組織の問題解決

「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら」(著者:岩崎 夏海)を読む

「もしドラ2」を,案の定「もしドラ」に続けて読んでしまった。しかもあっという間に。でも「もしドラ2」には涙せず,笑ってしまった。

「もしドラ2」も「もしドラ」と同じように,「イノベーションと企業家精神」は頭に入りにくいが,「もしドラ」よりも,もう少しそちらに目が行く,というのは,ストーリーの流れがかなり荒唐無稽なので,個々の場面での説明を読む気になる。怪我の功名か?

ところで本書の帯によると,「もしドラ」は,「280万部のベストセラー」だそうだ。しかしこれでドラッカーの理解が広まったという話はあまり聞かないから,ほとんどの人は,高速でストーリーを追ったのだろう。

「もしドラ2」でどんなことが扱われているかを,若干紹介しよう。ただ体系的に頭に入れるには,「イノベーションと企業家精神」を読んだ方がいいだろう。

マネジメントの機能は,マーケッティングと,イノベーションであるが,これからはイノベーションの重要性が高まる。イノベーションとは,競争をしないことである(そこで,イノベーションボール1号という魔球が出てくる。)。イノベーションとは,意識的かつ組織的に変化を探すことである。企業家精神とは,全く新しいことを行なうことに価値を見出すことである。

変化の7つの機会とは,第一 予期せぬことの生起 /第二 ギャップの存在 /第三 ニーズの存在 /第四 産業構造の変化 /第五 人口構造の変化 /第六 認識の 変化 /第七 新しい知識の出現。本書は,それぞれの例を作り上げて説明していく。

イノベーションの要点として,1 イノベーションを行うには,機会を分析することから始めなければならない/2 イノベーションとは,理論的な分析であるとともに知覚的な認識である/3 イノベーションに成功するには,焦点を絞り単純なものにしなければならない/4 イノベーションに成功するには,小さくスタートしなければならない/5 イノベーションに成功するには,最初からトップの座をねらわなければならない。

「トム・ソーヤーのペンキ塗り」も紹介されている。誰かを説得する上での「魔法のテクニック」といわれている。「説得」のポイントは二つ,─それは,トムがペンキ塗りを「楽しそうにしてみせた」ことと,それを「禁止した」ことにあった。人は,誰かからそれを勧められたり説得されたりしても,なかなかしたいとは思わない。しかし,誰かがそれを楽しそうにしているのを見たり,あるいはそれを禁止されたりすると,どうしてもしたくなってしまう。

事業がうまくいくときは,「マネジメント」だけでなく,人の成長がある。マネジメントというのは,弱みに着目せず,これを組織の中で中和する。けど,教育というのは弱みに注目して,これを克服させようとする。

人間についてのウエットな話も出てくるが,それは省略しよう。

しかし,ドラッカーという人は,新しいことを含めて何でも吸収し,それを整理してよく考え表現することができる人だ。ハーバート・サイモンに似たところがある(ような気がする。)。

目次

組織の問題解決

著者:松田千惠子

はじめに

問題の所在

「コーポレートガバナンスの基礎1」で,コーポレートガバナンスの問題は,経営者,使用人の業務執行について,取締役会の監督,監査役の監査が実効的な機能を果たしているのかということであることに行き着いた。会社法では,この問題に対応する特別の仕組みとして,(指名)委員会等設置会社,遅れて監査等委員会設置会社が設けられているが,それでうまくいくのだろうか(それにしても,なんと覚えにくく,言いにくい,独りよがりの命名だろう。)。

そこで,コーポレートガバナンス全般について論じている「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」(以下「本書」)に目を通してみた。

本書でも紹介されているように,現時点でのコーポレートガバナンスをめぐる議論は,平成26年8月の伊藤レポート「「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書」,平成26年9月(平成29年5月改定)の「スチュワードシップ・コード」,平成27年6月の「コーポレートガバナンス・コード」を踏まえたものとなっている。

