地方活性化を考える
「地方創生大全」(著者:木下 斉)を読む
地方活性化を真正面から論じている
今,人口が減少しつつある状況の中で,地方再生,地方創生が大きな課題になっていると言われるが,多分解決すべき問題は,都市だろうと,企業だろうと,国全体の経済であろうと,同じであろう。「地方」を「特殊」なものとして上から目線で論じること自体,無意味である。
「地方創生大全」(著者:木下 斉)(Amazon)は,長年,地方活性化のために活動してきた著者が,地方活性化のために何が必要で,何が不要かあるいは障害かを,ネタの選び方,モノの使い方,ヒトのとらえ方,カネの流れの見方,組織の活かし方という観点から,真正面から論じた本である。
ただ中心となる主張は極めて単純で,経済的に回る事業を,「すぐに」「自分で」始め,撤退も頭において,試行錯誤を繰り返す。実践と失敗から「本当の知恵」を生み出そう。観光客数ではなく観光消費を重視する。役人の立てる計画や補助金は「害悪」だ。
そして,マシンガンのごとく,「ゆるキャラ,特産品,地域ブランド,プレミアム商品券,ビジネスプランコンペ,道の駅,第3セクター,禁止だらけの公園,モノを活かせない「常識的」な人, 地方消滅論,人口減少論,,新幹線,高齢者移住,補助金,タテマエ計画, ふるさと納税, コンサルタント,合意形成,好き嫌い,伝言ゲーム, 計画行政,アイデア合戦」等々を撃ちまくる。
少し視点を抽象化し事前のマクロ的分析を加えれば,素晴らしい本になる
問題解決と創造
上述したように,地方活性化をやり遂げることの出来る力は,都市や企業,国全体の経済の問題にも通用するであろう。もっと言うと,個人の生活・仕事・文化の「問題解決と創造」でも同じである。いや地方活性化こそ,すべての試金石であるといってもいいであろう。
しかし本書は,地方活性化の世界の中であれこれ格闘するあまり,地方政策に関わる行政に対する「批判」だらけとなってしまい,その世界がいささか息苦しくなっている。行政の現実について,把握できている人にはいいが,行政に期待している人を遠ざけてしまうかもしれない。少し視点を抽象化して,個人,企業,政府すべての「問題解決と創造」の方法から始め,主たる論点を「地方政策」に収斂すれば,素晴らしい実践本になると思う。
「地元経済を創りなおす」の方法を取り入れる
もう一点,著者は,ネタの選び方について,行政,コンサルタント,合意,古い発想等々を厳しく批判し,自分の頭で考えろということであるのだが,何をターゲットにするか,その下調べはしたほうがいいだろう。
これについては「地元経済を創りなおす-分析・診断・対策」(著者:枝廣 淳子)(Amazon)が,地域経済からお金の漏れをふさぐという観点から紹介する「産業連関表を用いる方法、地域経済分析システム(RESAS) を用いる方法、英国トットネスで行った「地元経済の青写真」調査、LM3という地域内乗数効果を見る方法、そして、より手軽な方法として、買い物調査や調達調査など」は下調べとして参考になる(ただし,同書の「漏れ穴をふさぐ」という方法論は一人歩きすると危険だと思うし,行政と民間を区別する視点に乏しいこと,また「成功事例」の紹介が安易であること等あって,なお検討の余地がある。)。マクロ経済の視点も,そこで自足しない限り,役に立つ。
地方創生への批判
今進められている「地方創生」には批判が多い。この問題は,中央政府と地方政府の「権力構造」,過去の地方政策の失敗等々も絡み,なかなか複雑な問題だ。
「地域再生の失敗学」(著者:飯田泰之他)(Amazon),「地方創生の正体-なぜ地域政策は失敗するのか」(著者:山下祐介,金井利之)(Amazon)等の学者本も読み応えがあるが,「地方創生大全」+「地元経済を創りなおす」の方法で問題を理解して読み進めると,これらの著者らが何をわかっており,何がわかっていないかが,浮かび上がってくるようだ。
