組織・社会。世界

「経済」が分かるとは?

社会を理解するには,「経済」が分かることが第一歩だといわれれば,そのような気がする。でも「経済」がわかるとは,いったいどういうことなのだろうか。

ひとつは,自分が置かれた「経済」に関わる立場に応じて,自分の効用を最大化する行動を立案し,実行できるということだろう(金儲けがうまいといってもいいか?)。またこれらに関わる様々な「思考実験」(「経済学」は単純な仮説に基づく学問だから「思考実験」と呼んでいいだろう。)を理解できることも含まれるだろう。

もうひとつは,わが国あるいは世界の経済活動に関わる要素とその数値を読み解くことができ,その要素,数値に基づく第三者の「思考実験」を理解できるということだろう。

前者がミクロ経済学,後者がマクロ経済学に対応しているといえるだろう。

前者は誰でも絶えず考え,実行しなければならないことだが(そうしないと,干上がる),後者は,自分でどうこうすることではないから,古い情報に基づく感情的な「床屋政談」になりがちである。これを非難する学者,実務家は,数値を頭に入れず,要素間の思考実験に終始し,とんでもないアドバイスをしていることが多いように思える。唯一正しいと思われるのは,我が国の置かれた窮状を抜け出すには,生産性をあげる新しいビジネス,イノベーションを創出することだというミクロ的なアドバイスだろう。でも誰が,どうやって,という話だ。少なくても,政府や日銀ではない。

最新の経済活動の数値を把握する

マクロ経済を把握するには,とにかく最新の経済活動に関わる要素の数値と,過去から現在に至る経緯(歴史)を即座に把握,再現できることが,出発点となる。

重要な数値のひとつは,GDP,物価水準,失業率,貿易額等の経済指標の推移である。

これについてもっとも容易にアクセスできるのは,最近設けられたいわゆる「ダッシュボード」(その説明はここ)である。統計局の「統計ダッシュボード」がそれである(なお我が国における統計の詳細は,政府統計ポータルサイトのe-Statで把握できる)。日経新聞から簡易な「経済指標ダッシュボード」も提供されている。これらを見慣れると,最新の正しい経済状況が把握できる。

現在に至る経緯(歴史)については,その数値を生んだ,社会,政治状況も併せて把握(思い出す)必要がある。これはそれを簡易にまとめている本(例えば,翁邦雄著:「日本銀行」「第5章 バブル期までの金融政策」,「第6章 バブル期以降の金融政策」)を頭に入れるのがよい。「狂乱物価」はもとより,「バブル崩壊」も記憶から遠ざかりつつあるなつかしい話だ。若い人には私が若いころ感じた「日露戦争」と同じ感覚なのだろう。

これらの数値を見たうえで,学者は思考実験をし,政府と日銀は,財政政策,金融政策を立案・実行してきたわけである。私は,財政・金融は,劇的インフレの阻止,そして仮にそれが生じてしまったら,迅速な沈静化への対応さえできれば十分なのではないかと思う。複雑系である経済の動向,内容は,現時点では,人がコントロールできることではない。

昔の夢に酔い,目の前の景気回復を願い,「デフレ」対応をしてきた政府,日銀がもたらした現状は,惨憺たるものだ。その現状を理解するには,国・地方の財政状況と日銀の国債保有・通貨発行の現状を把握する必要があるが,現状では一覧できるようにはなっていない(と思う。)。

そこで,財政と金融の数値を把握しよう。

財政の数値(財務省・総務省)

最新の国の「財政に関する資料」(平成29年度)を見ると,「平成29年度一般会計予算は約97.5兆円ですが、このうち歳出についてみると、国債の元利払いに充てられる費用(国債費)と地方交付税交付金と社会保障関係費で、歳出全体の7割を占めています。一方、歳入のうち税収は約58兆円であり、一般会計予算における歳入のうち、税収でまかなわれているのは約3分の2であり、残りの約3分の1は将来世代の負担となる借金(公債金収入)に依存しています。」,「債務残高の対GDP比を見ると、1990年代後半に財政健全化を着実に進めた主要先進国と比較して、我が国は急速に悪化しており、最悪の水準となっている。」とある。

問題は二つあって,ひとつは「社会保障費」の増大,もうひとつは「債務」の増大であるが,これを考えるためには,国の支出で地方交付税交付金が大きな割合を占めていることからも,地方政府も含めて考える必要がある。そのためには「地方財政の分析」「地方財政白書」を見るのが便利だ。

