社会と世界

もう少し整理しよう

経済指標について,先行する記事として「「経済」は分からないー経済指標にアクセスするー」,「経済指標を理解する」を掲載したが,これらはいわば食材の野菜を買ってきて並べたただけで,まだ調理する段階には至っていない(ましてや食事する段階には遠い。)。もう少し整理してみよう。

問題は,国民経済計算(SNA)及びこれに係わる経済指標の基礎・概要を理解すること,及びこれを一応の前提にして展開されるマクロ経済学の入口に立つことである。

国民経済計算(SNA)の基礎・概要

「国民経済計算は「四半期別GDP速報」(QE)と「国民経済計算年次推計」の2つからなっている。「四半期別GDP速報」は速報性を重視し,GDPをはじめとする支出側系列等が,年に8回四半期別に作成・公表されている。「国民経済計算年次推計」は,生産・分配・支出・資本蓄積といったフロー面や,資産・負債といったストック面も含めて,年に1回作成・公表されている」というのが,大まかな国の説明だ。

これについては,各省庁のWebサイトを追う前に,SNAを説明した概説書に目を通した方がよい。

「新版NLASマクロ経済学」(著者:斎藤誠他)の「第Ⅰ部 マクロ経済の計測」の「第2章 国民経済計算の考え方・使い方」,「第3章 資金循環表と国際収支統計の作り方・見方」は,基本的なことから書かれていて参考になる。産業連関表,国際収支統計,資金循環統計を含めてGDP統計を位置づけており,これだけでもマクロ経済学の教科書の記載の曖昧さ,不愉快さが半減する。

また「経済指標を理解する」で,紹介した「経済指標を見るための基礎知識」(以下「基礎知識」という。これは,「08SNA」が日本の国民経済計算(JSNA)に盛り込まれる以前の時点で書かれたものではあるが,「08SNA」にも触れられているので,さほど問題はないと思う。)は,細かいところまで書かれていて,とても参考になる。特にQE(四半期別GDP速報)と確報(年次推計)の実務的な関係がよく理解できる(なお従来,確報,確々報と呼んでいたものを,それぞれ第一次年次推計,第二次年次推計とし,新たに第三次年次推計を加えたとのことである(「国民経済計算(GDP統計)に関するQ&A」14頁))。)

「新版NLASマクロ経済学」からピックアップ

「マクロ経済の物の循環に関する基本的な情報となる産業連関表(国民経済計算の作成は,産業連関表と呼ばれる一国経済の1年間の生産構造に関する情報をまとめた表が出発点となる。)は,総務省統計局を中心として,11府省庁か作成に関わっている。国内の資金循環については,日本銀行か作成している資金循環表が基本的な情報となる。また,日本と諸外国との間における「物と資金の循環」については,財務省と日本銀行が共同して作成している「国際収支統計」によって把握することができる。」。

産業連関表

これらの統計の関係について,総務省の産業連関表の頁にある「2 国民経済計算体系における産業連関表」には,「国民経済計算体系(SNA)とは,一国の経済の生産,消費,投資というフロー面の実態や,資産,負債というストックの実態を,実物面及び金融面から体系的,統一的に記録するための包括的かつ詳細な仕組みを提示したものである。すなわち,経済活動を「取引」,取引への参加者を「取引主体」と規定し,それぞれ商品別,目的別又は経済活動別,制度部門別等の観点から分類し,その概念を統一することにより,それまで独立的に作成されていた①産業連関表,②国民所得統計,③資金循環表,④国際収支表,⑤国民貸借対照表の五つの勘定表を相互に関連付け,その体系化を図ろうとしたものである。行列の形を用いて第4表のように表されている。」とある。

また「産業連関表の構造と見方」の第2図,第5図で,「粗付加価値合計=最終需要額合計-輸入額合計」という,二面等価の関係がわかる。これは,国民経済計算の国内総生産(GDP)(生産側)と,国内総生産(支出側)に「ほぼ」対応するとされる。「ほぼ」の理由は,上記に書かれている。

