法とルール

グサリとくる問い

「弁護士は法律の本は余り読まないのですか?」と聞かれたとしよう。多分、答えは、YESに近い。

弁護士の仕事を大きく分ければ、裁判所における主張と立証(裁判)と、その他の場面での法律に関わる問題についての「意見」表明になるだろう。

これらの前提として、問題となっている法律に関する情報を調べるのは当然で、法律の本にも目を通す。でもそれは「本を読む」作業とは少し違う。もう少し、断片的だ。

「でも司法試験に受かるためにはたくさんの本を読まなければならないと聞いていますよ?」。それは民法や刑事訴訟法等々という各法分野の教科書や参考書を熟読してその法律の仕組みや機能を理解し頭に定着させるためで、その法律の概要や問題の所在、解釈に必要な思考法が頭に入って無事実務家になれば、あとは「調べる」ことがあるぐらいというのが実際であろう。

ただ、「各法分野の教科書や参考書を熟読してその法律の仕組みや機能を理解する」というのが相当に苦痛でしんどい作業なので、本ばかり読んでいるというイメージを持たれてしまうのだろう。もっとも最近は、実際問題として法律の抜本的な改正(会社法や金融商品取引法がそうなるだろうか。民法債権法の改正も行われた。)や、新しい法律の制定(個人情報保護法等々)があるので(ここに挙げたのは、後述する観点からは、「悪法」の最たるものである。)、弁護士もこれらの法律を頭に入れるのが苦痛になっているという面もある。でもそれができないとその法分野については素人と同じだ。

ところで法律実務家でない「行政」畑の人は、法律を扱っていても(立法していても)、何かピントが合っていないことがあるのは、このような過程を経ていない人が多いからだろうと思う。もっとも、弁護士は行政の細かい仕組みを知らないまま大風呂敷を広げる傾向があるから優劣はつけがたいかも知れないが(これは冗談だといっておこう。)。

では藤沢周平を読んでいればいいのか

それは違うだろうというのが私の今の考えである。

まず、法律は、国家組織を構成する政治家や役人が「立法者」という立場で、「国民」を言語でコントロールしようとする手段だから、何よりも「国民」がこれを理解してその行動を規律出来るだけのわかりやすさと実質的な合理性を備えていなければならない(いるべきである。)。現時のわが国の法律の大半は、根本的にかかる資質に欠けている。したがって法律実務家は、この点を意識して、わが国の法律の解読とその改革を目指さなければならないだろう。

さらに遡れば、人と人、集団と集団(含む「国家」)の間の、行動(取引、交換)を円滑に進める手段の一つとして「法」というルールがあるとして、現時のグローバル社会の展開の中でアメリカ法(英語文書)を基本とする「法の支配」が世界の規律としてふさわしいのかという根本的な問題がある。実際に「法」がある種の役割を果たしている分野において、世界標準=アメリカ法という現実に対する批判を進めるために読むべき本は多いねという実践的な問題と、そもそも「法」の果たすべき役割を進化生物学に基づいて検討すべきであるという「哲学的」な問題と二つの問題がある。

2、3の予定

このような観点から、「<日本の立法>批判序説と」を書いてから2年が経ってしまったが、とりあえず、「哲学的」な問題を除いて次のような本が読むべき視野に入っている。

  • 「開発法学の基礎理論 よい統治のための法律学」(松尾弘:勁草書房)。これはやはり重要だ。
  • 「法理学講義」(田中成明:有斐閣)。従前の法哲学も頭に入れる必要がある。
  • 「はじめてのアメリカ法」(樋口範雄:有斐閣)。この人はまともなことを考えているなという安心感がある。

