世界の現在と未来を知るために
世界は今どうなっているのか
人の行動と,自然と,人工物が,相互に働き掛け反応して織りなす「世界」は,もともと巨大・複雑なシステムであり,最近になってシステム思考や,ビッグヒストリーという試みが何とかこれを解明しようとしていたと言えるだろう。従前の「経済学」,「社会学」,「歴史学」等の諸学は,隔靴掻痒の感を免れなかった。
ところが,10数年前から「世界」の要素として「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーが加わり,「世界」はますます複雑化し,その変化は劇的に加速されつつある。
私たちの生活や仕事,企業や政府の国内や国際的な活動,環境変動等は,いずれも今,このような複雑化・加速する「世界」の一場面として。相互に密接に関係しつつ,「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーによる「ハリケーン」に見舞われており,「世界」は,制御する対象どころか,その現況・将来を把握・予測するのさえ,困難になりつつある。
さらに言えば,そのような「世界」に古くからの「世界」が混在し,問題の解決はますます困難になりつつある。
しかしこのような中で,なんとか「サイバー空間」とテクノロジーを視野に入れつつ,「世界」を解析し問題解決につなげようとする試みもなされている。
ここではそのような試みから最近刊行されたKindle本6書を紹介しておく。紹介する6書は,①「巨大システム 失敗の本質」,②「サイバー空間を支配する者」,③「拡張の世紀」,④「NEW POWER」,⑤「遅刻してくれて,ありがとう(上) (下)」,⑥「デジタル・エイプ」であり,①は導入,②③は,サイバー空間の闇と光り,④はサイバー空間を元にしたビジネス展望,⑤⑥は,一歩退いた知性的な分析といえるだろう。視点の置き方によって記述内容・分析に違いはあるが,いずれもその内容は信用でき,熟読するに足りる本だと思う。詳細は今後必要に応じて紹介することとし,ここでは書名と私のごく簡単なコメントと出版社等による紹介を載せておく。
「世界」などという大風呂敷は?と敬遠する向きもあるかもしれないが,だれでも多かれ少なかれ「世界」の一部に向き合っているわけであり,今後の個人の仕事,企業経営等の方向性を見定めるのに大いに役立つだろう。
紹介する6書
「巨大システム 失敗の本質」
「巨大システム 失敗の本質~「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法」(著者: クリス・クリアフィールド,アンドラーシュ・ティルシック)(Amazonにリンク)
私のコメント
複雑で密なシステムは統御困難であるということを,実例を挙げてわかりやすく説明している。我が国の失敗学の「最新版」というところだろうか。世界が複雑であるということを理解する入門に良い。
出版社等による紹介
・21世紀を生きるためには,電力網から浄水場,交通システム,通信ネットワーク,医療制度,法律まで,私たちの暮らしに重大な影響をおよぼす無数のシステムに頼るしかない。だがときにシステムは期待を裏切ることがある。これらの失敗や,メキシコ湾原油流出事故,福島の原子力災害,世界金融危機などの大規模なメルトダウン(組織の壊滅的失敗)でさえ,まったく違う問題に端を発したように見えて,じつはその根本原因は驚くほどよく似ている。
・複雑で結合されたシステムを運営するには,直感や自信を称え,よい知らせを聞きたがり,自分と見た目や考え方の似た人たちと過ごすことを好むといった「人間の本能や直感」に“逆らう”ことが,有効な対策を導き,問題解決のアイデアをもたらすことを示す。
「サイバー空間を支配する者」
「サイバー空間を支配する者~21世紀の国家・組織・個人の戦略」(著者:持永大, 村野正泰, 土屋大洋)(Amazonにリンク)
私のコメント
下記の出版社等による紹介にもあるように「実態が不透明なサイバー空間を定量・定性的に包括的にとらえ,サイバー空間の行方を決める支配的な要素」を考察した本として,今の時点では,出色の出来だと思う。3人の著者によるからだろうか,多少重複もあるが,かえってわかりやすいか。「国家」(政府)の果たすべき役割も考えようとしているのだろうが,そもそも「国家」(政府)とは何か,この問題においてどのような役割を果たすことができるのかは,一筋縄ではいかない。
出版社等による紹介
・サイバー攻撃,スパイ活動,情報操作,国家による機密・個人情報奪取,フェイクニュース,そしてグーグルを筆頭とするGAFAに象徴される巨大IT企業の台頭――。われわれの日常生活や世界の出来事はほとんどがサイバー空間がらみになっています。サイバー空間はいまや国家戦略,国家運営から産業・企業活動,個人の生活にまで,従来では考えられなかったレベルで大きな影響を及ぼしつつあります。
・サイバー空間では,国家も企業も,集団も,個人もプレイヤーとなる。その影響力はそれぞれの地理的位置,物理的な規模とは一致しない。そして,経済やビジネスでもデータがパワーをもつ領域が広がっていますが,その規模はGDPでは測れません。
・本書は,これほど重要になっているのに,実態が不透明なサイバー空間を定量・定性的に初めて包括的にとらえ,サイバー空間の行方を決める支配的な要素を突き止めるものです。果たして,そこから見えてくるものは何か? 日本はサイバー空間で存在感を発揮できるのか?