国・地方を通じた支出は,「平成27年度においては、社会保障関係費が最も大きな割合(33.7%)を占め、以下、公債費(21.3%)、機関費(11.8%)、教育費(11.7%)の順となっている。」。

ところで社会保障費の,医療・介護費と公的年金は,少子高齢化,将来の経済状況の予想から,誰もが指摘するように制度を維持しようとする限り,今後大幅減額幅,大増税しかないようだ(野口悠紀雄著:「日本経済入門」「第8章 膨張を続ける医療・介護費──高齢化社会と社会保障① 医療・介護」,「第9章 公的年金が人口高齢化で維持不可能になる──高齢化社会と社会保障② 公的年金」参照)。

ただ医療・介護費については,今後のIT・AI(ロボット等)の進展と活用で生産性をあげ,支出を減少させることができる可能性もあろう。年金問題は,これも生産性の向上により,生活必要費のダウン(デフレ),及び家族の共同生活で手当てするしかないか。

このような現状から,私は,国・地方の「財政政策」「産業政策」に名を借りた「政策」(ばらまき)だけには,反対することにしよう。

これらを見ていると,仮に私に余剰資金があれば,資金やついでに生活も外国に移転したくなる。ないからここで頑張るしかない。

金融の数値-国・地方の債務残高と日銀の国債保有高(財務省,総務省,日銀)

まず読者プレゼント.pdf 国と地方の債務残高を見よう。。いまや,GDP(約550兆円)の2倍になっている。

このうち,国債の発行残高は,平成29年度末で約865兆円の予想で,日銀の保有国債は,約409兆円だ。

これらを踏まえて次に出てくる話は,日銀の国債引き受け,当面,日銀が保有する国債は償還しないという話であろう。それでどうなるか。考えるのもおぞましい。

ついでに地方政府の発行した公債が約200兆円あるが,手の打ちようがなくなるのではないか。

私がマクロ経済について本当に知りたいことー貨幣とは何かー

私は,マクロ経済について,中央銀行は,どういうメカニズムで,銀行券を発行し,それが流通するのかを知りたかった。「MONEY」(チャールズ・ウィーラン)にある「ニューヨーク連邦準備銀行には窓のない部屋があって、トレーダーたちがそこで電子マネーを文字通り創造して、数10億ドルの金融資産を買いつけた。2008年1月から2014年1月までの間に、FRBはおよそ3兆ドルの新しいお金を米国経済に供給している。FRBの指示のもと、トレーダーがそれまで存在しなかったお金でさまざまな民間金融機関の持つ債券を購入して、電子資金をその企業の口座に移動させて証券の支払いをする。新しいお金。数秒前までは存在しなかったお金だ。カチッ。ニューヨーク連邦準備銀行でコンピュータの前に座っている男が10億ドルを創造して、シティバンクから資産を買うのにあてる音だ。カチッ、カチッ。これでさらに20億ドル」,「中央銀行は一般に,新たにお金を創造する力を合法的に独占している。使を印刷するのではなく電子的にだが」というのはどういうことか。

そこからはじまって「21世紀の貨幣論」,上述の「日本銀行」「金利と経済」等々を入手して目を通し始め,この問題はボヤっとだが理解できたような気がする。もう少し詰めたいが,その過程で,改めて本稿で紹介した経済活動に関わる要素とその数値を目の前において読み解くことの重要性に思いが至った。貨幣論は,持ち越すことにしよう。

あれこれふくめて,複雑系の典型である「経済」は,算数に毛が生えたようなマクロ経済学では解明できないというのが正解のような気がする。

組織・社会。世界

遅ればせながら社会と向き合う

私はある時期から政治や社会の問題に積極的には関わることをやめ,弁護士として,法によって縛られるのはもっぱら国家(立法,行政,司法)だという限りで,政治や社会の問題と関わればよいと考えてきた。政治や社会の方向付けについては,自信満々の多くの政治家,官僚,企業家,実務家,学者等々が,世界中にいたから。

そのときからずいぶん時間がたったが,どうも社会主義国の崩壊,生産性の向上,科学技術の進歩等々に関わらず,世界中の政治,経済,社会は,至る所でアップアップしており,暴力的衝突は絶えないし,貧富の格差も解消されない。これについて,誰かをつかまえて,「お前のせいだ」だけでは済まないようだ。

そういう中で私も「法とAI」の世界からもう一歩外に出て,遅ればせながら社会に向き合い,その問題解決と価値創造の一端を担いたいと思うようになった。そこでさびついた私の政治・経済・社会観を更新すべく,社会に向き合う最新の方法・ツールを探すことにした。

