若者たちの政策提言を聞く
ジュニア・アカデメイアの政策提言発表会
3月19日,「ジュニア・アカデメイア」の学生が研究した内容を政策提言として発表する「第3回 政策提言発表会-私たち学生が実現したい日本の将来ビジョン―」を聞きにいった。「ジュニア・アカデメイア」は「日本アカデメイア」(「日本生産性本部」が設けている公共政策にかかる調査・提言機関)の首都圏の大学生,院生を対象とする教育研究機関という位置づけになるのだろう(「ジュニア・アカデメイア」,「日本アカデメイア」,「日本生産性本部」のそれぞれの紹介のため,HPにリンクします。)。私は,日本生産性本部の記念シンポジウム「2025年を見据えた生産性運動の進路」を聞きに行ったことがある。
政策提言の内容
「政策提言発表会」では,それぞれ10人程度の学生が8グループに分かれ,下記の政策提言及び質疑応答を行った。
➀働き方改革グループ-「これからの働き方改革~真の共働きの実現を目指して~」
②政治グループ-「循環する政治社会~参加・議論・評価の民主主義へ~」
③20万時間グループ-「福縁社会構想~あなたの20万時間が持つ無限の可能性~」
④社会全体で子育てグループ-「子育ての負担と喜びをわかちあえる日本~『おんぶ』から『おみこし』へ~」
⑤イノベーショングループ-「30年後も誇れる国づくり~日本発イノベーション再興戦略~」
⑥教育グループ-「頼れるのは自分“自信”!~不安な世界を生き抜く教育のチカラ~」
⑦社会保障グループ-「『私』が『社会保障』する、される。~安心して、挑戦に踏み出せる社会へ~」
⑧ワクワクグループ-「日本ワクワク化構想~もう一人の自分を見つけよう~」
これらについては,それぞれ当日配布された「サマリー」と「報告書」がここに掲載されているのでそれぞれの内容の説明はしない。当日の発表は10分強であったので,ほんのさわりという感じであったが,「報告書」は詳細であり,「参考・引用文献」やリンクも整っているので,じっくり検討するにはいいだろう。ときおり,「6か月の検討」という言葉が行きかっていたが,頭の柔軟な学生たちが,じっくり取り組んだというだけでも,貴重な「報告書」である。
分析と感想
これらの提言は,「就職」という「選択」を前に苦悩する学生たちが,我が国の抱える課題(問題)を設定し,その現状分析をして解決政策を提言するというもので,提言の内容如何に関わらず,その課題設定そのものが,学生たちの置かれた現状の表現として優に並みのアンケートを超えている。
人間の活動を,ⅰ政府,ⅱ企業,ⅲ地域・家・個人に分けて考えれば,②⑥⑦が政府,➀⑤が企業,③④⑧が地域・家・個人に属する問題と,一応分析することができるだろう。
私は,②の「循環する政治社会~参加・議論・評価の民主主義へ~」が興味深かった。今の代表性民主制と併存させて,【「①議題の設定:自分たちで話し合いたい議題を設定するために「輿論ボックス」の設置,②無作為抽出による「市民会議」への参加者の選出,③ネットを利用した議論の実施と政策決定:「市民議会」と国会/地方議会議員との協働 →「市民議会提出法案」の作成と、合議による報告書の作成,④政策の実行,⑤市民が評価を行い、より良い政策へ⇒再び①へ】というシステムを作ろうというのである。選挙は,公共政策を立案・実行する政府主導部の選出過程であるが,それだけではなかなか政府の活動がうまく行かない。人選より政策内容に,市民の目が届く方法を何とか作りたいというのは,私も共通の思いだ(パブリックコメントでOKというわけにはいかない。)。ただ公的なものを考えていてもどうにもならないので,まず私的なシステムを作り,その成果が否応なしに立法に取り込まれるという方向を考えるのがよさそうである。
⑥(教育,医療等は政府に属する問題と考えていいだろう。)と⑦は,問題に真正面から取り組むというより,少しずれたスタンスからの提言だ。⑥は教育内容に「演劇」を取り込もう,⑦は,困窮者を救済するアプリの[システムを作ろうというものだ。
これらから政府の抱える問題が如何に扱いにくいかということがよく分かる。
企業についての⑤は,まさに私がこれから考えようとする「本丸」だが,イノベーションを支える要素が,トップダウンであるという発想はいただけないと思った。ただこれは感想に止めよう。ところで「日本生産性本部」は,「生産性向上」や「イノベーション」を主眼として活動してきた団体だが,一時期はなんて古いのという感じだったが,今また最先頭に躍り出た感じだ。その「調査研究の頁」を見ると,(サービス産業の)生産性,ITと生産性,余暇などの研究が並んでいて,私が考えるようなことは,誰でも考えるのねという感じだ。最新の「質を調整した日米サービス産業の労働生産」という論文は特に興味深いから紹介しておこう。)。
地域・家・個人を何とかしたいという③④⑧の提言は,都会における孤独な「学生」という立場にあるだけに,深刻な思いがあるのだろう。ただこの問題は,個と共同性の加減がむつかしい。地域の再生は多くの人が望むところだが,その手掛かりはどこなのだろうか。③④⑧を聞いただけでは,答えが出なかった。
あと学生たちが発表の後の質疑応答で,主催者(学者,実務家等。2世代くらい上かな?)の突っ込み,評価に,堂々と反論,ないし「言い逃れ」をしているのは,とても頼もしかった。実際,これだけのやり取りでも,発表内容をずっと立体的にとらえることができた。
この「政策提言発表会」は,私にとって間違いなく新鮮でとても興味深かった。ただ学生たちが,なにかにつけて「国の資格」を持ち出すのはいかがなものかと思った(ただ,発表の枠組みが「公共政策」であるのであればやむを得ないか。)。
いま私たちが抱えている問題解決の鍵は,イノベーション,及び社会全体の情報流通にあるのだと,改めて思った次第である。