詳細目次
地方創生大全
目次
はじめに
第1章 ネタの選び方 「何に取り組むか」を正しく決める
▼ 01 ゆるキャラ ~大の大人が税金でやることか? 地元経済の「改善」に真正面から向き合おう ▼ 02 特産品 ~なぜ「食えたもんじゃない」ものがつくられるのか? 本当に売りたければ最初に「営業」しよう ▼ 03 地域ブランド ~凡庸な地域と商材で挑む無謀 売り時、売り先、売り物を変え続けよう ▼ 04 プレミアム商品券 ~なぜ他地域と「まったく同じこと」をするのか? 「万能より特化」で地方を救おう ▼ 05 ビジネスプランコンペ ~他力本願のアイデアではうまくいかない 成功するためには「すぐに」「自分で」始めよ ▼ 06 官製成功事例 ~全国で模倣される「偽物の成功事例」 「5つのポイント」で本物の成功を見極めよう ▼ 07 潰される成功事例 ~よってたかって成功者を邪魔する構造 成功地域は自らの情報で稼ごう
第2章 モノの使い方 使い倒して「儲け」を生み出す
▼ 01 道の駅 ~地方の「モノ」問題の象徴 民間が「市場」と向き合い、稼ごう ▼ 02 第3セクター ~衰退の引き金になる「活性化の起爆剤」 目標をひとつにし、小さく始めて大きく育てよう ▼ 03 公園 ~「禁止だらけ」が地域を荒廃させる 公園から「エリア」を変えよう ▼ 04 真面目な人 ~モノを活かせない「常識的」な人たち 「過去の常識」は今の”非常識”だと疑おう ▼ 05 オガールプロジェクト~「黒船襲来!」最初は非難続出 「民がつくる公共施設」で税収も地価も高めよう
第3章 ヒトのとらえ方 「量」を補うより「効率」で勝負する
▼ 01 地方消滅 ~「地方は人口減少で消滅する」という幻想 人口増加策より自治体経営を見直そう ▼ 02 人口問題 ~人口は増えても減っても問題視される 変化 に対応可能な仕組みをつくろう ▼ 03 観光 ~地縁と血縁の「横並びルール」が発展を阻害する 観光客数ではなく、観光消費を重視しよう ▼ 04 新幹線 ~「夢の切り札」という甘い幻想 人が来る「理由」をつくり、交通網を活かそう ▼ 05 高齢者移住 ~あまりにも乱暴な「机上の空論」 「だれを呼ぶのか」を明確にしよう
第4章 カネの流れの見方 官民合わせた「地域全体」を黒字化する
▼ 01 補助金 ~衰退の無限ループを生む諸悪の根源 「稼いで投資し続ける」好循環をつくろう ▼ 02 タテマエ計画 ~平気で非現実的な計画を立てる理由 「残酷なまでのリアル」に徹底的にこだわろう ▼ 03 ふるさと納税 ~「翌年は半減する」リスクすらある劇薬 税による安売りをやめ、市場で売ろう ▼ 04 江戸時代の地方創生 ~なぜ200年前にやったことすらできないのか? 江戸の知恵を地方創生と財政再建に活かそう
第5章 組織の活かし方 「個の力」を最大限に高める
▼ 01 撤退戦略 ~絶対必要なものが計画に盛り込まれない理由 未来につながる前向きな「中止・撤退」を語ろう ▼ 02 コンサルタント ~地方を喰いものにする人たち 自分たちで考え、行動する「自前主義」を貫こう ▼ 03 合意形成 ~地方を蝕む「集団意思決定」という呪い 無責任な100人より行動する1人の覚悟を重んじよう ▼ 04 好き嫌い ~合理性を覆す「恨みつらみ」 定量的な議論と柔軟性を重視しよう ▼ 05 伝言ゲーム ~時代遅れすぎる、国と地方のヒエラルキー 分権で情報と実行の流れを変えよう ▼ 06 計画行政 ~なぜ皆が一生懸命なのに衰退が止まらないのか? 誤った目標を捨てよう ▼ 07 アイデア合戦 ~現場を消耗させる「お気楽アイデアマン」 実践と失敗から「本当の知恵」を生み出そう
おわりに