人の心と行動

深層日本論-ヤマト少数民族という視座

「深層日本論 ヤマト少数民族という視座」(著者:工藤 隆)(Amazonにリンク)の著者の工藤さんは旧知の人で,若いころは古代に舞台をとった「黄泉帰り」等の演劇の上演活動をしていたが,その後,上代口承文芸の研究をして大東文化大学の先生をしていたようだ,Wikipediaを見ると,古事記,古代歌謡,神話,大嘗祭等に関する本を多く書いており,この本はそれらの集大成ということかもしれない。

この本は,日本文化の基層を「アニミズム・シャーマニズム・神話世界性とムラ社会性・島国文化性」とし,その世界が文字で確認できる歌垣としての記紀歌謡・万葉歌と,工藤さんが辛くも実地調査できた中国雲南省の少数民族らの歌垣との共通性を紹介する。そして中国漢民族との対比でのヤマト(少数民)族が(一方で,アイヌ民族,沖縄民族を吸収し),「国家」を形成し,白村江の敗戦,明治維新,敗戦の3つの文明開化において基層と表層の2重構造を乗り切ってきたとする。

神話,神道等の世界を嫌う人も多いから,工藤さんは,慎重に概念規定をした上で,上述した観点等を踏まえ,政治,社会を含む,日本文化論を展開する。記紀歌謡,万葉集で挑む文化論だから,「敗戦と原発事故」を論じ,「日本文化のなにを誇り,なにを制御するか」は,いささか背伸びした議論にも感じるが,しかし不快さは感じない。ただし,「伊勢神宮論」や「大嘗祭論」は,私にはあまり興味がわかない。特に,後者の「サカツコの復活が望まれる」はどうなんだろう。

このように,話を現代に持ってくるのはどうかということの他に,文字で確認できる記紀歌謡・万葉集が出発点とし,それはどのように形成されたのというそれ以前の話がなくていささか気持ちが悪い。これについては,「「問題解決と創造」を予習する」であげた「日本文化」の項目の,「ヒト 異端のサルの1億年」(著者:島泰三)(Amazonにリンク)が3万年前以降繰り返されたホモサピエンスの日本列島への流入,諸地域に分散する,人種と言語の近親性を挙げている。それと本書の間,縄文時代,弥生時代,古墳時代を埋めることが必要だろう。とりあえずKindle本で,次のような本がある。ゆっくり目を通していこう(その後は,「漢文の素養~誰が日本文化をつくったのか?~」(著者:加藤徹)(Amazonにリンク)に続く)。

  1. 「日本人の起源 人類誕生から縄文・弥生へ (講談社学術文庫) 」(著者:中橋孝博)
  2. 「海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)」(著者:高田貫太)
  3. 「弥生時代の歴史 (講談社現代新書) 」(著者:藤尾慎一郎)
  4. 「縄文時代の歴史 (講談社現代新書) 」(著者:山田康弘)

ⅰを少し読んだが,そういえば日本の考古学会は大変だたなあということを思い出した。

文化論とは

ところで工藤さんは「日本人は日本人論,日本文化論がとても好きだ。その多くは,日本人あるいは日本文化は世界でも特殊な存在だという認識が前提として置かれている。実のところ,私もそう思っている。ではいつ,どのような理由でそのような特殊性を得たのか。その特殊性が現在もあるとすればなぜなのか。本書はこうした疑問に対して「ヤマト少数民族」という視点を導入することで、大きな回答を示そうという試みである」とするのだが,文化論は,何を論じているのか,そのような対象が実在するのかという,反省的観点が必須である。そうしないと単なる酒場の与太話になってしまう。

ただ私は「文化」を,「ある集団の,ある場での,環境(地理)と歴史によって形成された言動のパターンや特徴」と定義するので,集団,場の抽象度や限定された具体的な内容がしかkりしていれば,ある種の議論は可能だと思っている。ただ「日本人は…だ」というような抽象度が高い無限定な言説はがほとんど意味がない。

仏教には何の意味があるのか

ところで日本文化論というとき,私は記紀,万葉より,仏教論に親しみを感じてきた。ただ,空,中観,密教,唯識と,面白いといえば面白いが,最近は,一体,何の意味があるのだろうという思いが強く遠ざかっていた(そういえば,「仏教は本当に意味があるのか」(著者:竹村牧男)という本があったことを思い出したが,これは事務所移動時に「寄贈」している)。