資金循環統計

資金循環統計について,日銀のWebサイトのQ&Aで,「資金循環統計と国民経済計算,あるいは国際収支統計との関係を教えてください」という問いに対し,(少し引用が長くなるが)「国民経済計算と資金循環統計…国民経済計算は,一国の経済活動を,(1)付加価値が生産される過程,(2)これが経済主体に分配・消費される過程,(3)消費されなかった部分が貯蓄として資本蓄積に回される過程に分解し,それぞれのフローの動きを,生産勘定,所得支出勘定,資本調達勘定という形で記録します。また,(4)期末時点の実物資産と金融資産のストックを期末貸借対照表として計上するとともに,(5)時価変動などによるストックの再評価や,その他の資産量変動を記録する調整勘定も設けています。資金循環統計の金融取引表,金融資産・負債残高表,調整表は,それぞれ国民経済計算における資本調達勘定のうちの金融勘定,期末貸借対照表,調整勘定にほぼ対応します。また,両統計の指標のうち,国民経済計算の資本調達勘定における「純貸出(+)/純借入(−)」が,資金循環統計の金融取引表の「資金過不足」に概念上一致するという関係にあります。このように,資金循環統計は,概念上,一国全体の経済活動を表すマクロ統計の体系(国民経済計算体系)の一部を構成しており,また,これらの計数作成のための基礎データとしても活用されています。なお,国民経済計算と資金循環統計では,取引項目,評価方法,勘定体系について若干の相違があります。」,「国際収支統計と資金循環統計…国際収支統計は,一定期間における一国のあらゆる対外経済取引を体系的に記録した統計です。概念的には,資金循環統計と同じく,一国全体の経済活動を表すマクロ統計の体系(国民経済計算体系)の一部を構成し,国際標準(国際収支マニュアル第6版)に沿って作成されています。資金循環統計では,海外部門を「国際収支統計における非居住者」と定義しています。このため,海外部門の資金過不足を「国際収支統計」における「経常収支」と「資本移転等収支」の合計額に,また,海外部門の金融資産・負債差額を,同じく「対外資産負債残高統計」における「純資産残高」から,資金循環統計における「うち金・SDR等」中の貨幣用金などを調整した金額に,それぞれ一致させています(国際収支統計が「わが国」の対外債権債務という視点から見るのに対して,資金循環統計では,「海外部門」の対内債権債務という視点から捉えることから,いずれかの資産(負債)は他方の負債(資産)となります)。この調整のうち,「うち金・SDR等」中の貨幣用金を控除するのは,同項目が国内の中央銀行,中央政府の資産として計上される一方,対応する負債が存在しないためです。なお,国際収支統計と資金循環統計の間には,部門分類,取引項目,勘定体系に若干の相違があります。上記のほかにも,資金循環統計では,国際収支統計や対外資産負債残高統計を基礎データとして利用しています。」と説明されている。

国際収支統計

国際収支統計については,日銀の「国際収支統計(IMF国際収支マニュアル第6版ベース)」の解説」に記載されている。国際収支統計と国民経済計算の関係については,「国民経済計算推計手法解説書」の「第6章 海外勘定の推計」に記載があるが,特段の問題はないと思う。ただここは,「貿易赤字とは何か」という「古典的な問題」がからんでいるところで,みんな熱くなる。国際収支の構成は下記のとおりだが,問題はこれが会計原則に従って記載されているということだ。

  • 経常収支
    • 貿易サービス収支
      • 貿易収支(財輸出-財輸入)
      • サービス収支
    • 第一次所得収支
    • 第二次所得収支(経常移転収支)
  • 資本移転等収支
  • 金融収支
    • 直接投資
    • 証券投資
    • 金融派生商品
    • その他投資
    • 外貨準備

「基礎知識」を読む

大体以上のことを頭に入れて「基礎知識」に取り組むと,ずいぶん,見通しがよくなる。四半期別GDP速報(QE)と年次推計(旧称は,確報,確々報)が読めることが目標だ。

