「AI時代の弁護士業務(試論)」について話をしました

2019-10-18

2019年10月21日、今進めているDX Projectの会合で、「AI時代の弁護士業務(試論)」について話をしました。普段、口にしないことなので、少し詳細なレジュメを用意しました。それをそのまま掲載します。

Contents

「DXの世界に、知ら無くていい知識は無い! 関係しない業界は無い!」に励まされて

1.私とIT,AIとの関わり

(1)大学の教養課程で、FORTRANをパンチカードで入力した記憶がある。

(2)弁護士になりたての頃、マッキントッシュ、ハイパーカードにはまる。裁判所が一太郎を採用したこと等から、Windowsに転向。

(3)「ITが弁護士業務にもたらす影響」執筆(「いま弁護士は、そして明日は?」(日弁連弁護士業務委員会編 2004年12月 第一法規))→別添資料

(4)ゲーム制作受託会社の監査役をし、開発契約、運用契約等のレビューもしている→後掲「ゲームAI技術入門」(著者:三宅陽一郎)参照

(5)「AI時代の弁護士業務(試論)」執筆中(「法の支配」(日本法律家協会)2020年4月号掲載予定)

(6)別添資料を読み返してみると、そこに指摘した弁護士業務に関わる状況はほとんど変わっていないことが分かる。これを基に検討する。

2.「ITが弁護士業務にもたらす影響」における弁護士業務の将来論

(1) 前提…DXから見た弁護士業務の位置づけ

ⅰ DXの対象を「a顧客体験、b業務プロセス、cビジネスモデル」と分析する(「一流ビジネススクールで教えるデジタル・シフト戦略-テクノロジーを武器にするために必要な変革」(著者:ジョージ・ウェスタ―マン等))。顧客がデジタル化しており、待ったなしである。

ⅱ 弁護士業務は、①法律問題(顧客に生じた問題(事実)への法とルールの適用)の検討と、助言・文書作成、及び②「裁判」(法的手続)への代理人・弁護人としての参加、に大別できる。②には①がその部分として含まれ、②は①の総合的な応用型といえる。

弁護士業務の改革は、a顧客体験を踏まえたb業務プロセスの改革の問題といえよう。

ⅲ しかし、 a弁護士の顧客の体験を良好化することは、弁護士のb業務プロセスやcビジネスモデル改革すれば済む問題ではなく、他の制度(「法とルール」や「裁判」)やその独占職掌組織が絡み簡単ではない。

「裁判」(法的手続)は、権利を発生させる根拠となる「法とルール」(主張)を提示し、主張に該当する事実が存在するとして証拠を提出(立証)し、判断権者(裁判所)を説得して主張・立証が正しいとして当該権利を認定させる過程である。相手方から見れば反論し、反証し、権利を認めさせないという過程である。このような制度、経験は日常的にも、社会的にも、類例が乏しく特殊なものである。

また、社会生活や「裁判」の前提となる「法とルール」の設定、「裁判」(法的手続)は、それぞれ歴史的に形成されてきた現代社会の重要な政治「制度」(三権分立)であり、何が問題なのかについての捉え方も簡単ではない。当該「制度」を主催し、担当・運用し(改革を拒む)組織があるし、その目的は、適切な「法とルール」の設定・解釈と「正しい」事実認定に基づき、適切な権利者の適切な権利を認定することであり、顧客ばかり見るわけにもいかない。

顧客が自分の権利が認められなければ不満を持つことは当然である。しかし顧客は、より早く、より安く、より便利に、より分かりやすくというようなことはいえても、制度の本質的な部分、法とルール(の設定・解釈)のあり方はこれでいいのか、事実認定の方法は正しいのかという部分については、批判が及びにくい。また「裁判」に顧客を代理して参加するのが弁護士であるが、弁護士は「制度」内で業務を行うだけで、「制度」そのものを改善できるわけではない。これは基本的には別ルートの問題である。

それでも法とルール(の設定・解釈)は、憲法論、政治的価値という限られた範囲ではこれまでも問題にされてきたが、事実認定はほとんど批判されない。当事者以外には、個別事件の事実認定の問題は把握しがたいが、現在の裁判所の事実認定の情緒性(非科学性)は、後述するように問題が多い。

