法とルール

分野別法律問題の手引

「弁護士業務案内」の中に、皆さん、そして私自身のために、「分野別法律問題の手引」という項目を設けている。名前はいろいろと変えているのだが、なかなかぴったりしたものがない。

内容は単純で、その分野で参考になると思う、実務書、体系書を何点か選んで、その詳細目次を掲載したものである。その分野に関して解決したい法律問題がある場合に、これを見るなり、このサイトで検索するなりして、問題の所在を把握し、それから調査の範囲を拡大して法律問題解決への「手引」になればと思い、とりあえず作成したものである。全体を整理し、一覧して眺めるということは、それだけで意味があることだ。

一応掲載できた分野は、「IT・AI法務」、「企業法務」、「中小企業法務」、「会社法務・金融法務」、「医療機関の法務」、「行政法務」、「租税法務」、「著作権法務」、「航空法務」、「立法と法解釈を考える」、「法律判例の調査」(ただしこれは一部未修正)で、作成中は、「労働法務」、「国際法務」、「知財法務」である。

活用法をみつけたい

ただこれだけでは、あまりにも漠然として活用がむつかしいと思うので、今後、その分野のポイントとなるようなTipsを補っていきたいと思っている。それだけではいまいちだが、何かに取り組むと、いろいろなアイデアが浮かんでくるのは、間違いない。ITを活かす方法はないかなあ。

法とルール

著者:佐々木隆仁

デジタル社会の難問、病理に向き合う

先日あった「シンポジウム 人工知能が法務を変える?」では、レクシスネクシスのトルコ人弁護士が「リーガルテック」という観点から、今後の弁護士業務のあり方を切り取っており、刺激的だった。その直後に本書の発刊を知り、早速入手してみた。著者は、AOSリーガルテックという会社の代表取締役であるが、本書は、会社で展開している、」あるいは今後展開したいと思っている事業から、会社色を抜いたからか、焦点が定まらない「報告書」という印象だ。強いて軸を求めるなら、現在のデジタル社会の難問、病理に向き合うのは大変だということであろうか。

まず問題が展開される場は、①アメリカ、②日本、③アメリカで事業する日本企業がある。これについて、デジタル情報が爆発的に増加している中で、ⅰアメリカの法律家が①について訴訟やeDiscovery、カルテル捜査、あるいは法情報を含む情報収集にどう対応しているかという問題、ⅱこれについて日本の法律家が③との関わりでどう対応するかという問題が、固有の「リーガルテック」の問題である。これから派生して、ⅲ②日本において、日本の法律家に、これらの流れが今後、どのように及ぶかという問題がある。

これらとは別に、ⅳデジタル情報が爆発的に増加しているデジタル社会の進展につよて、日本の社会全般に様々な難問、病理が生じており、これに向き合い対応することが必要であるという問題領域がある。この本の記述の主流は実はこちらであって、「リーガルテック」という署名がそぐわない気がするわけだ。

痕跡は消せない

この本の著者はもともと「ファイナルデータ」というデータ復元ソフトの開発・販売をしていたそうで、そういう中で、検察庁や警察の捜査に役立つ手段(フォレンジック)を提供してきたという歴史もよくわかる。

本書には、「Line の情報をデジタルフォレンジックでさらに解析すると、人間関係、行動範囲、考え方、趣味・嗜好など、あらゆる個人情報がわかってしまいます。それが、Line が犯罪捜査に活用されている理由です。」等、デジタルの痕跡は消せないこと、画像のフォーカス補正によって「見えないものがみえてくる」、「重要機密はハッキングではなく社内から漏れる」等々の記述もあって、デジタル社会の難問、病理がよくわかる。セキュリティも考え直す必要性を感じる。

楽しいかなあ

本書を通読して思うのは、デジタル社会の難問、病理に向き合う必要があるということだが、一番の問題は、「こんな社会は楽しいんだろうか。いつまでもこれでいいんだろうか。」ということである。少なくてもAIという切り口には夢がある。

 

目次

 

法とルール

人工知能が法務を変える?