内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」の「統計データ」に,「四半期別GDP速報」(QE)と「国民経済計算年次推計」及び「その他の統計」が掲載されている。

QE

「四半期別GDP速報」の最新年(現時点では,平成29年(2017年))をクリックし,一番上右の「統計表」をクリックすると,「四半期」や「年度・暦年」の「国内総生産(「支出側)」を把握することができる。これを見ながら「基礎知識」の第4章までは読み進めることができる。

年次推計とSNA

次は年次推計だ。

国民経済計算(SNA)は,国連等が規定する標準的な表は,一国経済全体について「生産勘定」,「所得支出勘定」,「蓄積勘定」,「貸借対照表」に分けて作成され,同じ勘定を制度部門別(非金融法人企業,金融機関,一般政府,家計,対家計民間非営利団体)にも作成する。そしてこれを一覧できる統合経済勘定表も作成される。またこれとは別に「海外勘定」も作成される。

年次推計(平成23年基準)はJSNAであり,基本的に08SNAに準拠しているが,細かい点で異なっている。気にし始めるときりがないから,とにかく「年次推計」に取り組むしかない。

上記の「統計データ」の「国民経済計算年次推計」をクリックし,現時点で最新の「平成23年基準(2008SNA)-1994年から掲載」,「2016(平成28)年度 国民経済計算年次推計(2011年基準・2008SNA)」をクリックすると,「フロー編」(Ⅰ.統合勘定,Ⅱ.制度部門別所得支出勘定,Ⅲ.制度部門別資本勘定・金融勘定,Ⅳ.主要系列表,Ⅴ.付表)及び「ストック編」(Ⅰ.統合勘定,Ⅱ.制度部門別勘定,Ⅲ.付表,Ⅳ.参考表)から構成される膨大な情報群が現れる。これが現時点で最新の「年次推計」だ。

これに従って「基本知識」を参照に読み進めていけばいいのだろうが,とりあえず何をしていいかよくわからない。そこで「国富」とされる「期末貸借対照表勘定」でも見てみようかと思い,データを抜き出してみた。平成28暦年末の正味資産は約3351兆円となっているが(国の貸借対照表),国富調査は平成45年にやっただけで,あとは推計ということのようだから,どの程度誤差があるものだか,どうだか。

こういう作業をしていくと,だんだん,SNAお宅になりそうだ。。

三面等価の原則とISバランス,政府債務残高

ここまでの知識を利用して,ISバランス,政府債務残高について調べてみよう。

三面等価の原則

まず,三面等価の原則についてまとめておこう。

三面等価とは,GDP「総生産」を,「所得(どのように使われているか)」「支出(誰によって支払われているか)」という別な面・角度から見たものといわれる。

①国内総生産(GDP)=Y産出

②国内総所得(GDI)=C消費十S貯蓄十T税

③国内総支出(GDE)=C消費+1投資+G政府支出+(EX輸出-IM輸人)

②の貯蓄とは所得から税(社会保険料 などを 含む),消費支出を差し引いた残り

とされる。

③は,総供給のY産出+IM輸人と,総需要のC消費+1投資+G政府支出+EX輸出が,均衡していると考えればわかりやすい。

一方,SNA等では,

④分配面のGDP=雇用者所得+営業余剰+固定資本減耗+間接税-補助金

⑤支出面のGDP=民間最終消費支出+政府最終消費支出+総固定資本形成(民間住宅+民間企業設備+公的固定資本形成)+在庫変動(民間+公的)+財貨・サービスの純輸出(輸出-輸入)

③と⑤の関係はわかるが,②は④というクッションを置き,所得から消費でも税でもない部分を,貯蓄としたもののようだ。定義と実態が,交錯している気がする。冷静に見極めればいいのだが,ここではこれを前提に先に進もう。

ISバランス(貯蓄・投資バランス)

三面等価の原則から,ISバランス(貯蓄・投資バランス)式が導かれる。

C+S+T=C+I+G+(EX-IM)

