やり残したことども

2020-10-16

大晦日に書きかけたこと

2018年の「大晦日にこの記事を書きかけたが,やり残したままあっという間に今日(2019年1月7日)になってしまった。「今年もあっという間に大晦日だ。今年は去年より比べて,だいぶ充実したときを過ごせたような気がする。更に来年は踏ん張ろう」で始まり,今後作成する記事の「目論見」を書く段取りだったのだが。

松岡正剛さんの初期の本に本は10冊くらい並べて,最近の本には30冊くらい並べて読み進むと書いてあった。ここ1ヶ月くらいの私がそれに近い状態だった。松岡さんはR本(現物本)だろうが,私はKindle本だ。でも,30冊のR本をとっかえひっかえするのは大変だろうが,Kindle本なら,同時には見られないが,30冊でも,100冊でも読み替える操作は簡単だ。

「教養」の逆襲

ひと時,教養は卑しめられ,人文・社会科学は,大学から追放されそうになった。「役に立たない」ということだろうが,教養のない人の言いそうなことだ。だが,最近,教養陣営の逆襲が目立つ。

通常イメージされるいわゆる教養(歴史,哲学,文学等々…)は,過去の事象に学ぶ,視野を広げ,フレームを切り替え,問題を俯瞰する,新しいアイデアを得る等々の意味で,間違いなく役に立つ。教養は役に立たないという人たちが考える「役に立つ」知は(主に自然科学を念頭に置くのだろうが),科学としても。射程が短く,一時的で,脆弱だ。科学のほとんどは仮説であり,教養は科学を準備する助走であるというぐらいの捉え方が正しいのだろう。あるいは,教養は,助走+科学の全体というのがいいかもしれない。

ただ教養陣営にも問題はある。得てして教養に立てこもりそれだけで自足して,問題解決に役立てようという意識に乏しいことがある。

「教養」を論じた本は多いが,ビジネス,経済を視野に入れた異色の本が,「センスメイキング―本当に重要なものを見極める力」(著者:クリスチャン・マスビアウ)である。「デザイン思考」を切り捨てながら,批判的的思考によるセンスメイキングを持ち出し,その五原則として「1「個人」ではなく「文化」を,2単なる「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を,3「動物園」ではなく「サバンナ」を,4「生産」ではなく「創造性」を,5「GPS」ではなく「北極星」」をあげる。ただ,批判的的思考とアルゴリズムを対置し,後者を退けるのはいかがなものか。

わが国にもいわゆる教養を論じた本は多い。最近のKindle本の書名だけをあげておこう。「本物の知性を磨く 社会人のリベラルアーツ」(著者: 麻生川静男),「人生を面白くする 本物の教養 (幻冬舎新書)」(著者:出口治明),「リベラルアーツとは何か」(著者:瀬木比呂志),「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」(著者:菅付雅信),「教養の力 東大駒場で学ぶこと (集英社新書)」(著者:斎藤兆史)等々。

読むべき本のリストをあげる読書論も,要は,教養リストだ。立花隆,松岡正剛,佐藤優,その他大学の先生等とリストは多い。私としては吉本隆明の「読書の方法~なにを、どう読むか~ (光文社文庫)」に一番心が惹かれる。これらはいずれまとめて紹介しよう。

ビッグヒストリー,システム理論プラスアルファ

去年出会った,私にとっては新しい分野が,ビッグヒストリーやシステム理論だ。システム理論の中身をより緻密化するものとして「制度とは何か」(著者:フランチェスコ・グァラ)は極めて興味深い。一方,世界の今現在の全体像を的確に把握するためには,「FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」(著者:ハンス・ロスリング等)がお薦めだ。基本的に頭に叩き込むべきことは,世界を4つの所得レベル(1日当たり,①~2ドル,②~8ドル,③~32ドル,④オーバー32ドル)に分けると,現在,①が10億人,②が30億人,③が20億人,④が10億人だが,「いまから200年ほど前までは,世界の85%がレベル①、すなわち極度の貧困の中に暮らしていた。現在、世界の大部分は真ん中のレベル,つまりレベル②とレベル③に暮らしている。これは1950年代の西ヨーロッパや北アメリカと同程度の生活水準だ」。「70億人の人口は,10億人単位で見て,アメリカ大陸 ,ヨーロッパ大陸,アフリカ大陸,アジア大陸にどのような割合で暮らしているか。現在は,「1・1・1・4」であるが,2100 年 には「1・1・4・5」で, 世界の人口の8割以上が,アフリカとアジアに暮らすことになり,おそらく次の20年間で,世界市場の中心は大西洋周辺からインド洋周辺に移るだろう」。