もっとも関係が深く重視されているのは「コーポレートガバナンス・コード」であり,これは東京証券取引所が制定したものである。これならば,上場企業の規律の問題であることがはっきりする。

大きなお世話

コーポレートガバナンスをめぐる議論を聞いていると,「大きなお世話」ではないかと思う議論が頻出する(因みに本書では「大きな世話」とするところが2か所登場する。)。会社制度は,委託者,受託者の私的な関係なのに,どうして国や有識者が出てきて,もっともらしいお説教をするのか。あなたの所属する組織のガバナンスはどうなのと,突っ込みの一つも入れたくなる。

この点,東京証券取引所であれば,自分が取り扱う商品(株式)の品質,価格を向上させたいので,上場してお金を集めたい会社は「コーポレートガバナンス・コード」に従ってねということで,とても分かりやすい。ただ東京証券取引所は,他にあおられて歩調を合わせてしまい,美辞麗句を並べたててルールを複雑化させ,企業に無意味な負担をさせない英知が必要である。本当に実効性のある核心を突く仕組みを確立し,運用しなければ,「コード」の中にコーポレートガバナンスは埋もれてしまうだろう。

私にとって不可解なのが,機関投資家に対する「スチュワードシップ・コード」である。金融庁のWebで「スチュワードシップ・コードの受入れを表明した機関投資家のリストの公表」もされているが「踏み絵」?(今は「絵踏み」が普通らしい。)。この問題の「公共政策」としての検討は後日を期そう。

また本書によれば,伊藤レポートは,ROE(株主資本利益率)について8%を上回ることを最低ラインとし,より高くを目指すとしたことが,衝撃を与えたそうである。しかし,これは,誰が誰に対して,どのような資格に基づいて,どのようなツールが使用できるので,ここに書かれたことが実行できると「提言・推奨」をするのか,私には分からない(なお,平成29年に伊藤レポート2.0「持続的成長 に向けた長期投資(ESG・無形資産投資) 研究会報告書」,平成30年に伊藤レポート2.0「バイオメディカル産業版」「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会報告書」というものもある。)。

本書に戻って

なるほど

本書の著者は,豊富な実務経験があるらしく,地に足に着いた議論が随所に見られる。最初にHD(持株会社)と子会社の問題は,ガバナンスの問題であるという,「コロンブスの卵」を紹介しよう。

要は,あなたの会社は,株主をどう見ていますか(うるさい?て適当にあしらえ?口を出すな?),(買収した)子会社も,あなたの会社を,同じような株主として見ています。これを頭にたたき込まないと「グループ会社の経営」はできません。なるほど。

本書の構成

本書の構成は,次のように後記の「コーポレートガバナンスコードの基本原則」に対応した内容になっているとされる。

「第1章 企業をめぐる環境変化とコーポレートガバナンス」は,一般的な,「基本・概要」である。

「第2章 身も蓋もないガバナンスの話」(株主に関する論点…基本原則1【株主の権利・平等性の確保】,2【株主以外のステークホルダーとの適切な協働】),「第3章 「マネジメントへの規律づけ」は機能するのか」(経営者と取締役会に関する論点…基本原則4【取締役会等の責務】),「第4章 「カイシャとあなた」は何をしなければならないか」(情報開示に関する論点…基本原則3【適切な情報開示と透明性の確保】,5【株主との対話】)が,コードに対応している。

最後の「第5章 「ガバナンスの担い手」になったらどうするか グループ経営とガバナンス」は「応用・グループ経営と子会社ガバナンス」である。

しかし本書のような内容の本の「章名」を「身も蓋もないガバナンスの話」などとすると,かえって何が書かれているのかわからなくなるし,また記述内容にもねじれや飛躍もあり,そこで何の議論をしているのかわかりにくいところもある。