S=I+(G-T)+(EX-IM)となる。

この式は同時に2つのことを意味する(東学『 資料政・経2015』305頁。 ただし,「中高の教科書でわかる経済学マクロ篇」からの孫引きである。同書には,1つは,貯蓄S(カネ)が,どのように世の中に回つたか(誰が借りたか),もう一つはモノ・サービス(実物)を誰が購入したか(誰が消費したか)です。)とある。

(1)貸した総額=借りた総額

(2)総生産の残り=購入した主体

「基本知識」には,「確報(年次推計)で得られるデータを使った分析として,まず,ISバランス,資金過不足について説明します。各制度部門は,投資を行います。そのための資金となるのが貯蓄です。しかし,通常は投資と貯蓄は一致せず,資金が不足の場合は借入等を行い,資金に余裕があれば預金・貸出などを行います。この貯蓄(S: Saving)と投資(I: Investment)の差がISバランスです。各部門のISバランスの中長期的動向を見たものが長期的なISバランスです。1980年度まで遡って見るため,旧基準のデータを使用しています。高度経済成長時代は,家計は貯蓄がプラスで,(非金融法人)企業は貯蓄がマイナスでした。企業が投資を行うための資金は家計の貯蓄で賄われていました。しかし,成長の鈍化などにより,企業の投資意欲は減退し,最近は企業も貯蓄過剰となっています。家計の側は,貯蓄の過剰幅は,かつての半分程度になっています。しかし,企業と家計を合わせれば,貯蓄過剰の水準は高いです。一方,海外は,ほとんど一貫してISバランスはマイナスです(我が国は必要な投資を海外からの貯蓄で賄っているわけではないのがわかります)。ですが,過去に比べて大きくマイナス幅が拡大しているわけではありません。結局,政府が,高齢化などによる財政赤字の拡大で,企業と家計の貯蓄を吸収している形に変わっています。データは,推計のフロー編付表18「制度部門別の純貸出(+)/純借入(-)」にまとめて掲載されています。年度と暦年の両方のデータがあります。最初が,投資など実物取引からの推計,2番目が預金や貸出など金融取引からの推計です。この2つは概念的には一致するはずですが,推計上使用するデータ等が異なるため,計数としては一致しません。このため,「統計上の不突合」という項目が最初の実物取引からの推計の方に設けられています。」と説明されてあり,ISバランスの意味あいがよくわかる。

上記の付表から,2009年以降のISバランスを作成してみた。

政府債務残高

年次推計から,政府債務残高も把握できる。「基本知識」に「ストック編の「制度部門別勘定」中の一般政府の「期末貸借対照表勘定」(政府のバランスシートです)に,期末資産残高(土地や固定資産などの非金融資産を含みます),(金融)負債,この二つの差である正味資産残高が掲載されています。さらに,年次推計のストック編の付表3「一般政府の部門別資産・負債残高」には,一般政府を,中央政府,地方政府,社会保障基金に分けた数値が掲載されています。分析の目的に応じて,社会保障基金を除いたり,土地や固定資産などの非金融資産を除いたりする場合も見られますので,そのためにも内訳は重要です。一般政府の負債残高は,一般政府の負債残高の推移(名目GDP比)をグラフにしたものです。「グロス負債」と「ネット負債」があります。グロス負債は,負債額そのものです。一方,ネット負債は,グロスの負債から金融資産残高を除いたものです。いずれも,「政府の借金残高」です。近年,財政赤字の拡大により,いずれも増加しています。」とある。