ここのリストはおって充実させていこう。なおこれについては「法を問題解決と創造に活かす」で検討を始めている(18/07/12)。

法とルール

会社設立と定款作成

弁護士が会社設立の手続をするときは、当然、定款も作成することになる。会社設立時の定款作成、会社設立登記、その他若干の問題についてまとめておく。

会社定款モデル案

会社定款を作成するとき、基本とするのは、日本公証人連合会のWebサイトに掲載されている「定款記載例」だ。

①「小規模会社(非公開、取締役1名、監査役・会計参与非設置)」

②「小規模会社(非公開、取締役1名以上、取締役会非設置、監査役非設置会社」

③「中規模会社(非公開、取締役3名以上、取締役会設置会社、監査役設置会社)」

④「大会社(公開会社、取締役会設置、会計監査人設置、委員会設置会社)」

の4例が出ている。最初から④を設立することは余りないだろうが、設立する会社を①~③のどのタイプにするかは、その会社がどの程度の仕事をし、どのように運営されるかを、よく考えてから決めた方がいい。③より②を選択すべき場合も多い。

会社の設立

会社の設立手続の種類

発起設立と募集設立。通常は、発起設立の方法による。

事前準備

  • 定款案の作成(発起人の実印押印)+発起人の印鑑証明書+委任状(発起人の実印押印)
  • 代理人が公証役場へ出頭(代理人は、「発起人本人がその記名押印を自認している旨、陳述」する。)
  • 会社代表者印等の作成
  • 出資金振込のための発起人の個人口座の準備
  • 出資金の振り込みが先行しても、フォロー可

会社設立の際の費用について

  • 公証役場の費用は9万円強(定款の認証費用…5万円、印紙…4万円、定款謄本作成費用…約2千円)
  • 法務局に納付する登録免許税は、出資金の1000分の7(最低15万円以上)
  • 会社代表者印等の作成費用
  • 代理人の手続費用

会社設立登記の若干の問題

  • 法人登記については、法務省に書集式がある。
  • 登記の事由は、「発起設立の終了」、登記すべき事項は「別添CD-R」のとおりとする。
  • 定款で取締役、監査役を定めたときは、就任承諾書。代表取締役を選任するときは選任決議書と就任承諾書。定款に定めがない場合は、発起人による取締役、監査役の選任決議書。
  • 取締役がひとりの場合でも、登記にあたっては「取締役」、「代表取締役」両方を記載し、登記申請も代表取締役で行う(会社法349条1項)。
  • 添付書類は、定款、代表取締役の印鑑証明書、払込みがあったことを証する書面+発起人決定書、就任承諾書である。
  • 資本金の額が会社法及び会社法計算規則の規定にしたがって計上されたことを証する書面(資本金の額の計上に関する証明書)を作成する。

定款作成で注意すべきこと

  • 英文表記は、Co.,ltd.が普通だろうが、Co.Ltd.でいいのではないか。最後のピリオドの不要節もある(Limitedの最後のdで終わっているので)。
  • 会社の目的は登記官の審査の対象にならないが、営利性、明確性、適法性が必要とされる。完全子会社を有するときは子会社の目的も含まれなくてはならないとされる。
  • 発行可能株式総数につき、公開会社では、設立時発行株式総数の4倍を超えてはならない。公開会社でなければOK.
  • 株券は原則不発行であるが(会社法214条)、しっかりしたビジネスをするのであれば、発行しておいた方がいいのではないか。
  • 株主総会の招集の通知について、会社法299条参照。
  • 取締役会の招集の通知について、会社法368条。短縮を考える。
  • 取締役会の決議の省略については、会社法37条参照。
  • 監査役会を設置するのは相当大規模な会社である。

参考文献

私が主として参照するのは、「会社法実務解説」、「商業登記書式精義」、「会社設立の登記マニュアル (新商業登記シリーズ)」、「新会社法の定款モデル―定款作成・変更の記載実務」、「「会社設立」書式ハンドブック―一人でできる会社設立!」、「ダンゼン得する 個人事業者のための会社のつくり方がよくわかる本」である。

法とルール

企業法務バイブル 第2版

posted with amazlet at 15.01.13
畑中 鐵丸
弘文堂
売り上げランキング: 97,594

一口コメント

企業法務で何が問題となっているか、概要を把握するのに最適だろう。すべての分野を「フェーズ0~4+特殊な課題・新たな課題」で分析する方法は、少しくどい気がするが、著者の頭の整理にはこれが不可欠なのだろう。

2013年12月に第2版が出ているが、次の詳細目次は初版のものである。追って改訂する。

詳細目次