コンピューターにできること,AIにできること

AIにできること

続・ゲームとのコンタクト」で挙げた「ゲーム情報学概論」や「最強囲碁AIアルファ碁解体新書」をしっかりと読み込んでAIを理解するためには,基礎的な数学とプログラミングの知識が必要なので,「AIにつながる数学とプログラミングの基本の本」を探してピックアップだけでもしておきたいと思っているが,その前に,人の知能とAIを,数学とプログラミングの観点から明解に論じている新井紀子さんの「コンピュータが仕事を奪う」を押えておいた方がいいと思い,触れておくことにする・

ところで,私が賛同する戸田山さんの,人間は「目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物」であるというモデルにおいて,まず①「オシツオサレツ動物」がどのようなメカニズムによってどのように機能しているか自体まだほとんどわからないし,②ましてや「「目的手段推論というちょっとした拡張機能」はもっとわからない,ただ③「推論」(計算)そのものについては,数学・論理学で相当解明できており,数学とプログラミングはまさにその範囲の問題である。

これを極めて単純化して現状を理解すれば,コンピューター,AIによって,Ⅰ.①と②について,因果関係を解明してモデル化して「推論」(計算)するのは,今後できるともできないともわからないが,Ⅱ.今,ハードの性能向上と「推論」(計算)の工夫によって,これに帰納的に接近しつつある。ただ,「推論」(計算)における指数爆発は,いかんともしがたい壁であるが,これも分野によっては工夫できる可能性があるということになろうか。

「ゲーム理論」へ飛び火する

その中で新井さんが指摘する「どんな複雑なゲームにも,ナッシュ均衡点が必ず存在することが数学的に証明されています。そのため,少なからぬ経済理論の文献において,その不動点にプレーヤーが到達する(はず)であることを前提として話が進められています。しかし「情報科学の専門家の多くは,ナッシュ均衡の話を聞けば聞くほど,「それはおかしい」と思います。なぜなら,プレーヤーが均衡点を計算するには時間がかかるからです。それは,計算が速い人も遅い人もいる,という単純な話にとどまりません。仮に,均衡点を計算するのに指数時間かかるとしたら,地球滅亡の日まで計算し続けても,計算が終わらないかもしれないのですから。しかも,ナッシュ均衡の計算アルゴリズムはどれも指数爆発を伴うものばかりだったからです。数学的に「存在する」ということと「計算して,それを手に入れることができる」ということは,まったくの別物です。そして,実際に,ナッシュ均衡の計算困難性に関する情報科学者の直観は正しかったのです。2009年に,クリストス・パパディミトリウらは,ナッシュ均衡の計算は(2人ゲームの場合であっても)NP困難な計算問題だとみなしてよいことを証明しました。悪いことに,その近似を計算することも,同程度の計算困難さを持つため,「ナッシュ均衡に現実的な時間内にたどりつくことは,一般的には不可能」であることが示されたのです。ナッシュ均衡は存在しても、多くの場合たどりつけない」ということは,経済学の根幹を揺るがす大問題であることを考えると,もっと注目されてよい気がします。」とさらりと書いているが,これは本当なのだろうか。

新井さんの本

新井さんは,「目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物」という観点は持ち出さないが,実質的に,これに近い発想をしていると思う。

「コンピュータが仕事を奪う」を読む

ところで私は新井さんの次の4冊を購入している。

  1. 「コンピュータが仕事を奪う」(Amazonにリンク
  2. 「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」(Amazonにリンク
  3. 「人口知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」-第三次AIブームの到達点と限界」(Amazonにリンク
  4. 「数学は言葉」(Amazonにリンク

ⅰは,コンピューター,AIに出来る仕事には人はいらなくなるでしょう,ⅱは,人がコンピューターにできない仕事(身体的なものでなければ,意味を理解する仕事をする)といっても,どうも若い人に意味を理解する「学力」が失せつつあるようだ,Ⅲは,限界はあるが,すでにAIの「学力」は,若い人が意味を理解する普通の「学力」を上回っているようだ,さてこれからどうなるんでしょう,というようなところだろうか。ⅳは,文字通り,数学こそ「共通語」であるという観点からの数学のすすめだ。

この記事では,ⅰⅱを紹介しようと思うが,今日の時点(平成31年2月20日)の時点では,両書の詳細目次だけ掲載しておく。

 

「コンピュータが仕事を奪う 」の「詳細目次」

著者:新井 紀子

CONTENTS

はじめに-消えていく人間の仕事

第1章 コンピュータに仕事をさせるには

チェス名人を負かしたコンピュータ 「高度な思考」とは何か 指数爆発の壁 コンピュータの強み 人間に何ができるか タケコプターはいつまでたっても作れない 注文できない発注者 コンピュータはどうやって計算する?