経済指標のアンチョコ

このようにQEとJSNAを読み解くのが王道だが,森の中で道を失いそうだ。そこでネットで公開されている統計のアンチョコも見てみよう。

・「新版NLASマクロ経済学」に記載されているデータが更新されている。

・「富山統計ワールド」の「統計指標のかんどころ」は,わかりやすい。

統計ダッシュボード

・日経新聞経済指標ダッシュボード

・「日本経済入門」(著者:野口悠紀雄)の「経済データ 様々な経済データについてのリンク集

・(参考)政府の提供している統計の入口が「e-Stat」であり,主たる担当官庁が,「総務省統計局」である。

マクロ経済学の入口に立つ

以上のような,経済指標や統計を見慣れると,マクロ経済についても,あまり頓珍漢なことは,いわなくなるだろう。

次は,「新版NLASマクロ経済学」をフォローしていけばいいのだろうが,これはこれでいささか大部で大変そうなので,とりあえず「マクロ経済学の核心」(著者:飯田泰之)が読み切れれば良しとしよう。

それとは別に,上でも触れた書きぶりがいささか挑発的な「高校生からわかるマクロ・ミクロ経済学」,「中高の教科書でわかる経済学 マクロ編」(著者:菅原晃)について,冷静に,いい過ぎのところ,根拠不足のところが読み取れればいいなあと思っている。

これについては追ってということにしよう。

次は,社会の中で「法を問題解決と創造に生かす」,「アイデアをカタチに」の領域に進もう。

最後に「基礎知識」の詳細目次を紹介しておく。

社会と世界

ピーチ(P値)

大分前のことになると思うが,「nature ダイジェスト」に,P値(ピーチ)の使用に気を付けようという趣旨の記事がでていて,「P値」に気を付けるといっても「ピーチ ツリー フィズ」を飲みすぎるなということではないよ,というギャグを書こうと思って,そのままになってしまった。

今確認すると,「nature ダイジェスト」の2016年6月号である(「nature p値」と検索すると,トップに出てくる。)。その記事は,「米国統計学会(American Statistical Association;ASA)は,科学者の間でP値の誤用が蔓延していることが,多くの研究成果を再現できないものにする一因になっていると警告した。ASAは,科学的証拠の強さを判断するために広く用いられているP値について,P値では,仮説が真であるか否か,あるいは,結果が重要であるか否かの判断はできない」というものである。このころ私は,統計学に眼を向けていて,ピンと来たらしいが,今はさて?簡単にいえば,5%以下なら正しいと即断するのは,間違いだということだろうか。

統計学を理解する

経済指標に親しみ,理解することにした私としては,その作成ツールである統計学にも目を配る必要があるが,統計学の用途はこれだけではない。今では統計学は,社会や経済を分析,理解するための基本的なツールといわれている。私が学生だった頃は,あまり統計学云々とはいわれなかった(ような気がする。)。

これから漫然と統計学に取り組むのでは,頭には入らないだろう。①社会や経済(自然科学でもいいが)の分析,理解のための具体的な使われ方を把握した後で,②統計学そのものに進むのがよいだろう。①と②の関係について見通しを与えてくれる本αがあればもっと良い。

実はαについては,最近よく売れた有名な本がある。「統計学が最強の学問である」(著者:西内啓)で,実は4冊もある(正編・実践編・ビジネス編・数学編)。これらに書いてある,統計学は「今,ITという強力なパートナーを手に入れ,すべての学問分野を横断し,世界のいたるところで,そして人生のいたる瞬間で,知りたいと望む問いに対して最善の答えを与えるようになった」や,「現状把握,将来予測,洞察(因果関係)」の3機能があり,重要なのは,洞察(因果関係)であるという指摘は重要であるし,紹介されている下の「一般化線形モデルをまとめた1枚の表」は,今後,統計学に取り組むうえで,役に立ちそうな気がする。

 

 

 

 

分析軸(説明変数)
2グループ間の比較 多グループ間の比較 連続値の多寡で比較 複数の要因で同時に比較

連続値

 

平均値の違いをt検定 平均値の違いを分散分析 回帰分析

 

重回帰分析

 

あり/なしなどの二値 集計表の記述とカイ二乗検定 ロジスティック回帰

その他「統計学が最強の学問である」には,統計学の数学的な説明にあまり入り込まずにあれこれ書かれているのだが,それだけにどうも「専門的」なことまではわかった気がしないというのは事実である。でもαとしては優れていると思う。

