IT・AI・DX

この投稿記事は、「弁護士業務案内」、「AIと法」の固定記事として作成したものです。内容は逐次改定しますので、最新の内容は、こちらを見てください。

AIに期待すること

「私は、現時点で、(少なくても我が国の)法律家がする業務には大きな二つの問題があると考えている。ひとつは、法律が自然言語によるルール設定であることから、①文脈依存性が強く適用範囲(解釈)が不明確なことや、②適用範囲(解釈)についての法的推論について、これまでほとんど科学的な検討がなされてこなかったこと。ふたつめは、証拠から合理的に事実を推論する事実認定においても、ベイズ確率や統等計の科学的手法がとられていなかったことである。」と指摘し、これを変える「方向性を支えるのがIT・AIだとは思うが、まだ具体的なテクノロジーというより、IT・AIで用いられる論理、言語、数学(統計)を検討する段階にとどまっているようだ。前に行こう。」と書いた(「プロフェッショナルの未来」を読む。)。「そしてこれが実現できれば、「法律の「本来的性質」が命令であろうと合意であろうと、また「国家」(立法、行政、司法)がどのような振舞いをしようと、上記の観点からクリアな分析をして適切に対応できれば、依頼者の役に立つ「専門知識」の提供ができると思う。」」とも考えている。

イギリスでの議論

「プロフェッショナルの未来」の著者:リチャード・サスカインドには、「Tomorrow’s Lawyers: An Introduction to Your Future 」(by Richard Susskind)があり、これは、上述書の対象を法曹に絞り、さらに詳細に論じているようだ。

これに関連するKindle本を検索していて関連図書として「Artificial Intelligence and Legal Analytics: New Tools for Law Practice in the Digital Age」(by Kevin D. Ashley)を見つけた。でたばかりの新しい本である。そしてその中に(1.5)、内容の紹介として次のような記述があった。なお二人ともイギリスの人である。

Readers will find answers to those questions(How can text analytic tools and techniques extract the semantic information necessary for AR and how can that information be applied to achieve cognitive computing?) in the three parts of this book.

Part Ⅰ introduces more CMLRs developed in the AI&Law field. lt illustrates research programs that model various legal processes:reasoning with legal statutes and with legal cases,predicting outcomes of legal disputes,integrating reasoning with legal rules cases,and underlying values,and making legal arguments.These CMLRs did not deal directly with legal texts,but text analytics could change that in the near future.

Part Ⅱ examines recently developed techniques for extracting conceptual information automatically from legal texts. It explains selected tools for processing some aspects of the semantics or meanings of legal texts,induding: representing legal concepts in ontologies and type systems,helping legal information retrieval systems take meanings into account,applying ML to legal texts,and extracting semantic information automatically from statutes and legal decisions.

Part Ⅲ explores how the new text processing tools can connect the CMLRs,and their techniques for representing legal knowledge,directly to legal texts and create a new generation of legal applications. lt presents means for achieving more robust conceptual legal information retrieval that takes into account argument-related information extracted from legal texts. These techniques whihe enable some of the CMLRs Part Ⅰ to deal directly with legal digital document technologies and to reason directly from legal texts in order to assist humans in predicting and justifying legal outcomes.

Taken together, the three parts of this book are effectively a handbook on the science of integrating the AI&Law domain’s top-down focus on representing and using semantic legal knowledge and the bottom-up,data-driven and often domainagnostic evolution of computer technology and IT.

 

このように紹介されたこの本の内容と、私が「AIに期待すること」がどこまで重なっているのか、しばらく、この本を読み込んでみようと思う。

AIに期待しないこと

実をいうと、「人工知能が法務を変える?」という質問に答えれば、今後、我が国の法律実務の現状を踏まえ、これに対応するために画期的なAI技法が開発される可能性はほとんどないだろう。我が国の法律ビジネスの市場は狭いし、そもそも世界の中で日本語の市場は狭い。開発のインセンティブもないし、開発主体も存在しない。ただ、英語圏で画期的な自然言語処理、事実推論についての技法が開発されることがあれば、それはまさに私が上記したような、法律分野におけるクリアな分析と対応に応用できるのではないかと夢想している。

したがって当面我が国の弁護士がなすべきことは、AIに期待し、怯えることではなく、「仕事に役立つIT技法」の習得、すなわち業務の生産性と効率性に力を注ぐことではないだろうか。それをしないと、弁護士の仕事をAIに奪われるのではなく、他の国際レベルで不採算の業種もろとも自壊していくのではないかと、私には危惧されるのである。

今後、「AIと法」について、新しい情報、新しい考え方を集積していきたい。

 

 

法とルール

IT・AIの法律書

IT・AI関係の法律書のうち、法律相談形式のもの、及び関係する事項について体系的に触れているもののうち、私の手許にあるものについて、その詳細目次を掲載しておきます。皆さんが直面している問題が、どういう位置づけになるのかを理解する参考にしていただければと思います。当該書を入手して更に理解を深めるか、理解、解決が難しそうなら私に相談していただくこともお勧めします。

「インターネット新時代の法律実務Q&A<第3版>」、「IoT・AIの法律と戦略」、「法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典」(作成中)、「裁判例から考えるシステム開発紛争の法律実務」(作成中)を紹介します。

本の森

著者:ドナルド・サル他

切り口に違和感の多い本である

少し前になるが「SIMPLE RULES:How to Thrive in a Complex World」というKindle本を見つけ、ルールの一種としての法を考える際に参考になるのではと思い買っておいた。最近、翻訳のKindle本が出てのを見つけ、目を通してみた。

著者2人(サルの他は、キャスリーン・アイゼンハート)の経歴を見ると実務経験もあるとても優秀な「研究者」のようであるが、私にはこの本の切り口には違和感が多い。

ただ大事なのは、著者らが挙げる6つの「シンプルなルール」の有効性であって、これが機能するのであれば、私の違和感などどうでもいい。

といいながら、違和感を簡単に書いておこう。

ひとつは、著者らも「複雑なルール」が妥当する場面があることを認めているが、それが単なる例示に終わっていて、どこが違うからそのような事態が生じるかの考察がない。これは読む人を不安に陥れる。

ふたつめは、様々な事例を挙げ、「シンプルなルール」でうまくいったというのだが、うまくいった原因が「シンプルなルール」にあるのか、その他の原因は考えられないのかについて、まったく検討がない。これは非科学的な態度である。イエズス会はそうかなあ。

6つの「シンプルなルール」の紹介

最初の3つは「決断する」ためのルール、あとの3つは「物事をうまく進める」ためのルール設定と説明されている。

「境界線ルール」…「考慮する」か、「排除するか」の二者択一

「優先順位ルール」…少ない資源を最大化する

「停止ルール」…引き際を決めておく

「ハウツー・ルール」…どのように、あるいは、どうしたら

「コーディネーション・ルール」…協調

「タイミング・ルール」…いつ

こう書けばうまくいくに決まっているといいたくなるが、そうでもないだろう。

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