ただそれでも仏教書には時おり目を通していたが,最近,「別冊NHK100分de名著 集中講義 大乗仏教 こうしてブッダの教えは変容した」(著者:佐々木 閑)(Amazonにリンク)を読んで,改めて,仏教はせいぜいこんなもんだが,それはそれですごいなあと思い返している(佐々木さんは,2年前の年賀状で,「我が国には,視点は大分違いますが「真理の探究 仏教と宇宙物理学の対話」という本があります。超弦物理学の大栗さんと仏教学の佐々木さんの対談で,題名を見ると?ですが,科学対科学を侵犯しない仏教との対話とでもいうべきもので、内容は意外にまっとうで面白い」として紹介していた)。

その佐々木さんに,昨日,「ネットカルマ 邪悪なバーチャル世界からの脱出 (角川新書) 」(著者:佐々木 閑) (Amazonにリンク)という本があることを発見したので早速購入した。私もネットが「邪悪なバーチャル世界」であると思っているので,佐々木さんはここで本当に仏教を活かせているか,少し読み込んで紹介しよう。

 

人の心と行動

「AIと弁護士業務」の執筆状況報告4

 

AIビジネスに関する和書5冊

はじめに

日本のAIビジネスは今後どうなるのか,日本でAIビジネスを創造しようとする仕事に関わり,その意気込みやアドバイスを述べている和書を5冊紹介する(なお,「デジタル・トランスフォーメーションをめぐって」参照)。これらは,2019年4月15日の段階で私の目に入ったKindle本だけであり,関連する本は,R本も含めるともっと膨大であろう。

  • ①「未来IT図解 これからのITビジネス」(著者:谷田部卓)(未購入)
  • ②「いまこそ知りたいAIビジネス」(著者:石角友愛)(Amazonにリンク
  • ③「AIをビジネスに実装する方法 「ディープラーニング」が利益を創出する」(著者:岡田陽介)(Amazonにリンク
  • ④「問題解決とサービス実践のためのAIプロジェクト実践読本 第4次産業革命時代のビジネスと開発の進め方」(著者:山本大祐)(未購入)
  • ⑤「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井 保文, 尾原 和啓)(Amazonにリンク

ここでは,すでに購入済み②③⑤の3冊について簡単に紹介しよう。いずれもシリコンバレーを経験する若い世代が書いた本であり,おじいさんはもとより,おじさんも置いてきぼりされる寂しさを抱くだろう。でもこの道はいつか来た道…概して人間そのものに関する考察が不十分なので,内容はどうしても微視的で一本調子だ。私たちが物事を俯瞰する知恵を持ち,改めて学ぼうという意識を持てば充分に対応できる。ただし⑤は大分趣きが違う。後述しよう。

「いまこそ知りたいAIビジネス」を読む

「いまこそ知りたいAIビジネス」(著者:石角友愛)Amazonにリンク

出版社等による紹介

本書は,私たちの仕事にAIがどのようにかかわってくるかを知りたい一般ビジネスパーソンや学生の皆さん,そして,実際にAI導入を考えている経営者や事業担当者の方にむけて書かれた,いわばAIビジネスの入門書です。

具体的には,「そもそもAIとは何なのか」から,「世界の最新AIビジネスではどんなことが起きているのか」「実際に自社にAI導入を考える際にはどんなステップを踏めばよいか」「今後のAIビジネスの課題とは何か」,そして,「AI時代に求められる人材とキャリア形成のあり方」といったことまで,文系ビジネスパーソンでもわかる平易な言葉で解説していきます。

平易な入門書といっても,著者はシリコンバレーを拠点に活躍する,AIビジネスデザインカンパニーの経営者。AI技術を使って企業の課題を解決するビジネスを展開しており,紹介される事例はいずれも最新,最先端のもの。実際にAIビジネスにかかわっている方や,エンジニア,データサイエンティストにも一読の価値ありの内容です。

覚書

「ハーバードでMBA取得,米グーグル本社勤務を経て,現在はシリコンバレーを拠点にAIビジネスデザイン企業を経営する著者が教える」 といわれると引いてしまうが,内容は,「AIビジネスの最新事情と「あたらしい働き方」」について,様々な問題に目配りしながら分かりやすく記述する,万人向け,一般企業向け入門書である。

第1章から第6章前半まではそのようなものとして読むとして,私が惹かれたのは,第6章の後半だ。すこし引用してみよう。

①「AI時代に生き残れる人,生き残れない人」から

アメリカで「CBO」という役職が生まれたが,CBOとは,技術コミュニティとビジネスコミュニティの架け橋となり,心理学や行動科学の知見を生かして会社のマーケティング戦略を考える役割の人を指す。2015年創業のスタートアップのニューヨークを拠点に活動しているレモネードという損害保険会社がある。この保険会社になぜ投資が集中しているかというと,人の行動を理解する意思決定論や行動経済学の研究を取り入れ,保険業界に画期的なイノベーションを起こしたからである。AIを徹底的に活用して人的コストを最小限に抑える代わりに,レモネードが投資しているのが,行動経済学に基づいた研究と,それを生かし生かしたモチベーション構築の仕組みである。レモネードは,デューク大学の心理学教授であるダン・アリエリー教授をCBOに迎え,保険会社と顧客の利害対立をなくすビジネスモデルを提唱し,『ソーシャルインシュランス(社会的な保険)』というコンセプトを生み出した。