このように弁護士業務は、「法とルール」や「裁判」と交差する点に位置することから、外在的な弁護士業務論や、弁護士内部の議論も、的外れなものが多い。

ⅳ 以下「ITが弁護士業務にもたらす影響」の要旨を紹介するが、「ⅲ 弁護士に求められるもの」が、「AI時代の弁護士業務」改革論である。

(2)「 ITが弁護士業務にもたらす影響」の要

ⅰ まとめ-淘汰される弁護士

「ITを利用すれば、法関連情報の収集について弁護士に優位性はなくなる。単なる物知り弁護士は淘汰される。弁護士の専門性は、当事者から的確に情報を引き出したり広く法関連情報以外の情報を収集すること、あるいは収集したすべての情報を頭に入れ、筋道立てて思考、判断し、その結論を表現するという判断スキルにあるが、その判断スキルについても早晩かなりの部分でIT化されると思われる。判断スキルに長けていると自負していてもIT化について行けなければやはり淘汰される可能性がある。」。

ⅱ 弁護士がITに求めるもの

 「➀裁判所は、全ての判例を電子データベースとして公開すべきだ。②裁判所や検察庁における書面の授受を、Eメールを利用し電子情報で行いたい(注:市民からいえば、電子申請)。③裁判所や検察庁の尋問調書、供述調書等を電子情報で交付すべきだ。さらに、④証人尋問を含む法廷でのやりとりや被疑者、被告人との接見を、インターネットを利用したテレビ会議システムを利用して行うようにすることが大切である」等の指摘がなされ、費用と熱意の問題であるが、私は早晩、実現するとしたが、現在も概ね課題にとどまっている(「未来投資戦略2018」)。

 「司法府による自律的判断を尊重しつつ、民事訴訟に関する裁判手続等の全面IT 化の実現を目指すこととし、以下の取組を段階的に行う。

・ まずは、現行法の下で、来年度から、司法府には、ウェブ会議等を積極的に活用する争点整理等の試行・運用を開始し、関係者の利便性向上とともに争点整理等の充実を図ることを期待する。

・ 次に、所要の法整備を行い、関係者の出頭を要しない口頭弁論期日等を実現することとし、平成34 年度頃からの新たな制度の開始を目指し、法務省は、来年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて速やかに検討・準備を行う。司法府には新たな制度の実現を目指した迅速な取組を期待し、行政府は必要な措置を講ずる。

・ さらに、所要の法整備及びシステム構築などの環境整備を行い、オンラインでの申立て等を実現することとし、法務省は、必要な法整備の実現に向け、来年度中の法制審議会への諮問を視野に入れて速やかに検討・準備を行う。

・ また、法務省は、オンラインでの申立て等の実現に向けたスケジュールについて、司法府の環境整備に向けた検討・取組を踏まえた上で、来年度中に検討を行う。」。

メディアで(外国の動向として)報じられ、求められるのも、このレベル+αである。このようなことが実現すれば便利ではあるのだが、「裁判」でのやり取りは、センシティブで秘密性の高いものが多く、オンラインはセキュリティの面から、どうだろうか。

ⅲ 弁護士に求められるもの

➀弁護士業務の中核は大きな意味での情報処理であり、その過程は、情報の収集(インプット)一情報の処理(記憶一演算)一情報の表現(アウトプット)から構成されている。

②「情報の収集(インプット)」を、I.生の情報(事情聴取、尋問、契約書やその他の文書、その他生のデータから得られる情報)の収集に関わるスキル(以下「I生情報スキル」と呼ぶ。)、Ⅱ.法関連情報(法令、判例、文献、その他)の収集に関わるスキル(以下「Ⅱ法情報スキル」という。)に分け

③「情報の処理(記憶一演算)一情報の表現(アウトプット)」をひとまとめにして、Ⅲ.収集した情報に基づく判断、表現(以下「Ⅲ判断スキル」という。)と分類してみる。このように分類したとき、今後弁護士に求められる「知」は何であろうか。