統計学の使われ方

さて統計学の手法が何に使われるかについて,「統計学が最強の学問である」は,次の6つをあげる。

①実態把握を行なう社会調査法

②原因究明のための疫学・生物統計学

③抽象的なものを測定する心理統計学

④機械的分類のためのデータマイニング

⑤自然言語処理のためのテキストマイニング

⑥演繹に関心をよせる計量経済学

私としては,④⑤⑥あたりが興味の対象だ。ただ最初は⑥を入口にすべきだろう。これについては,「原因と結果の経済学」(著者:中室牧子他),この本の末尾に「因果推論を勉強したい人に第一におすすめしたい本」として挙げられている「計量経済学の第一歩―実証分析のススメ」(著者:田中隆一)を読むのがよいだろう。統計学を含む広い観点から,因果関係を検討する「原因を推論する:政治分析方法論のすゝめ」(著者:久米郁男)も,お薦めだと思う。買っただけで目を通していないが「データ分析の力 因果関係に迫る思考法 」(著者:伊藤公一朗)もよさそうだ。

これらのうちの1,2冊で計量経済学の概要にあたりをつけて,「統計学は最強の学問である」を参照しつつ,統計学を勉強する運びとなる。

統計学については適当な教科書を選べばいいのだろうが,勉強しているのがどのあたりの議論かといういことを把握するため,「統計学図鑑」(著者:」栗原真一他)を参照するのがよさそうだ。なおこのあたりの本の紹介は,現在進行形,未来進行形だ?

統計学と数学

統計学は,数学的な処理を前提とするので,数学的な素養も必要だ。

そこで私は,今後,まず,「計量経済学の第一歩―実証分析のススメ」(著者:田中隆一)を頭に入れて,「改訂版 経済学で出る数学: 高校数学からきちんと攻める」(著者:尾山大輔他),「経済学で出る数学 ワークブックでじっくり攻める」(著者:白石俊輔 )を勉強しようと思っている。それに加えて「大学初年級でマスターしたい物理と工学のベーシック数学」(著者:河辺 哲次)がほぼ理解できれば,私が通常読む本の数学的な処理については,問題がなくなるだろう。急がばまわえれだ。

法律学と統計学

ところで,法律学や律実務についても,少なくてもアメリカでは統計学的な手法が取り入れられている。翻訳されている「法統計学入門―法律家のための確率統計の初歩 」(著者:マイクル O.フィンケルスタイン)という本があるが,同じ著者のより詳細な「Statistics for Lawyers」があるが,未購入である。「数理法務nのすすめ」(著者:草野耕一)でも,確率,統計に多くの頁が割かれている。

なお「「法統計学入門」は,木鐸社の「法と経済学叢書」(11冊が刊行されている。)の一冊である。「法と経済学」において,経済学的分析や統計学に基づいた分析が行われるのは当然であるが,さて,それがどれほど立法や法解釈に生かされているかが問題である。

統計学の付録-統計局の学習頁

総務省統計局(「日本の統計の中核機関」と紹介されている。)のホームページに/,イラストがきれいな「統計学習サイト」があり,「なるほど統計学園」,「なるほど統計学園高等部」に分かれている。また「統計力向上サイト データサイエンス」もあるし,「データサイエンス・オンライン講座 社会人のためのデータサイエンス演習」も提供されている(gaccoでの受講)。統計ダッシュボード,You-Tubeの統計局動画,facebook,日本統計年鑑にもリンクしており,実にサービス満点だ。

だが,ほとんど利用されていないだろうな。例えば,多くの労力と費用をかけて作成されたであろう「動画」の視聴回数が,数百から数千だ。ネット上で需要拡大をするにはどうしたらいいか,本当に難しい。統計局は,人工知能の松尾豊さんや,上記の「統計学が最強の学問である」の西内啓さんを動員したが,だめなようだ。

でも私はこういう孤独の影がただようホームページは好きだな。これらの企画がなくならないうちに,せいぜいアクセスしよう。

社会と世界

「経済」が分かるとは?

