さらにゲームを知る
最近,私が関係しているゲーム制作受託会社において,著名なパブリッシャーの営業の先頭に立っていた人から,数回にわたって,ゲームに関わる話を聞く機会があった。せっかくの話を聞きっぱなしではまずいと思い,自分からこの分野の本を読んでみて,少し前に進んだ記事を作成してみようと思った。なお私は一度(2018年8月),「ゲームとのコンタクト」という入門編の記事を作成したことがある。
今回,読んでみたのは3冊の本である。
- 「ゲームの面白さとは何だろうか」
- 「ゲーム情報学概論」
- 「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」
3冊の本の紹介
「ゲームの面白さとは何だろうか」を読む
「ゲームの面白さとは何だろうか」(著者:大森 貴秀,原田 隆史, 坂上 貴之 )(Amazonにリンク)
出版社等による紹介
「面白い! 」を学問してみよう。▼双六,チェス,トランプ,そしてデジタルゲームからオンラインゲームまで。古今東西,人々はゲームに魅了され続けてきた。
時にはやみつきになり,やめたくてもやめられないほどに夢中になる。なぜそんなに「面白い」のか?心理学の手法を駆使して,この難問に挑む。
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第3章までは,ゲームの面白さを実験によって(しかも行動分析学の手法を前面に出して)解明しようとする試みだが,ある程度の成果は出たが,なかなかうまくいかないねというところだろうか?何となく常識で判断していることを,実験で明らかにすることはなかなかむつかしい。
第4章で,ゲームの負の部分としての「ゲーム依存」,面白さを展開する「ゲーミフィケーション」,そして将来の「雑多な展望」を論じる。
私は,「ゲーミフィケーション」(もともとはゲームプレイではない活動がなされている環境にゲーム的な要素を導入することで,あたかもゲームであるかのように人々がその活動に関わるようになるという,環境のデザインを指している用語)ということは知らなかったが,この分野にもは,なかなか面白そうな本があるし,ここで紹介されている「キリギリスの哲学-ゲームプレイと理想の人生」(著者:バーナード・スーツ)(Amazonにリンク)も是非一読してみたい。なお「ゲーミフィケーション」のついての和書は商売ネタにしようとする本が多いようだが,翻訳本は検討に値する。次の3冊を挙げておこう。ところで,引用して気が付いたのだが,ⅡとⅢは,同一著者だ。Ⅱは明るいが,Ⅲは読むのがいささかつらい内容だが。
- 「GAMIFY ゲーミファイ-エンゲージメントを高めるゲーミフィケーションの新しい未来」(著者:ブライアン・バーク)(Amazonにリンク)
- 「幸せな未来は「ゲーム」が創る」(著者:ジェイン・マクゴニガル)(Amazonにリンク)
- 「スーパーベターになろう!-ゲームの科学で作る「強く勇敢な自分」 」(著者:ジェイン マクゴニガル)(Amazonにリンク)
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ゲームの面白さには,システム,プレイ,エピソードの3つのレベルがある。
面白さの変数をどうやって図るのかの測定方法と測度には確立したものはなく,そこから研究を始めた・
ネット上の評価は圧倒的に「つまらない」とする主張が多いが,その原因の具体的指摘にはなっていない。ユーザビリティテストの結果は,ゲームの面白さを実験で測定することのむつかしさを痛感させた。プレイ中の行動観察でも成果は出ない。ゲーム選択実験は,ゲームの違いが明確過ぎても微妙でもうまくいかない。
気先行刺激-行動-後続刺激の三項随伴性の,強化反応休止に注目し,それが面白さの指標となるか実験を重ねた,
スロットゲーム(多段階抽選ゲーム)実機に手を加え,アタリハズレが反応時間に及ぼす影響に関係のない刺激は取り去り実験したが,メダルの払い出しは面白さの上で外せない要素なので惜しいハズレである「ニアミス効果」も含めて実験した。アタリ,ニアミス共に反応時間が遅くなった。
報酬量(払い出し金額)と頻度については,「高価値か珍しいものが魅力的である」という自然な結果が確認できた。
ゲームの面白さは単純なエピソードの面白さの加算ではなく,その対比や相乗効果によって生まれる複雑な心理現象である。
「ゲームの面白さとは何だろうか」の「詳細目次」は後記
「ゲーム情報学概論」を読む
「ゲーム情報学概論- ゲームを切り拓く人工知能」(著者:伊藤 毅志, 保木 邦仁 , 三宅 陽一郎 )(Amazonにリンク)
出版社等による紹介
ゲームは,古くから人工知能,認知科学の中心的な研究テーマとして扱われてきた。本書では,まずこの研究分野の基礎的な知識と歴史を押さえ,それを支える重要な理論について述べ,デジタルゲームの応用分野まで概観する。
★松原仁先生(公立はこだて未来大学)の書評★
