人の心と行動

自分はまだ先だと思っていたが

先日,中高の同窓会があり,隣に座ったY君が,少し指の曲げ伸ばしに支障があるといって,お医者さんのM君に相談したところ「老化だ」と一蹴されたことに衝撃を受けていた。

私はこれまであまり老いということを意識していなかったが,もうしばらくすると65歳になるとなれば,「あまり若くはないわな」ぐらいは考えざるを得ない。いろいろな身体の機能が加齢とともにだんだんと衰えていく(あるいは急速に衰えていく)のは間違いないことだから,そろそろ老いや死に向き合う方が良さそうだ。

老・死とは何か

「生物学上では,死は単純明快です。人間の身体は,大部分が自己再生を繰り返しながら,長期間存続します。しかし,種の進化においては比較的短い一部分しか担っていません。種という生物学的視点で考えると,個体に求められる生存期間は,生殖期とその後の子育てに必要な期間を併せてせいぜい数年間だけです」(「初めて老人になるあなたへ」(著者:B・F・スキナー )(Amazonにリンク))。

「遺伝によって決まる将来に手を加える自然選択の力は,個体が年を取るにつれて弱まり,老化をもたらす突然変異が世代を経るにつれて蓄積するのを許容する」(「なぜ老いるのか,なぜ死ぬのか,進化論でわかる」(著者:ジョナサン・シルバータウン)(Amazonにリンク))。

そういえば,一昨年の年賀状に次のフレーズを引用した。

「「進化は,人間が日焼けしようと,皮膚がんになろうと,おかまいなしだ。なぜなら,日焼けも皮膚がんも,生殖能力に影響しないからだ…がんになるのが,たいてい子どもを持つ年齢を過ぎてからなのは,偶然ではない。進化は,子どもを持つ可能性が低い40歳代,50歳代の人間を守ることには,あまり関心がないのだ。」,「自然は善良かもしれないが,愚かでもなければ,情け深くもない。年寄りにエネルギーを注ぐような無駄はしないのである。したがって,体が新しい生命を世の中に送り出せなくなった後は,私たちは自分で自分を守るしかない」(「ジエンド・オブ・イルネス」(著者:デイビッド・B・エイガス)(Amazonにリンク))。

自分で自分を守る方法は,適切な「食動考休」の実行であることは誰でもわかる。このうち,もっとも重要なのは,動(運動)である。

まず運動によって肥満状態を解消し「一流の頭脳」を身につけよう

すこし古くなったが「健康・老化・寿命-人といのちの文化誌」(著者:黒木登志夫)(Amazonにリンク)という中公新書は,読みやすく分かりやすい好著だが,その構成は,寿命,老化の後に,肥満,糖尿病-恐るべき合併症,循環器疾患-血管が詰まる,破れる,がん-敵も身の内,感染症-終わりなき戦い,生活習慣-タバコ,食事,運動,健康診断(個人が責任をもつ生活習慣病/まずタバコをやめる/ほしいままに食事をすれば,諸病を生じ,命を失う/運動で脂肪を燃やす/健診を受けよう)と続く。

老いを迎えて,一番病・死に結び付くのは「肥満」であるということ,したがって,まだ可能であるのなら,とにかく肥満から脱することを最優先すべきである。運動では痩せないことを強調する人もいるが,食事制限だけで一時的に痩せても,それはかえって体を壊すだけだ。しかも,運動は,ストレスを取り払い,集中力,やる気,記憶力,創造力,学力を増強し,脳の老化に歯止めをかけて健康寿命を長くするというのだ(「一流の頭脳」(著者:アンダース・ハンセン)(Amazonにリンク))。そのメカニズム,証拠についての同書の説明は説得力がある。同書で薦められている運動は,最低1日30分のウォーキング,またはランニングを週に3回,45分以上行うことだけだ。さあ考えどころだ。私のお薦めは,スロージョギングだ。

老いと付き合う準備のための諸本

肥満状態の解消に取り組んでいるときは,そちらに力を取られるが,それと並行して,老いに入ったときに老いとの付き合う準備をすべきであろう。特に通常,仕事を離れることは大きな岐路になるから,それまでには一応の心構えを持つべきだろう。退職していきなり「きょうよう」(今日する用),「きょういく」(今日行くところ)がなくなることはつらい。