年末,年始に集めた本,読んだ本

このように考えて,年末,年始に,社会に向き合う方法・ツール足り得ると思われる本を集め,読み始めてみた。Kindle本を中心に,集めやすい本を集めただけで,網羅的ではない。過去集めた本について本棚をひっくり返すことはしなかったが,Kindle本で重要だとして触れられているような本は,引っ張り出した(事務所移転時に何千冊も処分(寄付)したので,見当たらないものも多い。読み始めたと言っても,あっちにフラフラ,こっちにフラフラの,ランダムウオークでの一瞥という方が正しい。

私の目的は,自分の何らかの動きにより社会がより良い方向に動くことは可能なのか,可能とすればその方法・ツールは何かを探すことだ。

社会を理解する方法・ツールのポイント

まず,人間や社会を考える上で,生命の誕生と進化,進化の結果として人間が進化論的には合理的なシステム1(ファスト思考)と,論理的・合理的なシステム2(スロー思考)せ獲得,使用していること,かかる人間が相互に複雑なネットワークを形成しその総体として社会を形成していること,が基本である。

そしてその社会において世界には数多くの統治組織が分立し,権力を背景にルールと貨幣を用いて,生産される価値を交換,分配,消費するというメカニズムが行なわれているが,可能であればそのシステムと複雑系ネットワークの関係を理解したい。

進化論,複雑系科学が出発点となること,人間相互の関係は,行動ゲーム理論で解明できそうなこと,人間相互の関係は自己組織化される複雑系ネットワークであることまではいいとして,そこから,後段のシステムの理解につながるだろうか。アベノミクスやヘリコプターマネーというマクロの経済政策が導き出せるだろうか。たぶんできないだろう。

ではどう考えたらいいのか。

ダンカン・ワッツの「偶然の科学」における指摘

スモールワールド理論の端緒を開いたダンカン・ワッツは,人間のありようがスモールワールドの複雑系ネットワークであることに関して「偶然の科学」で次のように指摘している。

「思慮深い人物なら、われわれがみな家族や友人の意見から影響を受けていることや、状況が重要であることや、万事が関係していることは内省するだけで理解できる。そういう人物なら、社会科学の助けを借りずとも、認識が重要であることや、人々が金ばかりを気にかけるのではないことも知っている。同じように、少し内省すれば、成功が少なくとも部分的には運の産物であることや、予言が自己成就予言になりがちなことや、よく練られた計画も意図せざる成り行きという法則に苦しめられやすいことも見当がつく。思慮深い人物なら、未来が予測不能で、過去の実績は未来の利益を保証しないことももちろん知っている。人開か偏見を持っていてときには理性を失うことや、政治システムが非効率や矛盾に満ちていることや、情報操作がときとして実態を葬ることや、単純な物語が複雑な真実を覆い隠しがちであることも知っている。すべての人開かほかの人間とわずか「六次の隔たり」でつながっていることも知っているかもしれない。少なくとも何度も聞いているうちにそう信じているかもしれない。つまり、こと人間の行動に関するかぎり、思慮深い人間にとっては自明に思えるもの以外で、社会科学煮が発見できそうなものというのは、たとえそれが見つけがたいものであっても、現実には想像しにくい。しかしながら、自明でないのは、こうした「自明の」事柄がどう組み合わさっているかである。」

私は,できるだけ「思慮深い人物」として,ここに掲げられていることが自明に思える地点に立ちたい。そして,それらがどう組み合わさって社会のメカニズムにつながっているかは,結局,わからないというのが正しく,そういう場面(要するにマクロの政治,経済政策だ。)に口角泡を飛ばす暇があれば,少しでも現場で「組み合わせ」の実践を重ね,中距離での,問題解決や,価値創造につなげたい(ワッツが同書で力説しているのも「多分」そういうことだろう。)。そういう場面では,ゲーム理論,ミクロ経済学,行動経済学,行動ゲーム理論がとても役に立つだろう。そしてそれを支えるのは,コンピューターサイエンス,AI,データ処理(因果推論)であろう。大分頭がすっきりした。