2017年11月29日(水)、日弁連法務研究財団と、第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会共催の、標記のシンポジウムを聞いた。

登壇して話をしたのは、マイクロソフトのエンジニア、日本カタリスト及びレクシスネクシス・ジャパンのそれぞれ外国人弁護士、日本人弁護士2名の、計5名である。

「AIと法」に関わる新しい話が聞けてそれなりに面白かったが、登壇者の誰も「人工知能が法務を変える?」ということをまともに考えている訳ではなく、ふらふらと「題名」につられて顔を出した人には拍子抜けだったかもしれない。ざっと内容を概観する(なお当日用いられた資料が法務研究財団のWebにアップされていたが、2021年3月の時点ではそこにはないようだ。)。

マイクロソフトのエンジニアの人

現時点でのAiとは何かということを、地に足のついた議論として紹介してくれた。現にAIビジネスを魚化している人の話は、信頼できる。

ビジネス分野でAIが理解できている人は10人に1人だ。

画像や音声の分野はどんどん進むが、自然言語の意味の処理はむつかしい。ただし検索ということでいえば、先日公開されたアメリカのJFKの資料をデジタル化し、あっという間に処理、分析した。「犯人」とFBIのある人物との「関係」が浮かびあがった。人が見ていくと何年かかっても処理できない膨大な量だ。

AIというより機械学習という捉え方の方がわかりやすい。

日本カタリストの人

AIを利用したドキュメントレビューの紹介である。

アメリカの電子情報開示制度の下で、開示の対象となる電子情報(メール、チャット、LINE、FACEBOOK、電子ファイル、会計データ、Web等々)についてのドキュメントレビュー(関連あり・なし、秘匿特権あり・なし)が、AIシステムを利用して行われている。これによって大幅な弁護士費用の削減が可能だ。

まず、関連性あり・なしのレビューをする。AIシステムが、文書全体を関連する文書にグループ化し、そのサンプルを取り出し、レビューワーが、レビューすることで、グループ文書の関連性あり・なしのランク付けができる。

また関連性がある文書について、秘匿特権のレビューをし、提出する、しないを決定する。

これはアメリカでは現に利用されており、法廷におけるTAR(technology assisted review)の利用として連邦民事規則にも取り入れられている(のだと思う)。

日本の法廷でこういう形の立証が取り入れられるかどうかは疑問だが、例えば、今、証拠にするため電子メールを検討すると、返信が様々な送信メールになされているので送受信の全体の流れを把握するのがとても大変だ。それだけでも、工夫が欲しいところだ。でもそれはAIか?

レクシスネクシス・ジャパンの人

レクシスネクシス・ジャパンのトルコ人弁護士は、リーガルテックという観点から弁護士業について検討したる。その内容は、以下のとおりだが、きわめて刺激敵だ。

AI/Legal Techの現在の環境

リーガルリサーチ&情報収集

法改正及びインパクトへ対応

コンプライアンスリスク監視

 e Discovery

顧客ニーズ分析を含む業務支援

自動紛争解決(ODR)

資料/契約文書のレビュー

3分間でドラフティング

リーガルテックの成長

2012年リーガルテックに関する特許出題数:2012年99件から2016年579件に大幅増加 38% アメリカ 34% 中国 15% 韓国

法律家への影響

顧客開拓

ニッチ・専門分野へのニーズに対応

Data driven lawyerになり、best lawyerとなる

ネイティブ弁護士と競争

ビジョンを持つ信頼できるアドバイザーになる

真の付加価値を提供する

値段競争に陥らないサービス差別化

ワークライフバランス

レクシスネクシスの取り組み

検索、分析、可視化

その後、レクシスネクシスの「判例検索に加え、法令や立法、行政情報といった、リーガル情報を一元的に収録」したデータベース「Lexis Advance」のデモがあった。アメリカは、州ごとに法が違うこと、陪審があること等から、リーガルリサーチ&情報収集は徹底する必要があるから、これは有益だろう。日本ではまず情報がでてこないし、そもそもこのようなシステムを構築・提供するような市場もないというのが現実だろう。

我々は、当面。各種の判例検索、その他のデータベースを有効活用するしかない。

日本の弁護士ふたり

日本の弁護士ふたりは、これから「AIと法」に取り組みたいというところだろうか。

高橋弁護士は、「チャットボット」を作ってみたことの紹介である。すぐに「ボットの理解を超える」、人間は5回の入力で飽きることの報告は貴重だ。オタクレベルだが、AIを切り開くのはオタクである。

齋藤弁護士は、まだ見ぬAI法務の紹介である。講演に備えて十分な準備をされたのだろうが、その問題はどこにあるのと思ってしまう。この種の議論をする弁護士は多いが、私は他にすることがあるのではと思う。ただアメリカでの利用の報告は貴重である。

今後

いずれにせよこの時点で、このシンポジウムを試みたことは、高く評価されるべきだ。今後とも、このような企画があれば参加しよう。