教養,教育のある人のための心構えとしては,上でも引用した「初めて老人になるあなたへ」(著者:B・F・スキナー )(Amazonにリンク)がお薦めだ。章題を挙げておくと,「老いを考える /老いに向き合う /感覚の衰えとつきあう /記憶力を補う /頭をしっかりと働かせる /やりたいことを見つける /快適に暮らす /人づきあいのしかた /心を穏やかに保つ /死を恐れる気持ち /老人をはじめて演じる /見事に演じきる」とだが,記述がユーモアと教養に満ちていて,勧めていることも,心遣いにあふれている。スキナーという人がわが国ではあまり例にない教養のある立派な人だということがよくわかるのだが,どうして行動分析学派は,ああも孤立し戦闘的なのだろうか。

何でも書いてあり,内容もそこそこ信頼できるいわばマニュアル本として,「東大が考える100歳までの人生設計-ヘルシーエイジング」(著者:東京大学高齢社会総合研究機構)(Amazonにリンク)がある。ただ「東大が考える」という題名を見て嫌になる人も多いだろう。私もそうだ(同じ著者で「東大がつくった高齢社会の教科書: 長寿時代の人生設計と社会創造」があるが,こちらは自然に受け入れられるが。)。

あと「LIFE SHIFT(ライフ・シフト)-100年時代の人生戦略」(著者:リンダ グラットン)(Amazonにリンク)は,改めて紹介するまでもない,必読書だろう。上記の「東大がつくった高齢社会の教科書」とともに検討したいと思っている。

老いを少し突き放して検討している本として,既に「図解 老人の取扱説明書」を紹介している。

 

人の心と行動

「こころ」と行動

この世界の複雑な様々なシステムは,おおよそ,人の行動(言語行動を含む)とモノ・情報の動き,及びその相互作用から成り立っていると捉えることができよう。

世界の様々な複雑なシステムを理解するためには,まず人の行動を基礎に置くべきだろうが,そのためには,進化論を踏まえ人の行動と「こころ」との関係についても,あまり的外れでない理解をする必要があるだろう

その上で人の行動とモノ・情報の動き及びその相互作用を捉えることにができれば,様々なシステムのどこをどのように動かせば問題解決につながるかという道筋も見えてくるだろう。

そこで「「こころ」と行動の基礎」という項目を設けてみたが,この問題に深入りすると,それこそ一生ここから出てこれなくなるので,ここでは,「基礎」としてさほど的外れでないであろう概観ということで済ませることとし,そのための7冊を検討するとにする(ただ今は,「「こころ」と行動」より,「行動と思考」…「行動」とその一部である「思考」と考えた方がより適切であろうと考えている。)。

7冊の本

そのために7冊の本を紹介しよう。

  1. 「入門! 進化生物学-ダーウィンからDNAが拓く新世界へ」(著者: 小原嘉明)
  2. 「「こころ」はいかにして生まれるのか」(著者:櫻井 武)
  3. 「哲学入門」(著者:戸田山和久)
  4. 「意思決定の心理学-脳とこころの傾向と対策」(著者:阿部修士)
  5. 「進化教育学入門 動物行動学から見た学習」(著者: 小林朋道)
  6. 「行動の基礎」(著者:小野 浩一)
  7. 「〔エッセンシャル版〕行動経済学」(著者:ミシェル バデリ)

1の「入門! 進化生物学」は,最新の知見に基づき,進化論・遺伝学について,幅広く検討した本,2「「こころ」はいかにして生まれるのか」は,「こころ」をどう捉え,考えるべきかについて,最新科学を踏まえ説明している。この本は,行動理解につなげる意識がないと,いささか散漫に思える内容だが,人間の行動理解を念頭に置くとなかなか素晴らしい。以上が,前提となる2冊だ。

次にこれらの前提となる知識を踏まえて,人間の「「こころ」と行動」を理解するために,私もこれまでにも紹介し,折に触れて目を通しているがいまだによく頭に入らない3の「哲学入門」が必須だ(特に「第5章 機能」)(本の森での紹介1本の森での紹介2)。これを読み込めば,「こころ」と行動の基礎」についての端的な理解が得られるだろう。

3もそうだが,人間を進化論を踏まえて理解するということは,人間を動物の延長上に捉えることであり,そのためには,心理学者が書いた4「「意思決定の心理学」,動物行動学者が「学習」について書いた5「進化教育学入門 がお薦めだ。ただし,自分の学習やAI時代にどう生かすかは,今後の問題だ。