本書の,実務経験に基づく具体的な記述は高く評価するが,全体の体系や構成,章名,見出しの命名は,工夫の余地がある。

ここは頭に入れたい

本書から,特に頭に入れたいところを,何点か取り上げて考えてみよう。

取締役と監査役の関係再考

もともとわが国の株式会社制度は,取締役は,取締役会(ボード)のメンバーとして,業務執行の監督をする,重要な業務執行の決定をする,業務執行は代表取締役と業務執行取締役がするという制度であった。そして監査役は,取締役の業務執行を監査するとされていた。この仕組みは,上場企業から中小会社まで同じで,それなりに定着していただろう。

ただ海外の投資家は,監査役に取締役会での議決権がないので,監査の実効性がないとみていることが指摘されていた。しかし,監査役が重要な業務執行の決定に参加した場合,それについて監査できるのだろうか。本当は,こういうことを言う海外の投資家は,業務執行をする取締役という概念を受け入れがたかったのだろう。

これに対応するために(指名)委員会等設置会社ができたわけだ。これなら海外の投資家も理解できるが,あまり使われていない。

しかも同時に会社法の立案者たちは「取締役は,定款に別段の定めがある場合を除き,株式会社(取締役会設置会社を除く。以下この条において同じ。)の業務を執行する」としてしまい,我々の頭には,取締役=業務執行というスキームまでインプットされてしまった。これではいくら制度をいじっても彼我の認識の距離が縮まるはずがない。

業務執行取締役を含む取締役会の監督と監査役(会)の監査という制度の中で,どのようにコーポレートガバナンスの実効性を確保するかを考える方がはるかに大事だろう。しかもこれは上場企業に限られない問題だ。本書も,考え方の道筋はともかく,同意見だろう。

取締役会の監督と監査役(会)の監査の関係,上場企業における社外取締役と社外監査役は何をすべきなのか,これは別の稿で改めて考えよう。

マネジメントの監視(監督・監査)

会社のマネジメント(経営)は,大きく,経営戦略・マーケッティング,人事・組織,会計・財務に分けることができる。監査役というと会計・財務に目が行くが,それでは,マネジメント(経営)の重要な部分が欠落してしまう。

取締役と監査役は,取締役会に上程されるこれらに関する議事について,その問題の所在を理解して問題点を把握し,いろいろな言い方があり得るが,例えば企業価値向上につながるかという観点から,あるいは合理性・適性性の観点から,意見を言い,議決権を行使し,あるいは他に経営上の問題があれば,取締役会の外でも監視する義務がある。要は,株主に代わって監視するのだ。

一方,マネジメントとオペレーションは違うという観点も重要だろう。本書に,「オペレーションは優秀だがマネジメントのない日本企業」という記述がある。そこを引用してみよう。「日本の企業の多くは,「課長」級という意味でのマネジャーを生み出すことには大変長けていますが,「経営者」という真の意味でのマネジャーを生み出す仕組みを持っていません。」。「内部昇格の人々は,いったいいつ「経営者」になるのでしょうか。いつマネジメントとしてのスキルや資質を身につけるのでしょうか。平社員から課長になった時? 部長になった時? 確かに,部下が付いたことによって学ぶことは多いでしょう。チームを率いていかなければならず,リーダーシップも養われるかもしれません。業務知識も身につくし,管理のノウハウもだんだんわかってくるでしょう。しかし,それだけで経営者になれるでしょうか。残念ながらなれません。課長であっても部長であっても,しょせんは決められた業務の範囲内で,与えられた資源配分の範疇で,既存の業務をより良くすることが仕事の中心です。経営者は違います。決められた業務をやっているのではなく,次の一手を新しく考えなければなりません。資源配分は自分で考えなければなりません。その際には様々な利害の衝突や相反が出てきます。あちらを立てればこちらが立たず,といった場面も多いでしょう。ここで投資をすれば儲かりそうだが,おカネはないし,やる人もいない,などといった状況も考えられます。それらのバランスを取るためには,財務や人事などの知識も身につけておかなければなりません(これは,細かい業務知識ではありません。全体的なおカネの動きや人の心のマネジメントの話です。)。もちろん,業務知識があれば役に立つこともありますが,細かい知識よりも必要なのは戦略的な思考や大局を見る力です。そして何と言ってもリスクを取る意思決定をしなければなりません。そもそもリスクが何であるかを理解し,それを引き受けることを決定し,その責任を持たなければなりません。また,外部に対する発信力も必要です。」。そして「マネジメントが不在ならばガバナンスも不要です。」。