ゲーム情報学というのはゲームを対象とした(広い意味での)情報処理の研究領域である。「ゲーム情報学」という名称ができたのは1999年に情報処理学会で研究会を立ち上げたときなので,まだ20年程度しか経っていない若い領域である。人工知能のスタートはチェスの研究から始まりチェスを対象として数多くの貴重な成果が得られマッカーシーは「チェスは人工知能のハエ」と言った。ハエを対象とした研究で遺伝学が格段に進歩したように人工知能もチェスを対象とした研究で各段に進歩したということである。しかし日本ではゲームは遊びと見なされてゲームを対象とした研究が疎外される時期が長く続いた。日本は人工知能の研究で世界に出遅れたのだが,その理由の一つにゲーム研究の軽視があったのである。
日本には将棋と囲碁(囲碁は中国発祥のゲームだが今のように発展したのは日本である)という貴重なゲームがあるので,それを対象とした研究をしない手はないということで遅ればせながらゲーム情報学という名称を冠した研究領域を立ち上げた(もっともらしい学問の名前をつけないと認められなかった)。それから20年でようやく体系化にこぎつけることができたのが本書である。伊藤氏が思考ゲームの認知科学的な側面を,保木氏が思考ゲームの情報科学的な側面を,そして三宅氏が最近日本でも盛んになってきたデジタルゲームへの応用を説明している。これまで日本でゲームを研究対象としたくても基本文献が存在しなかったのだが,これからは本書を推薦できる。ゲームの研究を進める上での基礎を本書でぜひ学んでほしい。たとえば意外と敷居が高いゲーム理論(たとえば「ナッシュ均衡」など)の基礎についても学ぶことができる。本書が出版されたことは今後のゲーム情報学の発展のためにとてもうれしいことである。ゲームのプログラムに興味をもったらぜひ最初にこの本を手に取ってほしい。
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非常にしっかりした構成,内容の本で,ゲームの制作,販売に関係する人,AIの最新動向に興味のある人には,次の「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」と並んで外せない本である。この本は,第1章でゲーム開発のこれまでの経緯,第2章でそのために必要なプログラミング,数学等の基礎知識,第3章で,ゲーム設計やゲームAIについて検討されている。門外漢には,第2章が読みにくいので,理解するための数学やプログラミングの基礎知識について,別途,取り上げることにしよう。
因みに,「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」は,世界中の名人に勝ったアルファ碁に焦点を当てて解説しており,字面だけならは非常にわかりやすい。
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「ゲーム情報学概論」の「詳細目次」は後記
「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」を読む
「最強囲碁AIアルファ碁解体新書(増補改訂版)-アルファ碁ゼロ対応 深層学習,モンテカルロ木探索,強化学習から見たその仕組み」(著者:大槻 知史,監修:三宅 陽一郎 )(Amazonにリンク)
出版社等による紹介
【本書の概要】本書は学術論文(NatureやGoogleのサイト)などで提供されている難解なアルファ碁およびアルファ碁ゼロの仕組みについて,著者がとりまとめ,実際の囲碁の画面を見ながら,アルファ碁およびアルファ碁ゼロで利用されている深層学習や強化学習の仕組みについてわかりやすく解説した書籍です。特にデュアルネットワークはまったく新しい深層学習の手法で国内外の技術者の関心を集めています。本書を読むことで,最新AIの深層学習,強化学習の仕組みを知ることができ,
自身の研究開発の参考にできます。また著者の開発したDeltaGoを元に実際に囲碁AIを体験できます。
【増補改訂のポイント】Chapter1から5の部分は,よりわかりやすく内容を加筆修正しています。またChapter6はアルファ碁ゼロに対応しています。改訂にあたり,色数も2Cに変更。よりわかりやすいビジュアルになっています。
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この本は,アルファ碁を支える技術として,ディープラーニング,強化学習,探索を3本の柱として取り上げ,それがどのようなものであり,どういう過程を経て能力を向上させて,世界中の名人に勝てるようになったかを,技術的に丁寧に説明しているようである。今の時点で,あれこれは言えないが,とにかく読みやすい本のつくりになっており,「ゲーム情報学概論」と交互に目を通しながらその内容を理解していくと,今のAIの最前線が理解できるのではという期待を持たせる本である。
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「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」の「詳細目次」は後記