更にこれまで一貫して行動を人間理解の焦点にしてきた行動分析学から,6の「行動の基礎」を取り上げたい。現時点の行動分析学を,進化論や,動物行動学を踏まえどう考えるかは,なかなか興味深い問題だ。

そして最後に,7「〔エッセンシャル版〕行動経済学」を取り上げる。「行動経済学」の本は,ともすると,エピソード集になりがちで,いささか使いにくい。この本は,入門書であろうが,人間の行動とのからみが要領よくまとめられていてお薦めだ。なお,行動経済学も進化論(進化的適応)を踏まえた行動科学であるという5の指摘はそのとおりだと思う。

以下,7冊の本のコメント,目次等を紹介するが,現時点(2020年10月27日)では,ほぼ目次だけとなっている。ただ詳細目次があるものはそれを掲載したので,見比べるといろいろなアイディアが浮かんでくる。

 

「入門! 進化生物学」

入門!進化生物学-ダーウィンからDNAが拓く新世界へ: 小原嘉明

紹介

  • はじめに
  • 第1章 多種多様な地球生物
    1 地球生物の顔ぶれ 3つのドメイン 原核生物 真核生物のメンバー
    2 動物界のメンバー 繁栄を誇る動物 虫の惑星 進化学と動物
    3 目的を知り尽くしている動物 姿形に工夫を凝らす動物 生きる仕組みの工夫
    4 計算された行動 ウミベガラスの計算 ヤドリコバチの知恵 【第1章のまとめ】
  • 第2章 自然淘汰による生物の進化
    1 先駆者たちの考え
    2 ダーウィンの進化説 幸運の手紙 新しい考えの芽生え 人為選択と自然淘汰 二人の偉人
    3 自然淘汰による生物進化 進化説の骨格 競争を引き起こす多産性 適応度と進化
    4 人間中心主義が生む進化についての誤解 人間が一番進化している? 進化と進歩の混同
    5 不正確な理解に基づく誤解 チンパンジーはいつか人間に進化する? 退化は進化の逆行現象? 【第2章のまとめ】
  • 第3章 進化説の検証
    1 化石が明らかにする進化的ルーツ
    2 よみがえる化石動物 空白を埋める化石 日の目を見た絶滅動物 地質年代の区分
    3 遺伝的変異の検証 遺伝的多様性 遺伝子のシャッフル 突然変異
    4 自然淘汰の検証 人為淘汰 自然淘汰の行為者 【第3章のまとめ】
  • 第4章 進化説の発展
    1 類似器官と進化 相同器官と系統 相同器官のもうひとつの示唆 相似
    2 自然淘汰に対する集団の反応 3つのタイプの淘汰 少数者有利の淘汰
    3 新種の形成 生殖隔離と種分化 生態的地位と進化 適応放散
    4 進化の判定基準――ハーディ・ワインベルクの法則 【第4章のまとめ】  
  • 第5章 生殖と進化
    1 自然淘汰で説明できない形質
    2 雄と雌の繁殖戦略 重大な配偶子の違い 求める雄と選ぶ雌
    3 雄の繁殖形質の進化 雌を求める雄の戦い 受精競争 雄の配偶者ガード
    4 雌の繁殖形質の進化 雌も場合によって闘争する 息子と娘の産み分け競争
    5 雄と雌の相互作用
    6 雌による雄選択 雄による雌選択
    6 配偶システムの進化 単婚と複婚 一妻多夫 【第5章のまとめ】  
  • 第6章 利他性の進化
    1 動物の行動規範 利他的動物観 利己的動物観
    2 協力の進化 進化的に安定な利己的性質 持続できない利他的社会 互恵的利他行動
    3 血縁淘汰と利他的奉仕の進化 自己複製のバイパス 包括適応度
    4 ハチ目昆虫のワーカーの進化 ハチ目昆虫の高い血縁度 縁者びいき 【第6章のまとめ】  
  • 第7章 分子遺伝学が開いた扉
    1 遺伝子の実体と働き 遺伝因子の追跡 DNAの化学構造 遺伝暗号 遺伝子の形質発現
    2 突然変異の分子遺伝学的仕組み ゲノム――生物の設計図の解読 塩基配列の撹乱
    3 塩基配列の比較 系統の推定 分岐年代の推定
    4 形態形成に見る進化 個体発生と系統発生 形態形成で発現する遺伝子――ホメオティック遺伝子 いろいろな動物のホメオティック遺伝子
    5 分子進化学に起こった革命 遺伝的浮動とビン首効果 自然淘汰をすり抜ける突然変異――中立遺伝子 中立説をめぐる論争 支持された中立進化 表現型の中立進化の可能性 意味深な最後の一文 【第7章のまとめ】  
  • 第8章 進化のもうひとつの肖像
    1 進化を止めたボディプラン 維持される基本体制と変化する体部位 発生過程に見られる進化の停止 脊椎動物の奇妙な網膜 遺伝暗号
    2 多様性の源泉 可変的な非ボディプラン部位 自動車の車台と車体
    3 遺伝子の個体間交流 形質導入と形質転換 細胞内共生 共生微生物から細胞器官へ? クマムシの意味すること
    4 動物の種間交雑 広範な動物種に見られる雑種 雑種からの種形成
    5 挑戦する雄 雄の暴走 新地開拓を狙う雄 革新的な生殖の道
    6 地球生命の宿命 大絶滅の原因 続く地球の脈動 見事な適応に潜む危険 【第8章のまとめ】  
  • あとがきにかえて