ところで,私はある日Kindleで,「現実に役立つかどうかは、経済学を評価する重要な基準ではない。超一流のゲーム理論が教える、ほんものの洞察力。優れたモデルは、感性を豊かにする。社会を見る眼を深く鍛える本。著者の人生にひきつけながら、ゲーム理論、交渉、合理性、ナッシュ均衡、解概念、経済実験、学際研究、経済政策、富、協調の原理などの基礎概念が語られる」という触れ込みの,「ルービンシュタイン ゲーム理論の力」を,うっかりクリクしてしまった。内容が触れ込みにふさわしいかどうかはわからないが,今思えば,大事な観点のような気がする。

私が年末,年始に集めた本をまとめておこう。このぐらいあると,本当に読みでがあるし,使いでがある,というより,一巡するだけで大変だ。

社会を理解する方法・ツールとなると思う本

進化・遺伝

ゲノムが語る人類全史 アダム・ラザフォード

進化は万能である マッド・リドレー

ファスト&スロー ダニエル・カーネマン

複雑系科学総論

歴史は「べき乗則」で動く――種の絶滅から戦争までを読み解く複雑系科学  マーク・ブキャナン

人は原子、世界は物理法則で動く―社会物理学で読み解く人間行動 マーク・ブキャナン

市場は物理法則で動く―経済学は物理学によってどう生まれ変わるのか? マーク・ブキャナン

偶然の科学 ダンカン・ワッツ

COMPLEXITY: A Guided Tour  Melanie Mitchell

スモールワールド・ネットワーク

複雑な世界、単純な法則 ネットワーク科学の最前線 マーク・ブキャナン

スモールワールド・ネットワーク ダンカン・ワッツ

つながり 社会的ネットワークの驚くべき力 ニコラス・A・クリスタキス

経済は「予想外のつながり」で動く ポール・オームロッド

マンガでわかる複雑ネットワーク 今野紀雄

ゲームの理論

ゲーム理論の思考法 川西 諭

戦略的思考とは何か  エール大学式「ゲーム理論」の発想法 アビナッシュ・ディキシット

戦略的思考をどう実践するか エール大学式「ゲーム理論」の活用法 アビナッシュ・ディキシット

はじめてのゲーム理論 川越 敏司

行動ゲーム理論入門 川越 敏司

ゲーム理論による社会科学の統合 ハーバート・ギンタス

ミクロ経済学

ミクロ経済学入門の入門 坂井 豊貴

ミクロ経済学 戦略的アプローチ 梶井厚志

ミクロ経済学の力 神取 道宏

実験ミクロ経済学 川越 敏司

マクロ経済学

マクロ経済学の核心 飯田 泰之

ヘリコプターマネー 井上智洋

MONEY チャールズ・ウィーラン

ゼロから学ぶ経済政策 日本を幸福にする経済政策のつくり方 飯田 泰之

実験マクロ経済学 川越 敏司

行動経済学

実践 行動経済学 リチャード・セイラー

愛と怒りの行動経済学 エヤル・ヴィンター

ずる 嘘とごまかしの行動経済学 ダン・アエリー

社会・政治・法

モラルの起源―実験社会科学からの問い 亀田 達也

大人のための社会科–未来を語るために 井手 英策

21世紀の貨幣論 フェリックス・マーティン

経済史から考える 発展と停滞の論理 岡崎 哲二

負債論 デヴィッド・グレーバー

ソーシャル物理学 アレックス・ペントランド

スティグリッツのラーニング・ソサイエティ スティグリッツ

政治学の第一歩 砂原庸介

シンプルな政府:“規制"をいかにデザインするか キャス・サンスティーン

避けられたかもしれない戦争―21世紀の紛争と平和 ジャン=マリー・ゲーノ

ビジネスパーソンのための法律を変える教科書 別所直哉

法と経済学 スティーブン・シャベル

方法論

創造の方法学 高根 正昭

「原因と結果」の経済学―データから真実を見抜く思考法 中室 牧子

原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ 久米郁男

データ分析の力 因果関係に迫る思考法 伊藤 公一朗

計量経済学の第一歩 実証分析のススメ 田中隆一

法と社会科学をつなぐ 飯田 高

社会科学の考え方―認識論、リサーチ・デザイン、手法―野村康

 

法とルール

人工知能が法務を変える?