「拡張の世紀」
「拡張の世紀~テクノロジーによる破壊と創造」(著者:ブレット・キング)(Amazonにリンク)
私のコメント
今後,「サイバー空間」とテクノロジーがどのような,モノ,機能をもたらし,「世界」を「拡張」するのか。網羅的に検討している。著者」は,「金融テクノロジー分野におけるイノベーション,顧客チャネル戦略の専門家と紹介されており,内容も消して軽薄ではなく,手堅い。ただこれが「サイバー空間を支配する者」が描く現実の中で,どうなるかが問題である。また私は望まない「拡張」も多い。
出版社等による紹介
ヒト型ロボット,寿命延長,ゲノム編集,ブロックチェーン,空飛ぶクルマ,3Dプリント,AR・VR,etc。こうしたテクノロジーは世の中をどう変えていくのか。ヒトはどう変わるのか? 働き方,医療,交通,金融,教育,都市は?Tech界のグルが描き出す衝撃の未来予測!10年後の世界がここにある!
「NEW POWER」
「NEW POWER~これからの世界の「新しい力」を手に入れろ」(著者: ジェレミー・ハイマンズ,ヘンリー・ティムズ)(Amazonにリンク)
私のコメント
「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーが開くビジネス(NEW POWER)とこれまでのビジネス(OLD POWER)の差異と対立を,その価値観,モデルにより4領域に分け,詳細に,かつ分かりやすく検討していく姿勢に好感が持てる。ビジネスのヒントが満載である。
出版社等による紹介
いまや1,2年前とくらべただけでも世界が激変し,「個人でできること」の幅が大きく広がっている。そんないま「身につけるべきスキル」「意味のなくなったスキル」とは?いつでも誰とでも「つながれる」環境の中,いま何が起こっていて,あなたは一体何をすべきなのか?
「遅刻してくれて,ありがとう(上) (下)」
「遅刻してくれて,ありがとう~常識が通じない時代の生き方(上) (下)」(著者:トーマス・フリードマン)(Amazonにリンク)
私のコメント
著者は,ピュリツァー賞を3度受賞した世界的ジャーナリストであり,これまでの4書がある方向を「煮詰める」傾向があるのに対し,一時停止して,「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーが,世界の政治,企業,生活にもたらすものを考えようという知性に満ちた本である。当たり前のことだが,「NEW POWER」や「拡張の世紀」の「ハリケーン」の中でも,人類が延々と行ってきた「生活と行動」がある。著者は,「ハリケーンの目」に入ろう,自分史を振りかえって生活の場のコミュニティがその支えだとする。
そええは分かるがわが国ではどうか。わが国では,少なくても都市では地域のコミュニティは成立しがたいので,「ハリケーン」の「学びの場」でも作ってみようかという気になっている。
出版社等による紹介
・「何かとてつもないこと」が起きている――社会のめまぐるしい変化を前に,多くの人がそう実感している。だが,飛躍的な変化が不連続に高速で起きると,理解が追いつかず,現実に打ちのめされた気分にもなる。何より私たちは,スマホ登場以来,ツイートしたり写真を撮ったりに忙しく,「考える」時間すら失っている。
そう,いまこそ「思考のための一時停止」が必要だ。
・「平均的で普通な」人生を送ることが難しくなった「今」という時代を,どう解釈したらいいのか?変化によるダメージを最小限に抑え,革新的技術に対応するにはどうしたらいいのか?
「デジタル・エイプ」
「デジタル・エイプ~テクノロジーは人間をこう変えていく」(著者:ナイジェル シャドボルト,ロジャー ハンプソン)(Amazonにリンク)
私のコメント
著者の一人,ナイジェル シャドボルトは,ティム・バーナーズ=リーと共同で「www」の仕組みを開発。英国を代表するコンピューター科学者で、最先端の人工知能・Webサイエンス研究者の一人と紹介されている。「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーを,進化,人類の知的発展の中に,科学的・学問的に位置付けており,熟読するに足りる。しかし,イギリスの本には,ウイットに富んだ知性のある面白いものが多いなあ。
出版社等による紹介
「私たちが新たな道具をつくったのではない。新たな道具が私たちをつくり出したのだ」
・デジタル機器によって,人間はどう変わっていくのか? AI,ロボット,スマホ,ウェブ,生物学,哲学,歴史,経済学……オックスフォード大学教授を務める英国トップクラスの人工知能研究者らが,膨大な知見から描き出す!
生まれたときから検索ツールに囲まれている世代にとって必要なスキルは,それ以前の世代とはまったく違う。
・これまで最重要だとされてきた「記憶力」の意味は以前より薄くなり,IT機器が「外部の脳」のような役割を果たす。人類の重要なサバイバルスキルのひとつだった「方向感覚」も備わっていない人間が増えていく。そのような「デジタルなサル(デジタル・エイプ)」が多数派となり,テクノロジーがいっそう進化した時代。
そこには一体,どんな「問題」があり,どんな「可能性」が存在するのか?
「最高峰の知性」が予測する,人類の未来。
「こころ」と行動
上記したように,今,「サイバー空間」とこれを支えるテクノロジーの新しい「世界」に古くからの「世界」が混在し,問題をますます複雑化している。新しい世界を見極めるのと同時並行的に,古くからの「世界」を支える人の「こころ」と行動を理解することが改めて重要だと思う(「「こころ」と行動の基礎」を参照)。