社会を理解するには,「経済」が分かることが第一歩だといわれれば,そのような気がする。でも「経済」がわかるとは,いったいどういうことなのだろうか。

ひとつは,自分が置かれた「経済」に関わる立場に応じて,自分の効用を最大化する行動を立案し,実行できるということだろう(金儲けがうまいといってもいいか?)。またこれらに関わる様々な「思考実験」(「経済学」は単純な仮説に基づく学問だから「思考実験」と呼んでいいだろう。)を理解できることも含まれるだろう。

もうひとつは,わが国あるいは世界の経済活動に関わる要素とその数値を読み解くことができ,その要素,数値に基づく第三者の「思考実験」を理解できるということだろう。

前者がミクロ経済学,後者がマクロ経済学に対応しているといえるだろう。

前者は誰でも絶えず考え,実行しなければならないことだが(そうしないと,干上がる),後者は,自分でどうこうすることではないから,古い情報に基づく感情的な「床屋政談」になりがちである。これを非難する学者,実務家は,数値を頭に入れず,要素間の思考実験に終始し,とんでもないアドバイスをしていることが多いように思える。唯一正しいと思われるのは,我が国の置かれた窮状を抜け出すには,生産性をあげる新しいビジネス,イノベーションを創出することだというミクロ的なアドバイスだろう。でも誰が,どうやって,という話だ。少なくても,政府や日銀ではない。

最新の経済活動の数値を把握する

マクロ経済を把握するには,とにかく最新の経済活動に関わる要素の数値と,過去から現在に至る経緯(歴史)を即座に把握,再現できることが,出発点となる。

重要な数値のひとつは,GDP,物価水準,失業率,貿易額等の経済指標の推移である。

これについてもっとも容易にアクセスできるのは,最近設けられたいわゆる「ダッシュボード」(その説明はここ)である。統計局の「統計ダッシュボード」がそれである(なお我が国における統計の詳細は,政府統計ポータルサイトのe-Statで把握できる)。日経新聞から簡易な「経済指標ダッシュボード」も提供されている。これらを見慣れると,最新の正しい経済状況が把握できる。

現在に至る経緯(歴史)については,その数値を生んだ,社会,政治状況も併せて把握(思い出す)必要がある。これはそれを簡易にまとめている本(例えば,翁邦雄著:「日本銀行」「第5章 バブル期までの金融政策」,「第6章 バブル期以降の金融政策」)を頭に入れるのがよい。「狂乱物価」はもとより,「バブル崩壊」も記憶から遠ざかりつつあるなつかしい話だ。若い人には私が若いころ感じた「日露戦争」と同じ感覚なのだろう。

これらの数値を見たうえで,学者は思考実験をし,政府と日銀は,財政政策,金融政策を立案・実行してきたわけである。私は,財政・金融は,劇的インフレの阻止,そして仮にそれが生じてしまったら,迅速な沈静化への対応さえできれば十分なのではないかと思う。複雑系である経済の動向,内容は,現時点では,人がコントロールできることではない。

昔の夢に酔い,目の前の景気回復を願い,「デフレ」対応をしてきた政府,日銀がもたらした現状は,惨憺たるものだ。その現状を理解するには,国・地方の財政状況と日銀の国債保有・通貨発行の現状を把握する必要があるが,現状では一覧できるようにはなっていない(と思う。)。

そこで,財政と金融の数値を把握しよう。

財政の数値(財務省・総務省)

最新の国の「財政に関する資料」(平成29年度)を見ると,「平成29年度一般会計予算は約97.5兆円ですが、このうち歳出についてみると、国債の元利払いに充てられる費用(国債費)と地方交付税交付金と社会保障関係費で、歳出全体の7割を占めています。一方、歳入のうち税収は約58兆円であり、一般会計予算における歳入のうち、税収でまかなわれているのは約3分の2であり、残りの約3分の1は将来世代の負担となる借金(公債金収入)に依存しています。」,「債務残高の対GDP比を見ると、1990年代後半に財政健全化を着実に進めた主要先進国と比較して、我が国は急速に悪化しており、最悪の水準となっている。」とある。