「「こころ」はいかにして生まれるのか」

「こころ」はいかにして生まれるのか-最新脳科学で解き明かす「情動」:櫻井 武(Amazonにリンク)

目次とまとめの紹介

この本はたまたま,原著に「まとめ」があるので,取り急ぎ,目次と「まとめ」を紹介しておこう。

第1章「脳の情報処理システム」

脳のつくり 大脳皮質の構造 脳の「機能局在」 特徴的な大脳皮質の情報処理 前頭前野の機能 共感性や社会性について  「こころ」は脳のどこにある?

  • 1 脳において大脳皮質は情報量の大きな情報を速く処理するために,「後づけ」で増築された演算装置である。
  • 2 大脳皮質は感覚情報を要素ごとに分解してデジタル的に処理し,それを脳内で再構成している。
  • 3 人の脳は前頭前野がとくに発達しており,感覚情報の統合的理解,認知,未来予測などに関与している。
  • 4 ヒトに備わった,他者の立場に立って考え「共感」することができるという能力は,「こころ」を考えるうえで欠かせない機能である。

第2章「「こころ」と情動」

情動は感情の客観的かつ科学的な評価 情動=情動体験(≓感情)+情動表出(身体反応) 情動はどこでうくられる? 悲しいから泣くのか、泣くから悲しいのか 表情も行動の一つである 感情の多元的なとらえ方 なぜ感情が必要なのか  情動は生まれつき備わったもの

  • 1 情動とは感情の客観的・科学的な評価である。
  • 2 情動は「情動体験」(≒感情)と「情動表出」(身体反応)に分けられ,後者を観察することにより客観的に記載できる。
  • 3 情動は脳がつくりだすが,その結果,引き起こされた情動表出は脳にフィードバック情報を送り,情動を修飾する。

第3章「情動をあやつり,表現する脳」

大脳辺縁系とは 情動に深くかかわっている扁桃体 「感覚」と「情動」と「記憶」の関係 パブロフの「条件づけ」 記憶の種類①陳述記傅 記憶の種類②非陳述記憶 情動は記憶のデータベース 感寛情報が伝わる二つの経路 「こころ」と認知の乖離

  • 1 情動は大脳辺縁系でつくられる。
  • 2 大脳辺縁系は記憶にも深く関わっており,海馬は陳述記憶の生成に,扁桃体は情動記憶の生成に重要である。
  • 3 感覚は大脳皮質と大脳辺縁系で並列処理され,前者は感覚情報の物理的側面を,後者は情動的側面を受けもつ。

第4章「情動を見る・測る」

恐怖を怒じた小勣物の「3F」 情動を評価するポイントは「行動」「自律神経系」「内分泌系」 動物を用いた行動実験 マウスの行動をテストする 自律神経系から見た情動 内分泌系から見た情動 脳機能画像解析 動物実験で神経細胞を追う 「暴れ馬」と「御者」の関係

  • 1 情動の高まりは表情をふくむ行動,交感神経の興奮,副腎皮質ホルモンの上昇に表れる。
  • 2 情動は行動,自律神経系,内分泌系の測定によって観察できる。
  • 3 脳機能画像解析により扁桃体の興奮を測定することも情動を測定する一手段である。
  • 4 動物を用いて扁桃体や視床下部室傍核の活動を調べることにより,情動を推し量ることができる。

