「逆問題の考え方」を読む

結果から原因を探る数学

一言コメント

充満したおやじギャグと展開された数式の間には深い闇がある。

入口にて

とても読んだとはいえないけれども

私はこの本の数式部分は飛ばし読みするしかないけれども(もっとも数学の本だから論述の大部分は数式に支えられているが)、活字部分を追っていくだけでも、新鮮な感動(快感)を覚えた。数式部分がわずかでも追えれば、その感覚ははるかに深まるだろうと思われるが、この本は数式に「暗い」私に、過去の不勉強の悔恨を強いる。

何が書かれているのか

逆問題とは普通「現象の原因を観測結果から、法則に基づく逆のパスを通して、定量的に決定あるいは推定する問題を総称していう」が、この本では「分割された要素(=原因)達のある規則(=法則)に基づく積み重ねで得られる包括(=結果)から要素を決定または推定する問題」と定義される。具体的には、後記の目次を見ていただければいい。

私がこの本のほとんどが分からないまま最後まで目を通したのは、取り上げられた恐竜の絶滅とか、海洋循環逆問題が面白いこと、それと逆問題の解は、観測誤差に対して鋭敏になるとの指摘があること(それは、観測データによっては解が存在しない、その点に目をつむって現実には解があるとしても、解はパラメーターの変動に対して安定にならない非適切性が原因であること)、そしてこのような非適切問題について、適切問題に近似しつつ解いていく「正則化法」があるが、それは数学自身の役割への問いかけであること、等が面白かったからである。

例えば、ダーウィンの「進化論」も。逆問題かなあとか、複雑化科学でいわれるバタフライ効果も「観測誤差に対して鋭敏になる」ことと関係があるかなあと思ったりもした。

あと、「自然現象はなぜ数式で記述できるのか」という新書があって、筆者は「人間にはまったく関係がない純粋な自然現象が、自然界に存在するわけではなく、100%人間が創造した数式で完璧に記述されるわけです。不思議なことではありませんか。私には、これが身体が震えるほど不思議で仕方がないのです。」との感想を繰り返し、なにやらSomething Greatを持ち出すのだが、この本の筆者のように「もともと、数学は自然現象を理解するための学問ではない。しかし、結果的には自然現象を理解するのに決定的な役割を果たしてきた。これもまた、数学が実在として自然に組み込まれているからである。」との記述の方が、私にはよほど合点がいく。ただいずれにせよここでの私の感想は「素人の戯言」に過ぎない。

オシツオサレツ(※①)

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出口と展望

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書誌と評価

書名  逆問題の考え方
著者(編者)  上村豊
出版社  講談社ブルーバックス
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本のタイプ(※②) ①参照・②簡単・③そこそこ・④かなり・⑤ものすごく
読込度(※③) 眺め読み・点読・通読・精読・熟読  →
評価 ◎・〇・△・×・?
ISBN  9784062578936

目次

  • ■第1章 逆問題とはなにか
  • 未知なるもの/内部を探る/逆問題の規定/誤差に対する鋭敏性/演算の方向/重力探査/積分方程式と逆問題
  • ■第2章 史上最大の逆問題
  • 逆問題の哲学/衝突仮説/地上からの隕石推定/衝突の論文/恐竜絶滅のクレーター探し/チチュルブクレーターの直径/決定的証拠
  • ■第3章 振動の逆問題
    振動と順問題/バネの等時性/振り子の運動/ホイヘンスの振り子/逆問題/逆解析/追加すべき観測データ/最終回答/からくり
  • ■第4章 プランクのエネルギー量子発見
  • 壮麗な逆問題/黒体放射/1段目の滝、放射公式/新たな展望/2段目の滝、エネルギー量子の発見/逆問題:エネルギー量子の決定/プランクからアインシュタインへ
  • ■第5章 海洋循環逆問題
  • 海洋学と逆問題/コリオリの力と地衡流/地衡流の運動方程式/地衡流の力学計算/基準速度を決定する逆問題/逆解析の原理/逆のパス
  • ■第6章 逆問題としての連立1次方程式
  • 最小2乗解/過剰決定系・不足決定系/最小2乗解の方程式/長さ最小の最小2乗解/ムーア-ペンローズ逆行列/特異値分解
  • ■第7章 逆問題のジレンマ
  • 正則化法/クイズ/チホノフ正則化解/特異値分解とチホノフ正則化/積分方程式の不安定性/逆問題源流探訪/放射性物質逆問題の正則化解
  • ■第8章 量子散乱の逆問題
  • 量子力学速成コース/シュレディンガー/量子散乱/ハイゼンベルクのS行列/散乱の逆問題/逆スペクトル問題/非線形波動

参考

※① オシツオサレツは「哲学入門」(戸田山和久著)から拝借。もともとは、ドリトル先生シリーズにでてくる動物オシツオサレツ(Pushmi-pullyu)の翻訳らしい。

※② 「本のタイプ」は、佐藤優さんの「読書の技法」が紹介する、②簡単に読むことができる本、③そこそこ時間がかかる本、⑤ものすごく時間がかかる本に、①必要なときに参照する本、④かなり時間がかかる本を加えて、5分類にした。

※③ 「読込度」は、M.J.アドラーの「本を読む本」に準じ、第2レベル「点検読書」を、「点読」、「通読」に、第3レベル「分析読書」を「精読」に、第4レベル「シントピカル読書」を「熟読」にし、さらに、それ以前の段階の「眺め読み」を加えた。紹介する時点では、ほとんど「眺め読み」、「点読」、「通読」だが、将来、より詳細な読み方をする必要があると感じているときは→を付加する。