④「Ⅱ法情報スキル」は広く行き渡っている。「I生情報スキル」と「Ⅲ判断スキル」が専門性の成立根拠であると次のように一応はいえる。

「問題は、収集、整理した生情報と法情報を、頭(主記憶装置+演算装置)に入れ、筋道立てて思考、判断し(プログラムの実行)、その結論を表現(アウトプット)することである。これが判断スキルである。弁護士の頭の中で実行される「プログラム」は、入力された生情報、法情報を、法実務経験のエッセンスを踏まえ筋道立てて思考、判断し、結論を得て表現する過程を実行するものである。このように考えれば、実は弁護士の「専門性」が、この判断スキルにあるのは、明らかである。そして一人の弁護士が情報収集に割ける時間も、運用できるプログラムの種類(法分野)も頭の容量も限られているから、他の弁護士と区別される「専門性」成立の根拠がある。さらに生情報スキルは、弁護士の一般的な人間的としての実力が問われているといってよいであろう。人間に対する興味と洞察、そして経済や経営、社会の動き、歴史、自然科学等々に対する充分な知見があってはじめて有効な生情報の収集ができるのである。」。

⑤「しかし、これは、ITは知らないが、判断スキルにも生情報スキルにも長けていると自己評価し、かつ「有能」と自負している弁護士にとっては何らインパクトはないであろう。法情報スキルに代替性があるということは、その能力を備えた者を雇用し指揮命令すればいいのだから。

 しかし、実は、生情報スキルも、判断スキルも、今後激しいIT化の波にさらされると予想されるのであり、特にIT化された判断スキルについては、代替はむつかしく、さらにIT化された全ての過程を代替させるような弁護士は、そもそも手間がかかりすぎて、実務的にはつかいものにならないといえよう。

 生情報スキルについては当面、音声情報、活字、筆記の文字情報のデジタル化が実用化されるであろう。なお、生情報に分類した個別事件を離れた一般分野の情報については、法情報スキルと同じ問題状況になる(注:現在のレクシスネクシスの「Lexis Advance」(https://www.lexisnexis.jp/global-solutions/lexis-advance)等)。

 そして、デジタル化して収集した生情報、法情報を、弁護士の頭の替わりに(ないしこれに加えて)パソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするIT技法の開発が急務である。

 例えば、弁護士が全ての証拠を踏まえて論証する書面(弁論要旨や最終準備書面)を作成するとき、必要な証拠部分を探して引用するのには膨大な時間がかかり、しかもなお不十分だと感じることはよくあるのではないだろうか。あるいは供述の変遷を辿ったり、証拠相互の矛盾を網羅的に指摘したりしたいこともある。このような作業(の一部)は、パソコンの得意な分野である。また少なくても、当方と相手方の主張、証拠、関連する判例、文献等をデジタル情報として集約し、これらを常時参照し、コピー&ベイストしながら、書面を作成することは有益であるし、快感さえ伴う。…目指すIT技法は、当面は進化したワードプロセッサー、データプロセッサーのイメージであるが、データ処理自体に対する考え方の「革命的変化」(注:AI?)があることも充分にあり得る。」。

ⅳ 「弁護士に求められるもの」は実現していない

「デジタル化して収集した生情報、法情報を、パソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするIT技法の開発」が重要であるとの指摘は、その後15年が経過してますます意味を持つ依然として重要な課題である。

ただ法とルール、裁判制度の捉え方は国により、また社会の進展具合により異なり、IT分野における日本語市場の狭さ、その中での弁護士市場の狭さにより、これを実現するなら弁護士がやるしかないという状況だ。ただイギリスやアメリカで開発された技法が移植される可能性はある(後記4(2)ⅱ)。

3.AI論…AIをどう眺めながらDXに向かうのか

(1)私は、日本で法律分野のエキスパートシステムを開拓するとの動きがあったことも何となく記憶しているし、ITがいわれだした時、強い興味を持った。以降、パソコン、ネット、周辺機器の性能は飛躍的に向上し、AIブームを支える基盤となっている。ITは自分が使いこなすというイメージだったが、AIは勝手に何かをするというイメージもあるが、AIとどう付き合うべきなのか。

 現状の私は座学にとどまっているが、ここでは最近目にした3冊のAI本を紹介して私の考えに代えたい。結論をいえば、AIは楽しい、AIを考えいじっていると人間の認知、思考、行動の優れた点、劣った点、不可解さが浮かび上がってくる。汎用型AIが実現するかどうかは、誰にも「わからない」。

 (2)「人類の歴史とAIの未来」(著者:バイロン・リース)「The Fourth Age」(by Byron Reese)

これを基に考えると落ち着く。1 第一の時代:言語と火(10万年前)、2 第二の時代:農業と都市(1万年前)、3 第三の時代:文字と車輪(五千年前)、4 第四の時代:ロボットとAIと分ける。3を細かく(印刷、産業革命等)分けないところが面白い 