第5章「海馬と扁桃体」

HM氏がもたらしたパラダイムシフト 海馬の構造と機能 扁桃体の構造と機能 大脳辺縁系は記憶を強化する

  • 1 海馬は新たな陳述記憶の生成に不可欠である。
  • 2 陳述記憶は時間がたつにつれて大脳皮質,とくに側頭葉皮質に移行する。
  • 3 扁桃体は情動記憶を受けもつ。
  • 4 ストレスホルモンは陳述記憶を弱め,情動記憶を強くする。

第6章「おそるべき報酬系」

脳内報酬系の発見 ヒトの報酬系が刺激された例 報酬系の正体 脳はどのような刺激を「報酬」と感じるのか 報酬を「大きい」と感じるしくみ 側坐核はどのようにしてできたのか

  • 1 ドーパミンが側坐核に放出されると,その原因になった行動をやめられなくなる。
  • 2 ドーパミンは腹側被蓋野に存在するドーパミン作動性ニューロンから供給される。
  • 3 前頭前野は不確実な報酬を大きな報酬ととらえ,ドーパミンの放出を促す。
  • 4 予測した報酬の大きさと,実際に得られた報酬の差(報酬予測誤差)が,前頭前野が感じる報酬の大きさとなる。

第7章「「こころ」を動かす物質とホルモン」

神経伝達物質の「性能」の違い 「気分」に作用するモノアミン類 認知と注意にかかわるアセチルコリン  神経ペプチドの多彩な作用  脳に作用するホルモン

  • 1 脳内には「こころ」の機能に強く影響をおよぼすたくさんの種類の脳内物質が存在する。
  • 2 血液中をめぐる多くのホルモンも,脳機能を強く変容させる。

終 章 「こころ」とは何か

下等動初からヒトへの「行動の進化」 いまも残っているプログラム 行動のほとんどは無意識になされている 目分のことだからこそわからない 「こころ」は進化する

ここの「まとめ」は原著にはない。

  • 私たちは前頭前野の機能により,自らがおかれている環境を理解し,自分の身体の状態を認知しながら生活している。前頭前野は意識や認知,論理的思考,内省,倫理的判断,未来の予測などに深くかかわっており,また,思考に用いる作業記憶もこの部分に存在する機能である。作業記憶の内容は,現時点で私たちが認知していることである。私たちの「自我」や「意識」はこの部分に存在すると言っても間違いではない。しかしながら,私たち自身の行動の選択に,前頭前野がおよぼしている影響は,実は限定的なものでしかない。もっと強く行動をドライブしているのは,根源的には脳の深部の構造であり,無意識の過程なのである。私たちは自分の行動をすべて自らの意志でコントロールしていると錯覚しがちであるが,私たちの行動を意識がコントロールしている部分は,ごく一部である。
  • ヒトや動物は外界の状況を,感覚系を介してキャッチしている。その情報は,視床を介して扁桃体にやってくる。その人が恐怖を感じる対象や状況を認知したときに,扁桃体は強く興奮する。扁桃体が中心核を介して視床下部や脳幹に情報を送ると,自律神経や内分泌系が変動するとともに,脳内でもモノアミン系ニューロン群が大きく活動を変える。とくに青斑核ノルアドレナリンニューロンの活動が増え,扁桃体に作用することにより,恐怖行動は強化される…一方で,喜びを感じているときには,報酬系の活動が起こっている。報酬をゲットできる,あるいはゲットできるかもしれないと前頭前野が認知することにより,腹側被蓋核のドーパミン作動性ニューロンが活動することが,喜びの「こころ」をつくる。ドーパミンは側坐核に働き,喜びを生むに至った行動を強化するとともに,扁桃体にも情報を送り,筋肉の緊張を緩める方向に働く。黒質のドーパミン作動性ニューロンも働いて筋肉はよりスムーズに動くようになり,身体全体の動きは大きくなる。

「哲学入門」

哲学入門:戸田山和久

コメント

これについては,(本の森での紹介1本の森での紹介2)で検討した。ここでは,「行動」のさわり部分を紹介しよう。

人間の行動は,まず第一にオシツオサレツ動物と同じ仕方で決定される。いくつかの傾向性があり,それがニーズと知覚情報によってアフォードされるという仕方だ。これがベースになる。

