本の森

「あなたの生産性を上げる8つのアイディア」(著者:チャールズ・デュヒッグ)(Amazonにリンク

興味深い「物語」で構成された優れた本だ-生産性を上げるために役立つ(かもしれない)

原書は,「SMARTER FASTER BETTER」であるが,著者も,「本書は,生産性を高めるのに最も重要な8つのアイディアを提案し,探求する」といっているので,題名はこれでいいのだろう。

著者は,生産性を高めるのに必要なのは,もっと働もっと汗を流すことや,長時間デスクにしがみつき,仕事以外を犠牲にすることではなく,「いくつかの方法を用いて正しい選択をすることである」と述べ,その方法が8つの章にまとめられているわけだ。著者は「生活のすべての面において,より賢く,より早く,より良くなるためにはどうしたらいいのか,その答えを提供する」という。

8つの章は,「やる気を引き出す」「チームワークを築く」「集中力を上げる」「目標を設定する」「人を動かす」「決断力を磨く」「イノベーションを加速させる」「データを使えるようにする」と,一見すると代わり映えのしない通俗ビジネス書のごときタイトルだが,本書が優れているのは,平凡な章名の元に,非常に優れた「物語」が,序破急の構成で紹介されていること,そして,著者がこれらの「物語」から読み取った,生活,仕事の生産性を高める「教訓」を,「付録 本書で述べたアイディアを実践するためのガイド」にまとめていることである。そしてこのガイドは,抽象的とはいえ,十分に実用的で魅力的なガイドとなっている。

 

各章の「物語」

ガイドを紹介する前に,各章の「物語」に一言しよう。

各章の「物語」はとても興味深い。著者は多岐にわたる「物語」を収集し,そこに道筋をつける優れた才能を持っているようだ(著者は,これも評判高い「習慣の力」の著書もある。同書では「習慣がどのように働いているかがわかれば(きっかけ,ルーチン,報酬を特定できれば),習慣を支配する力を手に入れることができる」とする。)。

各章の「物語」は,詳細目次各省の副題を見てもらってもある程度わかる。

ブートキャンプ改革,老人ホームの反乱,グーグル社の心理的安全と「サタデー・ナイト・ライブ」,墜落したエールフランス機,と第4次中東戦争,リーン-アジャイル思考,GMを変えた「トヨタ生産方式」,ベイズの定理で未来を予測(して,ポーカーに勝つ方法),「アナと霊の女王」を救った創造的絶望,ウェスト・サイド物語,情報失明,エンジニアリンング・デザイン・プロセス等々,そのほかにもたくさんの「物語」が含まれている。

「本書で述べたアイディアを実践するためのガイド」を紹介する

やる気

(やる気を引き出す方法)

・自分は自分の意志で行動しているのだと思えるような選択をすること。メールの返事を書くときは,自分の意見あるいは決断を表明するような最初の一文を書くこと。厄介な問題について話し合わなくてはならないときは,それをいつにするかを決める。やる気を引き出すには,何を選択するか,よりも,選択することそれ自体のほうが重要だ。

・その課題が,自分が大事にしていることといかに深く結びついているかを理解すること。どうしてこの下らない仕事をすることで,意味ある目標に近づけるのか,自分に対して説明すること。どうしてこれが大事なのか,それを自分に説明できれば,仕事を始めるのがずっと容易になる。

目標設定

やる気だけではだめで,大きな野心に火をつけるようなストレッチゴールと,具体的な計画を立てるのに役立つようなスマートゴールが必要である。

両方を区別して含む,TO DO LISTが必要だ。なおスマートゴールのSMARTとは,Specific(具体的に),Measurable(測定可能な),Achievable(達成可能な),Related(経営目標に関連した),Time-bound(Time-Line)(時間制約がある)である。

(目標を設定するには)

・ストレッチゴール,すなわちあなたの大きな野心を反映しているような目標を設定する。

・次いでそれをサブゴールに分割し,スマートゴールを発展させる。

焦点

(主旨を見失わないために)

・自分が何を見たいのかについて,繰り返し自分に物語を聞かせることで,メンタルモデルを構築する。

・これから何が起きるかを思い描く。最初に何が起きるか。どんな邪魔が入る可能性があるか。いかにしてそれを阻止するか。何が起きてほしいかについての物語を自分に聞かせることで,計画が現実と衝突したときにどこに重きを置けばいいかという判断が,はるかに容易になる。