この本は,現在の世界の現状の様々な数字について多くの人に質問をし,その回答が専門家を含めほとんどでたらめであるとし,その原因として「10の思い込み」を挙げているが,おそらく上記した数字が頭に入れば,質問への回答も落ち着くだろう。要は,多くの人の頭には,せいぜい初等教育を受けたときの数字しか刷り込まれておらず,それを基本にイメージするからほとんどでたらめになるのではないか。

続情報をめぐって

「宇宙はエネルギー・物質・情報でできている。だが,宇宙を興味深いものにしているのは情報だ」という説明が「情報と秩序」(著者:セザー・ヒダルゴ)にある。

ビッグヒストリー,システム理論の中心にあるのは,「情報」であるが,これをデジタル情報論ではなく,宇宙,地球,生命の中に位置付けようとするのは,「基礎情報学」である。アフォーダンス,オートポイエーシス,ルーマン,ラディカル構成主義等々,なぜ情報学にこんなことが書いてあるのという気もするが,ビッグヒストリー,システム理論に位置付けようとする場合,とても役に立つ。

既に「情報をめぐって」という記事を作成したが,「続情報をめぐって」を考えている。

ここでは「サイバー空間の病理」を検討するが,その前提として,サイバー空間を利用することがどういう力を持つのか,「NEW POWER これからの世界の「新しい力」を手に入れろ」(著者:ジェレミー・ハイマンズ, ヘンリー・ティムズ)を一読したい。著者らが「僕たちは,初期のインターネット先駆者たちが思い描いた自由な楽園とはほど遠い,集団農場のような世界で暮らしている感じがしてならない」,「もっとオープンな、民主的かつ多元的な社会を実現しようと奮闘している人たち」によって「正しく用いられた場合には、すばらしい効果を発揮している等々には,共感もするし,励まされもする。

しかし,そのサイバー空間の「新しい力」は,病理ももたらす。便宜,サイバー攻撃と,サイバー煽動と呼ぼう。前者は,破壊や経済的利益を目的とし,サイバーセキュリティが問題となる事象である。後者は,フェイクニュースを流したり,その他の方法により,世論操作を行おうとする手法である。これらに関する本は多いが,全体を概観する本として,「サイバー空間を支配する者 21世紀の国家・組織・個人の戦略」(著者:持永大)を,前者は多くの本があるのでここでは省略し,後者として私が衝撃を受けた「フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器」(著者:一田和樹)を挙げておこう。この本ではロシアが目立つが,「池上彰の世界の見方 ロシア~新帝国主義への野望~」(著者:池上彰)を一読するとなるほどと思える。

これらはいずれも世界,社会の価値を著しく毀損するものであるから,適切な対応をすることが今後の大きな課題である。サーバー空間には大きな「「NEW POWER」があるからこそ,これを利用して,不当な経済的利益を得たり,政治支配をしたりしようとする輩は多い。我が国でもいずれも大きな問題だ。

生命と進化をめぐって

この分野では,「人体はこうしてつくられる-ひとつの細胞から始まったわたしたち」(著者:ジェイミー・A・デイヴィス)と,「タコの心身問題-頭足類から考える意識の起源」(著者:ピーター・ゴドフリー=スミス)を挙げたい。いずれも極めて良質なポピュラーサイエンス本といえるが,論述にしっかりついていくには多少力がいる。ただ今,生命と進化の世界が大きく広がりつつあることがうかがわれて,読んで損はない。追ってじっくりと紹介したい。後者は題名を見るだけで読みたくなるのでは?

人間の健康ということでは,「果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?」(著者:ロバート・H・ラスティグ)が,肥満に由来する病気や,ダイエット問題の核心について,丁寧に,科学的に検討する最高レベルの本だ。これまでの肥満,ダイエット本が幼稚に見える。ただ「果糖中毒」(Fat Chance: The bitter truth about sugar)という題名の翻訳がこの本の論述の広がりを誤解させるが,内容は健康全般にわたる優れた本だ。健康本としては一押しである。

その他にもまだまだあるが,私が消化しきれなくなるので,当面これらの本の内容を紹介する記事を作成していこう。

着地点

ところで,これからどこに着地するの?というのはもっとも疑問だ。私としては,システムとしての社会の要素である法制度の機能を踏まえた今後の情報のありようを問題にしたい。弁護士としては情報法の問題だが,もう少し視野を広げて,ビジネスや政治にも働きかけたい。

 

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