5 3つの大きな問い ➀宇宙は何からできているのか 一つの物質原子(一元論)、二元論(物理的なモノ+スピリチュアル、or+精神的なモノ)、②私たちは結局何なのだろう 機械、動物、人間(私たちの中に機械、動物とは違う何かがある)、③「自己」とは何だろう 脳の巧妙なトリック、創発する心、魂。強いAI論は、これらの問いにどう答えるかに密接に関連しており、これに答えられるまで強いAI論(汎用型AI論)は横に置く。ただし、テクノロジーの指数関数的進化は、現実だ。

(3)「スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運」(著者:ニック・ボストロム)

真正面から人工知能に向き合いたいときに、お薦め。ただし、細かくて長い。Amazonでの紹介「AIについての最も重要な命題=人類はAIを制御できるか、という「AIコントロール問題」と真正面から格闘した本命本。・近未来においてスーパーインテリジェンスは実現する可能性はあるのか? どのようなプロセスで実現されるのか?スーパーインテリジェンスはどのような種類の能力をもち、人類に対してどのような戦略的優位性をもつのか? その能力が獲得される要因は何か? 人類が滅亡する危機に直面するリスク、人類との共存の可能性についてどう考えるべきか? これらAIをめぐる真に根源的な問題について著者は、類書をはるかに超えた科学的、論理的な考察を徹底して慎重に積み重ね、検証する。」。

法とルール論として、次の記述は参考になる。

「超絶知能AIエージェントは、社会全体で行う行動の作為や不作為を、ルールとして定めることができるのであろうか。おそらく、それにもっとも近いのは、われわれ人間が社会で生活を送る上での行動基準を定めた法律制度ということになるかもしれない。しかし、既存の法律制度は、人類の長年の試行錯誤の末に実現されたものである。なおかつ、変化の速度が比較的ゆっくりした人間社会を対象としている。しかも、法律というものは、内容が現実に合わなければ、必要に応じて個別規定を改めることもできる。そして、もっとも大事な点は、法律制度には、裁判官や陪審員といった人たちが法の番人として存在していて、しかも、彼らは、論理的に可能な解釈であっても、人間の一般常識や普遍的良識という尺度に照らして、法文の解釈が立法者の意思に反することが分明である場合は、その解釈を強いて適用するようなことはしない、ということだ。つまり、詳細なルールからなる非常に複雑なシステム(制度)を綿密に構築し、しかも、完全完璧なシステムを最初の試みで成功裏に完成させて、非常に多様な状況に適切に対応可能なシステムとして誕生させるような所業はおそらく人間の力を超えている」。

(4)「ゲームAI技術入門」(著者:三宅陽一郎)

ゲーム開発を通じ、人間の認知、思考、行動とゲームAIを対比する。取り急ぎ次のインタビュー記事を見ると見通しがつく。

・「「シンギュラリティの理論は崩れている」三宅陽一郎が語るAIの社会実装」(https://ainow.ai/2019/07/02/170473/#i-7

「問い:ゲームの人工知能は現実に応用できますか?

三宅氏:難しいと思います。仮想空間ではAIの研究が、かなり加速的にできます。そこでわかってきたことは、仮想空間というのは、ノイズがないということです。センサーで完全に情報が取れ、完全に行為を実現できます。それは現実世界の知能に似ているかというと実はあまり似ていません。本物の知能は常にノイズとか不確定性の中で動いているので、そこが知能の本質だったりするんですね。つまり、人間の感覚や行動は100パーセント信用できません。現実世界でAIを動かすときは、ゲーム空間の純粋なロジック空間で培った人工知能はあまり役に立たないんです。」。

「AIのみが加速的に進化して、人間の知能を超えた力を持つとされるシンギュラリティ。しかし、実際は特化型AIを人間がまとうことにより、人間の知能も拡張されていくのだ。AIの発展と人間の知能の拡張が同時に起きることにより、人間とAIの関係性もより進化していくと考えられる。AIの社会実装に向けて、単体のAIの発達だけでなく、人間の1つの機能としてのAIの発達が進むことを期待したい。」。