これからのAI時代は,先ほどのレモネードの例のように,今あるものを組み合わせて,今までになかったものを生み出す力が求められる。今,アメリカで主流になりつつあるのは,AIバイリンガルを育てる教育だスタンフォード大学と並んで,コンピュータサイエンスの分野で世界1,2位を争う実績を持つカーネギーメロン大学のリベラルアーツ学部ではコンピュータサイエンス学部の学生も,リベラルアーツ学部の学生と同じクラスで哲学などの授業を取り,哲学部の生徒が解析授業を取る。たとえば,文学部では,「人文学解析」というクラスがあり,そのクラスではフランシス・ベーコン(哲学者)を中心とした近世イングランド地方の歴史上の人物がどうつながっていたかを表したデジタルソーシャルグラフを作ったりするという。これは歴史上の文学や調査などに基づいた情報を,ビジュアライゼーション技術を使ってツールにする,真のAIバイリンガルのスキルがないと作れない。

②「私たちはこれから何を学べばよいか」から

ムーク(MOOC=Massive open online course)という,インターネット上で大学の講義が受講できるシステムがある。AI時代になったときに,仕事を見つけることができるかどうかは,今後自分にどれだけ「リスキル」の投資ができるかにかかっている といえるだろう。日本でもリカレント教育の重要性が言われている。日本には終身雇用制度があるので,これまでは逃げ切りできるかもしれないといわれていた 40 代, 50 代の人たちも,これからは何らかの技術を身につけなければ100年時代を生き残れないといわれている。今後,日本でも意欲の高い層は自分で英語のムーク授業を受けどんどんキャリアアップしていくだろう。会社がフォーカスしなければいけないのは,意欲はあるが情報が足りない層,英語で学ぶことに抵抗がある層だ。ペラペラでなくてもいい。英語ができるだけで世界は何十倍,何百倍に広がるし,取得できる情報量が劇的に増える。

目次

第1章 ここがヘンだよ,日本のAIビジネス

第2章 AIビジネスの最先端を見てみよう

第3章 AIを導入したい企業がすべきこと

第4章 AIビジネスの課題とは

第5章 AI人材とこれからの日本

第6章 AI時代における私たちの働き方

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「AIをビジネスに実装する方法」を読む

「AIをビジネスに実装する方法 「ディープラーニング」が利益を創出する」(著者:岡田陽介)Amazonにリンク

出版社等による紹介

もはや「AI(人工知能)を試験的に導入してみよう」という時代は過ぎ,様々な企業が,現実のビジネスにAIやディープラーニング技術を活かした事業展開を行っている。

そうした動きは決して製造業やハイテク企業に限ったことではなく,小売・流通業や物流などなど,業界や業種を問わず急速に広がっている。

本書は,設立わずか6年で,国内企業数社でのAI導入支援の実績をもち,ディープラーニングが成果を出し始めた2012年から,いち早く同技術に注目してきたITベンチャーであるABEJA(アベジャ)の経営トップが自ら語る「AIのビジネスへの実装の具体的方法」。

AI・ディープラーニングをどう現実のビジネスに活かせばいいのか? 基本的なしくみから,実装・運用の成功要件,最新事例までを,文系ビジネスマンでも理解できるように,わかりやすく解説する。

覚書

2018年10月10日発行。この本は,非常に正直な本だと思う。「設立わずか6年で,国内企業数社でのAI導入支援の実績」という件が,そんなもん?という感想を抱かせるし,第5章で紹介されている「AIを導入した企業のビフォー& アフター」(ICI石井スポーツ,パルコ,武蔵精密工業,コマツ」の事例や,「画像,音声,テキストが新しいビジネスを生む」もびっくりしない。

第4章までのAI(機会学習)の基本的な説明と相まって,敷居の低い,手堅く正直な本といえるだろう。

目次

1章 なぜ、いまだにAI導入を躊躇するのか

2章 ネコでもわかるディープラーニングの原理

3章 AIの導入前に知っておきたいこと

4章 データ取得から学習、デプロイ、運用まで ~AI導入のプロセスを知る~

5章 AIを導入した企業のビフォー&アフター

6章 画像、音声、テキストが新しいビジネスを生む

7章 レバレッジ・ポイントにAIの力を注ぎ込む

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「アフターデジタル」を読む

「アフターデジタル オフラインのない時代に生き残る」(著者:藤井 保文, 尾原 和啓)Amazonにリンク

出版社等による紹介

現在,多くの日本企業は「デジタルテクノロジー」に取り組んでいますが,そのアプローチは「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」ではないでしょうか。