決断

ストレッチゴールもスマートゴールもちゃんと設定し,焦点を見失わないためのメンタルモデルも構築し,やる気を引き出す方法も見つけたが,それでも頻繁に邪魔が入り,入念に築き上げた私のモデルをぶちこわそうとする。

(よりよい決断をするためには)

・(確率論的アイディアを参照し)複数の未来を思い描き,どの未来が最も実現性が高いか,それはなぜかを考える。

・複数の未来を思い描く。無理してでもさまざまな可能性を想像することによって(そのいくつかはたがいに矛盾しているかもしれない),より賢い選択ができるようになる。

・さまざまな経験や視点や他の人びとの意見を集めることで,ベイズ理論的直感を研ぎ澄ますことができる。情報を集め,じっくりその情報を分析することで,選択はより明確になる。

ビッグ・アイディア

最後に,著者自身の日常生活において重要な意味をもついくつかのキー概念をざっと概観する。

(チームワークをより効果的にするには)

・誰がチームに加わるかではなく,どのようにチームを運営するかのほうが重要だ。全員がほとんど平等に話ができ,チーム全員が「私は他のメンバーがどう感じているかを気にしていますよ」と表明することができるときにはじめて,心理的な安心感が生まれる。

・もしあなたがチームのリーダーだとしたら,自分の選択がどのようなメッセージを発しているかを考えるべきだ。みんなが均等に話すことを推奨しているのか,それとも声の大きな人を優遇しているのか。誰かの発言を繰り返し,質問に答えることで,「私は聞いていますよ」ということを伝えているか。誰かが動揺していたり不満を抱いていたりするときに,すぐに反応することで,自分の感受性を証明しているか。他のメンバーたちが見習えるようなお手本を示しているか。

(まわりの人の生産性を高めるには)

・柔軟で機敏なマネジメント技術によれば,社員たちは,自分にはより大きな決定権が与えられているのだと感じ,かつ,同僚たちは自分の成功を支援してくれていると信じることができたとき,より効率よく,より速く,働く。

・問題のいちばん近くにいる人に決定を委ねることによって,経営側は,各社員の専門知識を活用することができ,改革を促進することができる。

・自分で自分をコントロールしているという意識がやる気を引き出す。だがその意識が洞察や解決策を生み出すためには,自分の提案が無視されないことや,失敗しても罰が与えられないことを知っている必要がある。

(改革を促進するためには)

・しばしば創造性は,古いアイディアを新しい形で組み合わせることから生まれる。そのとき,「イノベーション・ブローカー」の存在が重要になる。自分自身がブローカーになり,組織内の流動性を高めることだ。

・自分の経験に対して敏感になること。自分はどうしてこんなふうに考えるのか,感じるのかに対して敏感になると,月並みなアイディアと真の洞察とのちがいが見えてくる。自分の感情的反応を詳しく分析することだ。

・創造プロセスで生じるストレスは,すべてが悪い方向に向かっている兆候ではない。むしろ想像上の絶望的な状況は,驚くような結果を生むことがある。不安のせいで,古いアイディアに新しい光をあてられるようになることもある。

・最後に,創造的突破に伴う安堵感はたしかに快いが,他の可能性を見えなくすることもある。自分たちがすでに成し遂げたことを批判的に振り返り,別の視点から見て,まったく新しい人に新たな権限を与えることで,眼の曇りを防ぐことができる。

(データをより良く吸収するためには)

・新しい情報に出合ったら,無理にでもそれを使って何かをやってみることだ。自分が学んだことを説明するノートを作るとか,そのアイディアを検証する方法を考え出すとか,データを紙の上に図示してみるとか,友人にそのアイディアを説明してみるとか。私たちが人生においておこなうすべての選択は実験である。大事なのは,その決断の中に含まれているデータが何であるかを見極めることだ。それができれば,そこから何かを学ぶことができる。

これらすべてのうちで最も重要なのは,これらの教訓に共通している根本的な理念だ。それは「生産性が上がるかどうかは,他の人びとがしばしば見落としている選択を見抜けるかどうかによる」という発想である。アイディアに全身全霊を捧げることが世界を変えるという教訓は,私が説明したかった別の考え方に比べると,それほど普遍的でも重要でもない。