ところが,人間はこうした傾向性を調整する別の仕方を獲得した。その結果,目的手段推論の結果によって,ベースにある傾向性をリセットできるようになった。だとするなら,目的手段推論を入力(知覚・欲求)と出力(行動)をつねに媒介しているものと捉えるのはよろしくない。いつでも立ち止まって,いまやろうとしていることがベストなのかを考えていたら行動の時機を逸してしまう。ときどき問題が重要なとき,たっぷり時間があるとき,行為を止めて,私たちは目的手段推論を作動させる。で,その結果に応じていまの傾向性をリセットして,新しい傾向性にあとをゆだねる。

人間はオシツオサレツ動物とは質の異なったまったく別次元の存在なのではない。目的手段推論というちょっとした拡張機能つきのオシツオサレツ動物なのである。ただ,この拡張機能はバカにできない。「人間らしさ」のルーツがこの拡張機能にあるからだ

「意思決定の心理学」

意思決定の心理学-脳とこころの傾向と対策:阿部修士

目次の紹介

  • 目 次
  • はじめに
  • 第一章 二重過程理論-「速いこころ」と「遅いこころ」による意思決定
  • 第二章 マシュマロテスト-半世紀にわたる研究で何がわかったのか?
  • 第三章 「お金」と意思決定の罠-損得勘定と噓
  • 第四章 「人間関係」にまつわる意思決定-恋愛と復讐のメカニズム
  • 第五章 道徳的判断の形成-理性と情動の共同作業
  • 第六章 意思決定と人間の本性-性善か性悪かを科学的に読む
  • 第七章 「遅いこころ」は「速いこころ」をコントロールできるのか?
  • 引用文献 ・あとがき

「進化教育学入門」

進化教育学入門 動物行動学から見た学習: 小林朋道

目次の紹介

プロローグ 動物行動学で「学習」の理論を統一する

第Ⅰ部 動物の学習,ヒトの学習

  • 1 ヒト以外の動物は,どう学習するか
  • 2 ヒトはどう学習するか
  • 3 進化の視点から見た「学習しやすい状況」とは

第Ⅱ部 科学的知識は,どうすれば身につくか

  • 1 ヒトの脳の情報処理構造としての“課題専用モジュール構造”
  • 2 課題専用モジュールと「科学的思考・科学的知見」のミスマッチ
  • 3 課題専用モジュールによる理解と科学的理解を,どのように結びつけるか

エピローグ 現代人の精神活動は狩猟採集時代に適応しているのか?

 

「行動の基礎-豊かな人間理解のために」

行動の基礎-豊かな人間理解のために:小野 浩一

目次の紹介

第Ⅰ部 行動についての基礎知識

  • 1 序論
    • 1-1 行動分析学のあらまし 1-2 行動についての考え方
  • 2 人間は生体である
    • 2-1 生体の行動 2-2 動物との連続性 2-3 社会的存在
  • 3 行動は身体の変化である
    • 3-1 身体器官 3-2 身体で生じていること-3つの事象レベル 3-3 「こころ」のありか 3-4 心理学の対象としての私的出来事
  • 4 身体変化の原因は環境にある
    • 4-1 内的原因か環境か 4-2 なぜ原因を環境に求めるのか 4-3 身体変化は生体全体の連鎖的出来事である
  • 5 3種類の環境変化がある
    • 5-1 生体の状態を変える環境変化 5-2 行動のきっかけとなる環境変化 5-3 行動の後に生じる環境変化
  • 6 2種類の行動がある・
    • 6-1 レスポンデント行動とオペラント行動 6-2 2種類の行動の起源と生物学的制約 6-3 レスポンデント行動とオペラント行動の具体例

第Ⅱ部 レスポンデント行動

  • 7 レスポンデント条件づけ
    • 7-1 レスポンデント行動の学習はどのようにして起きるか 7-2 パブロフの条件反射 7-3 レスポンデント条件づけの決定因 7-4 情動反応の条件づけ
  • 8 レスポンデント条件づけの諸現象
    • 8-1 保持と消去 8-2 般化と弁別 8-3 複合刺激によるレスポンデント条件づけ
  • 9 レスポンデント条件づけの新しい考え方
    • 9-1 反応がなくてもレスポンデント条件づけは起きる 9-2 対提示がなくても条件づけは起きる 9-3 すべての刺激がCSになるわけではない 9-4 レスポンデント条件づけの適用範囲の拡大

