イノベーションと戦略

2021-03-17

坂村健さん

先日(2021年3月16日)、あるオンラインセミナーで坂村健さんの話を聞いた。話したことは「イノベーションはいかに起こすか AI・IoT時代の社会革新 (NHK出版新書) :坂村 健」(Amazonにリンク)のエッセンスだといっていたから、聞く機会のなかった人はこれに目を通せばいいだろう。

まず話の核心部分はとても有益であること、そしてまずは私自分がノベーションを試みなくては駄目だよなということは前提にしよう。

その上で、何点かコメントしよう。

まず坂村さんの視点は「専門分野」の「高み」にあり、そこから見える「今現在」の問題点を指摘するのだが(その限りでは優れている、)、そこから降りてもっと根本的な観点から問題を考察しようとはしないように思われる。

生物である人のこころの働きや行動、あるいは社会が複雑なシステムであること(例えば西垣通さんの「基礎情報学」では、情報を、生命情報、社会情報、機械情報に分別するが、坂村さんは、ほぼ機械情報岳を見据えているように思われる。ただ西垣さんは西垣さんでその分析で足踏みをしているような感じで、坂村さんが問題にしているような「今現在」の問題には、なかなか届かない。)。

あと政府とか法制度の捉え方が、単純すぎる。坂村さんも西垣さんも社会情報については不十分だ。といっても、この分野は法律実務家こそが追い詰めなければならない問題であり、文句があるなら要は私がやらなければならないことだ。文句のある私がちゃんと法の基礎理論を踏まえ、(坂村+西垣)問題を検討すればいいのだ。

足りないのはイノベーションの考察

坂村さんは、DXとそれを支えるイノベーションを持ち上げるのだが、残念ながら取り上げた「ケーススタディ」が、AI、プログラミング教育 、フィンテック、電子政府(それと自身の東洋大学やTRONの経験も入るだろう。)なので 、イノベーション論が足りない。これは買ったばかりでまだ論評できないが「人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する:マット・リドレー」(Amazonにリンク)が役立ちそうだ。しかしマット・リドレーさんは、分業を取り上げた「繁栄 明日を切り拓くための人類10万年史」(Amazonにリンク)、大きな変化を起こす意図のない無数の人によってもたらされた「ボトムアップ」による偶然で予想外の現象が人類に進歩を切り拓いてきたとする「進化は万能である 人類・テクノロジー・宇宙の未来」(Amazonにリンク)も、全体の構想と材料の収集がすばらしい。多分「人類とイノベーション」も期待を裏切らないだろう。イノベーションというと必ずシュンペータ-が出てくるが、ウルリケ・ヘルマンはシュンペーターの「競争は…売上げや既存の会社の限界収益を増やすのではなく,その土台とその存続を揺るがす」を引用し、「シュンペーターは新古典派の決定的誤りを非常に明快に批判する。新古典派は「資本主義が既存の構造をいかに管理運営しているか」を記述すれば事足りると信じているが、「資本主義がその構造をいかに創出し、破壊しているかということこそが重要な問題なのだ」とする(「スミス・マルクス・ケインズ――よみがえる危機の処方箋」(Amazonにリンク))。理解して持ち上げるのならいいのだが。

戦略も見据えよう

「今現在」の問題は、イノベーションだけではなく戦略(経営戦略に止まらない)という観点から考えるのも重要だろう。これも経営学者はうっとおしいので(ドラッカーはファンなので、例外にさせてもらおう。)、生物の進化から考えると、面白い。稲垣栄洋さんの「弱者の戦略」(Amazonにリンク)や、「Learned from Life History 38億年の生命史に学ぶ生存戦略」(Amazonにリンク)で、生物進化の場面でリアルに考えたい

そういえば生物からイノベーションを考える「生物に学ぶイノベーション 進化38億年の超技術:赤池学」(Amazonにリンク)も面白かった。

以上、乱暴な記述で申し訳ないが、これからは余り問題を抱えこむことなく、以後の作業のために、アイデアの「備忘」として適宜このような記事を作成しようと思う。関係者には不愉快かも知れないが、主観的な備忘なのでご容赦いただきたい。