第2章 人間に追いつくコンピュータ

「2001年宇宙の旅」-人間と機械を区別する 人工知能とチューリングテスト 人工知能との会話 あいまいになるコンピュータと人間の境界 計算できるということ──数学的帰納法 抽象という能力 「思い」を実現するための能力 演繹と帰納 人工知能を阻む〝壁〟 演繹と帰納のレシピ 帰納で学ぶコンピュータ 一テラを聞いて十を知る 猫が猫に見える理由 「猫らしさ」を学習させる コンピュータで怪しい臭いを嗅ぎ分ける 消える「名人の神業」 文献解析、ヒトゲノム解読──人間を上回る能力 自動翻訳はなぜ難しいか 日本語構文を解釈するには 「前後の文脈」という難題 鈍感になっていく人間 演繹型翻訳vs帰納型翻訳 コストのかからない帰納型翻訳 数学は機械的か、創造的か 「しらみつぶし」の力業 「意味のある」発見とは セマンティックギャップ──コンピュータは人間の目になれるか 「灯台らしい」とは何か コンピュータの〝下働き〟をする人間 無償サービスの無償労働 高度な作業はコンピュータ、単純作業は人間? 『怒りの葡萄』からクラウドソーシングへ 数学というオープンソース 囲い込まれる

第3章 数学が文明を築いた

数学はなぜ生まれたか バビロニアの粘土板 ダビデの人口調査 古代オリエントの「数学ドリル」 数学に論理をもたらしたギリシャ人 普遍文法としての論理 数学を言語化する 位取りの発明 概念を圧縮する数式

第4章 数学で読み解く未来

「科学で解明する」とは? 数学で変化を表現する モデル化という作業 変化の割合の変化を表す 未来を予測する微分方程式 人口予測のマルサスモデル ランダムな動きも予測できる 〝どっちつかずの未来〟を読む データからモデルへの道筋 機械学習ではできないこと ケプラーを超えられない理由 データから因果関係は見えるか 紙おむつとビール 20世紀と21世紀の違い 喜んで支配される未来

第5章 私たちは何を学ぶべきか

誰もがHAL9000を手に入れる ホワイトカラーに勝ち目はあるか 「言語としての数学」が身を助ける 数独とクロスワードパズル 数学者は暗算が苦手? 脳を活性化しないドリル コンピュータが思考の芽をつむ 算数が苦手になる 暗記と計算で追いついた日本 論理的に考えさせる、言語化させる 脳を耕す教育 人間しかできない「子育て」 データ分析では「処方箋」はつくれない 「意味」に耳を澄ます

おわりに-計算とともに

AI vs. 教科書が読めない子どもたち

著者:新井 紀子

目次

はじめに

第 1 章 MARCH に合格-AI はライバル

AI とシンギュラリティ AI はまだ存在しない/ シンギュラリティとは

偏差値 57・1 東大合格ではありません-「東ロボくん」プロジェクトの狙い/ 東ロボくんが MARCH に合格したらどうなるか

AI 進化の歴史 伝説のワークショップ/ エキスパートシステム/ 機械学習/ ディープラーニング/ 強化学習

YOLO の衝撃-画像認識の最先端 東ロボくんの TED デビュー/ リアルタイム物体検出システム/ 物体検出システムの仕組み/ AI が目を持った?

ワトソンの活躍 クイズ王を打倒/ コールセンターに導入

東ロボくんの戦略 延べ 100 人の研究者が結集/ 世界史攻略/ 論理で数学を攻略

AI が仕事を奪う 消える放射線画像診断医/ 新技術が人々の仕事を奪ってきた歴史/ もう「倍返し」はできない/ 全雇用者の半数が仕事を失う

第 2 章 桜散る-シンギュラリティは SF

読解力と常識の壁-詰め込み教育の失敗 東大不合格/ 東ロボくんにスパコンは要らない/ ビッグデータ幻想/ 日米の認識の差/ 英語攻略は茨の道/ 200 点満点で 120 点を目標に英語チーム結成/ 常識の壁/ 150 億文を暗記させる

意味を理解しない AI コンピューターは計算機/ 数学の歴史/ 論理と確率・統計

Siri(シリ)は賢者か? 近くにあるまずいイタリア料理店/ 論理では攻略できない自然言語処理/ 統計と確率なら案外当たる

奇妙なピアノ曲 確率過程/ 自動作曲/ とりあえず、無視する/「意味」は観測不能/ やっぱり、私は福島にならない。

機械翻訳 やふーほんやく⇒×/ 私は先週、山口と広島に行った。/ オリンピックまでに多言語音声翻訳は完成するか/ 画像認識の陥穽

シンギュラリティは到来しない

シンギュラリティは到来しない AI はロマンではない/ 科学の限界に謙虚であること/ 論理、確率、統計に還元できない意味

第 3 章 教科書が読めない-全国読解力調査

人間は「 AI にできない仕事」ができるか? 問われるコミュニケーション能力/ 日本人だけじゃない

数学ができないのか、問題文を理解していないのか?-大学生数学基本調査 会話が成り立たない

全国 2 万 5000 人の基礎的読解力を調査 本気で調べる/ 東ロボくんの勉強をもとに、リーディングスキルテストを開発/ 例題紹介

3 人に 1 人が、簡単な文章が読めない アレキサンドラの愛称は?/ 同義文判定ができない/ AI と同じ間違いをする人間/ ランダム率

偏差値と読解力 基礎的読解力は人生を左右する/ 何が読解力を決定するのか/ 教科書を読めるようにする教育を/ AI に代替される能力/ 求められるのは意味を理解する人材/ アクティブ・ラーニングは絵に描いた餅/「悪は熱いうちに打て」/ 現場の先生たちの危機感/ 処方箋は簡単ではない/ AI に国語の記述式問題の自動採点はできない/ いくつになっても、読解力は養える

第 4 章 最悪のシナリオ

AI に分断されるホワイトカラー どうして三角関数を勉強しなきゃいけないの?/ AI で代替できる人材を養成してきた教育/ AI 導入過程で分断されるホワイトカラー

企業が消えていく ショールーミング現象/ AI 導入で淘汰される企業

そして、 AI 世界恐慌がやってくる AI にできない仕事ができる人間がいない/ 私の未来予想図/ 一筋の光明

おわりに