第Ⅲ部 オペラント行動

  • 10 オペラント条件づけ
    • 10-1 オペラント行動の学習はどのようにして起きるか 10-2 オペラント条件づけの初期の研究 10-3 行動随伴性
  • 11 行動の獲得と維持,消去
    • 11-1 新しい行動の獲得-シェイピング 11-2 行動の維持一基本的強化スケジュール 11-3 消去
  • 12 複雑な強化スケジュール
    • 12-1 オペラントクラスと行動次元 12-2 分化強化-結果による選択 12-3 複合強化スケジュール 12-4 強化の遅延 12-5 行動の連鎖化
  • 13 負の強化-逃避行動と回避行動
    • 13-1 負の強化に関する古典的研究 13-2 逃避条件づけの諸現象 13-3 回避条件づけとその理論
  • 14 弱化
    • 14-1 正の弱化 14-2 負の弱化 14-3 罰的方法の使用に関する諸問題
  • 15 先行刺激によるオペラント行動の制御
    • 15-1 刺激性制御の基礎 15-2 刺激性制御の諸現象 15-3 高次の刺激性制御
  • 16 言語行動
    • 16-1 言語行動の基本的特徴 16-2 言語行動の獲得 16-3 ことばの「意味」と「理解」 16-4 日常言語行動の特徴 16-5 言語刺激による行動の制御

第Ⅳ部 オペラント行動研究の展開

  • 17 選択行動
    • 17-1 並立スケジュールによる選択行動の研究 17-2 並立連鎖スケジュールによる選択行助の研究
  • 18 迷信行動
    • 18-1 行動に依存しない随伴性のもとでの迷信行動 18-2 行助に依存する随伴性のもとでの迷信行動 18-3 人間社会と迷信行動
  • 19 社会的行動
    • 19-1 社会的随伴性 19-2 模倣行動 19-3 協力行動と競争行動 19-4 行動における個体差
  • 20 研究と実践の統合
    • 20-1 応用行動分析学 20-2 単一被験体法による研究デザイン

図表出典・引用文献一覧・「あとがき」にかえて・索  引

「〔エッセンシャル版〕行動経済学」

〔エッセンシャル版〕行動経済学:ミシェル バデリ

目次の紹介

  • 第1章   経済学と行動
    • 行動経済学は従来の経済学とどこが違うのか/ 行動経済学における合理性/ データの制約/ 実験データ/ 神経科学データと神経経済学/ 自然実験と無作為化比較試験(RCT)/ 本書のテーマ
  • 第2章   モチベーションとインセンティブ
    • モチベーションとインセンティブには二種類ある/ 外発的モチベーション/ 内発的モチベーション/ クラウディング・アウト/ 社会性のある選択とイメージ・モチベーション/ モチベーションと仕事
  • 第3章   社会生活
    • 信頼、互酬、不平等回避/ 協力、懲罰、社会規範/ アイデンティティ/ ハーディング現象と社会的学習
  • 第4章   速い思考
    • ヒューリスティクスを使った速い判断/ 利用可能な情報を使う/ 代表性ヒューリスティック/ アンカリングと調整ヒューリスティック
  • 第5章   リスク下の選択
    • プロスペクト理論 vs. 期待効用理論/ 行動のパラドックス/ 一貫性のない選択/ プロスペクト理論の構築/ 後悔理論
  • 第6章   時間のバイアス
    • 時間不整合性とは何か/ 動物モデル/ 異時点間闘争/ 即時的報酬と遅滞的報酬に関する神経経済学的分析 /プリ・コミットメント戦略とセルフコントロール/ 行動学的ライフサイクル・モデル/ 選択のブラケッティング、フレーミング、メンタル・アカウンティング/ 行動学的開発経済学
  • 第7章   性格、気分、感情
    • 性格を測定する/ 性格と好み/ 性格と認知/ 子供時代の性格/ 感情、気分、直感的要因/ 感情ヒューリスティック/ 基本的本能と直感的要因/ ソマティックマーカー仮説/ 二重システム理論/ 神経経済学における感情/ 金融的意思決定に神経経済学的実験を応用する
  • 第8章   マクロ経済における行動
    • マクロ経済の心理学/ 初期の行動マクロ経済学者-カトーナ、ケインズ、ミンスキー/ 現代の行動マクロ経済学-アニマルスピリット・モデル/ 金融とマクロ経済/ サブプライムローン危機/ 社会の空気と景気循環/ 幸福と福祉
  • 第9章   経済行動と公共政策
    • ミクロ経済政策/ 行動学的公共政策とは何か-ナッジで行動変化を促す/ ナッジの具体例-デフォルト・オプション/ スイッチング/ 社会的ナッジ/ その他の政策的取り組み/ 政策の未来
  • 謝辞・解説/依田高典・日本の読者のための読書案内・文献案内