取締役と監査役は,当該企業にとって大切なことを見抜き,それについて的確に意見を言うことが肝要である。マネジメントには積極的に口を出すべきだが,オペレーションをあれこれ言うべきではない。ポジション取りはなかなかむつかしい。本書に,「暴走老人」と「逃走老人」を止めろとある。もちろんこれは経営者のことであるが,自分が「暴走老人」と「逃走老人」になってしまわないことも考えよう。。

マネジメントの情報開示

取締役と監査役がなすべき監視は,株主が何を知りたいかという情報公開の観点から見るのも分かりやすい。

株主が知りたいのは,「これまではちゃんとやってきていたのか」(過去の実績)です。満足のいく企業業績を出せていたのか? 将来を占ううえでもこの情報は重要です。これが「会計情報」です。次に,「きちんとやるような仕組みを持っているのか」(企業の仕組み)です。おカネを預けたとして,それがきちんと管理され,目的の投資が行われて成果があげられるような仕組みができているのか,怪しいことをやっている会社ではないのか,といったことです。内部統制報告書,ガバナンス報告書などもこれにあたるでしょう。最後に,これが一番重要ですが,「これから何をしようとしているのか」(将来の仮説)です。投資家が投資をするのは将来についてですから,企業がどのような将来像を描き,そのためにどのようにおカネを使って実際の成果をあげようとしているのか(そして株主に還元しようとしているのか)をはっきりさせてほしいのは当然です。この点は,これまで各企業の自発的開示に任されてきましたが,コーポレートガバナンス・コードの導入により,開示に圧力がかかることになりました。」。

本書のさわり

本書のさわりは「第5章 「ガバナンスの担い手」になったらどうするか グループ経営とガバナンス」である。

もっとも典型的なのは海外子会社のガバナンスである(経営ではない。経営するのは,現地にいる業務執行者である。)。この問題は,ガバナンスから理解し,実行すべきことである。

なおこの問題は同著者の「グループ経営入門」で,より整理された形で展開されているので「「グループ経営入門」を読む・持株会社と子会社 …コーポレートガバナンスの実践2」で紹介したい。

以上,雑駁な紹介になってしまったが,本丸はまだ先なので,本書の紹介は,一応これで終わりとする。気が付いたことがあれば,加除,訂正していく。

詳細目次とコーポレートガバナンスコードの基本原則

 

組織の問題解決

簿記と会社について

簿記と会社が,現代資本主義の発展を支えたと言われる。どういうことだろうか。コーポレートガバナンスについて考える前に,簿記と会社について概観しよう。

簿記について

簿記についてはほとんど門外漢の私も,ストックである,資産=負債+純資産(資本)と,フローである,費用と収益の記帳から,BS,PLが作成され,利益が算定されるという過程をたどるのは心地よい。

ただ簿記には謎が多い。なぜ,借方,貸方というのか(内容とは関係ないが,かり,かしの,り・しの字の曲がり方から(丿・し),かりが左,かしが右と記憶するのだそうだ。),上記の過程は社会に埋め込まれたものが発見されたものか,人間が発明したものか,それとも「数学」と違ってこのような問題を問うこと自体がナンセンスなのか。「ルカ・パチョーリ」が「複式簿記の祖」といわれるが,彼がイタリア語で書いて印刷・頒布された数学書「スムマ」の一部に,当時既に用いられていた簿記を紹介したことから,簿記が広く伝播したのであって(そのポイントは,俗語であるイタリア語,印刷),「複式簿記」は彼の独創ではないようだ(「会計の時代だ」(著者:友岡賛))。

