「デジタルと生産性」
課題
この項目で目指すのは、様々な困難を乗り超えて、DX(Digital Transformation)、あるいはDS(Digital Shift)にたどり着く途を検討することである。
ITやAIは、それが社会において過不足なく使いこなされているか否かはともかく、言葉としては既に十分に定着している。ただし、その抱える問題は多様でかつ深刻であり、容易には解決できない。
DX(Digital Transformation)は、コンピュータ科学・技術(IT,AI,IoT等)を利用して、個人や組織の行動・思考や振舞いを変え、問題解決と生産性・創造性の向上に結びつける試みと考えることができるが(人工物や自然を対象とする場合もある。)、いわゆるバズワードで定まった定義はなく、これからも使われるかどうかは分からないと指摘されている(「いまさら聞けないITの常識:岡嶋裕史」)。
ただ「デジタル」という視点からの問題の整理は分かりやすく、この項目ではこれからもDXあるいはDS(Digital Shift)として利用したい。私は、DSという用語の方が問題の焦点を捉えていてわかりやすいと思うので、DSを優先して使うことにする。
この項目では、「IT・AI・DX」の課題を、社会と世界にとって何が問題なのかという観点から取り上げよう。ITやAIを乗り越えてDSに行き着く途は、なかなか困難である。次項で、「DSの現状と展開」を略述しよう。
構成の説明
この「IT・AI・DX」では、ITについて、個人、企業を問わず、DSの主たる舞台となる一方、現実社会へも功罪半ばする大きな影響与えている「デジタル情報とネット・ITをめぐる諸問題」、 DSに関して現在最も人々の関心を集めているAIについて「AIとは何か」(下位項目としてAI時代の弁護士業務)、DXについて企業の変革という観点から「DSが変えるビジネスと社会」、更にこれらを「評論」レベルでなくできるだけ具体的に理解するための理論と技術を「DSを支える理論と技術」という観点から捉え、整理しよう。
これに加えて、私の弁護士という職業固有のプロジェクトとして、「IT・AI・DX法務」を取り上げ、最後にDSが何を変えるかについて、知的生産や労働生産性も含め「デジタルと生産性」を検討しよう。関連する固定記事が、「IT・AI・DS(投稿)」に纏められている。
なおコロナ禍によってIT技術(ネット会議)等が身近になったのは一応慶賀すべきことだが、これを契機としたセキュリティ侵害や詐欺という問題が多発しており、ますます人の知恵が問われている。
DSの現状と理解のポイント
DSの現状
「デジタル」というのは以前から使用されていた用語であるが、なぜ今「デジタル」が前面に出ているのか。その理由として、ひとつは、コンピュータに関連する技術が進化し、デジタル情報の処理速度、容量が十二分に実用に耐える域に達したこと、これに対応して個人の大部分が所有・使用する「スマホ」の能力が大幅に向上したこと、ディープラーニングを利用した技術(画像認識、音声認識、将棋、碁等のゲームAI等)が画期的な進歩を遂げたことが挙げられよう。
ドイツのSAPは、デジタルの5大特長として「差分コストゼロ」、「無制限」、「時差ゼロ(リアルタイム)」、「記録・分析・予測」、「明細×組み合わせによるパーソナライズ」を挙げ、ポイントは「ヒトではなく、電子を走らせろ。電子は疲れない」にあるとする(「Why Digital Matters?-“なぜ”デジタルなのか」)。わかりやすい指摘である。
DSは、「デジタル化の中での企業の生き残りをかけた変革」という観点から取り上げられることが多いが、その基本は、個人を主体として一人一人の人間の行動と思考を変革し、仕事や生活の問題解決と生産性・創造性の向上に結びつけるということである。デジタルは、個人にとって嵐のごとき災厄でしかない、アナログの手法の方がはるかに優れているというのも、ある分野では間違いない。これを見極めないと、DSは、単なる「使えない高級おもちゃ」に止まる。
その上で、DSの主体を企業として対象をビジネスとする場合は、複雑、困難な問題が生じる一方、大きな力にもなる。企業のDSは、DSの導入部署、開発部署だけではなく、取り入れようとする企業の一人一人が、程度の差はあれ、DSに取り組まないと、奏功しないのは、当然すぎるほど当然である。その意味でDSは、個人、開発者、企業の総合的なプロジェクトである。私は、わが国、世界におけるその行方を見極めていこう。なお、デジタル情報が災厄をもたらしつつあることは事実であるが(「デジタル情報と法とルールの破綻」)、この「IT・AI・DX」では、直接関連しない場合は、一々言及しない。
なおそれとは別に私は今、DSに関わるあるProjectに取り組んでいるので、それが具体化すればその情報も提供しよう。
DSを理解するポイント
現在、企業のDSを推進・実現するための実に様々な提言、試みがなされている。これを見ていると、カオスに放り込まれ右往左往している「オシツオサレツ動物」(「哲学入門:戸田山和久」の用語)の動きを見ているような面持ちとなる。
これからの考察にあたり、無駄にカオスに飲み込まれないために、私は、次の3点がDSのポイントであると考えているので指摘しておこう。現時点での私見である。
システム1の一部及びその拡張版であること
1点目は、上述したようにDSの基本は個人の行動と思考の変革にあり、人間の行動と思考がシステム1(速い思考)とシステム2(遅い思考)に大別されるとすれば、DXは、様々な問題を解決するために、システムの2の一部及び人にはそもそも不可能な論理的推論のうち数学で表現できる部分(要するに、人間では処理でない高速、大量の処理ができる部分)を利用しようとするものに過ぎず、しかもこれは今現在進行中であり全く完成されたものではないから、その限界を理解する必要があるだろうということである。逆にいえば、システム1、及びシステム2の行動及び自然言語による推論の大部分は、手付かずであり、依然として「教養」が活きる部分である。そのことが「AI讃美論者」にはわかっていない。
一人一人が担わないと駄目なこと
2点目は、DSを推進するためには、一人一人が、自分の置かれているデジタル環境を把握し、これを改善して生活や仕事において使いこなす姿勢が必要だろうということである。家電のように黙ってスイッチを押せばいいというものではない。
失敗を振り返ろう
3点目は、これまでのシステム開発(IT)において多発した紛争の原因を解明し、これを克服する思想と技術が必要だということである。要件定義の重要性とアジャイル開発の関係をどう考えるべきか、うまく整理できるだろうか。
附記
更に、上記したように「DSの主体を企業として対象をビジネスとする場合は、複雑、困難な問題が生じる」のであるが、これについては、「集中講義デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク:根来 龍之)(Amazonにリンク)の整理が秀逸である。追って紹介したい。