長い目で見てより賢く,より速く,より良くなるためには,他の人には見えないような選択を見抜くことである。

 

詳細目次

人の心と行動,本の森

「知ってるつもり」と「武器化する嘘」

人の知能は,世界を(実験によって)観察し,論理的に思考・分析して,表現・評価し,「問題解決と創造」につなげることができるが,その過程に様々な誤りが紛れ込む。

最近入手した二つの本(「知ってるつもり 無知の科学」(著者:スティーブン スローマン, フィリップ ファーンバック)と「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」(著者:ダニエル・J・レヴィティン)は,人の知能・思考が世界をどのようにとらえるのか,世界をとらえる正しい方法論は何かについて,類似した視点と方法にたつ「総論」と「各論」ともいうべき本である。

両書とも非常に優れた内容を持つが,翻訳英書に共通する饒舌さや捩じれと翻訳の分かりにくさがあって,両書の構造,内容を正確にとらえるのが少しむつかしいようだ。

私としては両書を,「問題解決と創造の頁」の「方法論の基礎」の最初に位置づけたいと思っているので,その詳細な紹介をしたいと思っているが,今少し時間がとりにくい状態にあるので,ここでは備忘のために書名とさわりだけ紹介したい。

「知ってるつもり 無知の科学」を読む

「知ってるつもり 無知の科学」(著者:スティーブン スローマン, フィリップ ファーンバック)

この本のポイントは,「The Knowledge Illusion」であるが,これを「知能の錯覚」と訳されても,あまりピンとこない。

人の知能は,複雑な世界から行動(繁殖と生存だろう。)するために必要なもの,重要なものだけを取り出すように進化した。その知能のあり方が,「The Knowledge Illusion」である。そして行動するために重要なのは,原因と結果の因果的推論である。これには2種類(システム1とシステム2,あるいは直観と熟慮)ある。しかし人は,因果システムを自分が思っているほど理解していない(説明深度の錯覚)。直観は個人の頭にあり,熟慮は知識のコミュニティの力を借りている。後者がコミュニティの問題であるというのは,重要である。すなわち人は,体と世界,他者,テクノロジーを使って考える。

そして賢い人を育て,賢い判断をするための方法(ナッジ)がある。

後半は,行動経済学と重なっている。

この本の構成は英文の方がわかりやすそうなので,英書の目次を掲記しておく。

The Knowledge Illusion: Why We Never Think Alone

  • INTRODUCTION:Ignorance and the Community of Knowledge
  • ONE What We Know/TWO Why We Think /THREE How We Think /FOUR Why We Think What Isn’t So /
  • FIVE Thinking with Our Bodies and the World /SIX Thinking with Other People /SEVEN Thinking with Technology /
  • EIGHT Thinking About Science /NINE Thinking About Politics /
  • TEN The New Definition of Smart /ELEVEN Making People Smart /TWELVE Making Smarter Decisions
  • CONCLUSION:Appraising Ignorance and Illusions

「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」を読む

「武器化する嘘 情報に仕掛けられた罠」(著者:ダニエル・J・レヴィティン)

「知ってるつもり」で分かるように,人の知能・思考は「The Knowledge Illusion」にあるから,これを悪意を持って利用しようとする人も多い。

それをどのように批判的に吟味するかという観点からまとめたのが「武器化する嘘」である。「数字を吟味する」,「言葉を吟味する」,「世の中を評価する」から構成されている。認知科学,論理学,自然科学等を踏まえている。ベイズ確率が重視されている,

ただ体系的にまとめたというより,事例集という面があるので,記述相互の関係が分かりにくい。これを参考にしながら,どのように正しく考えるのかを,まとめていく必要があるだろう。

これも内容は,英書の目次の方が分かりやすそうなので掲記しておく。

A field guide to lies and statistics: A Neuroscientist on How to Make Sense of a Complex World