4.DX論とプロフェッショナル論-15年間の「空白」間の動向

(1)DXからみた弁護士業務の分析

ⅰ DXの対象は「a顧客体験、b業務プロセス、cビジネスモデル」とする(「一流ビジネススクールで教えるデジタル・シフト戦略」(著者:ジョージ・ウェスタ―マン等))。DXの意義は、「ヒトではなく、電子を走らせろ。電子は疲れない」(「Why Digital Matters?-“なぜ”デジタルなのか」(プレジデント社 企画編集部「経営企画研究会、SAP」)。

分析手法として、顧客体験はデザイン思考、全体を通じてシステム思考(「システム思考がモノ・コトづくりを変える」(著者:稗方 和夫)が有効である。同書に「DXが注目されるこの時代、時には「AIを使えば問題は解決できる。とにかくAIを入れろ」という乱暴な話を聞くことがあるかもしれない。しかし、AIは魔法の杖ではない。現実には限りある予算や資源を用いて、AIやその他の新技術を活用して目標を達成するには、「どこに(どの業務に)」「何の目的で(どんな効果のために)」導入すればよいのかを見極めなければならない。そのためには、当事者の「人」まで含んだ大きなシステムとして検討対象を認識し、問題設定することが必要である。このような問題設定を本書で紹介したシステム思考に基づいて行い、さまざまな施策・シナリオについてシステム・ダイナミクスを用いて比較検討をすることで、ステークホルダーは主体的に、自信を持って、認識の共有を維持しながら、施策の選択と実行のリードができるだろう。」。

ⅱ 検討

弁護士業務のDXについては上記した「デジタル化して収集した生情報、法情報を、パソコンで稼働させるプログラムによって整理、思考、判断し、結論を表現することを可能とするIT技法の開発」が核心部分だが、百年河清を待っていても仕方がないので、とりあえず身近なIT技法を習得しよう。次の2書がある。

「法律家のためのスマートフォン活用術」(平成25年)

「法律家のためのITマニュアル新訂版」(平成27年)

「法とルール」のあり方については、上記した「スーパーインテリジェンス」での指摘を踏まえて考えていこう。もう少し分析的に考えれば、法律が自然言語によるルール設定であることから、①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや、②適用範囲(解釈)についての法的推論について、これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったことを指摘しておこう。さらに行政関係法起案者の行為規範と評価規範の区別、複雑性への理解の欠如も看過できない。

事実認定については、要件事実と主観的に争点設定した新様式判決書の事実摘示の分裂の影響も大きい。要は、新様式判決書は、権利の発生、消滅に係わる要件事実を論理的に構成するのではなく、主観的な争点を挙げて、それに沿って一気に(「経験則」によって)「事実認定」をして結論を出すという、情緒的、主観的かつ非科学的な手法になっている。これが「役人気質」と結び付くと何が起こるかは容易に想定できる。ベイズ推定等が大きな意味を持つはずだ。

(2) プロフェッショナル論

ⅰ 「プロフェッショナルの未来 AI、IoT時代に専門家が生き残る方法 」(The future of the profession)(著者:リチャード・サスカインド, ダニエル・サスカインド)を検討する。

「これまでの専門職は、社会において知識の管理・活用を任された「門番」のような存在であったと位置付けられている。人間が一人であらゆる知識を頭に詰め込み、活用するなどということはできない。そこで私たちは、専門家に個々の専門領域における知識の管理を任せ、その役割に見合う特権的な地位を与えた。しかしいま、社会は「印刷を基盤とした産業社会」から、「テクノロジーを基盤としたインターネット社会」へと変貌を遂げつつある。変化はまだ完了しておらず、移行期特有のさまざまな弊害が表れているものの、「テクノロジーを基盤としたインターネット社会」においては、知識の生産・流通のあり方が大きく変わる。専門家の役割も大きく変わる。その仕事は細かなタスクに分解され、他の人々に任せることができるものは委託され、一部は高度に進化した機械によって置き換えられるだろう。こうして知識を生産・流通する新たなモデルが生まれ、専門職に携わる人々も、その中で新たな役割(それは従来の「専門家」とはかけ離れたものになるかもしれない) を見出すようになると考えている。」。