世界的なトップランナーは,そのようなアプローチを採っていません。

まず,来るべき未来を考えたとき,「すべてがオンラインになる」と捉えています。考えて見れば,モバイル決済などが主流となれば,すべての購買行動はオンライン化され,個人を特定するIDにひも付きます。IoTやカメラをはじめとする様々なセンサーが実世界に置かれると,人のあらゆる行動がオンラインデータ化します。つまり,オフラインはもう存在しなくなるとさえ言えるのです。

そう考えると,「オフラインを軸にオンラインをアドオンするというアプローチは間違っている」とさえ言えるでしょう。筆者らはオフラインがなくなる世界を「アフターデジタル」と呼んでいます。その世界を理解し,その世界で生き残る術を本書で解説しています。

デジタル担当者はもちろんのこと,未来を拓く,すべてのビジネスパーソンに読んでほしい1冊です。

覚書

この本は,上海で仕事をしている藤井保文さんと,「ITビジネスの原理」や「ザ・プラットフォーム:IT企業はなぜ世界を変えるのか?」の著者がある尾原和啓さんんが,驚異的な進歩を遂げつつある中国のIT・AIの「すべてがオンラインになる」現状を材料として,「アフターデジタル」を論じたものである。

とりあえずの対象は消費行動ではあるのだが,「アフターデジタル」においては,人の行動や社会のあり方が大幅に変わるということも議論しており,「デジタルエコノミーはいかにして道を誤る-労働力余剰と人類の富」(著者:ライアン・エイヴェント)との関係も含めて,少し時間をかけて取り組みたい。

目次

第1章 知らずには生き残れない,デジタル化する世界の本質

第2章 アフターデジタル時代のOMO型ビジネス~必要な視点転換~

第3章 アフターデジタル事例による思考訓練

第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革

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詳細目次に続く

 

人の心と行動

最近の知財法改正を一覧する

問題の所在

知財法は,古くからの歴史の風雨にもまれてきたわけではなく,新しい,したがって多くは人為的な法令であるから,政府が理解するその時々の社会・経済状況に応じて,次々と手が加えられやすい。我が国の知財法もその例にもれず,改正を追っかけるのが大変だ。

それでも当該法令が真正面から改正の対象となっているときは,まだ目に入りやすいが,他の法令の改正に伴って改正される場合は,本当にわかりにくい。

そこで,未施行分も含めて,最新の法令を調べるにはどうしたらいいのかを検討し,最近の知財法改正を一覧することにした。

法令検索

それにしても,政府がe-Gov(電子政府の総合窓口)で「法令検索」(外部サイトの記事にリンク)を提供していることは高く評価できる(一方,「行政文書」を隠そうとすることは,時代の流れに逆行し,そのうち破たんするだろう。)。

まず,「法令検索」の「法令名」で当該法令を検索すれば,「施行日」現在の最新の法令と「未施行」部分があることが分かる(「目次」の右隣にある)。

ただし,「データベースに未反映の改正がある場合があります。最終更新日以降の改正有無については、上記「日本法令索引」のリンクから改正履歴をご確認ください」とあるように,「施行日」が過ぎていても,条文に反映されていないことがあるが,せいぜい長くて2か月程度のタイムラグのようだ。その場合は,国立国会図書館が作成している,「日本法令索引」の改正履歴を見れば,どの法律による改正が反映されていないのかある程度の見当は付くが,複数の改正法があったり,法律の成立と施行日がずれていたりすることから,どの法律のどの部分がいつから施行されるのかは,「附則」等を確かめなければわからないので,一目瞭然とはいかないようだ。別の情報を探した方がいいかもしれない。このあたりはもう少し調べてみよう。

それと今気が付いたが,「未施行」欄には,未施行部分が施行されたときの将来の法令が出ている。上記のタイムラグがある場合も,ここに反映されていればいいのだが,どうだろうか。確認出来れば,ここの記述に反映しよう。

概説書を理解するために

ところで最新の法令を知りたいということとは別に,概説書等を読むためには,その概説書が書かれた後の法令改正も頭に入れておく必要がある。特に,頻繁に改正されることが多い知財法分野では,その必要性が大きい。

そこで試みまでに,知財5法プラス不正競争防止法について,平成26年以降の改正,及び未施行部分を網羅してみることにした。

作業は,当該法令の検索,未施行部分のピックアップ,及び当該法令について「日本法令索引」に記載された平成26年以降の部分をピックアップするということである。もっとわかりやすくまとまられている情報もあるだろうが,これも大事な作業である。ただこれに熱中すると,どうしても中味がおろそかになる。役所はどうだろうか。