簿記は現代社会の「カネ勘定」を理解するための必須のツールなので,頭が柔軟な時期の中学,高校の数学あるいは社会科のどこかに組み込めばいいと思う(なお簿記のごく初歩的な入門書は,Kindle本の「ふくしままさゆき」さんの本が安くていい。あるいは会計も兼ねて「図解 簿記からはじめる企業財務入門」(著者:津森信也)も良さそうである。これらの本の紹介で,簿記の概観に代えよう。)。

会社-会計について

会社制度の基本を理解するためには,会社法の本を読むより,まず会計の本の最初の部分を読んだ方がよい(前掲の「会計の時代だ」(著者:友岡賛)が手頃だ。)。

会計とは「委託者(資本の持主=株主)が,その財産の管理(保守・運用)を受託者(経営者)に委託した場合に,委託者が自分の行なった財産の管理の顚末を,委託者に対して説明すること(accounting)」である。この財産管理の委託,受託。報告の仕組みを制度として定着させたのが会社である。

会社は,16世紀末~17世紀のイギリス,オランダの東インド会社が海外との貿易(香辛料,綿・絹織物,陶磁器等々の持ち帰り)のために必要となる多額の資金を,多くの人から分割して集めて一定期間継続して保有し,資金提供者は最終的な利益配分とは別に資金(株式)を譲渡することでこれを回収できる仕組みから生まれたとされる。ただこのあたりの歴史の説明は資料によって錯綜しており,世界最初の株式会社は,1602年にオランダで設立された東インド会社で,証券市場もその頃生まれたという説明をうのみにしていいかどうかわからない(この辺りの経緯は面白そうなので私,は「東インド会社とアジアの海」(著者:羽田 正)歴史書を読み始めたが,東インド会社に先行する100年間のヴァスコ・ダ・ガマに始まるポルトガル人のインド,アジアへの銃,大砲による暴力的侵攻を読んでいるうちに気持ちが悪くなり,またこの本のターゲットも制度の説明にはないようなので,いったん読むのをやめてしまった。)。

ところで,今の会社法では,株式会社の基本的特質として,①法人格,②有限責任,③株式の譲渡性,④取締役会の授権のもとでの経営,⑤出資者による共同の所有,⑥出資払戻請求の制限が挙げられるが(「会社法入門」(著者:栗原脩),東インド会社はこれらはほぼ充たしているが,②が少し遅れたという説明がされる。

会社による財産管理の基本は,⑤④であって,会社制度の進展によってその他の部分も整備されたことにより,会社が次第に財産管理の主要なツールとして用いられるようになったと考えられよう。ただ東インド会社の時点で取締役(会)の性格が何であったかは,今ひとつはっきりしない(「世界史の窓」「オランダ東インド会社」には「大口出資者76名が重役となり,その中から選ばれた17人が取締役会を構成し,連合会社全体の経営方針を決定した。十七人会に東インドにおける条約締結,戦争の遂行,要塞の構築,貨幣の鋳造などの権限が与えられた」とあり,東インド会社は,今では行政(国家)しか行えないと考えられている権能も,行政(国家)から与えられていたようである。)。

要は,委託者(株主)が財産(お金)を出し,受託者(経営者)がその管理をする仕組みが会社であり,財産管理の結果がどうなっているのかをお金を用いて説明するのが会計であり,この説明には,複式簿記による記帳に基づくのが適しているのである。

会社-監査について

会計報告は,経営者が株主にするものであるが,経営者が株主に,ちゃんとやっていますと言うだけでは,信用されるかどうか。そこで経営者以外の者が,経営者が株主にする会計報告について,それがちゃんとしたものかどうかを検査し,ちゃんとした報告が行われるように監督することが必要となる。それが監査である。