問題は二つあって,ひとつは「社会保障費」の増大,もうひとつは「債務」の増大であるが,これを考えるためには,国の支出で地方交付税交付金が大きな割合を占めていることからも,地方政府も含めて考える必要がある。そのためには「地方財政の分析」「地方財政白書」を見るのが便利だ。

国・地方を通じた支出は,「平成27年度においては、社会保障関係費が最も大きな割合(33.7%)を占め、以下、公債費(21.3%)、機関費(11.8%)、教育費(11.7%)の順となっている。」。

ところで社会保障費の,医療・介護費と公的年金は,少子高齢化,将来の経済状況の予想から,誰もが指摘するように制度を維持しようとする限り,今後大幅減額幅,大増税しかないようだ(野口悠紀雄著:「日本経済入門」「第8章 膨張を続ける医療・介護費──高齢化社会と社会保障① 医療・介護」,「第9章 公的年金が人口高齢化で維持不可能になる──高齢化社会と社会保障② 公的年金」参照)。

ただ医療・介護費については,今後のIT・AI(ロボット等)の進展と活用で生産性をあげ,支出を減少させることができる可能性もあろう。年金問題は,これも生産性の向上により,生活必要費のダウン(デフレ),及び家族の共同生活で手当てするしかないか。

このような現状から,私は,国・地方の「財政政策」「産業政策」に名を借りた「政策」(ばらまき)だけには,反対することにしよう。

これらを見ていると,仮に私に余剰資金があれば,資金やついでに生活も外国に移転したくなる。ないからここで頑張るしかない。

金融の数値-国・地方の債務残高と日銀の国債保有高(財務省,総務省,日銀)

まず読者プレゼント.pdf 国と地方の債務残高を見よう。。いまや,GDP(約550兆円)の2倍になっている。

このうち,国債の発行残高は,平成29年度末で約865兆円の予想で,日銀の保有国債は,約409兆円だ。

これらを踏まえて次に出てくる話は,日銀の国債引き受け,当面,日銀が保有する国債は償還しないという話であろう。それでどうなるか。考えるのもおぞましい。

ついでに地方政府の発行した公債が約200兆円あるが,手の打ちようがなくなるのではないか。

私がマクロ経済について本当に知りたいことー貨幣とは何かー

私は,マクロ経済について,中央銀行は,どういうメカニズムで,銀行券を発行し,それが流通するのかを知りたかった。「MONEY」(チャールズ・ウィーラン)にある「ニューヨーク連邦準備銀行には窓のない部屋があって、トレーダーたちがそこで電子マネーを文字通り創造して、数10億ドルの金融資産を買いつけた。2008年1月から2014年1月までの間に、FRBはおよそ3兆ドルの新しいお金を米国経済に供給している。FRBの指示のもと、トレーダーがそれまで存在しなかったお金でさまざまな民間金融機関の持つ債券を購入して、電子資金をその企業の口座に移動させて証券の支払いをする。新しいお金。数秒前までは存在しなかったお金だ。カチッ。ニューヨーク連邦準備銀行でコンピュータの前に座っている男が10億ドルを創造して、シティバンクから資産を買うのにあてる音だ。カチッ、カチッ。これでさらに20億ドル」,「中央銀行は一般に,新たにお金を創造する力を合法的に独占している。使を印刷するのではなく電子的にだが」というのはどういうことか。

そこからはじまって「21世紀の貨幣論」,上述の「日本銀行」「金利と経済」等々を入手して目を通し始め,この問題はボヤっとだが理解できたような気がする。もう少し詰めたいが,その過程で,改めて本稿で紹介した経済活動に関わる要素とその数値を目の前において読み解くことの重要性に思いが至った。貨幣論は,持ち越すことにしよう。

あれこれふくめて,複雑系の典型である「経済」は,算数に毛が生えたようなマクロ経済学では解明できないというのが正解のような気がする。