 

 

 

 

 

 

 

これは当面,末尾に詳細目次だけを掲載しておく。

詳細目次に続く

人の心と行動

健康本はいろいろあるけれど

健康本は,ダイエット本を中心に山ほどある。どれも似たりよったりで,とにかくその「教え」を実行しさえすれば,何かの役に立つだろうともいえるが,ただ下手に非科学的なカルト本にはまると,かえって健康を害することもあるだろう。またあれこれ読み漁り,どれも中途半端だが,全体では過剰というのも困りものだ(特に「食」はそうだ。)。

私も人のことはいえず,次々と健康本を買い漁った結果,だんだん収拾がつかなくなってきた。

ここらで中心になる本を見定めて,そこで足りない分は補充するというスタンスを取りたいと思う。

私は科学的な素養は不十分だが,読んだ限りで十分に科学的で,かつ健康に生きるための核心をついていると思う本を3書紹介したい。

ダイエット,運動,病気への対応という順番になった。ただいずれの書の内容もそれに限られているわけではない。

健康に生きるための3書

果糖中毒

1書目は,「果糖中毒-19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか? 」(著者:ロバート・H・ラスティグ)だ。この本は,簡単に紹介したが,肥満の原因を果糖と見定め,その「解毒剤」として,「食物繊維」と「一日15分の運動」を挙げる。こう書くと何の変哲もないようだが,その論述は肥満をめぐって対象を広く検討し,科学的で鋭い。今一押しである。

一流の頭脳

2書目は「一流の頭脳 」(著者;アンダース・ハンセン)だ。この本が面白いのは,「身体を動かすことほど、脳に影響をおよぼすものはない。 これが本書のテーマであり、とりわけ効果の高い身体の動かし方とそのメカニズムをお伝えする」,「運動をすると気分が爽快になるだけでなく、集中力や記憶力、創造性、ストレスに対する抵抗力も高まる。そして情報をすばやく処理できるように-つまり思考の速度が上がり、記憶のなかから必要な知識を効率的に引き出せるようになる。また特別な「脳内ギア」を入れることで、混乱した状況下で意識を集中させ、心が乱れていても平常心を取り戻すことができる。運動によってIQ(知能指数)が高くなるという説さえあるのだ」と,「運動」が脳をよくするということで貫かれている。つまり,「一日15分の運動」は対肥満,能力向上の決め手というわけだ。これで運動の十分なモチベーションになると思う。

老婆心ながら,私が運動でいいと思うのは,スロージョギングと,「ずぼらヨガ」(著者:崎田ミナ)または自重トレーニング(著者:比嘉一雄)によるストレッチや筋トレかなあ。運動を継続する(習慣化する)には,行動分析学の本に目を通してみることをお薦めするが,行動分析学は概して「言葉遣い」が創始者のスキナーに捕らわれていて,論争的で難解すぎることはいっておこう(一番整理されているのは「「結果が出る習慣術―行動科学で人生がみるみる変わる」(著者:石田淳)だろうか。)。まあこれらはプラスアルファだ。

最強の健康法

3書目は,「最強の健康法【ベスト・パフォーマンス編】/【病気にならない最先端科学編】」の2冊だ。これも簡単に紹介したことがあるが,要は,運動して痩せて脳が活性化しても,癌をはじめとする病気にはなるのだから,それにも注意しようねということだ(スロージョギングを引っ張っていた田中さんは,確か膵臓癌で亡くなられたようだ。)。癌検診は欠かせない。

というようなことを考え,少しずつ実行しているうちに,どんどん年老いていくだろうが,最後まで元気に生活していたいものだ。

目標達成の技術

これらとは毛色が違うが,もう少し元気な人には,「ペンタゴン式 目標達成の技術 一生へこたれない自分をつくる」(著者:カイゾン・コーテ)をお薦めしたい。