さらに監査が,経営者から独立した専門的な知識があるプロフェッションによって行われれば,株主は納得,安心できる。その役割を果たすのが日本では,公認会計士である。

コーポレートガバナンスへの道筋

株主は会計-監査だけでいいのか

さてこれまでの記述は一本道であった。しかし株主の手許に来た前年度の財産管理の報告(会計報告)が手続,内容においてちゃんとしたものであったとして,それが大赤字であった場合,とてもよかったとは言えない。株主としては経営者の選任を考え直さなければならないし,そのような結果になる前に,経営者の行為(業務執行)をコントロールできなかったのかという問題もある。あるいは,黒字であっても,その利益を上げる方法が極悪非道であって(あるいは単に「損失隠し」をしていただけでも),早晩,会社が解体に追い込まれるようでは,元も子もないし,経営者が,ちゃんとした会計報告に記載された現金を横領しているかもしれない。よくできる有能な経営者なら,プロフェッションの監査をかいくぐって,いろいろなでたらめをしているかもしれない。会計監査だけでは,すべてはうまくはいかない。

経営者の行為(業務執行)を監督する仕組み

そこで株主に代わって経営者のする行為(業務執行)自体を監督する仕組みが必要となる。その仕組みが取締役会であり,監査役である。さらにはこれを変形した委員会型(指名委員会等設置会社,監査等委員会設置会社)の会社もある。これがコーポレートガバナンス(企業統治)の大きな内容になっている。コーポレートガバナンスはどのような形態,規模の会社でも問題になるが,以下では,主に資本市場で人のカネを集める上場企業を念頭に置く。

以上のように見てくると,会社の経営者は悪人だらけなのかと言いたくなるが,ことほど左様に,人には,監視なしに他人のお金を扱えると,自由自在に振る舞いたくなる強い性癖があるようだ。自由自在というのは,横領だけではない。経営者の思慮を欠く,作為,不作為によって,会社のお金はどんどんなくなるということだ。

業務執行の仕組みは複雑だ

会社の業務執行とは何か

会社の業務執行(広義)は,①業務執行の決定+②その具体的な業務執行(狭義)からなり,その中には,ⅰ対外的な業務執行とⅱ体内的な業務執行がある。ⅰは,代表,代理の問題である。

②を行なうのは,ア代表取締役,イ業務執行取締役,ウ使用人である。

①を行なうのは,エ取締役会と,ア代表取締役,イ業務執行取締役である。エ取締役会は①業務執行の決定を行ない,重要な業務執行の決定(法定決議事)以外は,ア代表取締役,イ業務執行取締役に委任できる。代表取締役は,明示の委任がなくても,日常的な業務の決定ができる。

代表取締役は,以上の業務執行を他の業務執行取締役や使用人に,業務執行取締役は使用人に委任できる。

取締役会・監査役の職務

取締役会は,業務執行の決定,取締役の職務執行の監督(使用人の指揮監督を含むから,結局,会社の業務全般),及び代表取締役の選定,解職を行う(会社法362条2項)。

監査役は,取締役(会計参与設置会社にあっては,取締役及び会計参与)の職務の執行を監査し,監査報告を作成しなければならない(会社法第381条1項)。

さて,ここで経営者,使用人の業務執行について,取締役会の監督,監査役の監査が出てくるが,これが実効的な機能を果たしているのかという疑問が,近時のコーポレートガバナンスをめぐる大騒動の問題意識である。私としては,制度の問題か,人の問題かと問われれば,後者が大きいというのが率直な意見である。制度を改めれば問題はなくなるということではなく,人をどう変えれば問題がなくなるのかということではないかと考えている。

この続きは「 「これならわかる コーポレートガバナンスの教科書」を読む…コーポレートガバナンスの基礎2」に書く(予定である。)。

更に日和が良く,飽きが来なければ,次の投稿も準備しよう。

企業の財務3表と経営を理解する…コーポレートガバナンスの基礎3

上場企業の企業価値と経営を理解する…コーポレートガバナンスの基礎4

監査役と社外取締役の職務…コーポレートガバナンスの実践1

「グループ経営入門」を読む・持株会社と子会社 …コーポレートガバナンスの実践2

「コーポレートガバナンスコード」を理解する…コーポレートガバナンスの実践3