  • Introduction: Thinking, Critically
  • PART ONE: EVALUATING NUMBERS
  • Plausibility /Fun with Averages /Axis Shenanigans /Hijinks with How Numbers Are Reported /How Numbers Are Collected /Probabilities
  • PART TWO: EVALUATING WORDS
  • How Do We Know? /Identifying Expertise /Overlooked, Undervalued Alternative Explanations /Counterknowledge
  • PART THREE: EVALUATING THE WORLD
  • How Science Works /Logical Fallacies /Knowing What You Don’t Know /Bayesian Thinking in Science and in Court /Four Case Studies
  • Conclusion: Discovering

これらの本の利用法

これらの本では,対象として検討している問題が政府の政策であったり,社会問題だったりすることが多い(科学の問題も多い。)。しかしそれらは,所詮,投票を通じてしか実現しない問題であるから,当面,悪意ある人たちに騙されないように,軽率に扇動されないようにという観点から,弁えれば十分だろう。

重要なのは,自分の生活,仕事にこれらを生かすことである。私としては,当面,自分の生活,仕事を充実させること,楽しむこと,社会との関係でいえば,あらゆる人の仕事の生産性を向上させるIT,AIの実際的な使用や企業統治の問題等の分析にこれらを生かしていきたいと考えている。

 

組織の問題解決

この投稿は,固定ページ「問題解決と創造の頁」「政府:力と公共政策」の記事を投稿したものです。固定ページは,その内容を,適宜,改定していますので,この投稿に対応する最新の記事は,固定ページ「政府:力と公共政策」をご覧ください。法を制定し(立法),適用する(行政,司法)ことも政府の役割ですから,この分野は,弁護士業務と密接な関係があります。

「政治」が注目される理由

私は,現代社会が抱える様々な「問題解決と創造の頁」,これを生活・仕事,政府・企業,環境の5つ要素から考えたいと思っている。

ところで,私たちは,普段,5要素の何が大切だと考えているだろうか。普通に考えれば,生活であり,それを支える仕事,更にはこれらの活動の場となる環境であろう。

しかし,私たちが一番興味を持つのは(あるいは持たされるというべきか),政府の支配者の選定,行動に係わる「政治問題」であろう。そうなるのは,ひとつは,政府を国家と同視することによるのだと思う(国家という用語は多義的であるが,5要素を含む構造である社会に比して,国家は5要素を含む歴史,地理的概念として使用されることがあり,その場合,すべての問題が,政府=国家に含まれることになる。)。

もう一つは,民主制を支える国民として,支配者の選定,行動についての正当な関心に基づくものであるが,支配者側の専門性,秘密性,権威性を盾にした権力の壁は厚く,国民はほとんどすべての面で情報操作されているという方が実態に近いだろう。更に,政府は,国民全体の代表として,外交の延長上に戦争を企て,実行する。戦争は,生活領域に近接ないし生活領域内で行なわれれば,生活,仕事,環境のすべてを破壊しかねない行為である。そんなことは分かっているはずだが,戦争が実行された後に,それに気が付くというのがお決まりの「歴史」である。政府の財政,社会福祉制度が破たんしようと,円が大暴落してハイパーインフレになろうと,立ち直る方法はあるが,戦争は立ち直り至難な問題である。だから私は,戦争だけには入り込まない「政府」を選定するのが,最低限の国民の「良識」だと思う。こんなことを考えなければならないこと自体,「政府」にはいい加減にしてもらいたいと思うが,どこの国の「政府」もレベルはあまり変わらない。

力と公共政策

政府の問題は,力と公共政策が基本的な問題である。これを,国内の支配・公共政策と,国際・戦争問題に分けて考察することができる。

支配の問題は,「行政学講義」(「行政学講義」を読む)を出発点にしたい。公共政策の問題は「入門 公共政策学」(「公共政策」という「窓」を通して社会の構造を理解する)で検討に着手した。

検討すべき本

今後検討すべき本を,紹介しておく。

支配・公共政策

  • 行政学講義
  • 入門 公共政策学
  • 自治体行政学
  • 自治体政策法務講義
  • 啓蒙思想2.0
  • ンプルな政府
  • 哲学と政治講義
  • 公共政策を学ぶための行政法入門

国際・戦争

  • 国際法
  • 国際法(大沼)
  • 国家興亡の方程式
  • 避けられたかもしれない戦争
  • 入門 国境学
  • 「教養」として身につけておきたい戦争と経済の本質
  • 戦略原論 軍事地平和のグランド・ストラテジー