これについては一度Webで論じたことがある。

「専門知識を提供する仕事の明日はどうなるか そのような仕事に携わるすべての人に一読をお勧めする…この本の著者のサスカインド親(リチャード・サスカインド)は、イギリスの法律家で、かねて「The End of Lawyers?: Rethinking the nature of legal services 」や「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future」を書いて、ITが法律業務をどう変えるのかということに論陣を張っていたが、この本は、子のダニエル・サスカインドとの共著で、視野を専門職一般に広げ、ITとAIがこれらの専門職のありかたをどう変えるかを、詳細、緻密に論じている。しかし問題は専門職に止まらず、必要としている者にまともな「知識」を提供することを生業とする仕事は、明日はどうなるかと捉え返すことができる。専門職として取り上げられ(第2章)当該業務へのIT・AIの浸透状況が検討されているのは、医療、教育 、宗教、法律、ジャーナリズム、経営コンサルティング、税務と監査、建築である。この章だけでも、IT・AIについて、まっとうな観点からの新しい情報として一読に値する。特に医療は、今後完全にIT・AIに制覇されるし、それが必要不可欠なことがよくわかる。その他の業務については、内容も方法も、精粗がある。

もともとサスカインド親は、80年代に法律のエキスパートシステムの開発を志し、上記の2著作もまさに法律業務をターゲットにしている。したがってこの本が順を追って専門職の業務内容を分析し、いかにその業務の多くがIT・AIによって置き換えられるかを懇切丁寧に論じているのは、主として頑として動かない法律家を対象にしていることは明らかである。

ところで、専門職で使う分析手法を、定性的、定量的と分ければ、定量的な部分が大きいものは、文句なしに、IT・AIになじむし、そちらの方が効率的だから、その仕事の一部がIT・AIに置き換えられていくのは当然だろう。実際上記であげられた専門職の中でこれまでの仕事のありかたを変えることに抵抗があるのは、法律と教育ぐらいではなかろうか。しかも教育は予算が付けば 柔軟に変わるだろうし(宗教、ジャーナリズムは、その業務内容もIT・AIの利用方法も意味合いが違うだろう。)。したがって、著者の論述の限りで、専門職や、それに止まらず「専門知識」を提供するすべての仕事にとって、この本の分析が核心を突き、大いに参考になるのは間違いない。」。

ⅱ 弁護士業務でのAIの利用についての諸外国の実情

➀ 「プロフェッショナルの未来」第2章4「法律」での紹介

 ・「The End of Lawyers?: Rethinking the nature of legal services 」

・「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future」

② 後記シンポの5の第2、2 弁護士業務での利用について

③ 同第3、5 ABA TECHSHOW

④ 「Artificial Intelligence and Legal Analytics」(by Ashley, Kevin)

1 Introducing AI & Law and ITs Role in Future Legal Practice

2 Modeling Statutory Reasoning

3 Modeling Case-based Legal Reasoning

4 Models for Predicting Legal Outcomes

5 Computational Models of Legal Argument

6 Representing Legal Concepts in Ontologies and Type Systems

7 Making Legal Information Retrieval Smarter

8 Machine Learning with Legal Texts

9 Extracting Information from Statutory and Regulatory Texts

10 Extracting Argument-Related Information from Legal Case Texts

11 Conceptual Legal Information Retrieval for Cognitive Computing

12 Cognitive Computing Legal Apps

5 「弁護士業務改革シンポ 第2分科会「やっときた!もうすぐ実現、e裁判。次はAIを考えよう」(2019年9月7日) の紹介

(1)目次

第1 裁判のIT化について   1 諸外国の現状について 2 日本の現状について

第2 AIについて   1 AIの現状 2 弁護士業務での利用について

第3 シカゴ調査報告   1 イリノイ州上訴裁判所 2 シカゴ弁護士会  3 カークランド&エリス法律事務所での意見交換  4 本人訴訟団体との意見交換  5 ABA TECHSHOW6 終わりに

(2)裁判のIT化について 

ⅰ 日本の現状について…前記「未来投資戦略2018」

ⅱ 裁判のIT化について…第1の1  諸外国の現状について

6 その他

(1)AI・IT法務

これについては、別の機会としたい。ただ法律家が記述した次のような本は、「役人」や「研究者」が、審議会政治に組み込まれて「合議」した「作文」であり、現実に働きかけ改革しようとするモメントに欠けるようだ。

・「ロボット・AIと法」(宍戸常寿編)

・「AIがつなげる社会 AIネットワーク時代の法・政策」(福田雅樹編)

とりあえずこれからのAI・IT法務として重要なのは、アジャイル開発と契約だろう。

(2)ネットの持つ問題性の克服(人間の匿名性の「悪性」、セキュリティー)、及び「持続可能性」を組み込んだ議論が必要だ。

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