2017年11月29日(水)、日弁連法務研究財団と、第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会共催の、標記のシンポジウムを聞いた。

登壇して話をしたのは、マイクロソフトのエンジニア、日本カタリスト及びレクシスネクシス・ジャパンのそれぞれ外国人弁護士、日本人弁護士2名の、計5名である。

「AIと法」に関わる新しい話が聞けてそれなりに面白かったが、登壇者の誰も「人工知能が法務を変える?」ということをまともに考えている訳ではなく、ふらふらと「題名」につられて顔を出した人には拍子抜けだったかもしれない。ざっと内容を概観する(なお当日用いられた資料が法務研究財団のWebにアップされていたが、2021年3月の時点ではそこにはないようだ。)。

マイクロソフトのエンジニアの人

現時点でのAiとは何かということを、地に足のついた議論として紹介してくれた。現にAIビジネスを魚化している人の話は、信頼できる。

ビジネス分野でAIが理解できている人は10人に1人だ。

画像や音声の分野はどんどん進むが、自然言語の意味の処理はむつかしい。ただし検索ということでいえば、先日公開されたアメリカのJFKの資料をデジタル化し、あっという間に処理、分析した。「犯人」とFBIのある人物との「関係」が浮かびあがった。人が見ていくと何年かかっても処理できない膨大な量だ。

AIというより機械学習という捉え方の方がわかりやすい。

日本カタリストの人

AIを利用したドキュメントレビューの紹介である。

アメリカの電子情報開示制度の下で、開示の対象となる電子情報(メール、チャット、LINE、FACEBOOK、電子ファイル、会計データ、Web等々)についてのドキュメントレビュー(関連あり・なし、秘匿特権あり・なし)が、AIシステムを利用して行われている。これによって大幅な弁護士費用の削減が可能だ。

まず、関連性あり・なしのレビューをする。AIシステムが、文書全体を関連する文書にグループ化し、そのサンプルを取り出し、レビューワーが、レビューすることで、グループ文書の関連性あり・なしのランク付けができる。

また関連性がある文書について、秘匿特権のレビューをし、提出する、しないを決定する。

これはアメリカでは現に利用されており、法廷におけるTAR(technology assisted review)の利用として連邦民事規則にも取り入れられている(のだと思う)。

日本の法廷でこういう形の立証が取り入れられるかどうかは疑問だが、例えば、今、証拠にするため電子メールを検討すると、返信が様々な送信メールになされているので送受信の全体の流れを把握するのがとても大変だ。それだけでも、工夫が欲しいところだ。でもそれはAIか?

レクシスネクシス・ジャパンの人

レクシスネクシス・ジャパンのトルコ人弁護士は、リーガルテックという観点から弁護士業について検討したる。その内容は、以下のとおりだが、きわめて刺激敵だ。

AI/Legal Techの現在の環境

リーガルリサーチ&情報収集

法改正及びインパクトへ対応

コンプライアンスリスク監視

 e Discovery

顧客ニーズ分析を含む業務支援

自動紛争解決(ODR)

資料/契約文書のレビュー

3分間でドラフティング

リーガルテックの成長

2012年リーガルテックに関する特許出題数:2012年99件から2016年579件に大幅増加 38% アメリカ 34% 中国 15% 韓国

法律家への影響

顧客開拓

ニッチ・専門分野へのニーズに対応

Data driven lawyerになり、best lawyerとなる

ネイティブ弁護士と競争

ビジョンを持つ信頼できるアドバイザーになる

真の付加価値を提供する

値段競争に陥らないサービス差別化

ワークライフバランス

レクシスネクシスの取り組み

検索、分析、可視化

その後、レクシスネクシスの「判例検索に加え、法令や立法、行政情報といった、リーガル情報を一元的に収録」したデータベース「Lexis Advance」のデモがあった。アメリカは、州ごとに法が違うこと、陪審があること等から、リーガルリサーチ&情報収集は徹底する必要があるから、これは有益だろう。日本ではまず情報がでてこないし、そもそもこのようなシステムを構築・提供するような市場もないというのが現実だろう。

我々は、当面。各種の判例検索、その他のデータベースを有効活用するしかない。

日本の弁護士ふたり

日本の弁護士ふたりは、これから「AIと法」に取り組みたいというところだろうか。

高橋弁護士は、「チャットボット」を作ってみたことの紹介である。すぐに「ボットの理解を超える」、人間は5回の入力で飽きることの報告は貴重だ。オタクレベルだが、AIを切り開くのはオタクである。

齋藤弁護士は、まだ見ぬAI法務の紹介である。講演に備えて十分な準備をされたのだろうが、その問題はどこにあるのと思ってしまう。この種の議論をする弁護士は多いが、私は他にすることがあるのではと思う。ただアメリカでの利用の報告は貴重である。

今後

いずれにせよこの時点で、このシンポジウムを試みたことは、高く評価されるべきだ。今後とも、このような企画があれば参加しよう。